第十二話:親友の祈りと、天狐様の「灯台下暗し」
第十二話:親友の祈りと、天狐様の「灯台下暗し」
同時刻、現世。
あの日、ショータが消えた稲荷神社の石段には、親友の大介が佇んでいた。
「ショータのやつ、どこ行っちまったんだよ……」
警察の捜索でも手がかりはゼロ。だが大介は、この神社に何かがあると直感していた。最近、このボロかったはずの神社が妙に活気づいている。参拝客が「急に空気が変わった」「不思議と元気がもらえる」と口々に話し、境内が以前より輝いて見えるのだ。
大介は拝殿に向かって手を合わせ、必死に祈った。
「神様、もしショータがどこかで迷ってるなら、あいつを助けてやってくれ。あいつ、器用なだけで本当は不器用な奴なんだ……!」
その切実な祈りは、次元の壁を越え、異世界の社に微かな共鳴として届いていた。
「……ん? 今、誰かに呼ばれたような気がしたな」
異世界の社で旅の支度をしていたショータが、ふと空を見上げた。
「気のせいではないか? それよりショータ、大変だ! 伝承を調べたが、『白玉』の在処を記した古文書が虫食いで読めぬ! これでは数十年かけて大陸を回る(まわるぅ)ハメになるぞ!」
「また噛んだな。……ったく、効率が悪い。こういう時は同業者に聞くのが一番だ」
ショータは現世の営業で培った「キーマンへのアプローチ」を応用した。この地の神職たちに根回しをし、コンと同格の神、北の湖を司る『水龍神』との面会を取り付けたのだ。
北の湖のほとり。現れた水龍神は、冷徹な美青年の姿をしていた。
「……ほう、天狐の使いか。して、用向きは?」
「単刀直入に。このアホ……失礼、天狐様の神器『白玉』の場所をご存知ありませんか?」
ショータの直球の質問に、水龍神は呆れたようにコンを見た。
「……天狐よ。お前、自分の社の床下すら確認しておらんのか?」
「えっ? ゆ、床下?」
「あそこの社の地下には、かつて我らが宴で使った隠し蔵がある。白玉なら、数百年前に酔ったお前の先代が『邪魔だ』と言ってそこに放り込んでいたはずだぞ」
静まり返る湖畔。ショータの視線が、冷ややかにコンへと突き刺さった。
「……おい、コン。今、水龍神様なんておっしゃった?」
「え、えーと……灯台下暗し、的な? まさか自分の家の真下にあるなんて(あるにゃんて)、思わないではないか(にゃいではないか)!」
「噛みすぎだバカ! 大冒険のプロローグを返せ! なんでそんな大事なことを、身内のお前が知らなくて、隣の神様があっさり知ってるんだよ!」
ショータの鋭いツッコミが響き渡る。営業での「事前リサーチ不足」は致命的だ。
「現世の大介が必死に祈ってくれてるっていうのに、この守護神様ときたら……。コン、今すぐ戻るぞ。帰ったら床下を全部ひっくり返してやるからな!」
「ひいいっ! 怒るなショータ! 掃除は苦手なのだぁー!」
大冒険になるはずだった神器探しの旅は、開始数分で「自宅のガサ入れ」へと変更された。
卒なくこなすショータにとって、これが人生で最も「拍子抜け」なミッションになろうとは、この時の彼はまだ知る由もなかった。




