第十一話:神器欠乏症と、二つの世界を繋ぐ「ドミノ倒し」
第十一話:神器欠乏症と、二つの世界を繋ぐ「ドミノ倒し」
夏祭りの喧騒が去り、社の外観は見事に「新築そっくりさん」へと生まれ変わった。だが、拝殿の中央に座ったショータは、腕を組んで納得のいかない顔をしていた。
「……何かが足りない。構造は完璧、集客も良好。だが、この社には『魂』というか、決定的なコア・コンテンツが欠けてるな」
「何を贅沢な! これほど立派な社にしておいて! 我はもう毎日お供え物の油揚げが食えて、腹がいっぱいなのだぞ(いっぴゃいなのだじょ)!」
縁側で寝そべって尻尾をパタパタさせるコンに、ショータは冷ややかな視線を送った。
「その『噛み癖』が治らないのもコアの欠如だ。……いいか、コン。神社ってのは本来、現世と神域を繋ぐ『中継地点』なんだ。だが、ここはまだ単なるハコモノに過ぎない」
ショータは現世での美術部の知識――「象徴主義」と、営業での「独占販売権」の理論を頭の中でコネ回した。この社の奥にある御神体。そこには、かつて現世の稲荷神社とこの異世界を繋いでいた「道筋」があるはずだ。
「コン、お前の実家に伝わる『神器』とかないのか? ほら、RPGでいうところのマスターアイテムみたいなやつ」
「じ、神器……! そういえば、古の記録に『天狐の白玉』という宝珠があったような……。それがあれば、我の神通力も完全復活し、二つの世界が真にリンクするとかしないとか」
「……よし、決まりだ。その『白玉』を探しに行く。在処はまだ分からねーが、それがなきゃ、このリフォーム計画は完結しない」
ショータは立ち上がり、旅の支度を始めた。だが、コンは不思議そうに首を傾げた。
「リンクして、どうするのだ? 異世界の人間が現世に行けるようになっても、混乱するだけではないか」
その問いに、ショータは現世のトップ営業マン特有の、自信に満ち溢れたドヤ顔を浮かべた。
「お前、分かってないな。……いいか、現世のあの稲荷神社の石段。あそこで俺が落ちた時、お前がナレーションを噛んだのは、あっちの世界でもお前への『信仰』が生きていたからだ」
「えっ、そうなの……!?」
「二つの世界は、この社を通じて鏡合わせなんだよ。異世界で俺がこうして社を立て直し、お前への信仰を爆発させた。そのエネルギーは、そのまま現世のあの神社にもフィードバックされる。……つまり、今頃あっちの世界でも『最近あの神社、めちゃくちゃご利益あるらしいぜ』って噂になって、参拝客が急増してるはずだ」
ショータは指をパチンと鳴らした。
「異世界で実績を作り、現世の市場を活性化させる。二つの世界で同時進行する、史上空前のマルチプラットフォーム信仰だ。……これこそが、飽き性の俺が見つけた最高の『終わらないゲーム』だよ」
「……ショータ、貴様。いつの間にそんな壮大な(しじょーさいだいの)ペテンを……! でも、なんだか凄そうなのだ!」
「ペテンじゃない、ビジネスモデルだ。……さあ、行くぞコン。まずは情報収集だ。村の年寄りに聞き込みをする。営業の基本は足で稼ぐことだからな」
卒なく、しかし今度は「自分の意志」で。
ショータと、ちょっと抜けてる天狐様の、世界を跨いだ神器探索ツアーが幕を開けた。




