第十話:異世界夏祭りと、天狐様の「神輿(みこし)」デビュー
第十話:異世界夏祭りと、天狐様の「神輿」デビュー
神社の修繕も大詰めを迎え、ショータはブランド定着の総仕上げとして「夏祭り」の開催を決定した。
現世の軽音部でのステージ設営、美術部での看板制作、そして営業でのスポンサー回りの経験が、この異世界の地で一つに結実する。
「いいか、コン。祭りの本質は『非日常の提供』と『導線の確保』だ。屋台の配置一つで客の滞留時間は変わる。このT字路に、あの調理済み狼肉の串焼き屋を置け。匂いで客を釣る、いわば『シズル感』の演出だ」
「し、しずる……? よくわからぬが、ショータが楽しそうで何よりだ! これも我が授けた『やる気』の加護……あだッ! なぜまたデコピンをする!」
「噛んだからだ。あと『やる気』って言うな。俺はただ、ディレクターとして卒なく現場を回してるだけだ。……さあ、お前の出番だぞ。祭りのメインイベント、『神輿渡御』だ」
ショータは、美術部の知識をフル活用して「映える」神輿を突貫で組み上げた。
夕闇が迫る頃、村中から集まった若衆が神輿を担ぎ上げる。その頂点には、ショータの指示で「一番高い場所」に座らされたコンがいた。
「わ、わわっ! 高い! 揺れる! ショータ、これ落ちるぞ! 怖い!」
「落ちないように足場を設計してある。お前はただ、オーラを出して、手を振ってればいいんだよ。ほら、スポットライト代わりの魔法を出せ!」
ショータの合図で、コンは必死に光の魔法を周囲に散らした。
夕闇の中、黄金の光を纏った天狐が、豪華な神輿に乗って村を練り歩く。その光景は、村人たちにとって一生忘れられない「神話の再現」に見えた。
「おおお! 天狐様万歳! 稲荷神社万歳!」
地響きのような歓声。ショータは群衆の最後方で、腕を組んで頷いた。
(……集客率、目標の120%達成。滞留時間も良好。これでこの神社の『地域一番店』としての地位は不動だな)
祭りが最高潮に達した時、アリア姫や役人のバドまでもが、お忍び(のつもりの豪華な格好)でやってきて、ショータの作った「現世風の焼きそば」に舌鼓を打っていた。
「ショータ……貴様、本当に凄いな。皆が笑っておる。我が独りきりでおったあのボロ社が、こんなに温かい場所になるとは……」
神輿から降りたコンが、少しだけしんみりと、しかし嬉しそうに囁いた。
「……ま、お前が最後、神輿の上で『ありがたきしぇ幸せ(しあわしぇ)』って噛まなきゃ、100点満点だったんだけどな」
「うう、最後の一言で台無しにするのが我のクオリティなのだ……!」
ショータは、夜空に打ち上がった魔法の花火を見上げた。
卒なく、しかし着実に。
飽き性の彼が初めて「完成」させた景色は、現世のどの表彰状よりも、ほんの少しだけ心を熱くさせていた。




