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『飽き性な俺の器用貧乏、異世界で「神の模倣者」へと至る 〜3ヶ月で極めて捨てる生活を卒業し、天狐様と終わらないクエストへ〜』  作者: A古町


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第一話:既視感に染まった世界と、噛みまくりの福音

「器用貧乏」な元トップ営業マンが異世界をプロデュースする物語の幕開けです。


何をやっても数ヶ月で極めてしまうがゆえに熱狂を失った主人公・ショータが、ポンコツな天狐コンや愉快な仲間と異世界で「神社経営」という終わらないクエストに挑む物語です。

第一話:既視感に染まった世界と、噛みまくりの福音


 安芸翔太アキショータの人生は、常に「既視感」との戦いだった。


 始まりは、ありふれた中学生の放課後だ。友達に誘われて入った軽音部。先輩たちは「Fのコードが最初の壁だ」と、挫折を楽しむように笑った。だが、ショータは教則本を一度眺めただけで、その日のうちに綺麗な音を鳴らした。一週間後にはリードギターをコピーし、三ヶ月後には、指が痛いと嘆くベース担当の代わりにスラップ奏法まで完璧にこなしていた。


 だが、文化祭のステージに立つ頃には、ショータの心はすでに冷え切っていた。


(……結局、これも指の運動の組み合わせだ。指板の並びを理解して、リズムを分割すれば、あとは作業じゃないか)


 そう悟った瞬間、世界から鮮やかな色が失われる。女子部員の歓声も、重低音の振動も、彼にとっては「攻略済みのパズル」を何度も解かされているような、退屈な再放送に過ぎなかった。



 高校では野球部で親友の大介から、可愛い子が多いからテニス部に入部して誰か紹介して欲しいと勧められてテニス部へ。何となく入ったテニス部。ラケットの角度、スピンの回転数、コート上の力学。それらを「理解」した瞬間、県大会レベルの相手にも負けなくなった。しかし、ルールを完璧に把握し、思い通りのコースにボールを叩き込めるようになると、またあの感覚が襲う。


(次は、美術部か)

 デッサンの基礎を三日で掴み、物の構造を線で捉えて複雑なスケッチを完成させれば、次は空手道場へ。難しい型を一度の演武で完全にトレースし、黒帯をわずか数ヶ月で手にする。


 ショータは天才だった。しかし、何かを「愛する」才能だけが、決定的に欠落していた。


 大学を卒業し、世間体というレールに乗って営業職に就いたときも、結果は同じだった。

 顧客の心理を読み、言葉の端々からニーズを拾い、契約書に判を押させる。そのプロセスは、格闘技の型を組むよりも単純なゲームだった。入社して一年が過ぎようとした頃。新人賞のトロフィーがデスクに届いた日、ショータは辞表を出した。


「安芸、お前何が不満なんだ? 給料だって上がるし、将来は安泰だぞ」


 困惑する上司に、ショータは曖昧に笑うしかなかった。


「いえ、なんというか……『これじゃない』気がして」


 それから三ヶ月。ショータは実家の自室で、ニートという名の隠遁生活を送っていた。


  ――秋祭りの夜。

 近所の稲荷神社は、かつてないほどの色と音に溢れていた。立ち並ぶ夜店、ソースの焦げる匂い、遠くで響くお囃子の音。コンビニの袋を下げたショータは、人混みを避けるように古い石段を上り、境内の端に腰を下ろした。 


「……変わらねーな、ここは」

 

 珍しく、胸の奥をチリつくようなノスタルジーが突き上げていた。子供の頃、大介と小銭を握りしめて走ったこの場所。あの頃は、綿菓子の袋一つ、型抜きの成功一つが、世界を揺るがすほどの大事件だった。


 今の自分には、そんな「必死さ」は欠片も残っていない。全てを卒なくこなし、冷めた目で効率を計算するだけの、空っぽな大人。


 ふと、近くの露店に吊るされた「狐面」と目が合った。


 古びた和紙に描かれた、吊り上がった赤い目。それが一瞬、ニヤリと笑ったように見えた。


 同時に、奉納された大量の風車が、風もないのにカラカラカラと、耳を劈くほどの音を立てて回り始める。


「……あ」

 

 冷え込んできた空気に身震いし、立ち上がろうとした瞬間。

 足元の石段が、まるで意志を持ったかのように崩落した。


 視界がスローモーションに切り替わる。

 地面が遠ざかり、お祭りの提灯の明かりが、光の帯となって夜空へ流れていく。


 逆さまになった視界の中で、あの狐面がふわりと宙を舞い、ショータの顔に重なるように近づいてくる。

 風車の音は、いつしか「誰かの話し声」へと変わっていた。


『適合個体を確認――あー、えーと。固有能力ユニークスキル:【器用の極致マスター・オブ・パペット】を開放シマス。……ようこそ、異世……異世か……異世界、ええい! 異世界へ、いらっしゃいまふぇッ!』


「……は?」


 あまりに緊張感のない、しかも最後の方は明らかに舌が回っていない「神の宣告」。

 ツッコミを入れようとしたショータだったが、直後、全身を沸騰するような熱いエネルギーと、嗅いだことのない「未知の風の匂い」が彼を包み込み、意識は強制的にホワイトアウトした。

「何でも卒なくこなせてしまう」というのは一見、最強の才能に思えますが、ショータにとってはそれが「人生の底が見えてしまう」という呪縛でもありました。そんな彼が、物理法則も常識も通用しない異世界へ放り出され、初めて「正解のない攻略」に挑む姿を描きたかったのが本作の原点です。

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