それだけでいい夜
期待しない方が楽だと、分かっている。
だから人と話す時は、言葉の意味を深く考えないようにしているし、会話の沈黙にも理由を探さないようにしている。
そうしていれば、後で傷つくことも少ない。
だとしても、一日の終わりには疲れが残る。
何も期待していない筈なのに、何も得られなかったような気がして不鮮明な後悔が残る。
その感覚が、自分でも不思議だった。
動物舎の夜の当番になり、はや3ヶ月。
今日も夜は静かだった。
昼間は子供の声や足音で落ち着かない場所でも、
今は自分と動物たちの呼吸音だけがある。
檻の前にしゃがみこむと、小さな動物がこちらを見上げた。
「寒くないか」
声をかけると、僅かに耳が動く。
近づいてくるわけでも、離れていくわけでもない。
同じ距離を保ち、こちらをただ真っ直ぐに見つめる。
その様子をしばらく眺めていた。
この子が何を考えているのか、俺には分からない。
期待をしているのか、していないのか。
判断の仕方など無い。
ただお世話をしている間、その場を離れずにいてくれた。
今の俺にはただそれだけで充分だった。




