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電脳推理  作者: ポル☆ボロン
自殺人形(スーサイド・ドール)
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ある酷暑の日の夢

①ロボットは人間に危害を加えてはならない

②ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない

③ ロボットは、第一条と第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない


─アイザック・アシモフより『ロボット三原則』

西暦2095年の8月某日。

日本の五番目の首都──第五東京区が今年も最高気温に達し、サイボーグやロボットの持つ機体温度調節システムを本格的に稼働させる時期、世間一般的にいうところの夏真っ盛りのこの日、一つの事件が起こった。


その事件の現場には、人間ですら惨いと思えるような有様のロボットが、無惨にもスクラップのように破壊されたロボットの残骸があった。

そして、目の前にあるロボットの残骸を見た中年男性の刑事は眉を顰め、新人だと思われる女性刑事は言葉を失った。

それ程までに、このロボットの残骸の姿はグロテスクに似たような状態だったのである。


「こいつぁ──酷でぇな」


ジリジリと照りつける太陽の中、汗水を垂らしながらロボットに向けて手を合わせると、そうボヤく男刑事。

その視線の先には、ロボットの残骸に刻まれている文字列──【IKARUGA・CO−TYPE・ASK−No.7165】と記載されている識別番号とは別に、【Flemming】という文字が刻まれていた。


その文字をジッと見つめている男刑事は、識別番号の横に書かれたその文字が気になったようで、とりあえずは電脳へと改造した自らの脳みそ越しに記録しようと思ったのか、その瞼が瞬くのと同時にその文字列を写真する形で記録。

それから数分後、男刑事は自らの電脳経由で女刑事に例の文字列の写真を数枚送ると、部下である彼女がそれをデータベース上に記録・保存したことを確認した男刑事は、後から現場にやって来た警察専用ロボットによって、ブルーシートで覆われたロボットを見つめていた。


「──土門先輩」

「ん?何だ?」

「この斑鳩カンパニー製アスカ型ロボットNo.7165って、この前労基が入ったっていう工場で働いたロボット──ですよね?」


ひょっこり後ろからやって来たかと思えば、土門と呼んだ男刑事の隣でしゃがみながらそう言った後、容赦なく破壊されたロボットを見つめる女刑事。

彼女のその顔には、こうなる前に助けたかったという後悔の念が出ていて、悔しさを顔に滲ませる後輩の姿を見た土門もまたしゃがむと、ボロボロとなったロボットの機体を隠すかのように包まれたブルーシートを見つめながら、思わずこう言った。


「あぁ、この機体の年季と錆具合を見れば分かる。それに──」

「それに?」

「自分自身にFlemming(フレミング)って名前を付けてたぐらいだ。コイツもコイツなりに生きようとしていたのかもしれないな」


そう言った後、土門は女刑事からこの機体についての情報を電脳越しに受け取ると、その情報を脳内のデータベース上で眺めていた。


『被害機体名は斑鳩カンパニー製アスカ型ロボットNo.7165、個別認識名はフレミング。

2062年に製造され、その年に主に金属加工を行う企業へと就職。


しかし、ロボット達が勤務している企業の工場の労働環境が悪く、同僚ロボットによれば常に罵詈雑言や暴力の対象であったことが発覚。

更に、斑鳩カンパニーがアスカ型ロボットやそのパーツの生産を終了したことに伴って、メンテナンスな不十分な状態で働いていた模様。

2095年に当機体が務めていた企業に労基が入った際には、本機には珍しく無断欠勤をしていた。


数日後の2095年8月30日深夜0時、住宅街の建設予定地にて個体認識名フレミングの自律思考プログラム錯乱に伴う暴走を確認。

その数分後に個体認識名フレミングは沈静化。


なお、過去のメンテナンス記録での個体識別名フレミングは鬱に近い症状を発症していたことが分かっている』


「鬱──だと?」


送られて来た資料を一通り見た後、思わずそう声を漏らす土門。

そして、厄介な予感を抱いたようで──ブルーシートで覆われているロボットの残骸の方に思わず振り向いていた。


ロボットの管理問題等で揺れるこの時代において、ロボット達の自律思考プログラムに鬱に似たバグが現れるようになり、そのバグはいつしかロボット鬱と呼ばれるようになっていた。

ただし、それはあくまでバグなので鬱ではないと主張する人々がある程度いるため、ネット上では日々ロボットの管理問題等で議論が行われていた程である。


もしも、このロボット鬱が事件に関わっているのならば──土門の脳裏に考えられるのは、彼の脳裏で導き出せる答えはもはや一つだけだった。


「まさか──自殺、か?」


メンテナンスをする暇なく働いたことによって、錆びついたボディ。

何者かに破壊された割には、見つからない凶器。

彼自身の自律思考プログラムに発生したロボット鬱という名のバグと、突然の発生した錯乱と暴走。


これらの要素を踏まえた上で、土門はこの結論に至ること自体があり得ないことだと認識したのか、信じられるわけないという顔になっていた。


「ロボットが──自殺?」


その言葉に動揺したのは後輩の女刑事も同じだったようで、思わず目を見開きながら彼の言葉に反応していた。


そもそも、異形型が多いロボットは人型のアンドロイドと同様に【倫理コード三原則】と呼ばれる特殊なプログラムによって管理され、人に危害を加えるどころか自壊すらしないように設定されているため、土門が導き出した答えはこの時代ではあり得ないことだったのだ。


けれども、そのあり得ないことをどう証明するのか。

いつ?どこで誰が?何のために?どうやって?ロボットを自殺するように仕向けたのか。

突如として導き出された答えとその答えに至るまでの壁に対し、土門と女刑事は分かりやすく頭を悩ませていた。


この状況からロボットが自殺──自壊したのは明白ではあるが、それをどうやって証明するのか?

ロボットが自壊したその証拠をどうやって見つけるのか?

それこそが土門達に課せられた難題であり、この事件の真相へと繋がる鍵だった。


「何故、斑鳩カンパニー製アスカ型ロボットNo.7165は──フレミングは自壊を?」


土門が自らの疑問を吐き出すかのようにそう呟いた時、彼の電脳に一通のメールが届いた。

彼がそのメールを開くと、そこに書いてあったのは


〈斑鳩カンパニー製アスカ型ロボットNo.7165、個体認識名:フレミングの死は自殺です。これは、ロボットの尊厳に関する事件だと僕は思います〉


という文章で、それを脳内で呼んだ土門は何だこれはと思いつつも、その言葉に少なからず説得力が含まれていたからか──このメールに警戒しながらこう返信した。


〈お前は何を知っている〉


土門がそう返信してから数秒後、その言葉に続くようにメールの返信が再び届くと、そこにはこんな文章が書かれていた。


〈僕は知りたいんです。何故、どうやって、斑鳩カンパニー製アスカ型ロボットNo.7165は自らを破壊したのかを〉


そう綴られた文章の下には、何かしらのサイトに繋がるリンクが貼ってあり、土門は恐る恐るそのリンクを開いたところ、そのリンクは電脳にダウンロードされているマップアプリに飛んだかと思えば、どういうわけかマップに登録されているとある研究所の場所を指していた。

その場所を見た土門が目を見開く形で驚いているのを尻目に、またもやメールが来たのだが


〈もし、この場所に行くのならこう言ってください。『トトの暇つぶしに巻き込まれた』と──〉


そのメールを最後に、謎の人物からのメールは届かなかったが───不思議なメールの意味が気になった土門は、後輩である女刑事と共にその研究所へと向かうことを決意したのだった、

〈ロボットとアンドロイドの違い〉

☆ロボットの見た目がメカメカしい異形型なのに対し、アンドロイドは人間によく似た姿形をしている。

☆ロボットは基本的に個体名を持たないが、アンドロイドは個体名を持つことを許されている

☆立場的にはアンドロイドの方がロボットよりも上

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