第3話 虚偽の証言
午後、王宮の大広間。
昨日よりも人が多い。貴族だけでなく、市井の者まで傍聴席に紛れ込んでいる。――“離婚審理”は、もはや王都最大の見世物になっていた。
「証人、メリア・グレイを呼ぶ」
廷吏の声に、義妹がゆっくりと前へ出た。
その歩みは昨日と違い、ぎこちない。
証言台に立つと、指先が小刻みに震えているのが見えた。
「昨日と同じく、夫人の不貞を目撃したと証言するのだな?」司法卿が問う。
「……は、はい。夜半に、姉様が……男性と……」
か細い声。
群衆から小さな笑いが漏れる。噂好きの宮廷雀たちでさえ、その証言の“薄さ”に気づき始めている。
「メリア嬢」
わたしは一歩進み、声を投げた。
「あなたが“見た”という現場を、絵に描いていただけますか?」
「えっ……?」
「審理のためです。証人の記憶を可視化する。簡単な図で結構です」
用意していた羊皮紙とペンを廷吏に渡す。
メリアは青ざめ、ぎこちなく描き始めた。
しかし――
「……その部屋、窓の位置が逆ですね」
会場がざわめいた。
わたしはすかさず帳簿を開き、家屋の間取り図を提示した。
「この屋敷の図面は、王都の建築局に保管されている公文書。――昨年、わたくしが修繕を申請した際の写しです」
「ち、違う! わ、わたしは確かに……!」
「では、あなたが“見た”位置に窓がある証拠を提出してください」
わたしは冷たく告げる。
「できなければ、あなたの証言は“虚偽”として処罰対象となります」
群衆の笑いがどよめきに変わった。
廷吏たちの視線も、メリアに鋭く突き刺さる。
「も、もうやめて……!」
メリアは泣き叫んだ。
「だって……アーネスト様が、そう言えと……!」
会場が凍りつく。
司法卿が眉を吊り上げた。
「――いま、誰の指示と言った?」
メリアは口を押さえ、震える。
もう遅い。
「証人の供述は、ここに無効とする。さらに――虚偽の証言を強要した者の責任を追及する」
アーネストの顔が蒼白に崩れていく。
傍聴席のざわめきは熱狂へ変わった。
わたしは静かに口角を上げる。
「これが、証拠の力です。愛や嘘では覆せない、記録と事実の力」
――審理は、わたしの勝利へと傾き始めていた。
(つづく → 第4話:公開裁判の核心、アーネストの“決定的な違反”が暴かれる)