表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

第2話 再鑑定

 翌朝。

 王立術院の大理石のホールには、早朝にもかかわらず人が詰めかけていた。昨日の審理が噂となり、「副本が本物か否か」が王都の娯楽のように囁かれている。


 わたしは帳簿を胸に抱き、深呼吸する。

 記録は嘘をつかない。――たとえ人がいくらでも嘘を塗り重ねても。


「グレイ公爵夫人、こちらへ」

 術院の鑑定官が手招く。長年、魔力紋章を研究してきた老学者だ。

「供給環を」


「はい」

 指輪を外し、銀の皿に置く。魔力がほんのりと青く揺れた。


 そこへ、夫アーネストが現れる。眉間の皺が深い。

「術院の鑑定など、買収されているかもしれん!」


「買収できるなら、あなたがしているはず」

 口を挟んだのは、昨日からずっと静観していた王太子殿下だ。

「……殿下!」アーネストが狼狽する。


 鑑定官は淡々と印影を照合した。

「供給環の記録は改ざんなし。むしろ――これは興味深い。停止が始まった日付に、夫人の魔力が一度“逆流”している」


「逆流……?」


「供給を受ける側ではなく、与える側が抑え込みを行った場合に出る現象です。つまり――夫人ではなく、ご主人が“止めた”のですな」


 ざわめきが一気に広がった。

 証言と真逆の鑑定結果。

 アーネストの顔が赤黒く染まる。


「馬鹿な! これは捏造だ!」


 わたしは帳簿を開き、静かに告げる。

「その夜、わたくしが病に伏した日です。食費が減らされ、倒れた結果……供給は強制的に遮断された。――それを不貞の証拠に仕立て上げたのは、あなた」


 会場に重い沈黙が落ちる。

 次の瞬間、義妹メリアが立ち上がった。

「で、でも! 姉様は……! わたくし見たんです! 姉様が男と――!」


「それならば」王太子が立ち上がる。「本日の午後、再度の審理を開こう。証人を改めて呼び、虚偽を断罪する」


 殿下の目は冷たい湖の色をしていたが、不思議と胸の奥に温度を残した。

 逃げ場は、もうない。


(つづく→次話:公開審理、義妹の“虚偽証言”崩し)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ