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第13話 王国を二分する裁判

 王都全体がざわついていた。

 「宰相が裁かれる」という噂は瞬く間に広まり、広場には見物人が集まり、酒場では議論が飛び交っている。


「ついに正義が下るのか」

「いや、宰相様は王の信任が厚い。覆るものか」

「それでも、夫人の証拠は本物だ」


 民衆の声は半分に割れていた。

 王国の未来を左右する大審理。人々は不安と期待に揺れている。


 ――そしてその日、王宮の大広間はかつてないほどの熱気に包まれた。


 廷吏が高らかに告げる。

「これより、大審理を開始する。被告、王国宰相ダリウス卿」


 悠然とした足取りで現れた宰相は、堂々とした笑みを浮かべていた。

 まるで自分が裁かれる側ではなく、裁く側であるかのように。


 彼が壇に立った瞬間、ざわめきが広間を揺らす。

「本当に宰相が……」

「殿下は本気なのか」


 その中心に座るのは、司法卿。

 そして、その隣には王太子エドワード殿下。

 わたしは殿下の隣、証拠提出者として席を与えられていた。


 宰相の視線がわたしに向く。

 冷たい笑みが、心を試すように突き刺さる。


「さて……王太子殿下。いかなる罪で、この私をここへ呼んだのか」


 殿下が堂々と答える。

「公金横領、記録改ざん、虚偽の裁判。――王国の根幹を揺るがす重大な罪だ」


 広間が揺れるようなどよめきに包まれる。


 宰相は笑みを崩さず、余裕を保ったまま首を傾げた。

「証拠は?」


「提示するのは、この者だ」

 殿下がわたしを見た。


 胸の奥が熱くなる。

 人々の視線が一斉に注がれる中、わたしは帳簿を抱えて立ち上がった。


「……わたしは、元公爵夫人エリス。記録を武器に、真実を明らかにします」


 その言葉に、あちこちからざわめきが起きた。

「彼女か……!」「あの審理で公爵を倒した女だ!」


 緊張で膝が震えた。

 けれど、隣で殿下の声が囁いた。

「大丈夫だ。君の言葉は必ず届く」


 その一言が背中を押してくれる。


「五年前の“王都建設費”の帳簿を提出します」

 机の上に分厚い帳簿を置き、頁を開く。

「支出の名目は建設費。しかし実際には工事は行われていません」


 司法卿が頁を覗き込み、頷いた。

「確かに、不自然な空白がある」


 宰相が笑った。

「馬鹿馬鹿しい。計画は中止となり、資金は別の事業に流用された。

 それを“不正”と呼ぶのは、ただの無知だ」


 わたしは声を強める。

「では、その“別の事業”の記録を示してください」


 宰相の笑みが一瞬揺れた。

 けれどすぐに取り繕い、冷ややかに返す。

「五年前のことだ。記録が残っていない可能性もある」


「残っているはずです」

 わたしは机にもう一冊を置いた。

「王立図書院に保管されていた裁判記録。そこには“証拠不十分”としてあなたの関与が否定されています。

 ――しかし、この頁には不自然な改ざんの跡がある」


 会場がどよめいた。


 司法卿が眼鏡をかけ直し、頁を食い入るように見つめる。

「確かに……文字が書き換えられた痕跡がある。だが誰が?」


 殿下が立ち上がり、声を張った。

「宰相にしかできぬ! 図書院の記録を改ざんできるのは、王が任じた最高政務官のみ!」


 その言葉に広間が揺れた。

「宰相が……!?」

「まさか、国の記録を!」


 宰相の顔に、初めて険しさが浮かぶ。


「……随分と芝居が上手いな、殿下。だが証拠がなければ、それはただの“言いがかり”だ」


 わたしは一歩踏み出した。

「証拠は必ずあります。わたしは、必ず見つけます」


 その瞬間、広間に熱気が走った。

 人々の視線が、わたしへと集まる。

 恐怖よりも、決意が胸を満たしていた。


 ――大審理は、ここからが本番だ。

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