扉
1つの扉が閉まる時、また別の扉が開く。
僕は学校の廊下を重い羽を引きずるようにして、なんとか前に進んでいた。高校3年生にもなれば、進路相談という難しい問題も発生する。
不思議なことに、この病気を知ってから、同じ病気の人を探そうとはしなかった。自分は皆と同じ人間だと思っていたし、そういう風に扱って欲しいと思っていたからだ。別に、同じ病気の人に知り合ったところでこの痛みが消える訳ではないし、もはや、これを抱えて生きるか、あるいは大人となってから切除手術を受けるかしかないのだ。
薬の補充のため処方箋を書いて貰うとき、整形外科の先生から手術には危険が伴うとも聞いていた。羽の神経は脊椎に繋がっているため、常に神経を圧迫し続けており、これを削り取る際に他の神経を傷つけて足に麻痺が出る人もいるとのこと。多分、それでも僕は羽を取ると思う。
羽が生えてからもう一年になる。
学校には新入生が一年分増えて、教室に人だかりができている。
勿論お目当ては鳥人間であった。つまり僕である。
「内臓が飛び出る病気なんでしょ?」
「違うよ。羽が生える病気だよ。それが常に神経を圧迫してて痛いんだ」
見た目も奇抜だった。教室では学ランの下にワイシャツを着ているのだが、背中のところに穴が二つ開いており、そこから羽を通しているので大きな鳩のようだった。僕は座席の位置が決まっていた。僕の後ろに座ると皆が授業に集中できないから、いつも一番後ろが定位置だった。
授業中にも関わらず、廊下から不躾な質問が飛んでくるが、薬の影響で常に眠く、ほとんど頭に入ってこなかった。
そして、放課後になって親が呼ばれ進路相談となる。
僕の成績はあまりよくない。午後は薬の影響で常に眠いので座ったまま寝てしまう。当然授業の内容は入ってこない。絶望的だ。
そんな僕の進路先に先生はとんでもないことを言い出した。
「サーカスなんてどうでしょうか」
「は? 先生何言ってるんですか?」母はビックリしたような表情で手にもったバックの持ち手をギリギリと握りしめた。
「今、全国を行商しているサーカス団が近くの遊園地に来ていますので、見学だけでも……。それに、先方からもオファーがありましたので。ぜひにと」
「うちの子を見世物にしろと? そんなところに就職させるわけないじゃないですか」
「奥さん。息子さんをマザコンにするつもりですか? 少し、離れた方が息子さんのためです。社会勉強だと思って飛び込ませるのが良いんじゃないですか」
僕はあまり乗り気じゃなかった。近くの遊園地といっても、片道2時間半かかる上に、交通費が発生するので、就職したら寮生活になる。それも知り合いの誰もいない環境で生活しなくちゃいけなくなってしまう。家族と離れるのも心配だった。
いったい誰が行きたいというのだろう。
そうこうしているうちに、無料の招待券が郵送されてきて、見学しに行こう、ということになった。
今ではあの決断が僕の人生に大きな変化をもたらしてくれたのだなと、サーカスの映像を見るたびに、記憶の引き出しが開いて懐かしい気持ちになる。