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見出した資質

この話は、本編に掲載されている『氷雪に定められた立場』を、アイゼル視点から書いたものです。

ノクスを側近に迎え入れた日の出来事を、皇太子の眼から見た記録としてお楽しみください。

アルナゼル王国の王弟子息が訪れるというその日。

アイゼルは別件で公務に就いていた。


いつも通りそつなくこなしながらも、胸の奥をかき乱されるように、その者の存在が気になって仕方がない。


(何故だ?妙に胸がざわつく……)


成人したら外交に関わる機会や戦場に赴く可能性もあるが、彼はまだ未成年だ。

基本的に国内の案件にしか関わっていないため、他国の人間と接する機会は少ない。


だからといって、全く接したことがないわけではない。

以前も使者が来たことはある。

しかし大して興味は引かれなかった。


実際に会っても、肌の色や服装、雰囲気が異なる。

それくらいの印象しか持たなかった。


なのになぜ。

今回は、こんなにも気になるのか。


(今なら、まだ謁見中のはずだ)


公務を終え、城に戻ったアイゼルは、謁見の間に向かう。

開いたままの扉の影から、そっと中の様子を窺った。


皇帝の前で膝をつき、頭を深く下げている人物。

彼が、恐らく例の「王弟子息」だろう。


濃紺のマントで覆われたその少年の背を見た瞬間、心臓が跳ねる。


(……何だ?あの「力」は)


アイゼルは、目に止めた相手の大まかなその強さを測ることが出来た。

正面から向き合えば、その立ち振舞や雰囲気から更に正確に読み取れる。


今見えているのは、彼の背のみ。

しかし、そこには強大な「可能性」が見えた。


(——試してみるか)


次の瞬間、アイゼルの瞳が深い緑色に染まる。

それと同時に、少年が顔を上げ、皇帝の眉が僅かに動いた。


(ほう、共鳴波を感じられるのか?面白い)


響術による共鳴波を感じられるのは、波継の資質を持つ者のみ。

王家の血筋であるならば、彼がそれを持っていてもおかしくないだろう。


アイゼルは口の端を上げると、即座に波形を操り無数の氷の礫を作り出す。

少年は咄嗟に展開した結界でそれを防ぎ、氷片が周囲に砕け散った。


(これならどうする?)


今度はその氷片一つ一つにアイゼルは魔術式を展開し、氷の矢に変化させる。

すると少年は、それに対し打ち消しの魔術式を構築した。


だが量が多く、全てに対応しきれてはいない。

対応できたものに関しても、全て打ち消すことはできなかった。


恐らく、少年はあまり対人経験がないのだろう。

筋は悪くないが、威力も精度もアイゼルには及ばなかった。


アイゼルは魔術式を変化させ、残った礫を巨大な矢へと収束させると少年に放った。


少年は、咄嗟に防御壁を前方に張り出す。

氷の矢はぶつかった瞬間、轟音と共に砕け散り、霧のように消え去った。

だが威力があまりにも凄まじく、砕けた魔力の残滓が爆ぜるように弾け、衝撃波となって空間を薙ぎ払う。


鈍い衝撃が防御壁を突き抜け、少年の身体を容赦なく吹き飛ばした。

背中から石壁に叩きつけられた少年を見て、アイゼルの胸が高鳴る。


(ああ……面白い)


まだまだ自分には遠く及ばないが、それでも防ぎきった。

今の攻撃を受けて無傷でいられる者など、この国にいるだろうか。


死なない者は、いるだろう。

だが、不意打ちで防ぎきれるかはわからない。


素質は十分にある。

魔力の活かし方を学び、対人経験を積めば、きっと。


(私の望みを、叶えられるかもしれない)


アイゼルは謁見の間に足を踏み入れると、悠然とした態度で口を開いた。


「私の攻撃を受けて無傷とは、やるではないか」


重苦しい沈黙を断ち切ったその声に、周囲の視線が一斉に向く。

直ぐに少年の元へ向かおうかと思ったが、その前に皇帝の声が響いた。


「悪ふざけがすぎるぞ、アイゼル」


自身で結界を張っていたのだろう。彼の周囲だけ何の乱れもない。

無論、皇帝に余波が飛ぶような真似はしていないが、場の荒れように対してあまりにも整然としていた。


「申し訳ございません、父上。少々、この者に興味がございまして」


悪びれた様子もなく、アイゼルは皇帝に対し恭しく一礼したあと、少年に歩み寄る。

先程は背のみでわからなかったが、その装いは少々場に似つかわしくないように思えた。

黒いローブに濃紺のマント。

上質ではあるが、謁見に来る服ではない。どこか平民臭い。

王弟の子息というのならば、尚更。


だがそんなこと、今はどうでもいい。

距離を詰められ思わず身を引こうとした少年の足を、アイゼルは躊躇いなく踏みつけ動きを封じた。


「っ……!」


痛みに顔を顰め、睨み上げる彼に不敵な笑みを浮かべると、アイゼルは迷いない声で告げる。


「貴様が気に入った。私の側近になれ」


少年が固まった。

おそらく、状況を理解できていないのだろう。


そんな反応を気にもとめず、アイゼルは皇帝を振り返る。


「構いませんよね、父上。これは私がもらっても」


その言葉に、皇帝は短く息を吐くと、「好きにするがいい」とだけ答えた。

あまり少年に対して興味がなかったのだろう。

彼の処遇に対してはアイゼルに一任することを決め、皇帝は他の公務のために謁見の間を去っていった。


残された空間に、重苦しい沈黙が落ちる。

誰もが言葉を失う中で、アイゼルだけが平然とノクスを見据えていた。


「そういうことだ。今日から私の所有物ものになってもらう」

「……モノ扱いかよ……」


怪訝そうな顔で呟く少年に、アイゼルは笑みを深める。

従うしかないとわかっていても、その態度はどこか反抗的で。


それがますます、アイゼルの興味をひいた。


他国民、それも実質「人質」である少年を側近にすることに異議を唱える者もいたが、所詮は取るに足らぬ声だ。

黙らせるのは容易い。だが、納得まではしていないだろう。

だから、釘を差しておく。


「皇族の所有物に手を出したら、どうなるか……わかっているな?」


冷や汗を滲ませる男を一瞥すると、もはや取るに足らぬとばかりに視線を逸らし、少年を連れて謁見の間を出た。

振り返ることなく、悠然とした足取りで堂々とその場を去る。





やっと見つけた、やっと手に入れた。





自分の隣に立つことができる実力者を。

いずれ、自分の"望み”を叶えられる可能性のある者を。



ノクスsideの『氷雪に定められた立場』はこちら

(https://ncode.syosetu.com/n2410ko/106/)


響術についての説明は、以下の話で解説しております。

「4.響術と波継の疑問」(https://ncode.syosetu.com/n2410ko/4/)

「登場人物紹介 ※ネタバレ注意」(https://ncode.syosetu.com/n2410ko/16/)

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