やっぱり私には関係ありませんわ
「仕方がないでしょう。サフィールは男なのですから」
「何故お前は今もそう飄々としているんだ!!」
久々に大きな声を出したせいでお父様が咳き込んでしまったわ。ああ、お茶を差し上げなければならないわね。肩で息をそこまでなさらなくても。というかティーカップをひったくらないでくださいまし。
ああ、しかもそんな勢いよく飲んでしまわれると…ほら、気道に入ってしまいましたわ。
「お父様大丈夫ですの?」
「す、すまない。ありがとうカミーリャ」
「当たり前の事をしたまでですわ。さてお父様、この場では堅苦しくて仕方がありません。サロンへ休憩のいきませんこと?」
「ああそうだな。今日の茶菓子は…ではない」
ちっ。このお父様。流されませんでしたわ。
もう、これ以上話を続けても埒があきません。だってやっぱり私何もしていないですわ。とばっちりにもほどがあります。
「まだ何か」
「何かもなにも何も終わっていないだろう」
「うーん…婚約は終わりましたわ」
「誰も上手いことを言えとは言っていない」
あら、大きなため息。幸せが逃げていきますわ。
「今何を捕まえた」
「お父様から出た幸せですわ」
「カリャ…」
また幸せが逃げていきましたわね。何もそこまで自分を不幸にしなくてもいいと思いますのに。
そろそろ説教の姿勢がしんどくなってきましたわ。いつも私の部屋で書類を整理していますから久々にこうして直立しています。早く椅子に座りたいですわ。
「殿下は今まで騙していたとは下劣なとおっしゃっていた」
「よほどのヘマをいたしましたのねサフィは」
「何度もあれほどしつこく取り換えごっこはしないように言っていたのに破っていたのは同罪だ」
まあ、机と胃に穴が空きますわよ。お母様に怒られるのはお父様ですわね。
それにしてもいつも完璧に私になるサフィが一番バレないようにと気にすることがバレてしまったなんて驚きです。
お父様とお母様は私達が生まれた時お互いにないものは補填しあうとおっしゃっていましたわ。お陰様でなんとか教育は私もサフィと同じレベル、逆にサフィは家の仕事を私と同じレベルできています。お互いが倒れても良いように。これは両親の教育の賜物ですわね。
「8年も毎日サフィとお会いされていたのでしたらもはや騙すも何も無いのではありませんか?」
「男と女が違う時点でもう騙していることは確実だろう」
それは確かにそうですわ。でも今の今まで気が付かなかった殿下も殿下、お父様もお父様ですわ。ここまで来てしまったらでももへったくれもないのですが。
「まだ学園の方は卒業していないだろう?残念ながら今日から夏季の休暇だ。休暇明けからは絶対に何があってもカミーリャが出席するように」
「今更ですの!?」
「本当にお前は一度も学園に行っていないのだな!」
あっ。うっかり口が裂けてしまいましたわ。そしてまた幸せが。
王家との婚約を破棄されたのにも関わらず激昂するどころかこの程度で済んでいるということは何か裏でお父様と陛下が繋がっているのかしら。そこは私には関係ありまくりですわね。
まあ王太子妃なんていうそんな堅苦しいものにはなりたくありませんし、破棄されたのであればそれはそれで重荷が減るというものです。
「お父様。普通であればこの程度で済むはずがありませんよね。王家から婚約を破棄されたとなれば私は遠くへ飛ばすなり修道院へ飛ばすなりの処置が必要ではありませんこと?」
地方に飛ばされてもいいですわね。こんながやがやしたところより田舎の静かでキレイなところでのんびり暮らすのは夢でしたわ。修道院に入って神に身を捧げることもそれはそれで退屈しないと思います。
どちらでも私は結構ですが何故か夏季休暇が終われば学園に戻れとの指示。不思議すぎますわ。
「婚約を破棄されたと言ったが少々事情がある。第一に陛下はまだこのことを許可していない。が、だ。」
「有力な貴族の娘や息子に知られてしまったということであればこれをあとから取り下げることは難しいでしょうね」
「ああ。そういうことだ。そしてもう一つ。どうにもきな臭い」
「その発言、本当に学園の話ですの?」
まるで争いが起こるかもしれないなんていう言い方。お父様らしくありませんわ。しかも学園なんてたかが10代のお遊びの場のようなもの。確かに社交界へと出る前の足がかりではありますがそのような物騒な発言はいかがなものかと思います。
「カリャ。殿下がどのような性格の方かサフィから聞いているか?」
「最近はめっきり聞きませんが物事を常に冷静に判断し、自分の決定が本当に正しいか考える思慮深い方だと以前聞いたことがあります」
深く頷いていらっしゃるということはあながち間違いではないということですわね。そんな方が確かに婚約破棄を皆の前で、それも陛下に話をつけずにするなんておかしなこともありますわね。
「考えている通り、陛下に話を通すことをせず皆の前で婚約破棄をし、平民上がりの令嬢を肩に抱きながらこの令嬢と婚約するとまで言い出した。きな臭いにもほどがあると思わないか?」
お父様の言うことは完全に理解できましたわ。以前聞いていた殿下のお話とはまるで別人になってしまわれた。なるほどそれで私がここに呼ばれたのですわね。
「取り換えごっこのせいかも知れませんが、もしかしたら学園で何かが起こっているかもしれないという話をするために私を呼んだということですわね」
「そうだ。どちらにせよ事情が複雑過ぎる。とにかく取り換えごっこをしたせいだと今は言える。なんてことしたんだと叱りたいが」
そんな、苦いものを詰め込み煎じたお茶を飲んだような顔をしなくてもお父様の心情は察することはできますわ。ああ、また幸せが。
「事情は承知いたしましたわ。確かにこのようなことは私のほうが向いていますわね」
「頼めるか?半年前からサフィの様子があまりにも不自然だったことにもう少し気にかけてやるべきだった」
半年前から浮かない顔を浮かべずっと心配させまいと大丈夫と言い続けていましたものね。私にも心を閉じてしまったら何もできません。頼ってくれても良かったというのは後の祭りですわ。
「承知いたしました。婚約破棄をされたあとの経過、学園で起こったことも含め私、超絶短い学園生活を歩むことを誓いますわ!!」