表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

甘さと苦さに溺れていく

作者: お米うまい

半年・ぎりぎり・涙



「ぎりぎりいけるか?」


 手作りのチョコレートを手に、俺は食べるかどうか迷う。


 袋ラーメンは三年くらい賞味期限が切れていても、ちょっと変な味がするかなという感じで腹を壊す事もなかった。


 それならば、半年前のチョコなんて余裕で――


「いける訳ないでしょ! 馬鹿なの!?」


 恐る恐る包装を開けようとした俺の頭を、叫びと同時に背後から叩かれてた。


 振り向かなくても誰の仕業かなんて解かり切っている。


「普通、恋人の頭を全力で叩くか?」


 一週間前から付き合い始めた、幼馴染だ。


 関係が変わってしまっても付き合う前と変わらない雰囲気で、こうやって気安くよく殴ってくる。


「恋人だからこそ、馬鹿な事をしようとしてたら全力で止めるんでしょうが」


「いや、でも、アレだ? チョコレートの賞味期限って半年から一年くらいはあるらしいぞ? そう考えると余裕で……」


「それは売ってるヤツじゃない。一度作り直した物が同じくらい保つ訳ないでしょうに」


 言われなくても、そんな事は解っている。


 だからこそ、食べるかどうか躊躇していたんだから。


「ったく。なんで貰ってすぐに食べないのよ」


「解ってるくせに言わせんなよ……」


 もし俺が何の考えもなしに、チョコを無駄にしてしまっていたなら。


 後ろから軽く殴るだけで済ませる女じゃない。


 それこそチョコを食べようとしていた俺を止めるどころか、コイツ自らの手で俺の口の中に捩じ込んで来ていただろう。


「いいでしょ。折角作った物台無しにされてるんだから、そのくらい聞かせてくれたってさ」


 言いながら後ろから抱き締めてくる。


 お前の胸なんて男と変わらないじゃねえか、なんて揶揄ってた頃から変わらない平らな胸で、実際押し付けられても、柔らかさなんて全く感じないのに。


 匂いが感じる程に密着されると、どうしても振り解けなくなるくらい気持ち良くて。


「ねえ、駄目?」


 抱き締め返したくなる程に可愛いのは、反則だと思う。


 ――普段は友達の誰よりも気安い癖に、こういう時だけ甘えてくるところが本当に卑怯だ。


「……もう二度と会えなくなるかもって思ってたからな。何か食べてなくなったら、お前との繋がりも全部消えるみたいに感じて、ずっと食えなかったんだよ」


 貰った日は嬉しくて、逆に中々食べられなくて。


 そろそろ食べようと思った頃に、コイツは車に轢かれてしまった。


「ロマンチスト」


「……うるせえ。男は大なり小なり、そういうもんなんだよ」


 俺は振り返る事もせず、吐き捨てるようにそれだけ頑張って返した。


 顔を見てしまえば、涙が出るのを堪えられそうになかったから。


 けれど――


「やっぱり、私と付き合ってるのは同情? こんな傷跡のある女の身体なんて、誰も見たくないもんね」


 真面目な声でそんな事を囁かれると、振り返らずに居られない。


 それが半分くらいは罠だって解かっていても、だ。


「……やっとこっち向いた。いい加減初めてじゃないんだからさ、裸くらい慣れてよ」


 言いながら顔を近付けてキスをしてくる。


 舌が乱暴に俺の口の中を動き回って、お互いの舌がぶつかるヌルっとした感触が熱くて――


「ふふ、その顔好き」


 何も考えられなくなっている俺を見て呟かれた声に、恥ずかしさで顔を背けたくなる。


 けれど―― 


「やっぱりこんな傷だらけの女の身体なんて見たくない?」


 そんな事を言われたら、恥ずかしいなんて言ってられない。


 俺は、真っ直ぐに君の身体を見る。


 傷跡だらけでピンク色に膨れた肌が痛々しいのに、触れ合えば気持ち良くて夢中になってしまう君の身体を。


「傷の事はそんなに気にしてないわよ。だって傷の話をすれば、アンタはいつでも私の事見てくれるようになったもの」


 冗談のように言うけれど、これが俺に気を遣った言葉なのは解ってる。


 だって告白の返事をしようと呼び出した場所に来る途中で、車に轢かれてしまったんだ。


 茶化すように言わないと、俺が気にするってコイツは誰よりも知ってるだろうから。


「悪い女だな……」


 だから俺も頑張って茶化して返す。


 俺が気にして落ち込んで、コイツが傷付いてしまわないように。


「そんなの今更でしょ? こんな傷だらけの醜い女なんて抱けないわよね、なんて無理やりアンタを襲ったんだからさ」


 そう言って再び俺に口付ける君の舌が気持ち良くて、されるがままになるしかなくて。


 気付いたら俺は君を見上げていて、そこで初めて押し倒されている事に気付いた。


「本当に気にしないでいいから。アンタが興奮出来るなら、私はどんな身体になったって、どうでもいいんだから」


 そんな事を言って笑う君が本当に可愛くて。


 それでも傷だらけの身体が痛々しくて。


 そんな君の身体に興奮してしまう自分が情けなくて。


 ――それなのに、身体でも心でも君が欲しくて堪らない自分が誇らしい。


「むしろ、こんな身体でも好きでいてくれるんだって嬉しいくらいよ」


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか。


 堪らないとばかりに笑う君の姿が色っぽくて、これ以上君に夢中になってしまうのが怖くて。


「その、お手柔らかに……」


 思わず俺はそんな言葉を呟いてしまうが――


「うん、無理」


 何故か君は余計に興奮したとばかりに微笑んて、俺を好き放題弄び。


 溺れていくように、俺は君をどんどん好きになっていく。




   ○   ○




(あんな事するようになっても、眠ってる時の顔は昔と変わんないわね)


 あれから、たった二回しただけで気絶するように眠ってしまったコイツの顔を眺めながら、私はそんな事を思う。


 している時の顔や声は私にこんな興奮してるんだって感じで好きだけど、こうして無防備に私の腕の中で眠っている時の顔も、これはこれで何か幼い感じがして好きなのよね。


(……本当にさ、傷の事なんて何にも気にしてないのよ?)


 あどけない顔で眠る姿を見ていると、私を見る度に申し訳なさそうに顔を歪めるコイツとのギャップに胸が軋むように痛む。


 どうしたら、コイツは解かってくれるのかしらね。


(この傷が出来てから全然お洒落しなくなったとか、男に声を掛けられる事がなくなっただとかアンタは下らない事ばっか気にするけどさ。別にそんな事なんてどうでもいいのよ……)


 コロコロと暇さえあれば服を変えていたのは、別にお洒落が好きだったからなんかじゃない。


 友達扱いしかしてくれないアンタに、どうしたら女として見てもらえるのかなって色々と試していただけ。


 別にアンタが女として見てくれるなら、最初から服装なんてどうでもよかったし――


(見た目だけで声掛けてくる男なんて、むしろ居なくなって清々したくらいよ)


 しつこく声を掛けてくる癖して、断ったら胸も無い男女がだとか、ちょっと顔が良いからって調子に乗んなよとか喚き出すゴミばっかり。


 そんなに女とヤリたいなら、金でも出してそういう場所にでも行ってろって話。


(むしろ、この傷には感謝してるわよ……)


 だってこの傷が無ければ、きっとアンタは今でも私を女として見てくれてなかった。


 ずっと友達だと思ってた相手に性欲を向けるのは裏切りみたいな気がする、みたいな的外れな事ばっかり考えるアンタをどうにか振り向かせようとして――


 今でも私は、露出増やした服着たり、ボディタッチとかして頑張ってアンタを振り向かせようと空回りしていたと思う。


(私ね、アンタが思っている程、サッパリした女でも、気の良い女でもないのよ……)


 アンタが呼び出した日に事故って傷が残って。


 本当にただの偶然なんだから責任なんて何一つ追う必要のないアンタがさ、一生を掛けてでも償うって言ってくれた瞬間、真っ先に私の頭の中に浮かんだのは――


 別にアンタのせいじゃないんだから気にしないでなんて言葉でも、アンタへの八つ当たりでもなかったのよ。


(チャンスだって思った)


 今ならコイツは、私のどんな頼みも断れない。


 この負い目がある限り、優しいコイツは私を拒めない。


 責任なんて口だけ。


 こんな醜い傷だらけの女なんて抱けないでしょ、なんて迫ればアンタは一生、私の物だ。


 そんな想いに突き動かされて、初めてキスをして――


(キスしただけであんな気持ちよさそうな顔して、あんなに大きくなってたらさ。もう止まれないじゃない……)


 自棄になるな、なんて口では抵抗しようとする癖に。


 私を傷付けたくないからって乱暴には振り解けない優しさや、それなのに私が触る度に気持ちよさそうに反応する声と身体が余計に私を興奮させて。


(途中からは我慢出来なくなったアイツが、私を押し倒してきてさ……)


 どこを触っても気持ちよさそうに声を上げるアイツを見ていると、止まらなくなって。


 ずっと色んな場所を触ってたら、何か焦らしているみたいになってたみたいで限界だったらしくて、最後は逆にアンタに押し倒された。


(凄かった……)


 思い出すだけで身体が震える。


 あの時、腕に跡が残るくらい掴まれて。


 床に押し倒されて。


 あんなに服とか化粧とか頑張っても何もしてくれなかったのに、こんなにも強く私を求めてくれるんだって凄く嬉しくて。


(終わった後に泣いちゃったのだけは、本当に後悔してるわ……)


 アレから結局、コイツからは私を求めてくれない。


 いつもいつも誘うのは私からだし、責めるのも私ばっかり。


 また初めての時みたいに乱暴にしてくれないかしら、なんて思ったりもするけれど――


(それは望み過ぎ、よね……)


 弱みに付け込んで、恋人っていう位置に無理やり収まって。


 これ以上なんて望めない。


 私に出来る事は、彼女としてコイツを満足させ続ける事だけ。


 負い目と身体の気持ち良さに囚われている限り、絶対にコイツは私から離れられないから。


(大好きよ、ずっとずっと昔から……)


 そうして私は、穏やかな顔をして眠るコイツを抱き締める。


 寝ぼけて抱き締め返してくれる暖かさに、愛しさを覚えながら。

 チョコだけにちょこっとだけセンシティブです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ