エピローグ
あのダンジョン攻略から何日がたっただろうか。
結局、一日かけてあんなダンジョンを攻略したにもかかわらず、持ち帰った破壊の装備は基本的に家の片隅に飾ったままになっている。
生活も特に変わりなく、たまに装備を持ち出しダンジョンへもぐる以外は前と同じような生活をしている。
◇◇◇
そんないつもの日常を繰り返し、数日が経過したころ。
家の中で用事を済ましていると、突然カタカタという金属音が部屋の隅から聞こえてきた。
音のする方を見ると、この前まで回っていた旅路のコンパスの針が一方を示していた。
従うことで何かしらを手に入れることができると冊子にも書いてあったし、せっかくなので破壊の装備を身に着け、コンパスの指す方へ進んでみることにした。
◇◇◇
旅路のコンパスに従って進むこと30分。今通っている道は普段狩りをしている森の中にある、王都へと続く未舗装路だ。
食べられない獲物の素材や矢の買い足しなどでたまに通るような道であったが、何回かは通ってきた道なので迷うことなく進んでいた。
しかし、どうも様子がおかしい。現在はちょうど昼時で天気は晴れ。普段だったらそろそろ王都のにぎやかな声が聞こえてくるころというのに、そのような声はおろか雑音すら聞こえない。
そこから3分ほど歩き、ついに王都の門をくぐった。平民や貴族はおろか、門番や兵士の姿すら見えない。まるで一瞬にして人が王都から消え去ったかのような静けさは、この装備を手にしたダンジョンのことを思い出す。
さらにコンパスに従うと、段々と王都の様子がおかしくなってくる。
中央に近付くにつれて、建物は襲撃を受けたかのように崩れ、道も石畳がはがれている箇所がある。
何より異質なのが、地面に広がっている魂の砂だ。
それはダンジョンの最下層で見たものと全く同じ大きさをしていた。
つまりは、そういうことだろう。
ついにコンパスの目的地に着いたようだ。
そこは王都の中央広場で、普段はにぎわっている場所なのだが今は噴水の近くに人間が2人いるのみだ。
一人は研究者のような服装をしているが、顔は奇妙な仮面のようなもので隠れている。荒れた中央広場で背筋を伸ばしてしっかりと立っている姿は、そのきれいな茶色の髪も併せてよく映える。
もう一人は、白に金の装飾が入った防具と太陽の光を反射する真っ白な剣を装備している。
しかし相当弱っているようで、剣を地面にさして研究者のような男に跪いていた。
「お、来たね。」
研究者のような男が僕に話しかけてきた。
おまえは誰だ。そう男に問いかける前に向こうが口を開いた。
「目の前にいるこの人はね、強い力におぼれて国を1つ滅ぼそうとしたんだ。ほら、彼が身に着けているのが "守護の装備" だよ。」
こちらの話を一切聞かずに話を進める男に少々困惑している間に、また彼の声が差し込まれる。
「そして君が着てるそれ。それは守護の装備を破壊するために作られたものだ。本物の守護を木端微塵に破壊する装備ってね。あとは君に任せたい。」
何もわからない。なぜこのような状況になっているのか、こいつは誰なのか、一切わからないまま話が進む。
「この人は、最強装備と言われる "守護の装備" を手にしてから3年、しっかり守護者として活動してきた。だけど装備を返還するのを嫌がってついにはこんな事まで起こしてしまった。」
男の言っている話を整理している間に、どんどんと新しい情報が流れ込んでくる。
「この人は反逆罪で死刑だろうね。さて、君はこいつの首を切り落とすかい?それとも装備だけ破壊してあとは然るべきところに任せるかい?」
正直なところ、男の言うことは聞かない方がいいだろう。しかし、彼の言っていることは妙に信頼できる。
「1つ聞いてもいいか?」
僕は男に問う。
「なんでもいいよ。」
「ダンジョンのあの声は、もしかしてお前か?」
そう問いかけると、彼は少し悩んでいるように顔を下に向け、天に向け、また下に向けた。
しばらくそのような動作をしたあと、彼はようやく言葉を発した。
「まあ.....一応ね。ついでに言うと、それを作ったのも君にダンジョンの挑戦権をプレゼントしたのも私だ。まあ、細かく言うと "我々" なんだけど、そこらへんは別に気にしなくてもいいよ。普段は仮面や平民の名で通っている。よろしくね。」
男はそういうと、もう一度僕に向かって言う。
「さて、どうせ死ぬ命だが....殺すかい?然るべきところに任せるかい?」
僕の下す結論はもちろん1つしかなかった。
静寂に包まれた広場に幾度となる金属音。その音が止まったころには、跪いていた男の装備は粉々になっていた。
「やっぱり、その装備は君に預けて正解だったよ!これからも、その力に溺れずに過ごしてくれ。意外と強いからね。それ。」
仮面の男は僕の手を握ってそういう。別に男に握られたところで嬉しくはないのだが......。
「それじゃ、私は残ったこれを処理するからね。報酬と事情を書いた紙は今度ダンジョンに置いておくから受け取ってね。じゃ、また会う日まで!」
本当にこれでよかったのかはよくわからない。もしかしたらあの奇妙な仮面の男の口車に乗せられていたのかもしれない。
しかし、あの状況を飲み込むためには信じるほかになかっただろう。
守護の装備をあそこまで追い詰めるような奴だ。もし逆らったら僕の命がなかったかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は帰路へ着くのだった。
後日ダンジョンに向かうと、机の上には金貨が一枚と紙が置かれていた。
紙には「人員不足」とだけ書かれていた。それだけでわかるか。
謎を多く残したままの終了となりました。
ここでこの物語は完結とさせてください。
今まで読んでいただきありがとうございました!
よかったら感想や指摘の方をよろしくお願いします。批判は受け付けません。
この話と同じ世界観を共有する物語を公開する予定です。
そちらの方で、こちらの物語の謎の解明や魔法とロストテクノロジーのもっと深い説明などをしていきますので応援よろしくお願いします。
打ち切り防止のため、公開は全ての物語を書き終えた後にしようと考えているので、少し間が空きますがお待ちいただけると嬉しいです。
もし公開されなかったらそういうことです。
それでは、読者の皆さんの異世界ライフがもっと素敵なものになりますように!----機械と魔法の国シリーズ作者より