第四階層
彼は第三階層で手に入れた四つの鍵を使い、さらに下の階層へと進む。
途中の階段には、今までにないほど重苦しい空気が漂っている。本能が引き返せと警告しているようだ。
200段ほど下ったところで、彼は今まで通ってきた試練よりも広い部屋にたどり着いた。
部屋には柱や低い壁などの障害物があり、床にも魂の砂が虫に食われたように広がっている。
天井から数多の青いランタンが吊り下がっており、部屋を冷たく照らしている。
その不気味ながらも神秘的な景色に見とれていると、いきなり声が聞こえた。
『これより最終試練を開始します。敵を撃破し、報酬を手に入れてください。』
その声と同時に、ズドン!と天井から"何か"が降ってきた。
その"何か"は人の形をしており、白色に金の装飾が入った防具とランタンの光を反射している剣を装備している。
彼が"何か"の様子を伺っていると、"何か"は彼に向かって一直線に走りだし斬りかかってきた。
彼はとっさに剣で攻撃を防ぎ、後退して距離をとる。今までに感じたことのない衝撃に腕が吹き飛んだかのように感じる。
この反射神経は破壊の装備の効果なのか、今までの試練のおかげなのかはわからない。
そんなことを考えていると、"何か"がこちらへ勢いをつけて跳んできた。
彼は素早く横に避け、通り過ぎて行った"何か"の隙をついて後ろから斬りかかった。
しかし、その硬い防具には傷さえつけることができなかった。
装備の部分は斬れないとなると、首周りなど鎧のつなぎ目のわずかな隙間を通すか装備を叩き壊すしかない。
少しも考える隙はない。こう考えている間にも次の攻撃が飛んでくる。
彼は攻撃をかわし、後ろから斬りかかる。どうやら相手の動きにはパターンがあるらしいので、行動を繰り返せばいつかは装備を壊せるだろう。
しかし、何度叩いても鎧には薄く傷が入るのみで、叩き壊すにはこの攻防を1時間は続ける必要があるだろう。
これでは体力の関係で、そのうち疲れて死んでしまう。
首周りを狙うとしてもあまり現実的では無い。時間をかけて狙いを定めようとするころには体勢を立て直されるからだ。
そんな風に思考しているところで、相手の攻撃が飛んでこないことに気付いた。
相手の足元を見ると、魂の砂に飲み込まれそうになっていることが見えた。
既に脱出して体勢を立て直されてしまったが、もし魂の砂に誘導ができたら倒せるかもしれない。
彼は相手から離れた魂の砂の手前に立ち、相手の攻撃を待つ。
パターン通りに"何か"は彼に向かって突撃してくる。
彼は軽くその攻撃をかわして見せた。結果、相手は魂の砂のド真ん中に着地してしまった。
こうなったらもう抜け出せるような状態ではないが、彼はとどめを刺すことにした。
彼は抜け出そうと必死な相手の首元に剣を置く。ゆっくり沈みゆくそれは、死を悟ったかのように動きが止まった。
剣を引き、首を飛ばす。その断面からはおそらく魔導回路であろう金属線が見えている。どうやらからくり人形だったようだ。
『挑戦完了。箱の中身を手に入れ、ダンジョンから脱出してください。』
その声と同時に、天井からカラカラと木で出来たいかにも宝箱っぽい箱が鎖につながれてゆっくりと降りてきた。
彼はその箱を開け中身を確認した。そこには、コンパスと少し大きめな手紙サイズの文書が入っているのみだった。
破壊の装備ほどの物を期待していた彼は少しがっかりした。
とりあえず読み物は読んでしまおうという考えで、彼は手紙を確認した。
○○○内容○○○
まずは、ここの試練を突破し装備を手に入れたことを称賛したいと思う。おめでとう。
この冊子では手短にこの箱の中に入っているコンパスと、あなたが今身に着けているであろう装備について記す。
まず箱の中に入っていたコンパスは "旅路のコンパス" というもので、あなたの行くべき場所を指し示してくれる。
別に指示を無視してくれても構わないが、従うことで何か報酬を手に入れることもある。
今は針が定まっていないかもしれないが、それが一方を示すようになったら指示に従ってくれ。
次に破壊の装備についてだ。
破壊の装備は守護の装備と同等かそれ以上の性能を持つ装備一式だ。
本当のところは作るつもりなどなかったのだが、少し事情があって作る羽目になってしまった。
破壊の装備の力は強大だ。あなたが善良な人だと願う。
3つめはこの施設についてだ。
この施設の扉は攻略後常に解放されるため、試練を使って鍛えることを推奨する。
施設内の物品は基本持ちだし禁止だ。
装備とこの箱の中身、ポーションレシピと作成したポーションのみ持ち出し可とする。
ポーションレシピも貴重なものなので、誰かに譲渡する場合は相手をしっかりと見極めること。
最後に、もう一度この試練を乗り越えたことを讃えよう。
○○○文書はここで終わっている○○○
文書を読み終わった彼は、今まで来た道を振り返る。思えば大変な試練ではあったが、今まで同じようなことを繰り返していた彼にとっていい刺激となった。
最初に好奇心から剣を持ち上げ、閉じ込められ、ポーションを作り、いくつかの本を読み試練を越えた。その経験が彼の人生や価値観にいい影響を及ぼしたかもしれない。
彼が最後の階段を上り地上にでると、澄んだ空気と赤い空が彼を迎えた。
「もう夕方か.....」