第三階層 前半
長く暗い階段を下りた先には、レッドカーペットが部屋の中央を縦断するように敷かれた大きな部屋があった。
部屋は明るく、室温も良好。乾燥しており匂いもない。これほど管理の状況がいいのもロストテクノロジーによるものなのだろうか。
そして、レッドカーペットの先には見たことのない箱が置いてあった。
箱は黒色で4つの鍵穴があり、人間一人が入れる大きさをしている。これが「鍵付きチェスト」だろう。
先ほどまでの挑戦で手に入った鍵を入れて回すと、カラカラと歯車が回ったような音がした。どの試練で手に入れた鍵かは重要ではないようだ。
4つすべて開錠し箱を開けると、中には黒色に紫の装飾が入った装備が入っていた。
装備は全身分あり、あまり重くない。
『2階層の試練を完了しました。速やかに装備を装着し、次の階層に進んでください』
そう声が聞こえると、彼の後ろから何か物音がした。
見ると、カーペットがめくられており、下の階層へと続く階段が現れていた。
普通、ダンジョンといえば階層が下に行けば行くほど難しくなるものだ。彼も気を引き締めて下へと向かった。
階段を下った先には、二階層の中央の部屋と同じような部屋があった。
真ん中にはポーション生成器とポーションの材料が入った箱、壁際の本棚には本が一冊だけ入っている。
とりあえず本だろうと考えた彼は、その本を取り出し読んでみた。
本は30ページほどしかなく、文字ははっきりと書かれて紙もそれほど劣化していない。
本の題名は「魂の砂」だった。
その本は題名通り、魂の砂の発生原理から浄化方法、さらには増殖方法までかなり詳しく書かれていた。
詳しくは書かないが、その内容は生物の命を軽んじる非倫理的な内容といえる。
そして、このページの大半を占める内容が「魂の砂の増殖原理の応用による物体修理の理論」の実験内容だった。
実験はほとんど失敗に終わっているようだったが、「破壊の装備」のタイトルがついたレポートにのみ"成功"と記されていた。
さらには、修復専用のポーションの作り方まで書かれていた。
材料には魂の砂や完成度の高い魔法水が含まれており、過程も専用の器具が必要なものが多いため、ここでは作れそうにない。
設備の整った凄腕錬金術師でもいたら作れるかもしれない。地上に出れたら探してみよう。
一通り本に目を通したところで、彼は新しい階層の試練へと向かう。
◇◇◇
第三階層最初の試練の部屋は先ほどまでの部屋とは違い、晴れの日の屋外ほど明るかった。
そして、部屋の中央と四隅には足場があり、足場以外はおよそ膝の高さまで水が張られている。
中央の足場の真ん中にはボタンがあるため、第二階層で行った戦闘の試練であることは容易に想像できる。
普通、膝の高さまで水につかった場合、動きが鈍くなる。そんな状態で第二階層と同等の魔物が出てきた場合、死ぬしかない。
「中央まで行ってから考えるか。押さなきゃいいんだもんな。」
彼はそういい、水の中に足を入れようとした。
そのとき、突然足元の水が凍りだし、人が乗れるほどの厚さの氷となった。
「氷魔法....??ロストテクノロジーだとしてもやりすぎじゃないか....???」
氷魔法というと、水属性に適性のある人の中でも数年単位で努力した人がやっと扱える、とても難しい魔法である。
そんな魔法を装備につけるのは、かなり難易度が高い行為だと彼でも直感的に理解できる。
氷という不安定な足場を手にした彼は、中央にあるボタンを躊躇いもなく押した。
『挑戦者を確認しました。試練を開始します。』という声と同時に、周りの4つの足場から同時に弓兵スケルトンが出現した。
弓兵スケルトンとは第二階層で戦い勝利しているうえに、今は新しい装備まで手に入れているため、正直言って楽勝だった。
次から次へと出現するスケルトンを片っ端から殲滅し、ついに出現しなくなった。
『攻撃終了。箱の中からカギを手に入れ、次の試練へ進んでください。』
指示通りに鍵を手に入れ、彼は次の試練へ向かった。