第9話 嘘……?
朝になって目が覚めた俺は、上半身を起こして伸びをした。そしてチラッと隣を見ると、ぐっすりと眠っている氷翠の姿があった。
「え……? ちょっ、氷翠!?」
慌ててベッドから飛び降りると、寝る直前の記憶を思い返そうと必死に頭を抱えて、昨日の記憶を順番に辿っていった。
3分ほど思いだそうと頑張ってみたが、何も思い出せそうにない。寝る直前の記憶が無いのだ。なので俺は一応、変な事をしていませんようにと祈っておいた。
「なんで氷翠と寝てたんだ……。昨日部屋の片付けしたところまでは覚えてるんだけどな……」
そんな事を呟きながら、あまり着心地の良くない制服に着替えた。
その時ちょうど氷翠は起きたようで、何かブツブツと小さい声で言いながら体を起こした。そのまま、うとうとし始めたので、また寝てしまうと学校に遅刻するんじゃないかと思った俺は声を掛けた。
「おい、起きろ。また寝たら遅刻するぞ」
「うぅ~ん……。おはよ……」
「おはよう。俺は先に朝ごはん食べとくからな」
「うん……」
半分ほど食パンを食べたあたりで、制服に着替えた氷翠がリビングへやってきた。
「なぁ。昨日お前と一緒に寝た記憶ないんだけどさ、その……俺変な事してなかったか?」
「え!? き、昨日!? えぇーっとね……、変な事か……」
「おい、正直に言えよ。盛ったりしたら……俺が辛い」
そう言うと、氷翠は顔を真っ赤にしてニヤニヤしながらこちらを見つめてきた。
「……なんだよ」
「ん? そういえば変な事されたなぁ~って」
「……マジ? 具体的には?」
「えぇ!? ……胸触るとか?」
恥ずかしそうに、視線をそらしながら言われた。
「なっ……」
「あはは! まぁ、嘘なんだけどね~。普通に寝てたよ?」
「っ……。嘘かよ」
「信じた? もし本当ならどうしてた?」
「…………」
氷翠は、笑顔で俺のほっぺたをつつきながら聞いてきた。
ちょっとイラッときたので、残りの食パンを口の中に放り込むとすぐに家を出て学校へ向かった。