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そして後日。
なんだかだんだん不安、とゆうか心配になって来た僕は……
仕事を終えるとすぐに、元カノへと電話を掛けた。
出ないな……
まだ仕事中かな?
そう思った矢先。
「もぉ、しつこーい」
ガラガラ声が応答する。
「え、本庄さん?
え、なにその声、どーしたのっ!?」
「インフルエンザ拗らせちゃってさぁ。
もう5日も寝込んでんの、ウケるでしょ~」
いや全っ然ウケないよねえ!
「今熱はっ!?
遥さんには来てもらってんのっ?」
「それがさぁ、タイミング悪いと思わなぁい?
遥ってば1週間出張でさぁ、明日帰ってくるんだよね。
もう熱も7度8分くらいだし?
明日には治ってると思うけどね~」
「だったらなんで僕に連絡しないの!?
いつも小さなピンチは頼ってくるクセに、なんで肝心な時は頼って来ないかなぁ!」
「だって……
天使ちゃんとの事、協力しろってゆってたじゃん。
それって邪魔するなって事でしょー」
あ、ちゃんと伝わってたんだ……
「それに……
肝心な時だと、嫌でも断れないじゃん?」
キミって人は……
あぁもう、つくづくめんどくさいっ!
「あのさ!
肝心な時に頼ってもらえないと、いつも助けてる意味ないでしょ!」
「っ、はあっ?
いつも助けてるって、なにその上から目線!」
はいはい、すみませんね!
「とにかく!
ピンチの時は遠慮しなくていーから!
とりあえず、そっち行くからなんかいるもんはっ?」
「っ……
……あり、がと。
じゃあ遠慮なく感染す」
「いやそれは勘弁して下さい」
なんて言いながらも。
キミが治るならそれでもいいよ……
会話の合間に咳込んでる彼女が、いたたまれない。
けどやっぱりマスクは買って行こう。
キミの部屋にそんな気の利いた物があるワケないのはわかってる。
そんな調子で……
今度は僕が、栄養ドリンクやら元カノが大好きなゼリーなんかを持って行く事に。
それと、まともに食べてないらしい彼女のために雑炊の材料も買って。
1人暮らしのその部屋へと向かった。
そしてそこは、久しぶりに入ったけど……
相変わらずなんて散らかった部屋なんだ!
病気だから仕方ないとはいえ、輪をかけて。
まぁ本人曰く、使い勝手がいいように配置してるらしいけど。
「なに作ってくれるの?」
「ん?卵と長芋の雑炊。
ググったら、卵は鼻とか喉の粘膜にいいビタミンAと、熱で失われるビタミンBが豊富らしくてさっ。
長芋はもっとすごくて、抗インフルエンザウイルスを活性化させるタンパク質が入ってて、」
「いーから早く作って。
食欲出てきてヤバいんだけど」
はいはい、患者様……
出来るだけテキパキと下ごしらえをして、グツグツとそれを煮込むこと15分。
「お待たせ、出来たよ?」
ベッドに横たわる彼女にそう声掛けるも……
無反応。
「……本庄さん?」
傍に行って様子を伺うと。
え、寝ちゃってる!?
どーしよう……
かなりお腹空いてたみたいだし、起こした方がいいのかな?
や、でも体がキツくて寝ちゃったのかも。
ふう、と困惑の息をもらすと……
とりあえずその場に座って、寝顔を眺めた。
ー「肝心な時だと、嫌でも断れないじゃん?」ー
まったくキミは、変なトコでいじらしいんだから。
あ、手が勝手に……
思わず頭を撫でてしまった!
しかもなんだか止められないっ。
いや、どんな引力!?
「ん、んんっ……」
そこで本庄さんが、目覚めた気配。
とっさに僕は、熱いものでも触ったかのようにその手を跳ね除けた。
「お、おはよっ、雑炊出来てるよっ?」
いや、夜だけどね!
焦った自分に自らつっこむ。
「……おそーい。
いただきまぁす……」
と、鼻水をズビズビすすりながら。
病気のせいか寝ぼけてるのか、いまいちローテンションで雑炊を口にする。
あったかいそれは、ますます鼻水を誘ってて……
見てるこっちがやきもきする。
「はい、鼻かんでっ?」
すすったタイミングを狙って。
片手で後頭部を支えて、もう片手で鼻にティッシュを当てると。
「っ、いーってば!
そんなの自分でするしっ」
僕の手を押しのけて、照れくさそうに顔を背けた。
今さらこーゆうのは恥ずかしがるのが可愛い……
って誰がっ!?
いや普通だよ、普通っ。
女子なら大抵そーだって!
「あー、食べにく……」
うん、結果ティッシュを鼻に突っ込んでるからね……
てゆうかそれはアリなんだ?
まぁ、そーゆう飾らないトコも好きだよ。
いや、その好きじゃなくて!
ヤバい、おかしくなってる……
「あぁ~、おいしかった!
ありがと蓮斗、ごちそうさまぁ~」
やけに素直……
だからそんな可愛く来られると困るんですけど。
それから、薬を飲んだ元カノを再びベッドに寝かしつけて。
「じゃあ僕は……
だいぶ回復してるみたいだから、帰るよ」
これ以上おかしくなる前に、さっさと撤収。
「蓮斗っ」
ふいに、引き止めるかのように手を掴まれて。
「……眠るまで、待って」
驚く僕から視線を外して、呟くキミの……
その手にぎゅっと、力がこもる。
僕は心臓まで掴まれて。
だんだんそこが苦しくなって来て。
痛って、イタタっ……
ヤバい、耐えられない!
ごまかすように思考を巡らせて、この現状を無理やり読み解く……
そうか、病気だから心細くなってるんだ!
うん、それしかないっ。
そうやって、ギリギリ自分を抑え込む。
まだ?まだかな……
もう寝たよねっ?寝付くの早い人だし……
いやもう寝た事にしよう!
締めくくるようにぎゅっとして、その手をほどいた。