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元カノがめんどくさい  作者: よつば猫
平行線
7/18

 そうやって、天使と悪魔に挟まれて……

ひと月をまたいだ、ある日。


「れーんとっ!

ね、一緒に飲もっ?」


 いつもの如くやって来た元カノが、今日はいつにも増してはしゃいでる。


「どしたの?

なんかいい事でもあった?」

差し出されたシャンパンらしきものが入ってる袋を、受け取りながら尋ねると。


「そーなのっ!

だから今日はお祝いなのっ!

実はねぇ、フフっ。

遥さんと付き合う事になったんだぁ!」


 瞬間、心臓が思い切り縮んだ気がした。


「っ、ふーん、そう。よかったね」


「反応薄っす!

もっと祝福してくれてもいーじゃんっ!」


「いや、こーなるのはわかってたし。

むしろ、いつまでジレジレしてんのかなって思ってたからさ」


「ん~、まぁ今回は慎重に?

だって運命の人だからさっ」


「ああ、言ってたね。

ツマミ、チーズでいい?」

サラッと流しながらも……


 僕はキミに彼氏が出来る度に、大なり小なり動揺する。


 元カノになったキミに、初めて彼氏が出来た時。

その頃はまだキミの事が好きだった僕は、ショックが大きくて……

機能しなくなった思考で、今回同様ただ淡々とそれらしい言葉を並べる事しか出来なかった。


 どこかで線引きしないと苦しくて。

その時を機に、キミの事を司沙から本庄さんとか呼ぶようにして……

だんだんと気持ちに折り合いを付けて来たはずなのに。

なのに今回は、その時の次にショックが大きい気がする。


 なんでなんだ?

なんで僕は、今さら期待なんかしてるんだ?

いや、そもそも!

なんの期待をしてるんだっ?

こんなめんどくさい元カノと、今さらどーしたいわけでもないのに。


 ただ今回は、2人ともフリーって状態が長かったし。

その間キミは、やたらと僕に懐いてたし。

正直ゆうと、最近の僕たちは何気にいい感じかな?なんて思ったりしてたから……


 だけど結局、キミにとって運命の人は遥さんで。

僕たちの関係は、もう友達以外のなんに変わる事もないんだ。



「ちょっと蓮斗っ。

ハイペースで飲みすぎじゃない!?

てか、目ぇ座ってるって」


 目が座ってるワケじゃなくて、ただキミを……

酔いに任せて、このまま押し倒したらどーなるかなって。

そう思いながら見つめてたんだけど。


 そんな事をしたらきっと、間違いなくブチ切れられて。

もう友達ですらいられなくなる……


 いや、そんなの願ったり叶ったりだし!

むしろ僕は、この状況から早く抜け出したかったワケでっ……

だけど、罪滅ぼしを投げ出すワケにはいかなくて。


 ああ~!もうっ。

なんかほんとにめんどくさいっ!


「だから蓮斗っ、飲みすぎだって!

もぉ~、誰のお祝いだと思ってんのっ!?」





 おかげで次の日は、シャンパンの反撃に遭う羽目に……



「あの、蓮斗さん!待って下さいっ」


 その日、営業先を訪れた帰り。

そこで働く奈々ちゃんが、僕を追い掛けて来た。


「え、どしたの?

仕事大丈夫?」


「はいっ、今から休憩なのでっ。

それであの、良かったら……

お昼一緒にしませんかっ?」


「あ……

いいよ?何食べる?」


「じゃあ今日は、気持ちのいい秋晴れなので。

何かテイクアウトして、そこの公園で食べませんか?

あっ、近くに美味しいお弁当屋さんがあるんですよっ?」


 心がモヤモヤと曇ってた僕は、その提案には大賛成で……



 晴れ晴れとした青空の下、2人でお弁当をつついた。


 とゆうか、僕はあんまり口に入らず……

半分は、ほんとにつついてるだけの状態に。


「あの……

お口に合いませんでした?」


「えっ、あ、ごめんっ。

そうじゃなくて、実は二日酔いでさ」


「そうだったんですかっ!?

なんだか、すみません……」


「なんで奈々ちゃんが謝るの?

むしろ、こんな美味しいお弁当じゃなきゃ、何も食べれないとこだったよ。

ありがとう」


 そう言うと奈々ちゃんは、切なげな顔を覗かせた。


「……蓮斗さんは、ほんとに優しい人ですね」


「別に普通だよ。

それに……」


ー「どんなにカッコよくても優しくても。

他の女の子を優先するような人、嫌だよ!」ー


「……そんなもん、なんのプラスにもならないよ」


 それは、優先して来た元カノに対しても。


「そんな事ありませんっ!

私はっ、その優しさに救われました!

今だって、いつだって、救われてますっ」


「っ、大げさだよっ」


「大げさなんかじゃありませんっ。

だから私も……

蓮斗さんを救いたいです」


 いっそ救ってくれたら……

そう思ってた僕の心を、天使が優しくすくい上げる。


「何があったんですか?

今日の蓮斗さん、すごく辛そうでした。

元気がないのは、二日酔いの所為だけじゃないですよね?」


 見つめる僕に、柔らかな声がそう続く。


 普通にしてたつもりなのに、気付いてくれたんだ……

一連の天使の言葉は、胸を叩いて心をジワリと溶かしてく。


 と思いきや、突然。


「こらぁ!し、しっかりしろぉっ!

おまえの限界はっ、こんなものじゃないだろうっ?

げっ、元気だせぇっ!

っ、私が……

私がいますっ!」


 可憐な天使らしからぬ、思いがけない言動に……

若干あっけに取られたものの。


 顔を真っ赤にして、プルプルしながら訴えてる姿は、例えようもないくらい愛らしくて!

今度はそれが、慈愛の笑みに変化する。


「何も求めません。

なんだったら、利用してくれて構いません。

だから……

恋人として、蓮斗さんを支えさせてもらえませんか?」


 ズルいよ、奈々ちゃん。

なんだか弱ってる時に、キミみたいなコから手を差し伸べられたら……

その手を引き寄せたくなる。


 不可抗力に、その天使を抱きしめた。


「僕も恋人として、奈々ちゃんを守らせてもらえるかな」


 ズルいのは僕だ。

だけどさ……

甘えだけじゃなく、紛らわしだけじゃなく。

そんな奈々ちゃんを守りたいと思ったんだ。





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