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元カノは、ショピングモールに隣接するスポーツ用品店で働いてて。
営業職の僕と違って、土日祝日は基本仕事だ。
恐らく今日は遅番なんだろう。
僕の家と、一人暮らしの元カノの家は近いけど。
その職場まではちょっと遠くて……
送ってたら、映画の上映時間に間に合わない。
公開終了間近のその映画は、昼に1度の上映しかしてなくて。
延期するより他はない。
とはいえ、今カノの沈んだ声のトーンに……
罪悪感がのしかかる。
ああなんだか色々と、自業自得だけどめんどくさい……
元カノは無事に、職場まで送り届けたものの。
「ごめん……
やっぱり、怒ってる?」
後で合流した今カノは、さっきの声と同様沈んでる。
「……ううん。
ただ、ね?
あの映画、明日までだから……
けど明日は私も用事があるし」
「あぁ、ごめん!
うわ、どーしよう……
じゃあさっ、他の映画じゃダメかなっ?
今日の映画はDVDで見るとして、第二候補でも見に行かないっ?
お詫びに、帰りに買い物でもして、欲しい物があればプレゼントするよっ」
「……ありがとう。
けどその前にさ……
携帯、見せてくれるかな?」
「っ携帯!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「えっ…と、なんで?」
「見たいから。
それとも、やましい事があって見せられない?」
「いや……
やましい事は、ないよ。
ちょっと待って」
運転中だった僕は、信号で止まるまで待たせて。
打開策を考える……
なんて間もなく、訪れたそのタイミング。
覚悟を決めて、ロック解除した携帯を差し出した。
画面を見つめる彼女は、なんだか怖く見えて……
不安を募らせながら、青信号を迎えて走り出すと。
「嘘つき」
冷やかなひと言が突き刺さる。
やましい事はなくても、嘘を吐いたのは事実で……
「呼び出したのは上司じゃなくて、元カノさんじゃない!」
そう責められても仕方ない。
いつもは念のため、履歴とかは消すんだけど。
元カノに振り回されてバタバタしてたから、そのままになってた。
「ごめん……
ちょっとトラブってたから、助けざるを得なくて。
嘘をついたのも、余計な心配をかけたくなかったからなんだ」
「……もういいよ」
え、そんなアッサリ許してくれるんだっ?
そう思ったのも束の間。
「私達、別れよう?」
「えっ、ええっ!?
ちょっと待ってよっ、そんなアッサリ」
「だって普通!
彼女との約束より元カノの呼び出しを優先するっ!?」
「だからそれはっ」
「言い訳はいいよ!
そんなに元カノさんが大事なら、一生振り回されてばっ?」
「っ、だから!
そんなんじゃないんだって……」
「だったら、元カノさんと縁切れる?」
ドキリとした追究に、返す言葉を失くした。
「……ほら、ね?
おかしいと思ったんだぁ。
出会った時、こんなカッコいい人が何でフリーなんだろうって。
しかもそれを鼻に掛ける事もなく、それどころかめちゃくちゃ優しいし。
でもね?どんなにカッコよくても優しくても。
他の女の子を優先するような人、嫌だよ!
それが元カノだったりしたら尚更っ」
「……ごめん」
こんな状況、今に始まった事じゃない。
いつもそうだけど……
当然の事すぎて、覆す事なんて出来なかった。
それから、彼女に言われるまま……
Uターンして、来た道を戻ると。
到着したその家の前で。
「私の事なんて、遊びだったんでしょ?」
「っ、違うよ!」
「じゃあ本気だったって言える?」
そう訊かれてまた、言葉に詰まる。
ふう、と呆れたようにため息を吐いて、車から降りる彼女。
「そんなんじゃ、みんな蓮斗の側から離れて行っちゃうよ?
蓮斗には、空しい人生しか残らないよ。
さよなら」
胸を切りつける言葉を残して、閉められた車のドア。
確かに、本気だったとは言えない。
けど僕なりに、本気になろうとしてたんだ。
でもいつも……
こうやって悲劇は繰り返される。
もう女の子と付き合うの、やめよっかな……
結局僕は、その存在を傷つける事しか出来ないんだ。
あの、めんどくさい元カノを筆頭に。
そう、事の発端は……
僕が浮気をして、元カノを傷つけてしまったからなんだ。
それは後悔してもしきれない、まさに抹殺したい黒歴史で……
この際めんどくさい所はさて置き。
いつも明るくてパワフルで、あっけらかんとした元カノが……
その時は、ものすごく悲しそうに泣きじゃくってて。
僕は胸を、これ以上ないくらいエグられた。
そして今度は怒り出した彼女に、別れを突き付けられて。
さらにその後日、これからは友人として付き合うように命じられた。
当然僕は、好きな子とそんな関係でいるなんて耐えられなくて。
じゃあ浮気するなよってトコは置いといて、拒んだんだけど。
悪いと思ってるなら罪滅ぼしをしろと、ごもっともな意見で押し切られる羽目に。
その切り替えの早さは、一見サバサバしてるようで……
僕にとっては、実にめんどくさい。
とはいえ、その負い目があるから逆らえない。
つまりはその負い目こそが、元カノに握られてる弱味なんだ。
だからって。
この関係は他の誰かを傷つけて、新たな負い目を増やしてく。
いや、僕が彼女を作らなきゃいい話なんだけど……
でも好みの女の子から告られたら嬉しいし。
1人じゃ寂しいし。
しかも元カノだけ、次から次へと恋愛を重ねてるなんてズルい!
それに……
って、ズルくはないか。
あれだけ可愛いけりゃ、男がほっとかないだろうし。
って、いや!
みんなあの、めんどくさい中身を知らないからだ!
とにかく僕は、当分恋愛はいいや。
ー「蓮斗には空しい人生しか残らないよ」ー
そうだね……
そして、傷つけてごめん。
だから……
どうせ空しい人生なら、もう誰も傷つけないようにしたい。