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「本庄さんっ!」
ガシッとその腕を掴んで引き止めると同時、こっちを向かせると。
「えっ……」
泣いてるキミに、面喰らう。
「っ、ええっ!?
なんで泣いてんのっ?」
「っ、うっさい!
そっちこそなんで追っかけてくんのよっ!
もう2度と、蓮斗の前で泣きたくなかったのにっ……」
や、そんな事言われても……
と狼狽える。
「てかなんでいんのっ?
縁切ったイミないじゃん!
こんなとこ来てるヒマあったら、もっと奈々ちゃんとの時間大事にしなよっ」
「っ、奈々とはさっき別れたよ!」
「え……
え、別れたって、蓮斗がフったのっ?
なにそれイミわかんないんだけどっ。
てかバカなんじゃない!?あんないいコいないよっ?
だいたいっ、別れてすぐ他の女んトコに来るとか、アタマおかしんじゃない!?
なんかもっ、最っ低ぇ!」
「っ、最低だよ!
わかってるけどっ……
キミのせいでっ、もう自分が保てなくなったんだよっ!」
「はあっ!?
なに人のせーにしてるワケぇ!?」
「や、そーじゃなくてっ……
てゆうかキミこそなんでプロポーズ断ったんだよ!?
遥さんみたいないい人、そうそういないよっ?
しかもなんでOKしたなんて嘘つくんだよ!」
「も、いっぺんに聞かないでよっ!」
ああぁ、どーしてこうなるんだろう!
こんなケンカ腰になんかなりたくなかったのにっ……
そう思った矢先。
「……だって。
そーでも言わなきゃ、この関係に終止符打てないじゃんっ。
そーでも言わなきゃ!蓮斗を解放してあげられないでしょお!?」
感極まった様子で、嗚咽まじりに嘘の理由を吐露する元カノ。
「蓮斗は優しいからっ!
遥と別れたら心配して、縁切るなんて拒否するかなって思ったし。
蓮斗のせいで別れた事にしたって、責任感じて苦しむでしょお?
幸せなフリして、蓮斗を罪悪感から解放してあげるしかないじゃん!」
「別に解放なんかしなくていいよっ!
てゆうか、なんで今さらそーしようと思ったワケっ?」
「っ……
だって蓮斗っ、今回はかなり本気みたいだったしっ?
そんな蓮斗の邪魔しちゃうワケにはいかないじゃん!
しかも奈々ちゃん、すごくいいコだし……
あんないいコにヤな思いさせるワケにはいかないじゃん!
もともと蓮斗はさぁ?私の事めんどくさそーなカンジだったしっ?
プロポーズされても、どーでもよさそーに突き放されただけだったし。
もう身を引くしか……
いーかげん諦めるしかないじゃん!」
そう吐き出して、余計泣き出すキミを前に……
胸がドクンと騒ぎだす。
「めんどくさそーな態度とか、突き放した態度しちゃったのは、ごめん。
けど、諦めるの意味がわかんないんだけど……
キミは僕を許せないんだよね?
第一、先に他の人と付き合い始めたのは、キミだよね?」
「そーだよっ、許せなかったんだもん!
蓮斗のコト、すごくすごく、ほんとに大好きだったのにっ……
蓮斗といると楽しくて、めちゃくちゃ居ごこちよかったし。
心を思いっきり許してたから!甘えられたしっ……
完っ全に信じてたのにっ!」
胸が、キミの涙とその言葉で……
当時の、例えようもない激しい痛みをぶり返す。
「だからなおさら許せなかった!
なのにそれでも大好きでっ……
好きで好きで、離れらんなくて!
せめて友達として、縛り付けておきたかった……
だけど苦しくてっ!
私も違う人と関係を持てば、許せるかなって思ったし。
もういっそ、蓮斗の事なんか忘れてしまいたかったっ……」
わかるよ、その気持ち……
そしてほんとはキミが誰よりも、この未練感情に振り回されて。
辛くて、きっとめんどくさい思いをしてたんだね……
「っっ、ごめん……
本当に、ごめんっ」
「っ、ごめんじゃすまないって!
おかげでこっちは、誰と付き合っても忘れらんなかったってゆーのに」
え、それって……
ー「心に居座ってる人がいて、きっと一生出て行かないからって」ー
遥さんから聞いた言葉が頭をよぎる。
「けど遥と出会って、やっと蓮斗のコト忘れられると思ったの」
再び騒ぎ始めた胸が、いったんそれで沈められる。
じゃあなんで断ったの!?
「なのに、いざプロポーズされるとさっ?
OKしたら、蓮斗との未来はなくなるんだなって。
そんなのヤだ!って思っちゃって……
結局私はさぁっ?
蓮斗を忘れる事なんか、出来ないんだって思い知らされてっ……
蓮斗じゃなきゃ幸せじゃないって、わかっちゃったんだもんっ」
そう言ってまた、わんわん泣き出す姿を前に……
ちょっと待って!
さっきから胸を締め付ける言動があふれまくってて……
切なさで息が詰まる。
もう、抱きしめずにはいられなかった。
「ちょっ……
っ、なに蓮斗っ、離してよっ!」
「今度は僕の番!
ちゃんと聞いて?」
腕の中で抵抗するキミをなだめると。
「……ヤだ、聞きたくない。
聞かなくてもわかってるしっ」
えええっ、そーくる!?
てゆうか、なにがわかってるゆーの!?
「頼むから聞いてよ!」
腕を解いて肩を掴むと、仕切り直してキミを見つめた。
「改めて、傷つけてごめん。
それから……
ずっとそんな思いをさせて、ごめん。
本当に悪いと思ってたから……
キミが許してくれるまでは、やり直そうなんて都合のいい事言えなかったし、そんなアプローチも出来なかった。
けど、それじゃダメだって気づいたんだ。
本当に悪いと思ってるから、そのぶん何倍も幸せにする。
だから……
もう一回やり直そう!」
「っっ、ほらやっぱり……
そんな優しさいらないからっ!」
「ええっ!?
なんでそーなるワケっ?」
渾身の告白だったのに!
キミはなかなか、一筋縄にはいかないキーパーだね……
いや、わかってた事だけど。
「あーもなんでゆっちゃったんだろ!
ごめん、涙も気持ちもあふれて、止めらんなかった……
蓮斗はさっ?ちょっとしたトラブルとか相談ならともかく、私が泣いたらどんなに嫌でもその内容を断んないじゃん?
さんざん泣きじゃくった後で頼んだから、あんな不毛な関係続けてくれたワケだし」
「いやそーゆうワケじゃ」
てゆうか頼んだってゆうより、命令だったような……
「今までフラれて来たのだって、私のせいじゃないかって事くらい気づいてる。
なのにそれでもムリして……
だからもう2度と、蓮斗の前で泣きたくなんかなかったのに!
もう切なくてたまんなくてっ……
そしたらやっぱり、また私の気持ちを優先して……」
そんなふうに思ってたんだ……
まったくキミは、なんて不器用にいじらしいんだろう。
ー「肝心な時だと、嫌でも断れないじゃん?」ー
インフルで寝込んでた時の言葉が頭に浮かぶ。