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元カノがめんどくさい  作者: よつば猫
アディショナルタイム
15/18

 ショックは今だけ、寂しいのは最初だけ。

そう思ってた……


「……蓮斗さん。

あの、蓮斗さん?」


「えっ?

あ、ごめん。なんだっけ?」


「……いえ、大丈夫ですか?」


 最近の僕は、こんな状態が多くて……

それでも奈々は、怒るどころか心配する。

そんな奈々を大事にしたいのに……


 元カノとさよならしてから、2ヶ月。

日々追うごとに、その実感が押し寄せて……

寂しさや辛さは増すばかり。


 エネルギーはもう底をつきそうで、まるでガス欠間近の車みたいだ。

元カノじゃあるまいし。

あぁ、余計な事思い出した!


 どうしよう、苦しくてたまらない……

もう、限界だと思った。



「ごめん、奈々……

っ、別れてほしいんだっ……」


 今の僕は、奈々を大事になんて出来ない。

いやたぶん、これからも。

こんな僕に、これ以上付き合わせるわけにはいかないし。

僕自身、誰かといる余裕なんかなかった。


「……わかりましたっ。いいですよ?」

あまりにもアッサリした返事に。


 泣かせてしまうだろうと懸念してた僕は、少しだけ拍子抜けすると。


「その代わり。

自分の気持ちに、素直になって下さい」

思わぬ要求。


「え……?」


「蓮斗さんの事が好きだから……

その心が誰に向いてるのか、わかっちゃいますっ」


 ドキリとしてすぐ、鍋パーティーが浮かんで……

誘った事に、今さら申し訳ない気持ちが押し寄せる。


「それに……

気付いてました?

蓮斗さん、1度も好きだって言ってくれませんでしたよっ?」


 うん、そうだね……

今までの彼女には言えたけど。

奈々の事は、ほんとに大事にしたいと思ってたからこそ。

そんな本気じゃない"好き"なんか、軽々しく口に出来なかった。


「……ごめん」


「謝らないで下さいっ。

もともと私が、半ば強引に付き合ってもらったんですから。

何より。

私なりに精一杯頑張ったので、後悔はしてません。

やれるだけやったら、後悔なんてしないと思いませんかっ?」


 罪悪感でいっぱいの僕を……

天使の声がそう救う。


「だから蓮斗さんも……

後悔しないよう、素直な気持ちを伝えてみて下さい」


 本当に奈々は、どこまでいい子なんだろう……

だけど僕は、苦笑いしか返せない。


 僕の想いを後押ししてくれる奈々の気持ちはありがたいし。

そのアドバイスも理にかなってるかもしれないけど。


 僕のケースで素直な気持ちをぶつけるのは、自己満足でしかなくて。

黒歴史を刻んだ僕の悪足掻きなんか、遥さんとの人生を選んだ元カノの気持ちに水を差すだけだ。


 そんな心中を察したかのように。


「相手の状況を考えるのは、わかりますが……

大切に思うからこそ、きちんと本音を伝えるべきだと思います。

それとも蓮斗さんは、負けてる試合を諦める人ですか?」


 突然そう聞かれて、戸惑う僕に……

奈々の言葉はさらに続く。


「前に、私の高校がサッカーの選手権で、地区優勝した事を話しましたよね?

その時の試合、こっちが主導権を握っていたにもかかわらず。

1-2で負けてる状態で、後半の40分が終了したんです。


アディショナルタイムは5分でしたが……

相手チームはずっと無失点で勝ち上がって来た、ものすごく守備が堅いチームだったので。

その5分で逆転するのは、かなり厳しすぎる状況でした。


なのに、誰もが諦めず。

残り3分で同点に追い付いて。

さらには土壇場で、PKを奪取して。

それが見事決まったと同時、試合終了のホイッスルが鳴ったんです。

もう、ほんとに本当に感動して……

諦めないって、こんなに素晴らしいんだなって」


 わかるよ……

サッカーをやってれば、いやそれに限らずだろうけど。

僕だって、似たような奇跡を味わって来た。


……ああ、何やってんだ!

そうやって僕は、諦めずに戦って来たはずなのに……


 つまりは。

僕と元カノは、まだ終わってなくて。

追加時間が残されてるなら……

いや、残されてるって信じて。

最後の1秒まで足掻くしかないんだ!


「ありがとうっ、奈々……」

やれるだけ、めいっぱい戦ってみるよ。


「いいえ、こちらこそですっ……

私だって、蓮斗さんの優しさには沢山救われて来ました。

なので、少しでも恩返し出来て良かったです。

ほらっ、善は急げですよっ?

私も前に向かって頑張るので、蓮斗さんも頑張って下さいねっ」


 まったく奈々は……

最後まで本当に、どこまでも天使だ。


 僕の気持ちに気づいてたくせに、いつも優しく寄り添ってくれて。

僕はそんな奈々を守るどころか、何ひとつしてあげられなかったのに……

挙句、恩返しだなんて。

傷付いてるはずの奈々が、傷付けた僕を応援してくれるなんてっ……



 そうして、そんな天使が去って行く車を……

込み上げる謝意で、胸を詰まらせながら見送った。



 奈々の優しさを無駄にしないためにも。

最後の最後まで、諦めずに頑張るよ。


 さっそく僕は、逸る気持ちに押されながら電話を手にした。

だけど掛けた相手は仕事中なのか、繋がらない。


 こうしてる間にも、アディショナルタイムは減ってるワケで……

僕はすぐさま、元カノが働くスポーツ用品店に向かって車を走らせた。



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