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元カノがめんどくさい  作者: よつば猫
任務終了
14/18


「さっむい!いつまで待たせんのっ!」


「ごめん!教授に捕まっちゃって」


「もうっ!身体の芯まで冷え切っちゃったじゃん!」


「だからごめんてっ……」


「ごめんじゃあったまんないし!

今すぐどーにかしてよっ!」


 それは僕の上着を貸せって事?

いやキミなら無理やり奪うよね。

そんな回りくどい言い方するって事は……

抱きしめて欲しいとかかな?

素直にあっためてって言えば可愛いのに。


「ごめん……」

再度謝りながら、抱きしめる。


「ちょっ、こんなとこでやめてよ!」


 え、違った!?それとも照れ隠し!?


「ちょっとだけ」

とりあえず続行してみると。


「……ちょっとじゃ、ヤダ」


 ってなにその可愛いさ!!ズルいでしょ!

なんで急に素直になるかなっ。

キミはどっかの小悪魔星から来たツンデレ女王なの!?


 僕にぎゅっとしがみついてる司沙が……

ああ、愛しくてたまらない。




「なにニヤついてんの?」


「えっ……

いやなんか、いろいろ思い出して……」


「……気持ちわるっ」


 あの、僕の幸せな余韻を返して下さい……


 だけど実際。

あの頃の場所には、こうなふうにいつだって戻れるのに。

あの頃の時間には、当たり前にどうやったって戻れなくて。


 幸せな思い出は、時として牙をむくから……

笑い飛ばしでもしなきゃやり切れない。

なんて切なくなりながら、遠ざかる楠を見送った。



「あ、ねぇこのゼミ室。

ここで蓮斗が告って来たんだよね~」


「いや、先に告って来たのはキミだよね……」


 なんでキミの都合がいいように記憶が塗り替えられてるわけ?


「そーだっけ?」

なんて笑い飛ばしたかと思ったら。


「ねぇ、蓮斗。

私、蓮斗の事が……

好きみたい」


 突然の再現に、心臓が止まる。


 しかも僕を見つめるキミの目は、どこか思いつめてるようで……

胸がものすごい力で締め付けられて、動揺する。


「そしたら蓮斗も、うん僕もって……

あ~ウケる」


「や、ウケないでっ!?」


 てゆうか僕のドキドキを返して下さい!!


「懐かしいなぁ」


 そんな僕にはお構いなしで浸るキミ。


「ん……

懐かしいね……」


「なんか、ほーんと懐かしい……

黒歴史」


 え、告白ごと黒歴史なのっ!?

それはあんまりでしょ!

キミらしい発言とはいえ、思わず耳を疑ったよ。


「ゆーよね、本庄さん」


「そーなったのは誰のせいだと思ってんのよ」


 はい、すみません……

そう反省はしたものの。


「ねぇ、最後のデートなんだから楽しもうよ?」


「楽しむぅ?

じゃあ蓮斗のおごりで学食食べ放題ね~。

あ~、なに食べよっかなぁ~!

名物カレーとたらこパスタは外せないでしょおっ?」


 いいけどさ……

どんだけ食べる気なの?



 その結果。


「もう苦しっ……

このパンケーキあげる」


 だからもっと計画的にたのもうよ!


「いや、僕だってけっこーヤバいからねっ?

いつもたのみ過ぎなんだって」


 思わず、いつもだなんて……

そうあの頃は、こんな事が多かったっけ。


 この景色と重なる思い出達は、まるで昨日の事みたいに身近に感じるのに……

現実のキミは、もう手が届かない人になる。



 そうして、さよならのデートは終わりを迎え……

キミを家まで送り届ける、最後のつとめ。


 着いたら、この腐れ縁も終了する。

いや、やっと解放されるなのかな?


 なのに。

今世界が崩壊して、この道が断裂しちゃえばいいなんて…。

僕の頭の方が崩壊してる。



「……着いたよ」


「うん……

あっ、そーだ!

このアパートさぁ、来月いっぱいで引き払うんだよねっ」


「え、そーなんだっ?」


「ん、だからさっ。

寂しくなって会いに来ても、ムダだからねっ?」


「……しないよそんな事」

なんて応えながらも。


 偶然とゆう希望まで奪われた気がして、やるせなかった。


「それで?

キミは遥さんと暮らすの?」


「えっ?あぁ~、そうそうっ!

同棲始めてだから緊張しちゃうよね~」


「キミが?」


「どーゆーイミよ!」


 僕らは、最後までこんな調子で。



「……じゃあね、蓮斗。

奈々ちゃんの事、大事にしなよ?」


「うん……

キミも、遥さんと仲良くね」


 ニコリと頷いたキミは、ためらいもせずに車から降りて。

目の前のアパートに向かって歩き出す。


 僕は、その後ろ姿をただ見つめた。


 見送るように見つめた。

見守るように見つめ続けた。

そして、記憶に焼き付けるように見つめて。

念じるように見つめ……


 かけたその時。

キミが振り向いて、ドキリと心臓が跳ね上がる。


「蓮斗ぉっ!

っっ、今までありがとうっ……!」


 今にも泣きそうな笑顔でそうゆうから。

僕まで目頭が熱くなって、何かが込み上げて来て。


「んっ、幸せに……」

そんな言葉しか返せなかった。



 キミが見えなくなって、ぽっかり空いたような空間を前に……

僕の心まで、ぽっかり穴が空いたような気がした。





 キミともう会えない。

夜中に電話がかかってくる事もなければ、くだらない話を聞かされる事もない。


 めんどくさいトラブルに振り回される事もなければ、料理を作らされる事も。

文句や小言をぶつけられる事も、もう何も……


 もう、会えないんだ!



 元カノが僕の日常からいなくなって……

僕の世界はやけに味気なくて、つまらないものへと変わった。


 本当は、わかってるんだ。

ずっと目を背けて来たけど……

キミに握られてる弱みは、浮気したってゆう負い目だけじゃなく。

この心ごと、ぎゅうと握られてたんだって。


 それは、まだキミが好きだってゆう……

未練でぎっしりの心。


 だから、断固拒否する事も出来たのに……

セカンドチャンスを期待して。

せめてキミの近くにいたくて。

辛くて抜け出したくても、友達を続けて来たんだ。


 だけどそれが終わって……

僕はこんなにも、キミなしじゃいられなくて。

それをこの状況で、やっと思い知らされるなんて!



 僕がキミを幸せにしたかった……

でもキミを裏切った僕は、傷付けた分際で悪足掻きなんか出来なかったし。

僕たちはもう、別々の道にそれぞれの人と歩いてる。


 だからせめて、遠くからキミの幸せを祈ってるよ。





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