1
それから、1ヶ月ほど経ったある日。
元カノから大事な話があると、近くのカフェに呼び出された。
まぁ6割方の話に大事な話なんて名目がつけられてるから、今回もいつもの如くただの相談話だろうし。
カフェに呼び出されるのは珍しいけど、奈々とか遥さんへの配慮なんだろうと。
深く気にもとめずに、その場を迎えた僕は……
とてつもない衝撃で、思考回路を引き千切られる。
「生まれて初めてされちゃったんだよね……
プロポーズ」
それは、昨日のデート話から始まって。
どこに行っただの、何を食べただの。
クリスマス用のイルミネーションがヤバかったとか、寒くてどーだったとか……
そんな話がダラダラ続いてた矢先に、突然落とされたインパルス。
浮かれた様子で、その時の状況やら心境やらを語ってるみたいだけど……
ごめん、頭に入らない。
なんて状態が、そんなに許されるはずもなく。
「ちょっと、聞いてる!?
てか、なにその無反応」
「っ、いや……
遥さん、ずいぶん勇気ある行動するなって」
「っ、はあっ!?どーゆー意味よ!
いくならんでも酷くなぁい!?」
「や、だってさ。
キミらまだ3ヶ月くらいしか付き合ってないでしょ。
それで結婚なんて……
ちょっと、考えられないよ」
「それはさぁ……
蓮斗のせいってゆーか、おかげってゆーかぁ?」
「は?」
なんでキミらのプロポーズ事情に僕を持ち出すワケ?
なんて八つ当たりのようにイラつくと。
「だからっ、蓮斗が遥にカミングアウトしたでしょおっ?
運命の人だって。
実はねぇっ?遥も私にそう思ってたんだって。
それで、善は急げってゆーの?
テンション上がっちゃったみたいでさっ」
僕は……
自分の発言を、今ほど後悔した事はない。
「ねぇ、蓮斗はっ……どう思う?」
「どうって……
そんな人生決める大事な事、僕に聞かないでよっ」
そんな嬉しそうに話されて……
僕が平気だとでも思ってる!?
「仮にっ!」
僕が引き止めたら断ってくれるの!?
むしろ僕がっ……
ああっ、なに考えてんだろ!
「……仮になに?」
「や、仮に……
誰かの意見に惑わされたら、後悔してもしきれないよ?
決めるのはキミだよ。
キミが幸せだと思うかどうか……
何度でも、自分の心に聞くしかないよ」
僕のやましい意見なんかに、惑わされないように……
「……そだね」
キミは少し悲しそうにうつむいた。
突き放した言い方して、ごめん。
けどそんな顔しないでよ。
もうやり切れなくなる……
だからって僕は、キミの結婚を後押しする事なんて出来ないんだよ!
そして、終わりは突然やってくる。
四苦八苦してる時には来ないクセに……
的を得た所で、今さらのように。
数日後、再び僕は元カノに呼び出された。
それはきっとプロポーズの結果報告で……
キミがどんな決断をするのか、この数日間気が気じゃかった。
「ごめんね、土曜日に」
「いいけど、キミこそ仕事は?」
「あぁ~、シフト代わりたいってコがいてさっ。
それより蓮斗、デートしないっ?」
「っ、はあ?
いや意味がわからないんだけど」
てゆうかそれで呼び出したのっ?
いやそれ以前に、プロポーズされてる状況で他の男とデートとかおかしいでしょ!
「いーじゃん!
これで、最後だから……」
「っ、最後?」
とたん、得体のしれない焦燥感に襲われる。
「ん……
プロポーズの返事、OKしたんだよねっ!」
ある程度、予想はしてたけど……
それは痛みで思考停止とゆう現実逃避も出来ないくらい、僕の心を握り潰した。
「いろいろ考えたんだけどさっ。
なんか遥にはねっ?甘えられるってゆーか、さらけ出せるってゆーか……
そんな人、蓮斗以外で初めてなんだよねっ。
この人となら幸せになれるかなぁ、なんて」
そうか……
キミのそのめんどくささや奔放さは、心を許してくれてた証拠だったのに。
ああ、浮気なんかするんじゃなかった!
そしたら今頃、僕がキミと……
「でねっ?
結婚するのに、もう過去の恋愛の罪滅ぼしもなにもないじゃん?
だからっ……
蓮斗は任務終了っ!
この関係は今日限りで終わりにしよっ?
友達はもちろん、会うのも最後で」
キミは僕の心をどれだけズタズタに引きずり回せば気がすむんだよ……
いや、元はといえば僕が悪いんだけど!
そんなのわかってるけどっ……
友達を拒んだ僕に、無理やりそれをさせて来て。
そんな関係も悪くないと思った矢先、今度はそれをやめようとゆう。
キミはなんて勝手で……
最後まで本当に、めんどくさい。
「だってこんな関係、よくないじゃん?
なんだかんだ、遥や奈々ちゃんにヤな思いさせちゃうし……」
今さら?
そんなの今回に限った事じゃないし、今まで散々そうして来たよね?
でも、それでも!
僕らは離れられないんだと思ってた。
キミが腐れ縁って言ってたように。
だけど、キミが終わりを望むなら……
「……いいよ。
しよっか、最後の……
さよならのデート」
そうして、デート先は……
元カノのリクエストで、僕らが通ってた大学を訪れた。
「うわ、懐かしっ!
卒業以来だから、2年ぶりくらいっ!?」
まぁ、1年9ヶ月ぶりかな。
また細かいって言われそうだけど……
「最後なのに、こんなとこでよかったの?」
「はあ!?2人の思い出の場所じゃぁん!
ここで始まってここで終わる。
最後にふさわしくなぁい!?」
「まぁ、そーだけどさ……
ここでなにすんの?」
「なにって、中入ろーよ!
でさっ?紛れ込めそーな講義があったら受けちゃわないっ?」
ええっ!それはめんどくさいかも……
だけど運良く?さらには土曜って事も手伝って、
紛れ込めそうな講義はなくて。
元カノには悪いけど、ほっと胸を撫で下ろす。
「あっ、この教室!
ね、覚えてるっ?
ここでよくキスしたよねぇ~」
サラッとゆーね……
それはみんなの目を盗んでされた、不意打ちのキス。
「あれにはまいったよ」
「はあっ!?蓮斗喜んでたじゃん!」
「いや嬉しかったけど、どー考えたって恥ずかしいでしょ!」
そんな僕を、キミはケラケラと笑い飛ばす。
「蓮斗が居眠りばっかしてるからじゃん!
こっちは眠気覚ましてあげたってのにっ。
てか眠かったよね~!特に現代倫理のおじいちゃん!
講義がひとり言みたいでさっ」
「そうそう、つぶやき佐藤だっけ?」
「そおっ!呼んでた呼んでたっ!」
こんなとこで、なんて思ったけど……
そーやって楽しそうにはしゃいでるキミが見れて、よかったよ。
それから、次の棟に移動中……
中庭にある楠が、視線を奪う。
キミが待ち合わせにハマってた時、よくその木の下で待ち合わせてたっけ。
「それにしても今日、寒くなぁい!?」
「……うん。
体の芯にくるよね」
そう、ちょうど……
こんな寒い頃だった。