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元カノがめんどくさい  作者: よつば猫
平行線
12/18

「奈々、飲んでる?」

意外にもお酒が強いほうな彼女に、そうビール瓶を傾けると。


「あっ、いえ私はっ、ゆっくりで……

おなかがいっぱいになると、なんだか入らなくてっ」


「じゃあ焼酎に変える?

僕もこのあとそうするつもりだし」


「あ、はいっ。

じゃあ、これを飲んでから変えますっ」


と、ぬるくなって更に飲みにくくなったビールとにらめっこ。


「無理しなくていいよっ。

すぐ作るから、それ僕にちょうだい?

あ、芋がいい?麦がいい?」


 そうやって、奈々がチョイスした麦の水割りを作ってると……

ガブガブ飲み始めた元カノを前に、口を出さずにはいられなくなる。


「てゆうか本庄さんはあんま強くないんだから、ペース考えなよ」


「っ、うっさいなぁ!

楽しく飲んでんだから小姑みたいな事言わないでよっ……

ねぇ〜?奈々ちゃんっ」


 はいはい、余計なお世話でしたねっ。


「でもなんか、いいコンビって感じですっ」

そんな僕らを奈々がフォロー。


「まぁ、くされ縁ってゆーの?

今さら気づかう仲でもないだけぇ?」


 腐れ縁なの!?

てゆうか、僕の方は大いに気遣ってるけどね……


「てか知ってたぁ?

蓮斗、奈々ちゃんのコト天使って呼んでるからねっ」なんて。


 いきなりなカミングアウトをぶち込んで、キャハハと笑う……


「本庄さんっ!!」

なに言っちゃってくれてんのっ!


「うんうん、(俺らの間で)有名な話だよなっ」


「遥さんまでっ!」

ああもうっ、2人揃ってめんどくさい!


「(ある意味)最強コンビですね……」

棒読みで、2人に冷めた視線を投げかけた。


「ほんとか!?蓮斗君!

でっ、でっ?

司沙は俺の事なんて言ってるっ?」


 ええっ、そう来るっ!?

しかも当事者から、変な事言うなと言わんばかりの視線を浴びながら……


「えっ、と……運命の人?」

口にした、自分の言葉で胸がやられる。


「なっにィ~!!

ほんとか!?司沙っ。

嬉しいぞ俺はっ!」

と、喜びのあまりその人を抱きしめる遥さん。


 いやっ、僕の目の前で勘弁して下さい!!

なんて、思う資格もないんだけど……


 ああ、胸が痛い。

胸が痛くてたまらない……



 そして今、痛手の根源なその人と少しだけ2人きり。

奈々がトイレに行ったのと同時、上司から電話が入った遥さんまで席を外した。


 このわずかな時間を無駄にしたくない気がするのに。

なんでか何も言えなくて、むしろ言える事なんかなくて……

ただ沈黙。

を、先に破ったのは本庄さん。


「奈々ちゃんて、いいコだね。

だいたいあの手のタイプはさぁ、実は腹黒なんて場合が多いんだけど。

あのコは本物だよ、ほんとにいいコ」


 ひとりごとみたいに呟くその人は……

微笑んでるのに、どこか寂しそうに見えた。


「……うん。

てゆうかそっちこそ、遥さんすごくいい人じゃん」


「とーぜんっ。

だって私の彼氏だよっ?

サイアクだったのは大学時代に2年付き合った人だけでーす」


「っ、今それゆっちゃう!?」


「別にいーじゃん。今ゆっちゃいけない法律でもあるワケぇ?

あっ、もしかして時効だと思ってるぅ!?」


「そうじゃないけどっ……ごめん」


「キャハハ!

冗~談!もぉいーよっ」


「え、なにがっ?どこがっ!?」

めんどくさっ!


「おおっ?なんだなんだぁ?

なんだか楽しそうだな~!」

そこに遥さんが戻って来て。


 後を追うようにして戻って来た奈々と、僕は目配せをすると……

持って来てた手みやげで、デザートタイムに移った。



「くぅ~!

鍋の後に食べるアイスは最高だな!」


「しかもコレっ、いろんな味が絶妙~っ!」


 遥さんと本庄さんがそう感激の声をあげたのは、高級アイスのタルトグラッセ。

アイスの美味しさもさる事ながら。

鍋パ終了のサインとして待ち望んでた事もあって、なおさら美味しい!


 この冷たさが、僕の痛手までクーリングしてくれるよう。


 そうして、みんなで「ごちそうさま!」をすると。

主催者カップルからの遠慮の声を押し切って、「少しだけ」と片付けを手伝い始めた奈々。


 そのまま本庄さんとキッチン作業に流れ込み。

僕と遥さんは半分くつろぎながら、テーブル周りを片付ける。

すると、ふいに。


「なぁ、蓮斗君。

これからも司沙と、仲良くしてやってくれな?

あいつがのびのびと楽しそうにしてるの見ると、嬉しんだ」

なんて、愛しそうに笑う遥さん。


 僕は完全にノックアウトをくらう。


 その言葉が意図するように、本庄さんが僕の前で"のびのびと楽しそうにしてる"なら……

当然不安でたまらないはずなのに。


 嬉しいだなんて、仲良くしてだなんて……

それが余裕からくるものじゃないのは、愛しそうな笑顔が物語ってて。

彼女の気持ちを1番に想う、なんて愛情深い人なんだろう……

そんな彼が、キミの選んだ運命の人。


 寂しさとか不安で浮気したような僕とは。

遥さんと楽しそうに話してたキミに、そんな資格もない立場で拗ねてた僕とは。

今日だって、自分の痛手ばっかに振り回されてた僕とは。

なんかもう世界が違いすぎて……

まさしく論外で、張り合うどころか足下にも及ばない。


 ここまで相手ならないと、もはや清々しくて。

このモヤモヤした何かも吹き飛んでくよ……


 だから、遥さんならキミを任せてもいい気がした。

なんて、上から目線で申し訳ないけど……


「はいっ。

遥さんも、本庄さんの事、」


 お願いします、と続けるつもりが……

僕が言うのは違う気もしたし、言いたくはなくて。


「っ、頑張って下さい!

けっこう、めんどくさかったりするんでっ」


 自分で言っときながら、頑張る?と思って。

その理由を言い添える。


「お、おうっ。

挫けそうになったら、フォロー頼むな?蓮斗君」


「ちょっと遥、蓮斗ぉ!?

思いっきり聞こえてるんだけどっ!」


 恐るべき地獄耳&復活した皮肉センサーさんの声に……

僕と遥さんは目を見合わして、視線を泳がす。


「ね、奈々ちゃ~ん?

蓮斗の事でヤな事とかあったらいつでも言ってねっ?

私と遥でしばいとくから!」


 いや怖いので、そんな事にならないように尽力します。


「それと遥ぁ?

挫けそうになったら私がケツ叩いてあげる」


 いや最後のセリフ、声が低すぎて怖いんですけど!

そんな僕らを、奈々はクスクス笑ってた。



 なんだかこーゆうの、悪くない。

色々と痛手もあったけど……

実は意外と楽しかったし、塩バター鍋は最高に美味しかったし。


 いんだ僕たちはこれで。

キミは元カノだけど、大切な友人で……

キミにとっての僕も、きっとそうだと思いたい。


 キミには遥さんがいて、僕は奈々を大事にして……

付かず、だけど離れず続いてく。

ある意味、永遠のパートナー。

おじいちゃんとおばあちゃんになっても、いい茶飲み友達になってそう。


 そんな平行線なら、悪くないかも。





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