表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元カノがめんどくさい  作者: よつば猫
平行線
10/18

 危なかった……

病人に、しかも人の彼女に、さらには僕にも彼女がいるのに。


 ああっ、どうかしてる!

なんでこんな気持ちになるんだよっ。


 切なくて、だけど嬉しくて……

いっそ過ちへ突き進みそうになった自分に、脱力しながら玄関へと向かう。


 鍵は、閉めた後ドアポストに入れとけばいいかな?

それは付き合ってた時によくやってた方法で、2人の暗黙のルールだった。


 ま、僕は合鍵を渡してたけどね……

ドッときた疲れにため息を吐きながら、脱出を図ってドアを開けると。


「うわ、びっくりしたっ」

思わず、驚きの声をあげてしまった。


 そこには、チャイムを押そうとしてた背の高い男性がいて。

僕同様、いや僕以上に驚いた顔をして。

部屋番表示と僕を交互に見合わせながら、動揺を滲ませた。


 瞬時に、嫌な緊張感が走った。

そんな反応は、その人が例の遥さんなんじゃないかって予測をさせて……

だとしたらこの状況は、元カノの立場をかなり悪くする。

誰が見たって、彼氏が出張中に他の男を連れ込んでる状態なんだから。


 ヤバい、迂闊だった!

どーしようっ……

いや、やましい事なんて何もないんだから堂々としてなきゃ!


「あの……

もしかして本庄さんの、彼氏さんですか?」


「うん、そうだけど……君は?」


 やっぱりか!

予測通りとはいえ、その肯定に胸がけっこうな衝撃を食らう。


「っ、僕は本庄さんの大学時代からの友人で、今日は、」

と釈明の途中で。


「遥ぁ?」

起きてたのか起こされたのか、 部屋の奥から聞こえた元カノの呼びかけに遮られる。


「司沙ぁ!?

おーい、大丈夫か~!?」

すぐさま、そう返事をする遥さん。


 この状況に対しての疑惑よりも、彼女の心配……

いい人だなと、胸が痛んだ。


「なんとかね~。

てか、帰ってくんの明日じゃなかったっけ?」

言いながら、こっちに出てきた元カノ。


「明日だったよ?

いや、司沙が心配でさっ?

これでも超特急で終わらせて、少しでも早く帰ろうって頑張ったんだけどっ」


「え、そーだったの!?

ウソ、ありがとうっ」


「まっ、少しは元気そうでなにより!」

くしゃっと顔をほころばせて、彼女の頭をポンポンする遥さん。


 僕は思わず目を背けた。


「あっ、彼はねっ?

最近天使の彼女とラブラブ中な、私の親友でさぁ!

さっき電話があって、心配して来てくれたんだっ」


「あ、山口蓮斗です。

留守中にすみませんでした」


 振られた話に向き直して、マスクを外すと。

潔白を示すが如く、フルネームで自己紹介。


「あ~いやいや、そうだったんだな~。

むしろ逆に、司沙が世話になってすみませんっ。

助かったよ、ありがとう!」


 お礼なんて……

若干の後ろめたさと、得体の知れない不満が渦巻く。


「あ~っと、俺は須藤遥!

気軽に遥って呼んでくれ。

え~っと、大学時代からの親友って事は、2人はタメかなっ?

俺も、れんと君って呼ばせてもらっていいかなっ?」


「はい、ぜひ」

そう応えながらも。


 どこで呼ぶ気なんだろう?

今後会う機会なんて……

そう思った矢先。


「じゃあ早速、れんと君!

今日のお礼と懇親を兼ねて、今度俺んちで鍋パーティーでもやらないかっ?

その、天使の彼女?もぜひ誘って!」


 いやいやいやいや、なんて突拍子もない事を言い出すんだ遥さん!


「いえあの、お礼なんて……」


「いや司沙の親友なら、俺も仲良くしときたいし!

それに俺、鍋が大好きでさ~」


 だからって、いきなりフレンドリーすぎるでしょ!

なんとかしてよ本庄さんっ。

チラと視線を向けると、それに気付いたその人は……


「いーじゃん鍋パっ!

あ~、なんかテンション上がってインフル治って来たんだけど!」


 え、そっち!?

まさかの鍋パ賛成派!?

しかもそんな事で急にインフル治んないでしょ!


「ねねっ、キムチ鍋がいーかなっ?

それともカレー鍋がいーかなぁっ!」


「なんか辛いもんばっかだな!

やっぱそこは定番にもつ鍋とかだろ!?」


 いやあの、勝手に話を進めないで下さい……


 てゆうか、ずいぶん楽しそうだね本庄さん。

僕と話すのが楽しいとかって言ってたクセに……

だいたいキミは、僕の彼女と鍋パしてもなんとも思わないんだ?


 ああ、ヤバい。

胸が疼いてたまらない……

つい沈んだオーラを醸し出してしまうと。


「れんと君は、何か……

鍋パーティーが嫌な理由でも?」

探るように伺う遥さん。


 もしかして内心、僕と本庄さんの関係を疑ってるとか?

なんか試されてんのかな……

だとしたら。


「いえ、むしろ楽しみです。

ただ、僕の彼女は控えめなタイプなので、無理なく馴染めるかなって」


「なぁ~んだ、そんな事かぁ!

だったら大丈夫。しっかりフォローするよっ」


 ごまかしと共に、ちゃっかり奈々の居場所も確保する。



 かくして僕は……

鍋パこと山口さんの胸を痛めつけるパーティーに、自ら足を踏み入れる事に。


 この手に残る、キミの温度と感触は……

予告のように、この胸を痛めつけてた。





 そんな翌日は……


「奈々っ、会いたかった!

なんだかすごく久しぶりに会った気がするよっ」

会うなり彼女を抱きしめる。


「れ、蓮斗さんっ……

どうしたんですかっ?

昨日会わなかっただけですよっ?」

腕の中で、天使はそうクスクス笑う。


 ああ、癒やされる……

奈々だと格別に癒やされる。


「そーなんだけどさっ。

昨日は色々と、気疲れが多くて……

それで、突然なんだけど。

僕の女友達とその彼氏から、鍋パーティーに誘われちゃってさっ。

奈々の事も誘うように言われたんだけど……

どうする?」


「え、私も行っていいんですかっ?

嬉しいですっ!

ぜひ参加させて下さいっ」


 うん、そーゆうと思ったよ……

奈々なら断らないとは思ったけど、僅かに期待してた最後の砦も崩れたワケね。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ