1
深夜1時過ぎ、迷惑も顧みず鳴り出す電話。
ああ、今日も……
元カノがめんどくさい。
「もしもし蓮斗っ?
ごめん、寝てたぁ!?」
「……うん、寝てるよね?普通。
それに、僕はだいたい0時過ぎには寝るって知ってるよね?」
「だったら掛け直してこなきゃいーじゃん!
こっちだって一応、起こさないよーに3コールで切ってるんだし」
いや、そーゆう問題じゃないよね。
深夜に掛けてくる時点で非常識だし、せめてワン切りにしようよ。
「だいたいさぁ!蓮斗は寝るの早すぎなんだって。
オッサンなの~?体衰えてるんじゃなーい!?」
わざわざ掛け直したってゆうのに、なんて言われよう……
でも楯つくのは止めとこう。
そんな事したら、反撃が何倍にもなって返ってくるから。
「そーですね……
同じ23歳らしく、本庄さんのピチピチさを見習ってジムにでも通ってみるよ」
「なにその嫌味な言い方……
ちょっとの事で拗ねないでよねー。
相変わらず器ちっちゃ!」
あぁ、つい不満がにじみ出てしまった。
落ち着け自分。
とにかくこれ以上事を荒立てないようにして、早く本題に進めなきゃ。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……
それよりっ、用はなんだった?」
「あっ、そうそう!
今日ねっ?社会人サッカーのとあるチームと飲み会があってねっ?
フフっ。
ちょっと、運命的な出会いをしちゃったかもっ!」
ああ、そう……
まぁ、いつもの事だからね。
大した用じゃないとは思ってたんだけど……
これは長くなるパターンかな?
心配して掛け直したりするんじゃなかった。
「ちょっと聞いてる!?」
「聞いてるよ。
むしろ続きを待ってたんだけど」
「そっか。
それでねっ?その人、須藤遥ってゆう私らの4コ上の人なんだけどさっ。
蓮斗、聞いた事ある?」
「いや、ないよ。
いくらサッカーやってたからって、サッカーやってる人全員を知ってるワケじゃないからね?」
「そりゃあそーだろーけどさぁ。
でも男で遥って珍しいし、聞いた事くらいあれば覚えてるかなって」
別に珍しくもないと思うけど、あえて突っ込まないどこう。
「でね、でねっ?
私のほーが、司沙ってゆう男みたいな名前じゃない?
だから2人して、名前が逆だったらよかったのにねーって!
蓮斗もそう思わないっ?」
「ハハ、そーだね」
てゆうか、どーでもいい。
それどころか、そんなくだらない話を夜中に聞かされる方の身にもなって欲しい。
まぁ、基本?
女の子の話はオチがないし、男にとってはくだらない内容が多いけど。
輪を掛けてキミは、ペラペラペラペラと……
いつも本当に、楽しそうに話す。
そんな彼女、本庄司沙は……
大学時代に2年ほど付き合っていた、僕の元カノだ。
そして別れてからは、友人として付き合ってる。
そんなの別に珍しい事じゃないだろうけど……
ただ僕らの場合、少し違う気がする。
そう、言ってみれば彼女の下僕的な?
そんなんで、いいのだろうか……
いや、いいワケなくて!
だけど彼女に弱味を握られてる僕は、どーする事も出来ないんだ。
そんな翌日は……
「どうしたの?蓮斗。
今日はまた、甘えんぼさんモードだねっ」
1人暮らしの僕の部屋に来ていた今カノに、膝枕をしてもらいながら。
その身体にぎゅっと抱きつく。
「うんちょっと、疲れててさ。
あ〜、なんか癒される……」
「……もしかして、またあの元カノさんの所為?」
ドキリと、女の勘の恐ろしさに胸がおののく。
「っいや、そーじゃないよ……
単純に、今日の仕事がハードでさっ」
元カノを庇ってるワケじゃない。
ただ、関わるだけで今カノを不安にさせてしまうから、こーやって嘘をつく。
「そっかぁ。
毎日お疲れさま。
じゃあ土曜日の映画は中止して、家でゆっくり過ごそっか」
映画!?
ヤバい、すっかり忘れてた……
危ない危ない。
「なんで?行こうよ映画。
えーと、恋愛図書館だっけ?
僕も楽しみにしてたんだ」
なんて。
その日、悲劇が再来するとは思いもよらずに……
「ほんとっ?嬉しい~!
あぁ~、楽しみだなぁ〜」
そうほころぶ彼女を見上げて、僕まで気持ちをほころばせてた。
そして土曜日。
昼頃に始まる映画に合わせて、実家暮らしの今カノを迎えに行こうと。
車に乗ったところで、狙ったかのように鳴り出す電話。
めんどくさい予感が脳裏をかすめる。
「もしもし蓮斗っ!?
ごめん!今ラブラブ中っ?」
ラブラブ中って……
それは予感的中なその人、元カノなりの「彼女と一緒?」って意味で。
「いや、まだだけど……
どしたの?
またなんかトラブル?」
「そーなの!大っ変なのっ!!
実はさっ、今から仕事なんだけど車のエンジンがかからなくてさっ!
タクシーに電話したら祝日だからか捕まんなくてっ。
ねぇ蓮斗っ、送れたりするっ?」
相変わらずこの人は……
いつもドタバタ、なんらかのトラブルを起こしてる。
「わかった、今から行くよ」
そして僕は、キミの要求には逆らえない。