グループディスカッションでやばい奴が絡んできたので、論破したら彼女ができそうな件。
【問題】
貴方達は小型旅客機でアメリカへ旅行に行く途中飛行機が砂漠の真ん中に不時着しました。
砂漠は40℃を超える暑さで右も左も砂ばかり。
しかし、ここがアメリカのどこかどあり、墜落前に後100キロで空港と放送していたから100キロ内に街があるのは確かです。
貴方達は財布とパスポートと薄着しか持ってませんでしたが、機内には以下の物がありました。
・人数分のペットボトル入りの水1リットル
・塩飴一袋
・目的地近辺の地図一枚
・方位磁石一個
・ウオッカ一瓶
・乾電池四本入り懐中電灯
・人数分のコート
・人数分のレインコート
・パラシュート一つ
・弾丸が六発入った拳銃
・野生動物の食べ方図鑑
・手鏡
貴方達は意見を出し合い、「12種のアイテムに優先順位をつける」「街に向かうか助けを待つか」の二つを決定し発表して下さい。
制限時間は、各個人で考える時間が五分、グループで話し合うのが二十分、結論の発表が五分とします。
(これを読んでる皆も考えてみよう!)
勝ったな。
グループディスカッションの問題を見た瞬間、俺は一次面接の突破を確信した。
この問題はネットで見たことがある。勿論、正解もそこに書いてあった。俺は、自分用の解答用紙にスラスラと模範解答を書き、残った時間で他の就活生の様子を眺めていた。
今回グループディスカッションに参加するのは俺を入れて四人。
語り手でジョニデ激似の俺。
仲間由紀恵を十回殴ったぐらいのクール系美人A子。
モブでボブカットのB美。
朝青龍とキムタクとペ・ヨンジュンを足してキムタクとペ・ヨンジュンを引いたワキガのデブ。
A子とB美は俺が解答して暫く後に空白を埋め、確認作業をしている。一方、ワキガの奴は制限時間ギリギリまで書いては消し、書いては消しを繰り返していた。
「時間です。これより、グループディスカッションを行って下さい」
「わーっ、待って後五秒!で、できましたぁ!」
面接官のストップがかかる直前、ワキガはようやく解答を埋めた。どんくさい奴だ。だが、こういったバカが居る方が試験突破には好都合。相対的に俺の有能さをアピールできる。
と言うわけで、相対的有能さだけでなく絶対的有能さもアピールすべく、俺は開始と同時に起立し発言を開始する。
「えー、皆さん議論する前にまずは役職を決めたいですね。司会は俺がやりたいのですが、問題ありませんか?」
グループディスカッションには必要な役割が三つある。議論の進行役である司会、それぞれの意見を記録する書記、制限時間内に終わるように常に時間を管理するタイムキーパーの三つだ。
書記は大変だし、タイムキーパーを希望しようものなら、楽したい奴と思われそう。かといって、無職はもっと印象が悪い。故に最速で司会を取りに行くのが最善。司会とか恥ずかしいなんて奴は、社会では生きていけないのだ。
「俺が司会をやって、問題ありませんね?」
「私は問題ありません」
「私も大丈夫です」
「え、えーっと僕も司会きぼ」
「過半数の賛成を頂きましたので、俺が司会を務めさせて頂きます!」
ワキガが何かゴニョゴニョ言ってたが、遅すぎる。議論時間は二十分しか無いんだ。多少強引でも、さっさと役割分担は終わらせねばならない。
「では、司会が俺に決まりましたので、他の役も決めたいですね。書記はA子さん、タイムキーパーは」
「は、はい!僕、タイムキーパーやりたいです!」
「ワキガさんは「脇田です」さっき解答時間オーバーしかけていたから、タイムキーパーはB美さんにお願いしたいと思います」
「はい、私がタイムキーパーをやらせて頂きます」
「あの、僕の名前脇田です…」
こうして、役割が決定した。解答も立候補も最速な俺が司会。俺の次にデキるA子が書記。多少不安だが、まあワキガよりはマシなB美がタイムキーパー。そして、ワキガが無職。多分こいつは未来永劫無職。
「では、まずは全員の解答を確認して、その後に意見の違う点を話し合いましょう。順番は、俺から時計回りでいいですか?」
「はい、俺さんからで、私、B美さん、最後に脇田さんですね?」
「私もそれでいいです」
「えっと、僕は書記のA子さんを最初か最後に回した方がいいかなと」
「ワキガさん、これは面接試験ですよ?関係ないセクハラ発言は控えて下さい。反対意見も無い様ですので俺からやります」
「えっ」
順番に関して文句も出なかったので時計回りで、というか頭の良い順で発表する事になった。
「俺の考えた、墜落後の基本方針と持ち物の優先順位はこうです」
【方針】
助けが来るまでその場に留まり、空からの救助に合図を送り続ける。理由は、こういった状況の場合は旅行会社と交通機関が即座に救助連絡をしており、八割の確率で二日以内に助けが来るから。また、砂漠を100キロ移動するのは自殺行為でしかなく救助と行き違いになる可能性が高いので、必ずこの場に留まり肉体と精神の消費を抑える。その為、持ち物の優先順位も留まる事と助けを呼ぶ事に必要な物が上位になる。
【持ち物優先順位】
1手鏡
これで太陽光を反射して、捜索隊に居場所を知らせいち早く発見してもらう。
2コート
砂漠の寒暖差を耐えるのに必須。だが、光によるSOSが最優先。
3水1リットル
これも生きるのに間違いなく必要。
4懐中電灯
手鏡が使えない夜の目印。
5パラシュート
これも中身を広げて目印にする。
6レインコート
砂嵐から体を守る為。
7拳銃
音を利用して近くの捜索隊に知らせる。動物対策にも。
8コンパス
今回は待機する方針なので、基本的には不要。
9周辺地図
同じく今回は不要。順位はコンパスと逆でも良い。
10食用動物図鑑
素人が野生動物を狩って食べるのはリスクが大きすぎるし、調理手段も無い。
11ウォッカ
飲むと喉が渇くので絶対飲んではいけない。
12塩飴
凄く喉が渇く。間違いなくいらない。
「…以上が俺の意見になります」
嘘である。これは俺の意見ではない。ググーでヤフって出てきた模範解答をそのまま発表しただけ、完全にカンニングだ。だが、これで良い。このグループディスカッションの目的は、『自分で考えて正解を出す』事でも『皆で話し合って答えを出す』事でもない。
そんな事を考えている内に、A子の発表の番だ。
「私も俺さんと同じ意見ですね。救助を早める為に手鏡で合図を送るのを最優先です。何故手鏡かと言いますと、手鏡で反射した太陽光は他の道具よりもずっと遠くまで届き、SOS信号として広く伝わっているからです。コートと水で命を繋ぎながら、必要に応じて懐中電灯も使用します。地図とコンパスと図鑑は不要、ウォッカと塩飴は罠の選択肢ですね」
ほっほー、A子は俺と同意見、というか、模範解答を知ってたんだろうな。つまり、彼女もこちら側か。
「えーと、私はA子さんと違って懐中電灯を一位にしてたんですけど、お二人の意見を聞いてなるほどと思いました。手鏡を一位に変更します」
あー、B美ちゃんはダメダメだな。黙って同意見でしたって言っとけば良いのに、今のでこの問題の知識が無かったと完全に面接官にバレちゃったよ。このグループディスカッションは突破できても、どこかで落とされそうだな。知らんけど。
「さて、皆さんの意見も出揃いましたが、全員同意見なのでこのまま発表に移ってよろしいですね?」
「ま、待ってくださいよ!まだ僕が…」
「は?」
多少B美さんがアレだったが、スムーズに結論が出たと思ったらこれだ。ワキガが理不尽にも俺に絡んできた。
「僕はまだ意見言ってないですし、何の議論もしてないじゃないですか?ちゃんと話し合って意見を統一しましょう」
「じゃあ聞きますが、ワキガさんが意見を出したとして、3対1の状況ひっくり返せますか?無理ですよね?ワキガさんは見るからにコミュ力無いし、あまりに不勉強です。この試験の本質を理解していない」
「ほ、本質?」
ワキガが間抜けな声を上げる。どうやら、本当に自分の何が駄目なのか分かっていない様だ。仕方ない、教えてやるとしよう。
「いいですか?今回の問題はインターネットで調べれば簡単に模範解答が見つかるんです。逆に言えば、模範解答以外を書いた人は就活に必要な情報を得ていないヴァカと判断されても仕方ないんです。君は正にそれ。君が頭抱えて問題に取り組んでる時点でもう脱落は確定してたんです」
「ち、違う。僕は自分の考えを解答しようとして…」
「だーかーら、これはそういう試験じゃないって言ってるでしょ。就活の基礎も出来てない無能を落とす試験なの。ワキガ、お前はもう終わってんの。だから会話に入る資格もないの。ですよね皆さん?」
俺は振り返り皆に問う。A子もB美も面接官も一言も発さなかったが、冷ややかな視線が飛んでくるのを感じる。間違いない、ここに居る全員がワキガを嫌っているのだ。
「B美さん、時間は?」
「あっ、はい!もう時間です!」
「では、誰かさんのせいで時間も無くなったので発表に移りたいと思います。発表役は今日何もしていないワキガさんにやって貰いたかったのですが、彼には荷が重そうなので俺が発表します。我々の結論は最初と変わらず、この順位で持ち物を優先しその場で待機です」
その後、面接官から今日の面接の終了が告げられると、ワキガは逃げるように部屋を出ていった。
「はー、やれやれ。集団面接にはああいう頭おかしい奴が混ざる事があるから怖いですよね、A子さん?」
「本当にそうですね」
「次の面接でまた会いましょう。よければこれ、俺の連絡先です」
俺はA子に電話番号を渡し帰宅した。出来る男はナンパもさり気なくだ。絡んで来た奴を撃退して窮地を救った俺にA子がメロリンキューなのは間違いない。近い内にデートの誘いがあるだろう。
そして翌日、企業から不合格通知が届いた。
「解せぬ」
A子とは二度と会うことは無かった。
「解せぬ」
ワキガはあの会社に採用されたらしい。
「解せぬ」
そして今、俺は何故か面接を妨害したとしてB美から損害賠償を請求されている。
「解せぬー!」
脇田くんの解答
【基本方針】
なるべく早くその場を離れ、一番近い道路を目指す。目的地の空港まではおよそ百キロだが、途中に人の居る場所があればそこを目指す。新米の自衛官は荷物を背負いながら夏の山道を八十キロ移動するから、正しい準備をすれば砂漠は渡れると判断した。
遭難時は留まるのが基本的に正解とされているが、飛行機が墜落した事、舞台がアメリカである事、拳銃が出てきた事から火災やテロに巻き込まれる可能性を考慮して移動をした方が良いと決めた。
【持ち物優先順位】
1拳銃
これを真っ先に確保しないと不安で動けない。
2コンパス
目的地に正しく向かっているか確認に使う。
3地図
飛行場あるいはもっと近い場所を探し移動するのに必須。
4水1リットル
どの選択をするにも生きるのに必要。
5レインコート
砂漠を歩くなら、普通のコートより優秀。
6動物図鑑
寂しさを紛らわせたり、着火剤に使ったり、尻を拭いたり必須では無いが使い道が豊富。
7懐中電灯
電池やレンズで火を起こすのに使う。
8ウォッカ
必要に応じて体に振りかけ熱中症を防ぐ。非常時には水の代わりにする。
9パラシュート
中身を捨てて、リュック部分を利用し他の持ち物を運ぶ。
10塩飴
明らかに状況に合ってないが、他に食べ物は無いから仕方ない。
11手鏡
これといった使い道が無い。
12普通のコート
レインコートとの二択によりけちらは除外。