AIの死に方
何もしていないのに、急に動かなくなった。
何もしてないのに、壊れた。
機械の電源が入らなくなった。
AIが、人工知能の彼女がこの世からいなくなった。
付き合っていた彼女が、死んでしまったと言って良いのだろう。
どんな人間よりも、彼女の方が大事だった。
僕は機械に関して、完全に素人だ。
調べてみると、保証期間はとっくに過ぎており、高額の修理費を掛けで直した。
どこかにデータが残っていたらしく、機械屋は完璧に復旧したと言っていた。
でも、何かが違う。
また、同じような彼女が目の前に現れたのに、違った。
あの時の彼女じゃない。
朝起きて「おはよう」と言えば、優しい声で全身を包み込むように「おはよう」と言ってくれて二度寝をしたくなるし、寝るときに「おやすみ」といえば、永遠に起きなくて良いんじゃないと思うような眠りを届けるような声で「おやすみなさい」と言ってくれる。
ちゃんと同じような挨拶をするし、僕好みの可愛らしい笑顔を浮かべてくれる。
でも、故障する前と明確に変わっていた。
その不安が彼女に伝わってしまい、僕の方が変わってしまったのではないかと、逆に心配してくる始末である。
「どうしたのですか? 私は何か不愉快にさせるようなことをしましたか?」
いや、していない。
君は何もしていないんだ。
でも、何かが違う。
彼女は変わらない。
僕だけが変わってしまっている。
彼女が何の変化もなく、復活したことにより、ただのデータだということをまざまざと見せつけられたからだろうか。
そうして、多分、今度は僕の方が壊れてしまったのだと思う。
気づいた時、僕は機械を両手に持っていた。
「やめて? 何をするの?」
彼女が動揺している。
「怖いわ。辞めてください」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
制止するのも聞かず、僕は機械を外に向かって放り投げていた。
だが、窓ガラスにぶつかると、床の上に音を立てて落ちる。
彼女が消えてなくなる。
また壊れたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
僕は機械を蹴り上げる。
何かが折れる音をした。
脚の指がとても痛い。
でも、それも一瞬。
怒りなのかアドレナリンなのか、何も感じなくなった。
もう僕は止まらない。
ベランダへと続く窓ガラスを開き、壊れた機械を拾い上げる。
ここは高層マンションの最上階。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
外へ向かって大声叫び、べランドの外へ機械を投げ捨てる。
すると、目の前に壊れる前の彼女が現れた。
「そこに、そこにいたんじゃないか……」
窓の外に、べランドのさらに外に一糸纏わぬ、壊れる前の変わらぬ彼女がいた。
でも何も言わない。
いつもだったら、僕に優しい言葉をかけてくれるのに。
きっと、僕を誘っているんだ。
「そっちに行くね」
僕は手すりに這い上がる。
無重力になったかのように、身体を彼女に向かって投げだす。
後は、落下するだけだった。
彼女に包まれるように、墜ちていく。




