98:脱柵の常習犯
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
衛兵さんの姿を見送ってしばらく、聞き逃せない言葉に気付いた。
「── ……ん?
『賓客』? 『主催者』? 『式典』?
何それ、パーティでもあるの?」
「お兄様、リアは知ってますわ。
さっき、お菓子屋さんのご主人から聞きましたの。
魔物から街を守った、記念の式典をするそうですの。
その準備のせいで、今日も明日も明後日も、どこのお店もお休みだそうです」
「はぁ~……つまり祝勝パーティ的なイベントか……」
(つまり、さっきの話って『剣帝一門がそのパーティに出ないといけない』的な意味合いだったの?)
思い返せば、確かにそんな感じの言葉がチラホラ。
『<翡翠領>の英雄』とか『式典までは大人しくしてて』とか『メインの賓客』とか。
「いや……冗談じゃねーぞ。
誰が堅苦しい式典とか出て、エラい人の小難しい話を何時間も聞くかよ……っ」
前世ニッポンの頃から、『校長先生の話』とか『創業××周年記念イベント』とか『社長の新年の訓示』とか『議員さんの出陣式』とか、そういうの大っ嫌いだったんだよ。
社交界的な立食パーティとか、想像するだけで拒否感が。
ああいうパーティって、小綺麗なよく分からん冷えたオードブル的なヤツをチマチマつつくワケで、何も美味いとも思えないし。
格安フランチャイズで、ラーメンセットかマヨ牛丼を食ってた方が、随分マシ。
(ビバ貧乏舌!
インスタント&レトルト飯とか最高ぉっ!!
きっと俺って、雑な味覚してるからこそ、こんな理不尽クソ世界で魔物の肉とか食って生きていけるんだよなぁ)
ってか、料理って基本的に、できたてホカホカじゃないと何だって美味くないよな?
「よしっ
なんか理由をこじつけて、今のうちに帰るか……」
俺がポツリと漏らすと、妹弟子も賛同してくる。
「では、わたくしも帰りますわ。
せっかく街に来たのに、ほとんどのお店が閉まっていて、全然面白くありませんものっ」
リアちゃん、ムッツリ不機嫌。
まあ、気持ちは分かる。
正直都会とか、田舎にない物売ってる以上の価値ねーからな(暴論)。
だが、魔物の襲撃でピンチだった復興中なんだから、ムチャ言うなよ。
それに、だ。
「……キミは『剣帝サマの後継者』なんで、エラい人と顔つなぎとか ──」
「── お兄様。
もしアゼリアを置いて帰るおつもりなら、また大騒ぎを起こして、衛兵の方に来ていただきますわよ?
街を挙げての重要な式典の『賓客』が逃げ出そうだなんて……
ウフフ、きっと領主官邸とかに軟禁されてしまいますわね?」
悪女みたいな三日月型の口に手を当て、微笑んでくる悪い子。
「なんでお前は、そんな血も涙もない、極悪非道を言いますかね?
兄ちゃん、そんな子に育てた覚えありませんよっ」
権力者のお宅にお邪魔とか、絶対イヤだ。
(兄ちゃん、ダテに前世で『もぉ~またお前かよぉ、担当って本当に他にいない訳?』とか電話先でウンザリされてねーぞ?
空気読めない失礼・無礼・非常識・マナー違反しまくって、流派の看板にドロを塗る自信が、バツグンだわ)
それに、きっとアレじゃんか。
お呼ばれの夕食会とかで、神経ピリピリな食事をしないといけないパターンになるだろ、それ。
だいたい、社会人としての経験上、上の立場の人物に限って『我が家と思ってくつろいで』とか器量大きいアピールしやがるけど。
── 『おし! んじゃ3時間くらい格ゲーやりこむから、ポテチとコーラ持ってきて?』
── 『あ、ついでにマッサージチェアと、デカい画面のシアタールームとかある?』
とか本当に実家みたいなくつろいだ事を言うと、ブチキレられるんだろ?
俺は詳しいんだ!
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで、城壁を魔法で乗り越え、大脱出。
城壁を乗り越える途中、なんか、
── 『あーっ! 困ります! いけませんお客様! 困ります! あーっお客様!』
的な制止が聞こえたような気がせんでもないが、そこはガン無視。
城壁外に出たら、1kmくらい全力ダッシュして逃げ切った。
あとはボチボチなジョギングペース。
ってか、なんか街道がガッツリ破壊されてて、山道以上のガタガタ道なんで、やたら走りにくい。
「やっぱこれ、あのデカい魔物のせい?」
「どちらかというと、戦闘の余波と思いますの」
兄妹弟子のランニングでそんな話をしながら、エッチラオッチラ帰宅中。
3~4kmくらい走り続けて色々ウンザリしてきた頃に、ちょっと先の方に騎士っぽい集団を発見。
よく見ると、俺の荷車があったので、近づいてみる。
「なんで2人とも、領都から走ってきたんだ……?」
呆れ顔して訊いてくる、無精ヒゲ青年。
一昨日まで旅のお供だった、陰謀論“““本物”””さん。
「いや、そっちこそ。
領主騎士団の人達に送ってもらって、村に帰ったはずじゃ?」
すると荷車の中から女僧侶のルーナさんも顔を出す。
「── あぁ、2人とも無事でよかった。
ほら、わたし達が昨日まで、あっちこっちの村を助けたじゃない?
それを聞いた騎士さん達が、『もう巡回任務が完了』って。
で、『これから領都の応援に行く』って。
わたし達も、あなたたちが心配だったから、村に帰る予定変更して、ついて来ちゃった」
「そりゃまた、律儀な」
自分の故郷も大変な時なんだから、普通に帰ってもらっても良かったのに。
すると、無精ヒゲの御者が、ポツリと言う。
「それに、さぁ……
なんか俺ひとりで村に帰ったりしたら、村長とかに色々言われそうだし……」
「あ~……。
まあ、それはそうだな」
この“““本物”””とか、村での信頼度ゼロだろうし。
騎士の人達の証言で、一応の納得はしてもらえるかもしれんが。
それでも、『ひとり逃げ帰った』的な陰口とか色々言われそう。
「ところで、あそこ。
ここから見ても解るくらい、すごいデカい魔物が死んでるんだけど、さ。
あれって何?」
そんな信頼ゼロ青年(そう言えば思い出した、コイツ妻子持ちで無職というクズ!)が、指さして訊いてくる。
「お兄様がやっつけましたの!」
「そう、俺がぶった斬った!」
「う、うん、そっかぁ……そうなんだねぇ……」
「うわぁ~……当たらなくていい予感が当たった……」
微妙な反応の2人。
ビックリしたというより、微妙にシラけた感じ。
「── え、あれ、あっさり信じた?
フツー、『ウソだあ』とか『絶対ねーよ!』とか、そういうセリフ言うところでしょ」
やった俺自身としても『結構ムチャやったなぁ』というミラクルな戦果なんで。
多分、他人に言っても信じないなぁ、とか思ってたんだけど。
2人はそろって『ハ、ハハ……ハハハッ』みたいな乾いた笑い。
そして口々に言ってくる。
「まあ、ロック君って、ちょっと普通じゃないから……ねぇ?」
「もう、驚く物を見過ぎて、何でもアリな気がしてきた……」
ちょっと疲れた感じの、女僧侶さんと“““本物”””。
それ以上に異様な雰囲気なのは、周囲の騎士の皆さん。
さっきから一言も発せず、口元をひくつかせてたり、額を抑えてたり、空を見上げてたり、色々だ。
なんか知らんが、グッタリしゃがみ込んでる人もいる。
(これは、つまり
『せっか気合い入れて来たのに! 事態がもう終わってて仕事ないのか!?』
みたいな感じなのかな?
空回りして、ちょっと恥ずかしいとか、そんな感じ?)
俺がそんな観察をしていると、リアちゃんはいそいそと荷車に乗って、女僧侶さんとガールズトーク。
「昨日、お兄様に『お疲れ様のチュウ』しましたわ!
周りの方に『キャー』とか『ラブラブよ~』とか言われましたのっ」
「うんうん、そういう外堀を埋める事って、大事よ?
徐々に異性を意識させていきましょうねー」
「はい、ですの!」
「普通なら、ご飯で胃袋つかむとか言うんだけど……
ロック君のご飯って、半分プロっていうか、普通の女の子じゃ太刀打ちできないくらい、美味しいからねぇ」
「ええ、お兄様のご飯は最高ですわ!
── あ、そういえば、ユキとブチは、ご飯足りてますでしょうか?」
「え、雪? 斑?
妹弟、じゃないわよね……、ペットか何か?」
「ええ、山小屋で飼ってるヤギさんですの。
予定より日が経ってしまったので」
「それは心配ね~」
なんか、リアちゃんには珍しく、結構打ち解けたな。
最近まで野良ネコみたいに『フシャー!』してた事を思うと、なかなか感慨深い。
俺は、うんうん肯いた後、荷物を放り込み荷車に乗り込む。
「さて、せっかくのお迎えだ。
荷車で家(山小屋)まで帰るか」
「ねえ、ところで『剣帝』のおじいさんは?」
「ジジイは、エラい人と懇親会みたいな、大人のお仕事。
しばらくは<翡翠領>に残留だな」
「有名な魔剣士って、色々あって大変ねー」
そんな感じで話をしていると、カッポ・カッポ<駒>が走り出し、<ラピス山地>麓の村へと街道をUターン。
「しかし、何だろうなぁー、今回の人生って。
今までの『繰り返し』でこんな展開とか、全然なかったんだけど……」
とかなんとか、また“““本物”””さんが、おかしな事をぼやき始める。
最近、せっかく日光にあたって、心身が健全になってきたのに。
疲れたストレスとかで、ちょっと元に戻っちゃった?
(── だ・か・ら、オメーよぉ?
異世界転生(笑)とか、時間ループ物(呆)とか、前世ニッポンのゲームとかマンガみたいな事言うなって。
そんなの、あるワケねーじゃん、J.K.!
つまり、『常識的に考えて』!)
面倒くさいので、ツッコミは内心に留めておいた。
▲ ▽ ▲ ▽
で、結局。
ジジイが家(山小屋)に帰ってきたのは、それから1週間も経った後。
「これから一生、顔をあわせる事もないような、有力者の顔と名前と肩書きを暗記するのに疲れた……っ
久しぶりに、こんなに頭を使ったわい……
ハァ……いい歳になって、知恵熱がでそうじゃ……」
1人だけ<翡翠領>に置いていった事、怒られるかなー、と思っていたが。
それより、連日の社交界的パーティにウンザリしたらしい。
その日は、夕食もほどほどに、すぐに寝床に入ってしまった。
オトナって大変だなー、と思いました。(小並感)
!作者注釈!
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