93:葉隠~life path of SAMURAI~
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
妹弟子を、上空に退避させた、と確認した瞬間 ──
── 莫大な魔力光が、首魁の巨体から溢れた。
『ゴォーン!』という、魔物特有の魔法発動音。
本当の、本当のラスト。
それはまるで、終焉を告げる鐘の音。
怪獣映画に出てくるような超巨大カタツムリの巨体が震えた。
強靱なゴムのような軟体の肉が膨らみ、突き出でて、そして破れる。
勢いよく放出されるのは、おそらく溶解液。
迫り来る死の濁流だ。
骨ひとつ残るまい。
「ハハッ……無事、アゼリアは助けたんだ。
もはや、この人生に悔いはない……」
── とか、物分かりのイイこと言うワケねーだろうが、ボケ!!
(こちとら才能なしのゴミ(笑)のくせに、ダテに約10年も『剣帝サマの一番弟子(呆)』やってねーんだよ!)
この『落ちこぼれ』の諦めの悪さ、ナメんじゃねぇぞ!
(無力で罪のない無辜の市民の皆サマ達から、どれだけバカにされ(怒)、どれだけコケにされ(恨)、今まで生きてきたと思ってんだ、オラァ!
陰口たたかれ、指差し笑われ、時に怒鳴られ、身の程を知れとか赤の他人に説教されながらも!
そろそろ、もうすぐ10年目!
才能無しの役立たず歴が、10年選手だぞ!!
悪あがきMAX、しつこい諦め知らず、身の程の知らず、往生際の悪さだけなら、間違いなく異世界サイキョーなんだぞ、俺はァ!!)
そんな『怒り』で、気力を充填!
アゼリア救出の『超・裂■だぁ~ん!』な体勢から、クルリンと一回転。
空中で、ケガがマシな方の左手で、【秘剣・三日月】。
しかも、<小剣>を振る勢いで射出する、旧式の方。
「死ネやぁッ!」
激痛のあまり、握る手が滑りそうになるのを、怒りと気合いで誤魔化しきる。
必殺技の射出の反動で、後方へ飛び退る。
同時に、三日月型の魔力刃が、消防ホースの水の勢いで発射される溶解液を、左右に分断。
貝系魔物が得意とする、激ヤバ溶解液(有機物なら何でもドロドロ!)も、魔力の刃は溶かせないらしい。
土壇場での大博打。
間一髪の、大成功。
「── 一・発・大・逆・転ッ!!
見ろぉ、賭けに勝ったぞ、コンチクショー!」
雄叫びと共に、拳を振り上げ ──
── 両手の親指をオッ立てて、振り下ろす。
左右の親指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「創ってよかった、すえ置き斬撃!
── 2×【秘剣・陰牢】っ」
(※ 格闘ゲームなら ↓タメ後↑+ [P]
久しぶりに出番の、跳び込み・突進対策の設置攻撃。ノックバック長め)
剣身約2mの魔力刃が12本ドスドスと地面に突き刺さり、俺の前に『A』字型の防御柵ができた。
先ほどの【三日月】が消えた瞬間の、ジャストなタイミング。
そして、ついに気力がゼロ。
「もうマジ無理。。。
お昼寝にしよ。。。。」
俺は、コテンと尻モチついて、空を見上げた。
▲ ▽ ▲ ▽
「あぁ……
リアちゃん、身体強化魔法が切れてたのか……
ホントに、ギリギリな、絶体絶命なタイミングだったんだなぁ……」
バシャバシャバシャァ~~ッ!と、すぐ近くで溶解液の弾ける音。
そんなヤバい現実から逃避するように、上空の妹弟子をボーっと見る。
「大丈夫かな、飛翔魔法できるかな?
さっきのダメージ引きずってて、ムリそうなら兄ちゃんがキャッチしに行かないと ──」
そんな俺の、ちょっと過保護なボヤき。
それに『大丈夫だ』と答えるように、妹弟子は上空で剣を振りかぶる。
そして、彼女はこう叫んだ。
「── 【秘剣・速翼】ですのぉ!」
── は?
── え?
リアちゃんが、【速翼】?
あの子、いつの間に、アレを覚えて……
いや、そうじゃ、ない……
そうじゃ……ない!
「ハハ……ッ」
歪む視界。
指が2本折れた右手でぬぐえば、いつの間にか涙。
横っ飛びで髪をなびかせる、そんな少女の姿に感極まった。
「あ……ああッ……ああぁッ!」
白一色の服と軽装甲。
所々に返り血の赤。
まるでその色合いは、前世ニッポンの、雪国の民族衣装のようで。
その少女が、矢のように真っ直ぐに突き進む技は ──
── 俺の魂の奥底から、一つの言葉を引き上げた。
「……勝利の……刃っ
── アンヌ、ムツベ!?」
俺の『第3の必殺技』を、他人が使うのを初めて見た。
それは前世ニッポンの格闘ゲームの、あるキャラクターの必殺技を、彷彿させる光景だった。
▲ ▽ ▲ ▽
「── アァ~~ッ!!」
慟哭。
強い想いが、胸の底から湧き上がる。
「ァァア! アア~~ァッ! ゥアアアァ~~~~ッ!!」
今まで、あえて目を背けてきた?
叶わない願いのツラさに、フタをして閉じ込めていた?
あるいは、本当に忘れてしまっていた?
── こんなに大事だった、前世の想いを!?
「『怒』ゲージ!」 「アメリカ忍者!」
「河豚毒!」 「うっひひぃ~!」
「勝者、柳生十兵衛!」
この熱量を、魂と心を。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、猪鹿蝶!」
「服部半蔵!」 「鍔迫り合い」
「腐れ外道!」 「ネコ耳ブーメラン!」
前世ニッポンの、古兵達の死闘を。
「修羅モード、羅刹モード!」
「カフェイン・ニコチン!」
「ゴー、パピー!」
「魔界転生!」
「パレンケの石!」
我が輝かしい青春の、コンティニュー銭貨連投を。
「黒子ぉ!」
「風魔流忍法!」
「機巧人形!」
「ケケケ!」
「珍サム、シゲル!」
対戦遊技がくれた、勝敗の日々を!
「真剣白刃取り!」
「大自然のお仕置きよ!」
「公儀隠密!」
「武器破壊必殺技ぁ!」
「天草四郎トキサダぁ~~!」
色鮮やかに甦る、五感と想念。
嗅覚 ──
── 場末のゲーセンのタバコ臭さ。
肌感 ──
── 薄暗い店内の騒音と熱意。効き過ぎた空調に乾く激闘の汗。
痛覚 ──
── 爪が割れる程のボタン連打。対戦後に殴られて切れた唇。眼精疲労の週末の夜。
悔恨 ──
── 不良のカツアゲで諦めた新ハード。西の雄の破産と業界の低迷。盛り下がっていくオンライン対戦。続々と引退していく戦友たち。
前世から黄泉返る、在りし日の情熱と感傷。
(いま思えば、格闘ゲームで勝利に沸いた事なんて、何度あったかな……っ)
思い出されるのは ── 敗北の悔しさや、一歩勝利に届かなかった歯がゆさ、何度挑んでも惨敗して惨めに涙する ── そんな悪感情の記憶ばかり。
ひと言でいえば、ヘタの横好き。
プロを目指すなんて、夢のまた、夢。
全国通信のランキングで、上位40%にも食い込んだ事が無い、低能。
それでも、格闘ゲームが好きだった。
その中でも、『サムライの剣戟モノ』が特に好きだった。
アレが俺の青春だ、そう胸を張って言える。
アレこそが『俺の前世の人生その物』、そう誇らしく言える。
「── 戻りたいっ」
あの日の熱い夏に!
あの狭い、6畳1K家賃7万6千円の路地裏アパートに!
「── 帰りたいっ」
格闘ゲームという、最高のエンターテイメントがある、前世ニッポンに!
見せる相手もいない古いゲームソフトが埋め尽くす、俺の部屋に!
「── あそこに、還りたいんだ!」
滂沱と、郷愁が両目から流れ落ちる。
今は、左手の剥がれた生爪も、右手の折れた指2本も、その激痛すらどうでも良い。
「もう一度! もう一度だけ! たった一度だけで、いいから!」
思い出のソレに手が届くのではないかと世迷い、天へと手を伸ばす ──
あるいは奇跡でも起きて、『元の世界に舞い戻る』という夢想が、一時でも現実にならないか。
── そして、そんな事を考えるバカさ加減に、自分で呆れ果てた。
「あぁ……クソぉ!
クソ、クソ、クソ、クソォぉぉぉぉッ!!」
伸ばした手の向こうに、『銀の輝き』を見付けたから。
あの少女が、長髪を振り乱し、懸命に戦う姿を認めたから。
いまの自分が『何者』か、ようやく思い出したから。
「── 俺は『お兄ちゃん』だぁぁぁぁ!!」
両の拳槌を地面に叩き付けるようにして、その反動で跳ね起きる。
「今さら、何を寝ぼけていやがる、俺自身ぅぅ!!」
右手の折れた指2本と、左手の流血する生爪の痛みが、目覚ましにちょうど良い。
すえ置き斬撃【秘剣・陰牢】に弾かれた飛沫が降る、溶解液の灼ける痛みが、風呂上がりの霧雨のようで心地良い。
まるで、人間性さえグチャグチャに叩き潰されて、幼稚園児の粘土遊びのように雑にコネくられて、クソな性根の根本から造り直された気分だ。
おぞましい程に、涙が尽きない程に、心痛に胸が潰れそうな程に、気分爽快だ。
「今さら、今さらだ!
もはや、すべて、今さらだ!
過ぎ去った前世にすがるな!
終わってしまった前世に囚われるな!」
泣きながら、笑いながら、呆れながら、怒りながら、嘆きながら。
「異世界に生まれ落ちて、もう15年!
いまだに、前世に未練タラタラかよ!
いつまで経っても、まるで成長できていないのかよ、お前ぇ!
御ブッダ様が聞いたら、助走つけてバチコン頬張りかますぞ、この有様!
こんな醜態を無様に晒すなんて、格闘ゲームへの侮辱じゃねーか……っ」
ようやく、決意を口にする。
「──『バカは死んでも、治らねえっ』
その通り!
俺は、生まれ変わっても、治らなかった。
だが1歩、たった1歩くらいは、前に進めるハズだ。
なあ、そうだろう、今世の俺?」
『大人』になる時が来た ──
── そんな言葉が、ストンと胸に落ちた。
就職や結婚や家庭事情やらで、引退していった対戦相手の気持ちが、少しは理解できた気がした。
決して飽きたワケではない、嫌いになったワケでもない。
今もまだ熱と輝きは、この胸の奥に確かに残っている。
だからこそ、それを抱えたまま、踏ん切りをつけなければならない。
「だから今、その1歩を、ここに刻む。
そして、この1歩に、誓う」
前世ニッポンの、格闘ゲームたちよ。
俺はもう、『もう一度、格闘ゲームに浸りたい』なんて甘えた事は、2度と願わない。
「俺は、このクソッタレな異世界で、為すべき事を為す!」
── 守るべき少女の傍に在り。
── 恩をうけた老人に報いを返し。
── 果たすべき義務に向き合い、小さな約束ひとつ反故にしない。
恩人との約束ひとつ守れぬままに死去。
そんな無様な前世から、たった1歩でもいいから、成長してみせる。
それが、今の俺にできる、たったひとつの贖罪。
「格闘ゲームを、『呪い』にしないタメに!
けっして足枷なんかじゃなかった!
小さな翼だったんだと!
生きる活力をくれたんだと!」
一度、両手の指に残る全ての、『必殺技』の術式を破棄。
「無意味じゃない、時間のムダじゃない、役立たずじゃない、何の意味のない事じゃない!
格闘ゲームが!
こんな俺を!
人情欠落の俺を!
立派に成長させてくれたんだと、それを今ここで証明する!」
魔導の式を編む ──
── 今までにない精度で。
魔力を操作し充填する ──
── 今までにない量と数で。
何度も何度も、意識が飛びそうになる。
青い魔力光装填用の補助術式を使っているというのに。
自力装填したさっきの数倍は酷い気分だ。
ああ、解っている。
脳の処理能力を超過した上に、魔力欠乏症に陥っているんだろう?
「この程度、笑いながら超えてやるっ ──」
先ほどの断腸の思いに比べれば、なんという事も無い。
「── それをもって、俺の決意表明とする!」
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
「さあ征くぞ、超巨大カタツムリ!」
▲ ▽ ▲ ▽
これは、前世から続くオレの、『格闘ゲームへの想い』の表明だ。
だから、精神集中の文言として、それを唱える。
何度も何度も何度も、飽きずに再生した、オープニング・ムービー。
『葉隠』という古書から引用された、古兵達の生き様を。
ゆっくりと、万感を込めて、舌に乗せる。
「武士道とは ──」
ィィィィイイイ……ィン!と1個目の<法輪>が、真っ青に染まる。
「── 死ぬ事と、みつけたり」
続いて、ィィィィイイイ……ィン!と2個目の<法輪>も、真っ青に。
「修羅道とは ──」
ィィィィイイイ……ィン!と、耳障りな異音がさらに重なり、3個目の<法輪>が青に。
「── 倒す事とみつけたり!」
四つの異音の重奏は、すでに騒音の域。
己の声すら、耳に届いてるのか解らない。
だが、続ける。
「我、悪鬼 ──」
五つ目の、青い<法輪>。
吐き気がこみ上げる。
胸を叩いて、やり過ごす。
「── 羅刹となりて……ッ」
六つ目も、完了。
視界が回り、立っていられない。
倒れていないのは意地か、修練の成果か。
「目の前の敵ぃぃっ ──」
七つ目。
意識が細切れに。
こらえきったのは、たぶん奇跡。
もう、心身ともに限界 ──
── だからこそ、さらに一歩踏み込む。
軟弱な自身の殻を破り、限界を超えた先へと ──
「── すべてをぉぉッ ──」
── 八ぃッ!
凛と輝く8個の、真っ青な<法輪>。
『魔力過充填』で、嵐のように荒れ狂う術式、爆音が支配する空間。
死色の蒼白。
『死神の加護』。
戦略級の攻撃魔法!
「── 斬るッ」
羅刹カラーの<法輪>、8個すべてを模造剣に纏わせる。
一塊としてまとめて放つための、最後の手順を終える。
── かつて、元師匠が言ってた。
── 『剣の基本を積み上げ続けた究極こそ、奥義』と。
なら、【断ち】こそが、俺の基本。
そして、基本を磨き上げた【三日月】こそが、俺の奥義。
「さあ、見せてやる ──」
かつて世捨て人だった男の、成長を。
そして前世の俺を、導いてくれた格闘ゲームの素晴らしさを。
「── これが俺が憧れた、サムライの奥義!
敵の武器すら打ち砕く、『武器破壊必殺技』!」
前世ニッポンのサラリーマン時代に、宴会で聞いた話が頭を過った。
── 『ソメイヨシノ』がサクラの『究極の色』を目指した品種ならば、
── 『八重咲き』はサクラの『究極の形』を目指した品種だという。
「そしてぇ ──」
この、今、完成したばかりの【三日月】の『四』は、改良に改良を重ねて辿り着いた『必殺技』の『究極の形状』。
ならば、この必殺技の名は、【八重裂】が相応しい!
この八重の複合【三日月】は、全て【裂き】が構成だから。
(※ 格闘ゲームなら
ボタン四つ押しでゲージ爆発後に、↓↘→↓↘→+[P])
「── そして刮目して見ろ、異世界!
これが『我が剣の道』だぁぁぁ!」
無才無能の兄弟子なれど、純真可憐な妹弟子の助けになる ──
── そんな、小さな小さな、しかし胸を張って言える今世の人生行路。
(── ん?
……あれ?
そういえば、さっき……)
そういえば、首魁さっき、ウチのリアちゃんの頭部ボコってピヨらせるとかガチめに極悪攻撃カマしてトドメに至近距離溶解液ブッかけみてーな殺意マシマシ必殺技ブッパとか§h♀Yαガっ†Å奈ァァァaa!!?(激怒の余り言語能力失調)バボワァグダガァジャァァ!!!?
「俺のォォッ、美妹にィィィィッッ!
汚ね~~汁をブッかけとか、絶対ゆ゛る゛さ゛ん゛ン゛ン゛ン゛憎悪ッ!!!
── ィィ~ヒャァッ(怒号混じりの息継ぎ)、魔物ハァ、滅殺ダァ~~~~ァッッッッ!!!」
左の逆手で握った鈍剣を抜剣し、殺意も高らかに!
ありったけの声と、『必ず滅殺』という憤怒の意志で放つ、まさに『必殺技』!
── 八つの【秘剣・三日月】を同時に放つ!
それが、絡み合うように、円陣で踊るように、八つ巴に巡り廻る!
首魁を殺し尽くすための、『旋回する巨大八刃』が完成した!!
!作者注釈!
~ 簡単なまとめ ~
前世の未練 = 超ゲームしたい
~ プチコメント ~
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