92:武士道~light side of SAMURAI~
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「── 【秘剣・三日月】っ」
小枝の上に乗って空へ<小剣>を振ると、剣の残像が飛び出したような魔力刃。
日本男児の夢『飛ぶ斬撃』が、『チリン!』という発動音で発射され、小型陸鮫を2体まとめて斬り裂いた。
「おおぉ……っ
【断ち】Lv3で【三日月】やると、こんなに切れ味上がるのかぁ~」
今まで『単体攻撃』だった遠距離攻撃が、『貫通&複数攻撃』にまで進化した。
1ヶ月前に創ったチェーンソー式・【序の一段目:裂き】が『削り斬る』という効果だとしたら、こっちの【断ち】Lv3は『擦り斬る』みたいな効果。
(ほら、アレだ、紙の端っこでたまに指とか切っちゃうヤツ。
摩擦と勢いで切れ味がアップするみたいなイメージ)
ノコ刃の【裂き】は、甲羅や装甲が硬い敵に特攻のある、いわゆる『硬い物対象』向け。
2枚刃の【断ち】Lv3は、装甲のない獣毛とかの『柔らかい対象』向け。
どうも、そういう使い分けになりそう。
(しかし、何が改良のヒントになるか解らないな……っ)
俺の【断ち】Lv2のやり方が出来ないって、妹弟子がちょっと凹んでたみたい。
だから『いやいやそんな事ないよ、良い発想だよコレ』と元気づけるつもりで、活用の例をいくつかやって見せてたら、ティンときたワケで。
ちょっとした工夫で、劇的に性能が変わる事もある。
こういう所が、魔術式の改良の楽しさでもある。
「今度は【三日月】の四ノ太刀あたりで、覇■ショーコーケン的な極大斬撃波でも創ってやろうかな……っ」
そんな感じでルンルン♪な気分。
上空で軍用<空飛ぶ駒>が取りこぼした小型陸鮫の魔物を、ズパズパ斬っておく。
まあ、若干もったいないな、とも思わないでもない。
だが、種類が違うからか、あまり尾ヒレが大きくないんだ、この陸鮫。
我が家(山小屋)の周りで獲れる3~4m級の中型陸鮫でも、天日で乾燥させると結構縮むからな、フカヒレ。
「リアちゃんと神童が決定打をかますまで、もうちょっとかかりそうかな……?」
陸鮫を試し斬りして遊んでいる内に、ちょっと離れてしまった『魔物の大侵攻』の首魁の方を、チラ見。
オリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】を自力発動。
魔力センサーで、広範囲を俯瞰して、だいたいの様子を伺う。
10分ほど前に、アゼリアが【五行剣:火】を機巧発動して、体高40mの首魁の巨体を、ロケットみたいに駆け上がっていったワケだ。
で、今は軟体生物っぽい超巨大魔物の頭部に張り付き、強靱なゴムみたいな体組織をズタズタに斬り裂いている。
巨漢の神童(たしかカルタとかいう名前)の方は、首魁の背中で<長剣>を振り回して、大暴れ。
神童カルタも、なんかスゴイ魔力がこもった武器もってんな。
首魁のカタツムリみたいな巻貝甲殻がハデに割れてるけど、<長剣>で叩き割ったんだろうか。
そんな感じで、妹弟子と神童が、2人とも大奮闘。
だが、首魁がシャレにならん巨大魔物なので、急所を破壊して討伐するには、まだまだ時間がかかりそう。
そもそも、高さ40m×長さ80m×幅20mという、ほぼ建築物みたいなデカさ。
あるいは海外行きの大型貨物船かフェリー船みたいなのが陸を動いてる感じだ。
妹弟子も神童も、もはや攻撃とか戦闘とかより、『2~3m掘り起こす土木作業』みたいな感じになってるし。
「さすがにアレは、俺が行っても足引っ張るだけだろうな……」
対・首魁戦闘で必要とされているのは、『力こそパワー』な脳筋的な身体能力。
同年代女子に身長越されそうなくらいチビな上、身体強化魔法を長時間使えない俺が行っても、まるで役に立たない状況だ。
そんな判断で、ザコ兄弟子に相応しい、周辺ザコ狩りに徹しているのが、今の現状。
そんな俺の耳に、野太い悲鳴が届く。
「ぎゃぁあああ!!」「ひるむな、盾を構えろ」「あ、熱いっ もうムリだ!」「弱音を吐くなっ」「だ、誰か助け ── ア゛ァ゛ぁっ」「くそ、誰か氷結魔法か流水魔法をっ」
周囲を見渡せば、50mくらい先の、森の中。
デカい魔物の火炎放射の直撃をくらって、火だるまになっている騎士がいた。
▲ ▽ ▲ ▽
「── 動くなっ」
俺は、そう叫ぶと同時に、木の枝から飛び出す。
薬指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法環>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】!」
突進系必殺技の高速&隠密飛行で、火だるまの騎士の背後に回り込む。
シュババン!と、模造剣に魔力を走らせ、騎士の全身を撫で回すように剣を素早く振るう。
「か・ら・の! 【撃衝角】!」
舌先に宿した<法輪>を自力発動。
手加減した下級の衝撃波魔法で、火だるま騎士を2~3m吹っ飛ばす。
「うわぁっ」「な、なんだっ」「空からの襲撃!」「飛行型魔物か!?」
誰が魔物だ、ふざけんな!
お前らの仲間のピンチを、今助けたんでしょーが!
(チィ……っ
高熱で真っ赤になった金属防具を強制解除して、さらに衝撃波で火消しまでしてやったのにぃ……!)
相変わらず、人助けしても感謝もされない。
そんな、徳が激低っ!、な異世界です。
ああっ仏さまっ、マジでなんとかしてくれ、この現地民ども。
俺もいい加減に慣れてきたから、怒鳴る気にもならんがな。
ただし、内心で悪態だけはついておく。
(かぁー、見んね妹弟子、卑しか性根のエリートばい!)
そんな内心舌打ちに、意外すぎる声が割り込んでくる。
「だ、誰か知らんが……助かった……っ」
衝撃波で吹っ飛んだ騎士が、寝転んだまま片手を上げてきた。
(── 何~~ぃ!?
えら~い魔剣士の<五環許し>な、プライドの高いエリートな騎士サマが、俺にお礼だと!?)
うわぁ……明日の天気は、槍でも降るのか?
……いやいやいや、多分コレは幻聴か、あるいは聞き間違いで……
多分、『(あれ)誰か知らん? (俺の)ンガタスカッター(という謎物体)?』とかいう、言葉を聞き間違えたんでは……?
「おい、大丈夫か」
「ああ、そちらの冒険者の子供のおかげだ」
仲間に起こされた元・火だるま騎士は、窒息寸前みたいなゼーゼー息。
火傷寸前の真っ赤な顔を、勢いよく下げた。
「すまんが、キミ! 我々に手を貸してくれっ」
すると、周囲の連中が、敵意から一転。
「なんだあの子ども」「まさか、防具のバンドを全て斬ったのか……」「さっきの一瞬で?」「A級の冒険者か?」「相当に腕が立つみたいだな」「アレ……どこかで見たような」「そう言われれば……」
なんか、すがるような目を向けられる。
(わぁ~お、手の平くるくるデスネ、貴方がた……
いぇ~い、せっかく助けたのに魔物扱いで剣とか杖とか向けられたチビザコ剣士のロック君ですけど、みんな仲良くしてねっ)
混乱から立ち直った騎士達の『例えカスでも、利用できるヤツは利用したろ』という生き汚な ── ミス、生き抜く強い意志(笑)に感銘(呆)をうけて、救援に応じる。
「……まあ、いいけど」
よく見たら、20人弱の隊員の半分くらいは魔導師みたい。
あと、後ろの方に、軍用荷車が横転している。
魔法支援部隊と、その随伴の護衛部隊みたいだ。
「ええっと、冒険者のしょう……じょ? あ、いや、ん?
ああ、まあともかく若者よ、協力を感謝する。
手短に説明すると、敵は脅威力6の魔物<湖浮島鵜>だ!」
魔術師の支援部隊の隊長っぽい人が隣りに来て、説明してくる。
「我々、魔導師部隊の連続法撃で、敵に隙をつくる!
冒険者のキミは、騎士の部隊と共に接近して、止めを ──」
「── あぁ、いいって、いいって。
俺、コイツの相手は慣れてるし」
指揮官っぽい魔導師の人のセリフを遮る。
しかし、神経質そうな中年男は、口元を引きつらせる。
「いや、キミ、この魔物は脅威力6!
通常、君たち冒険者が相手するような魔物では ──」
「── 脅威力6って、水上に居る場合が、だろ?
飛べないくせに、森の中に入ってきた時点で、コイツの負けだって」
話してて、メンドくなった。
もう説明するより、実際やって見せた方が早い。
ともかく、緑色の巨大水鳥に向かってダッシュ。
「お、おい! キミィィ!?」「あ、冒険者の子供がっ」「何で突っ込んでいったんだっ」「アンタ、いま何言ったんだよっ?」「まて、わたしは何も指示してないっ」「とにかく助けなきゃっ」
何か騒いでる後ろの方は、あえて無視する。
クルル! クルル! クルル!と、魔物は威嚇の声。
そして、デカい口を開いて、長い舌先にデカい<法輪>を発生させ、魔法攻撃の準備。
俺は、オリジナル魔法【序の二段目:推し】を自力発動して、短時間の身体強化。
魔物の胴体の下、高さ1m程の鳥足の間を中腰ですり抜ける。
クッ! クルッ!?と、魔物も意表をつかれ、どこか不思議そうな鳴き声。
長い鳥首を、胴体の下に回して、こちらの様子を伺う。
「アホか、やっぱりトリ頭だな……っ
【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】」
股抜きで魔物の背後に出ると、広範囲攻撃の必殺技を『硬い物対象』用の【裂き】で、自力発動。
家屋なみのデカさの緑色水鳥の、尻尾というか背後で、少し血が飛沫く。
しかし、脅威力6という巨大魔物には、この程度かすり傷みたいなもんだ。
逆立つ緑色の羽根は、軽く硬くしなやかで、まるで竹笹の藪のよう。
濡れたような色の羽毛は、鋭い刃を鈍らせ打撃もすべらせる獣油の油膜保護。
そんな防御に包まれた巨体が、湖面や水中を激しく動き回るのだから、有効打を当てる事も難しい ──
── それが、脅威力6の水辺の魔物・<湖浮島鵜>。
「── そう、水辺なら、なっ」
俺の呟くと同時のタイミングで、周囲の森林の木がドガドガドガ……ッ!と、一斉に倒れた。
大量の倒木という、思いがけない範囲攻撃に、巨大水棲魔物は逃げるヒマもなく下敷きになる。
「陸上じゃ、ただのウスノロなザコだよ」
── グギャアァ~~~ッ!とか、ニワトリ絞めた10倍くらいの声が響く。
寒冷地の水辺に生きるため、脂肪を蓄えた飛べない巨体は、陸上では重鈍。
水かき付きの野太い鳥足も、飛翔しなくなった翼も、水中で素早く泳ぐために進化した結果、陸上ではゾウガメのように鈍足になってしまった。
だから、倒木程度も回避できない。
(やっぱ、<湖浮島鵜>とか陸上じゃ、脅威力4くらいじゃない?
この前の『双頭カメ』の方が、陸上でも数倍は手強かったし。
『双頭カメ』、まさに水陸両用で色々と器用だったもんなぁ……)
神王国の連中も、きちんと魔物の特性を見極めて、改造実験してたんだなぁ。
今さらながら、ちょっと感心。
「な……っ」「あんな、あっさりとっ」「おいおいおいっ」「何が起きたっ!?」「こんな、バカなっ」「脅威力6の魔物だぞ!?」「どうやって木をまとめて倒した!?」「何者だ、あの冒険者っ」
せっかく攻撃のチャンスを作ったのに。
しばらく棒立ちで、ポカーンとしたままの騎士と魔導師の皆さん。
「お~~い、今の内に追撃!
早く、トドメ! トぉ・ドぉ・メぇ!
── おい、聞こえてんのかぁ!? 全員、攻撃! 早くしろってぇ~~っ」
しびれを切らせた俺が叫ぶと、ようやくノロノロと動き出す。
なんという時間遅延。
当流派の剣帝や超天才児なら、すでに首を落としているぞ。
(ホントに、早くしろって。
せっかく転倒させた攻撃支援が、意味なくなるんだけど……っ)
ちょっとイライラして、手を出したくてウズウズするのを、ぐっと堪える。
正直、ヘタに手助けして、俺なんかを『当て』にされても迷惑だ。
騎士&魔導師の混成部隊だけど、15~20人くらい居るし、多分、戦力は充分。
多少頼りないが、任せておこう。
(今は、赤の他人に構っていられる状況でもないし……
── さて、リアちゃんの様子は?)
ふと、【序の四段目:風鈴眼】で首魁の方を見て ──
── すぐさま、俺は走り出した。
【序の二段目:推し】を自力発動して。
脇目も振らず、ひたすらに!
▲ ▽ ▲ ▽
(── ヤバいヤバいヤバいヤバい!)
ちょっと目を離したスキに、事態が急変していた。
アゼリアが、首魁の進行方向50m先くらいで、片膝をついている。
ここ5年間で、数千回、あるいは万に近い回数、妹弟子と模擬戦してきた兄弟子には解る。
(リアちゃんが、行動不能……!?
1発、会心攻撃が頭か胴に入ったのかっ)
考えてみれば、当たり前の話だ。
『魔物の大侵攻』の首魁は、超が付くほど巨大。
その代わりに、動きや反応が鈍感。
だからといって魔物が ── 『魔法を使う人食いの怪物』が ── 知能が低いワケでは、決してない。
魔物は自分の生命に危害を加えようとする、小虫に何らかの反撃を試みた。
我が身を省みないような、緊急手段的な自爆攻撃でも使ったのかも。
きっと、鈍感すぎて無抵抗な魔物だと、アゼリアの気が緩んだ時に不意を打たれた。
(クソぉっ、兄貴が付いていながら、いったい何を……っ
『役立たず』とか『足引っ張る』とか妙な言い訳してないで、首魁の上まで着いて行っていればよかった……っ!!)
後悔で、奥歯がギシギシ鳴る。
そんな不意打ちの会心の痛撃を食らっておきながら。
しかも、40mの巨体から落下しながら。
(なんとか飛翔魔法を自力発動して受け身を取ったあたり、さすがは当流派の超天才児だなっ
あとで兄弟子がエラいエラいしながら、手当してやるからな!)
そんな場違いな兄バカ思考をしていると、首魁に変化が。
── 激しい魔力光と、『ゴォーン!』という魔物の魔法発動音!
しかし、見た目では魔法攻撃らしき変化はない!?
(やっべえぇ~~!
極大攻撃の準備だな、これ!?)
<アルビオン山脈>奥地の『六本足トカゲ』や『3脚ヤドカリ』がたまにしてくるヤツ!
複数回の『溜め魔法』の後の、デタラメな極大攻撃!
そのムチャクチャな威力と広範囲を思い出して、背筋が凍る。
そんな間に、またも『ゴォーン!』と発動音。
(もう時間がねえ、おそらく次で来る!
アゼリアまで、まだ目測500m!
【推し】使って全力走行をしているけど、遠すぎて間に合わないっ
最速の必殺技【速翼】の『四』でも、ムリか!?)
俺は、意を決して、魔力を特殊な編み方に変える。
細い魔力の糸を、巻軸に、あるいは釣りの回転筒に巻き付ける、イメージ!
「だったら、もうこれしかぁ ── ァッ、ガハァ!!」
あっけなく、脳が過負荷処理。
一瞬だけ、寝不足の意識が飛びかけた。
砂利や岩石だらけの壊れた街道に、走る勢いのまま顔面から着地しかけて、ギリギリ体勢を立て直す。
最後の、『ゴォーン!』と発動音 ──
「── ぁ、ゼリアァ!!!」
── いや、不幸中の幸い、まだ『溜め』だ。
まだ最後の発動ではなかった。
だが、もはや予断を許さない状況。
むしろ、絶体絶命が、紙一重まで切迫している。
今の、妹弟子の末期かと怯えた瞬間。
俺の脳裏に浮かんでいたのは、初めて会った頃の、幼い少女の笑顔 ──
両親に愛されず
親類縁者からは爪弾きで
身売りのように、生贄のように
大人の都合で、確執のある老人の元へと差し出され
いつも淡々と大人しく、何事も言われるままに黙って従う
人形のように端正な顔でニコリともしない、愛想のない少女の
── 初めて見せた、不器用な、はにかんだ笑顔っ!
(アレが跡形もなく消えてしまっても良いのか、俺自身ぅ!!)
そんな自問に、大声で答える。
「── 当たり前だぁ!」
俺はガツン!と、自分の顔面に拳を叩き込み、ツゥン……ッと鼻血が出る痛みで、脳の負荷を誤魔化して、魔力操作。
「アゼリアがこんな所で死んで!」
再度、細い魔力の糸をキツく巻き付ける、イメージ!
ィィィィイイイ……ィン!
背筋の寒くなるような、青い魔力光が装填完了。
以前にまして『死』を連想させる、『魔力過充填』。
「良いワケねぇ~~~だろうがぁ~~~!!」
その場で飛び上がると同時に、飛翔突進系必殺技【秘剣・速翼】の雑改造術式を過負荷発動。
一瞬、視界が暗く狭まる程の、超加速!
「ぁぁぁぁ、ああああああ!!」
雄叫びで気合いを入れて、衝撃に備えたが、予想以上。
全身の骨がシビれるようなこの痛みは、おそらく音速超過!
生身で音の壁をブチ破った際の、衝撃波なんだろう。
まさに一瞬で、アゼリアまで500mの内、400mを詰める。
(残り100m!)
両脚で、ガタガタの地面を踏みしめる。
超音速推進の残り惰性を、人間の生身の足で減速するとかいう、超絶無謀チャレンジだ。
靴底を削りながら中腰スライドは、きっと傍目に『波乗り』か『スノーボード』。
もっとも、こっちの内心は、バランスを取るだけで必死だ。
うっかり転けたら、潰れたザクロの実みたいな、ザコ兄弟子の死体が出来上がる。
地面を高速で滑りながら、岩を避け、切り株を股越し、泥水を迂回。
(残り30m!)
時速100kmくらいに減速してきた所で、上半身を捻り、横回転を開始。
(残り10m!)
妹弟子は、全身を震わせながら<正剣>を杖代わりに立ち上がる。
俺はその背後へと、弧を描く軌道で回り込こんでいく。
(残り2m!)
横回転のまま、わざと体勢を崩す。
同時に鞘付き<小剣>を振り回す。
狙いは妹弟子の、ふともも付け根の裏。
(残り1m!)
妹弟子の身体を、尻を下からすくい上げるように、横払いで崩す。
(残り0m!)
妹弟子が後ろ方向にエビ反りで倒れこむ。
俺も、追うように方向転換しながら、その下に潜り込んだ。
そして ── 自力発動音。
(俺の『必殺技』は、今、この時のために有った!!)
オリジナル魔法『必殺技』。
肉体を術式で強制的に動かし、空中ですら姿勢を強制変更させる、独自術式。
その効果で俺は、強制的に姿勢変更。
今、妹弟子の真下で、手足を折り畳んだ逆天体勢。
地面を掴んだ両手に、グギッ!と衝撃が走るが、今は気にしない。
「── 固めろ!!」
アゼリア、今から上空に飛ばす、全身を固めろ、衝撃に耐えろ ──
── 加速する思考の中、言葉にできたのは、その中の一言だけ。
俺は、彼女の背中と腰骨を、両足の裏に乗せて。
縮めていた全身を、一気に伸ばして、全力で蹴り上げる。
── オリジナル魔法【序の三段目:払い】、遅延発現・解放!
特殊技最強の一撃が、妹弟子を上空の遙か高くへ、と。
そんな風に、アゼリアを安全圏まで退避させた俺は、一気に気が抜けた。
!作者注釈!
2022/12/03 聖王国 → 神王国に変更。(聖都と紛らわしいため)




