91:修羅道~dark side of SAMURAI~
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
何か最近、アレだ。
ちょくちょく意識が飛んでる。
というか、ぶつ切れな気がせんでもない。
『あれ、今、俺、何してんたんだっけ?』みたいな瞬間がちょくちょくある。
今、まさに、そんな感じ。
(まあ、ここ1週間強くらい、生活のリズムの狂ってるからな……)
夜通しで魔物と戦って、昼の仮眠は荷車の上で、しかも短時間で起こされて。
そんな、睡眠時間が不定期だっし。
軽くちょっと、メンタルだか脳みそだかが、ヤバイのかもしれない。
こんな状況、だいぶ久しぶり。
いや、異世界転生してからは、初めてかもしれん。
前世ニッポンのサラリーマン時代で何度かあった、睡眠時間をゴリゴリ削るようなオニ残業が連チャンという、激ヤバなブラック労働。
── まさかこの異世界でも『太陽の(おがめない)子』になるなんてっ!?
(キミは見たかっ!? 帳簿がぁ! 赤字で埋まるのをぉぉ!!
── まさに、『暗黒労働!RX!!』(吹笑))
不意に思い出してしまった、前世ニッポンのサラリーマン時代の、自作の替え歌。
(替え歌、入社4年目の忘年会で、社長にガチ切れされたヤツだったなぁ……)
結構、我ながら良い出来だと思うんだが。
最初1/4歌った辺りで、上司と先輩に取り押さえられるし。
他の連中には『喫煙所で小火事を起こした犯人』みたいな白い目で見られるし。
(だいたい社長も、器ちっちゃいんだよ。
あの、色黒ブルドック親父が……っ!)
せっかく残業の合間に、パワポで自作のカラオケ画面まで作ったのに。
サビ前の『起き上がれ! ザ・疲労! 誰が我が社を、救うのか!?』の下りとか、我ながら最高の出来だと思ったのに。
みんなに披露できないままに、データ削除されてしまった。
(無礼講だって言われたから、張り切ってやったのになぁ~……)
みんな知らないと思うけど『無礼講』っていうのは、実は上司に無礼な事したらダメなイベントらしい。
── これ『人生の先輩』から『若者』への、社会人生活の『Tip』な?
▲ ▽ ▲ ▽
さてちょっと、歯茎を舌でペロペロ(眠気覚まし法)しながら、最近の出来事を整理してみる。
・ 「魔物の大侵攻で近くの村々がピンチ」とか剣帝が言い出し、お助けツアー開始
↓
・ ツアー10日目の今日、村の救助は騎士団にまかせて、剣帝一門は<翡翠領>へ援軍
↓
・ 街のすぐ近く(城壁手前)に飛行型魔物が来てたので、サクッとまとめて退治
↓
・ ヘロヘロな防衛隊の人達にスゲー感謝され、「神童も助けてね」って頼まれる
↓
・ 魔物の群れに突撃してた暴れん坊と合流 ←[今ここ]
そんなヘロヘロ防衛隊の人達の負担を軽くするために、俺と妹弟子アゼリアは2人で、一掃しておいた。
<翡翠領>北門周辺をテレテレ駆け回って、飛行型魔物の生き残りを引きつけ、『ダブル水面月(兄妹弟子バージョン)』でサクッと。
最終的に40~50匹は釣れたのかな、2人合計で。
飛行型魔物とか、純・接近戦タイプの魔剣士にとっては天敵。
高威力・広範囲の攻撃魔法使えるヤツを『頼む~!』って拝み倒す気分は、ちょっと解る。
(そりゃあ『雑魚の手でも借りたい』って、なるな。
こんな状況なら、俺くらいのギリギリ及第点で、並の魔剣士よりちょっと強いくらいなヤツでも、遠距離攻撃使えるだけで『救いのカミ様』扱いされるよ)
前に会った<魄剣流>双子に、急にかしこまられて、皆の前でやたら持ち上げられるし。
『えぇ、いきなり何事!? そんなおべっか満点の土下座風な頼みって?』
と、なんかビックリしたけど……。
(ハァ……
こりゃまた、ヒデー状況だ。
俺みたいな微妙な剣士にも、頭下げて『お願い、助けて~』とか言うよなぁ~)
城壁の外に出てみたら、納得。
頼みのエリート魔剣士な騎士さん達は、みんな疲労困憊。
集中力ゼロで、戦力はガタガタ、連携もグダグダ。
かなりギリギリな状況で、その内みんな逃げ出しそう。
── 俺らが『剣帝』共々、はるばる連れてこられた理由が、ようやく解った。
かぁー、つれーわー。
かぁー、ホントのマジで<翡翠領>が『危険が危ない』でつれーわー。
かぁー、プライド高そうな騎士の人が昔ちょっと有名だった魔剣士な『剣帝』に、『協力してくれ』って泣きついてくるはずだわー。
かぁー、完全にタダ働き確定っぽくて全然ヤる気でないのに、手を抜けない状況なんて、ガチでつれーわー。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな事を考えながら、飛翔魔法を自力発動しての弓なり大ジャンプ。
4~5mの大ジャンプの頂点を通り超し、落下開始くらいで空中静止。
── それから一瞬だけ遅れて、砂地が爆ぜた。
俺の着地予定地点の砂地からガバァ!と、ワニ型魔物が飛び出てきたのだ。
しかし、ギリギリ届かない俺に虚しくパクパク。
例えるなら、小学校のパン食い競争で『パンに背が届かない子』みたいな感じになってる。
「トリャー!ですのぉっ」
そんな食い意地はった<砂伏大顎>という魔物の太い首を、妹弟子が駆け抜けながら一撃必殺。
「いぇ~い!」「ばっちりでしたのっ」
首無しの状態でドッタンバッタンしている魔物を背に、兄妹弟子でハイタッチ。
(ほらほらぁ、こんな少年少女2人がガンバってるんだから、さあ。
もっと、ちゃんとしようぜ、大人の皆さんよぉ?)
「くそぉっ」「食い止めろ!」「まけるかぁっ」「我々は騎士だぁっ」「誇りをみせろっ」
ガシャガシャと重そうなデカい盾とか構えてるクセに、大型魔物を遠巻きにしたジリジリ戦法。
ジジイなら単身で秒殺しそうな脅威力4とかに、ヤケに手間取っている。
(立派なのは、気合いの声だけだよなぁ。
正直言って……)
身体強化魔法使って、錬金装備の全身鎧着込んで、パワーもスピードも防御もバッチリなくせに、腰の引けた戦い方すんなよ。
みっともねーな。
防御は紙装甲、パワーはお子様、スピードは並、身軽さだけが取り柄の俺から見れば、『宝の持ち腐れ』もいいところだ。
(もっとガンガン攻めて、どんどん相手の内側に飛び込めよ……
この世界、手足の1本2本とか千切れても、サクッと<回復薬>で治るんだからさぁ)
人間もそうだが、力を発揮するには適切な距離が必要。
なので、あまり密着されると攻撃も防御もしずらくなる。
魔物の巨体に対抗するには超・接近戦というのは結構有効(ただし、踏み潰されない様に注意!)なのだ。
「騎士のみなさん、やけに慎重ですのねぇ……」
隣を走る妹弟子も、どこか呆れた口調。
「そだね」
そんな相づちを打って、森の大木に背中を向ける。
途端に、大木の上の方に隠れていた黒ヒョウみたいな飛行型魔物が、滑空降下。
背中への突撃を、ギリギリで回避。
同時に、愛剣の抜き打ち斬撃(居合いモドキ、練習中!)の、反撃でズッパリ真っ二つ。
フギャァァ~……ッと、断末魔を上げるネコ系魔物の死骸が、ゴロゴロ転がっていく。
(う~ん、ちょっと剣筋が雑だったなぁ……
あー、集中、集中っ)
前世ニッポンで見た、動画サイトの達人の動きを思い出しながら、軽く素振り。
ながら練習は集中力が散っていかんな、と自分を戒める。
(俺、その内、『最強無敵必殺抜刀術:相手は死ぬ!』みたいな技、身につけるんだっ)
▲ ▽ ▲ ▽
(── あ、そういえば。
衛兵に愛剣・模造剣を『凶器』扱いで没収されそうになった事もあったな……)
冒険者とか、武装している連中がいくらでも街中をウロウロしているのに、俺の刃引きしてある安全安心な訓練道具の愛剣・模造剣を、だ。
(衛兵のヤツら、ニヤニヤしながら連行して詰所で長々と夕方まで職務質問してくれたからなぁ……)
『へ~、ボクってあの剣帝サマの一番弟子のくせに、いまだに真剣すら持たせてもらってないの?(失笑) ハハァ~、そうなんだぁ?(苦笑)』
とか、わざとらしく聞いてきたからな。
なんか女子後輩の足下にも及ばない、みっともないザコ剣士(笑)がいるから『からかい&ヒマつぶし』してやろう ──
── まあ、だいたいそんな感じの、ニヤニヤ顔だった。
(思い出しただけで、イラ☆っとくるな……っ)
そんな日頃エラそうにしてる領都の連中が、いざとなったらスタミナ切れ。
そして尻拭いで駆り出された、剣帝一門。
この場に責任者が居たら、文句のひとつくらい言ってやりたいくらいだ。
あと、迷惑料として、1人あたり金貨2~3枚くらいふっかけたい。
もちろん残念な事に、この異世界でも一歩間違えたら死ぬような現場に責任者とか出てこないけど。
(いかんな、考えれば考えるほど、ムカムカする)
そんな精神状態のせいだったんだろう。
【三日月】での、飛行型魔物の撃墜を、うっかり失敗。
「……お兄様? どうしましたの?」
「いや、何でもない……」
普通なら外さない距離だったんで、リアちゃんがちょっと驚いてる。
(心が荒むと、剣筋がいよいよ乱れる……
平常心、平常心……っ)
そもそも『騎士団』とか名前のつく連中は、魔剣士の免許皆伝ばかりのはず。
冒険者みたいな半端者の手に負えない『脅威力6』以上の魔物が担当とかいう、都市防衛の『切り札』。
(そんなエリートな強キャラ集団が『脅威力5』以下ごときに手こずるなよ……
いやまあ、疲れてるんだろうけどさぁ……)
だって、アレだぜ?
『脅威力5』とか、いつかの双頭カメくらいのはず。
あ、ほら、この<翡翠領>北門から出発して、枯れ木の森で退治した、神王国のヤバイ実験のアレ。
確かに、魔法が強力で、防御が硬くて、手強かったとはいえ ──
当流派の超天才児と<天剣流>の敏腕若手というスーパー戦力込みとはいえ ──
── 俺ら5人で、2匹も倒せた程度だぞ?
アイツら『領主騎士団』が体調万全なら、50匹でも100匹でも蹴散らしているハズだ。
(そういや、当流派のジジイ。
昔、『魔物被害お助け聖人』みたいな事をやってた時『辺境の英雄』とか言われてたらしいからな……)
よく考えたら、お人好しだから断らないだろうとか、見込まれたのかね。
それも迷惑な。
やっぱり迷惑料として、1人あたり金貨5~6枚くらいは、ふっかけたい。
(そうすると、金貨が計18枚くらいか……。
いいねー、もう1台くらい荷車(<駒>込み!)が買えちゃいそう……っ)
で、『トホホ、こんなにカネをせびられるなんて……っ もう剣帝流はコリゴリだよぉ~(昭和アニメ感)』みたいな顔させてスカッとしたい。
(あぁ~……
疲れを癒やして、ストレス洗い流してくれる、我が家(山小屋)のドラム缶風呂が懐かしい。
もう、10日も肩まで風呂に浸かってないのかぁ。
こんな魔物の襲撃でドタバタ状態だと、大浴場のある銭湯が営業してるかアヤシいよな?)
ここ<翡翠領>は、今、本当にシャレにならない状況らしい。
住民は、万が一のために、都市の外に避難する準備もしているらしいし。
そんな緊急時だから、騎士以外 ── 衛兵や冒険者どころか予備隊(騎士の補欠部隊、少年兵レベル)まで ── も戦場に引っ張り出されている。
多分、今日とか明日とか、風呂とか絶対無理な状況が確定!
(また今日も、生活用品の<魔導具>の冷水シャワーかよ。
あ~、もうやだっ、ホント、ロクな事ねーな。
早く『神童コンビ』と合流して、ちゃちゃっと超巨大魔物を片付けるか……)
森の向こうに超巨大な図体が見える『魔物の大侵攻』の首魁を目指す。
── ♪ババンバ~(ハァ、ビバノンノ)
とか、怒りを紛らわす鼻歌でも歌いながら。
▲ ▽ ▲ ▽
「お兄様! 見ててくださいましっ」
併走するアゼリアが、前を指さす。
よく見ると、進行方向に大きな魔物の影。
「フゥ~……ッ、ハァ~~……!」
アゼリアが<正剣>を構えると、諸刃に走っていた魔力の質が変化する。
剣の腹の両面で渦巻く魔力の刃が、お互いに擦れ合う。
諸刃全体から飛沫の様な魔力光が、激しく飛び散り始めた。
「お、スゴイぞ、リアちゃん。
もう、【断ち】Lv3が出来るようになったのか……」
術式の開発者としては、感心半分、呆れ半分。
(── やっぱ、剣術のみならず、魔力操作も天才的だな、この子)
今まで妹弟子は、切れ味魔法付与の【序の一段目:断ち】を、俺とはちょっと違う独自のやり方で習得していた。
俺の『回転ノコ方式』が上手くイメージできず、わざわざ2重発動していたらしい。
しかし、それが意外と使い道があるので、より改造してみるというか、色々と使い方を模索してみた。
それで出来上がったのが、この【序の一段目:断ち】Lv3。
それを、ちょっと兄ちゃんが指導してやっただけで、妹弟子は実践可である。
(── まったく当流派の才色兼備ったら!
これはもう千年先にも伝説に残っちゃうレベルのスーパー女傑さんで間違いないなっ(後方兄貴面))
俺の最初のオリジナル魔法【序の一段目:断ち】。
この魔法の開発の切っ掛けは、ジジイの剣の手入れだ。
『剣を刃を研いだ後、あえて鈍らせる作業』(確か『研ぎ戻し』とか言ってた)をしているのを見ていて、思いついた。
刃が鋭いという事は、イコール金属が薄くなるという事。
つまり、その分だけ強度が下がり、脆くなって壊れやすくなる、という表裏一体の欠点がある。
そして、あまり脆くなると簡単に刃が欠けやすくなり、最悪の場合、刃が欠けた亀裂が剣身全体にまで及んで、剣が折れてしまうらしい。
だから、切れ味を『最高』の状況から、『高』か『中』くらいまでわざと鈍らせる。
『切れ味』よりも『耐久力』の方が、実戦では重要。
そういう、剣帝の百戦錬磨な経験則。
── しかし、前世ニッポンでゲーマーだった俺は、こう考えるワケだ。
(どうにかして、切れ味MAXの刃を活用する方法ないかな。
魔法とか不思議パワーある世界なんだから、何か裏技とか抜け道あるんじゃね?)
もしも、体力が赤ゲージ点滅の死亡ギリギリで超必殺技が使用可能になる仕様なら、自分からHP減らすとか平気でヤる ──
ゲームオーバーや敗北の危険をあえて負い、ギリギリに挑戦してみる ──
── それが、ゲーム熱狂者という人種である。
そんな前世ニッポンからの『業』に従い、試行錯誤。
錬金術の『硬化』処理を、自分なりに魔力操作で再現。
そして『硬化』性質の魔力を、剣の損傷を肩代わりする保護用の皮膜処理として魔法付与
イメージとしては、前世ニッポンの飛行機弾幕ゲームの透明防壁みたいな感じ。
狙い通り、『切れ味MAXの脆い刃』を保護する、魔法の透明防壁が完成。
さらに、剣身からはみ出るように透明防壁を1~2ミリ伸ばしたら、刃部の代わりになるという、追加効果も発見。
(つまり、愛剣・ラセツ丸という模造剣しか持ってない俺は、魔力の性質変化『硬化』で造った仮初めの刃部で、魔物を斬っているワケだ。)
しかも、この追加効果、実体の金属刃と併用したら、さらに切れ味が上がる(切れ味MAXの刃だと限界突破する)という謎性能が発揮。
(極小で斬り裂く単分子カッターにでもなってんのか?、いまのところ検証不能)
── これが、俺のオリジナル魔法【序の一段目:断ち】。
そして、それを土台にした必殺技が【秘剣・三日月】と【秘剣・陰牢】なワケだ。
▲ ▽ ▲ ▽
今アゼリアが使っている、最新技術【序の一段目:断ち】Lv3の説明に戻ろう。
【序の一段目:断ち】Lv1は、結晶のイメージ。
なんならガラス表面処理でもいいが ── 剣身全体を覆っているだけのシンプルな術式。
<轟剣流>ユニチェリー道場に売った、<魔導具>に刻み込んだ術式と同じ、簡易版の切れ味魔法付与。
【序の一段目:断ち】Lv2は、水流のイメージ。
つまり動く表面処理 ── 解りやすく言うなら、包丁を叩きつけるより、押しながら手前に引く方がよく切れるような原理。
切れ味魔法付与に動きを付けて、さらに切れ味アップさせる方法で、ジジイやリアちゃんがこれまで使ってきた、鋼鉄防具でも真っ二つという威力。
── ちなみに、これをノコ刃&高速回転にしたのが、1ヶ月前くらいに創った新技【序の一段目:裂き】。
魔力刃をギザギザにして削り切るという方式。
骨とか甲羅とか硬い物を切断するのに向いてるし、時間をかければ希少金属の塊でも削れそう。
けど、超つかれる、脳が(ギザギザの維持と回転が、二重苦)。
そして、【序の一段目:断ち】Lv3は、ハサミのイメージ。
【断ち】Lv2の『動く表面処理』を、刃のとがりを境に右面と左面で反対回転させて、簡単&切れ味超アップの最新方式。
アゼリアの(右刃と左刃で別々発動という)【断ち】2重発動を、どうせなら有効活用する方向に進化させてやろうという、思いつきで創った新バージョン。
魔力操作の難易度は、【裂き】の10分の1くらいなので、充分に実戦使用できそう。
── さて、その【序の一段目:断ち】Lv3の切れ味は、というと、
「行きますの! お兄様、見ててくださいまし!」
妹弟子が【五行剣:火】の赤い魔法陣を背負って、バッシュ~~ン!と魔物へ突撃。
小型観光バスくらいの外骨獣 ── 河の主<外骨河馬>だ。
ガイコツかぶったカバが、馬が驚いたみたいな前足上げてジタバタする威嚇をしている合間に、腹の下をくぐり抜けて、後ろ足をザックリ!
流石に一刀両断とはいかなかった。
だが、バッシュッと血が飛沫き、魔物の体勢を崩す程度には、後ろ足を斬り裂いたっぽい。
つい一カ月前には、分厚い表皮になかなか刃が通らず、2人がかりでも苦戦していた難敵なのに。
そのアッサリ具合が、【断ち】Lv3の切れ味アップの性能の凄さを教えてくれる。
(やっぱり、剣帝の流派は撃剣重視だけあって、【断ち】系と相性いいな)
「とどめですわ、トリャー!」
妹弟子は、すぐに反転して、矢のような跳び込み刺突の体勢で、魔物の胴体にズドン!
魔物の内臓に深々と突き刺さった<正剣>。
その『切れ味魔法付与』が、ネジの谷径のように、螺旋型に変形していく。
「【秘剣・三日月:弐ノ太刀・禍ツ月】ッ、ですのぉ!!」
ドドドドドォ~~!と、ドリル三日月が魔物体内をえぐり、致命傷を与える。
アゼリアが<正剣>を抜いて離れれば、魔物の身体からジェット噴射みたいな勢いで出血がまき散らされ、小型観光バスくらいの図体がドォォ~ン!と倒れた。
「なかなかの切れ味だな。
この前の双頭カメの、甲羅の方はムリだが、硬い表皮の方なら、なんとかイけるか?
しかも、【断ち】Lv3だと2重発動になってるんで、ドリル三日月の威力も上がってそう……」
── 俺も、後で実戦テストしてみて、何かカッコイイ名前つけてやろう。
そんな事を考えていると、得意顔の妹弟子が駆け足で戻ってくる。
「お兄様ぁ~っ!」
「おー、リアちゃん、いつの間にか【禍ツ月】ができるようになったんだな。
天才なのに努力を怠らないなんて、スゴいぞ?」
高い高いしてクルクル回る、人間メリーゴーランドみたいな事をしたら、スゲー喜ばれた。
満面の笑顔で兄ちゃんの首にしがみついてくる。
(こういうところ、ホントにお子ちゃまよなぁ、キミって)
!作者注釈!
2023/01/14 中盤の文章を改変
あまりに途中がダラダラしてたんで、ちょっと短くまとめました
2022/12/03 聖王国 → 神王国に変更。(聖都と紛らわしいため)
作中の『研ぎ戻し』は、言葉自体は創作のものです。
現実に、近い概念や技術はあるようですが、正式名称不明。
詳しい方、情報求む。
あと、作中の補足
● 並の魔剣士
→ 魔物にあまり剣が通らないモン▲ンの弾かれ状態で、体勢も崩れやすい。
基本的に少ダメージしか入らないので、盾装備して仲間と協力した長期戦が常識。
毎日訓練してるし、上位だと疲れゲロ吐くくらいガンバってる。
● 剣帝一門
→ 剣の達人2人が、ロックの【断ち】習得で、戦力がインフレしすぎ。
並の剣で『大抵の魔物は一刀両断』、ザコ魔物がまとめて蒸発するコー■イ無双ゲーム状態。
飛んでる魔物対策として、旧式・三日月(剣を振る勢いで飛ばす斬撃)もあるよ!
毎日魔物と殺し合いで、何回か手足食われた経験から、恐怖心とかマヒしてる。
双方『完全に別のゲームだろコレ』状態なので、相互理解は難しい状況です。
なお、アゼリアと共闘した際のヒョロい金髪貴公子は、オリハルコン製の宝剣を使っているので、コイツは論外。