86:飛び出せ、魔物の森!
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
(── そして今はカチンコチンと石のふり!)
なぁ~んてな、ププッ!(ただし内心、声には出さない)
あ、今のは英語で、『岩石』のROCKと、『動けない』のLOCKをかけた、知的なジョークね!
みんな使っていいよ?
明日は、学校や職場で大爆笑必死!
(おぉっと、いかんいかん。
機転が抜群に効いた最高ギャグに、思わず表情筋がニヤリしかけたZE☆)
俺は石像~、今の俺は石像なのよ~、動いちゃだめぇ~♪(即興の歌、ただし内心)
名前が岩石だけに、ってなぁ!(内心、爆笑しながら机バンバン)
── そんなアホな事をひたすら考えて、ストレス処理をしていると、ようやく遠くに城壁とか見えてくる。
(そろそろ<翡翠領>に到着っぽいな……
ようやく、この気まずい状況から解放されるのか……ハァ、しんどい)
目的地が近づいてきて、ちょっとだけホッとする。
あと、昨日の時点で話には聞いていた『魔物の大侵攻』の首魁とかいう巨大魔物も見えてきた。
▲ ▽ ▲ ▽
ジジイが急に無茶振りしてくる。
「── ロック! どこだ!?」
いや、知らんがな。
ジジイ、たまに思うが、俺を人間レーダーか何かと思ってない?
俺も今なんか、『デカい魔物の上で大立ち回りしてた2人組の片方が、陸鮫の突撃よけそこなって(笑)、どっかに飛んだなぁ(呆)』とは思ったけど。
いちいち赤の他人を、オリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】で補足してねえよ。
「ロック!」
「あぁ~、はいはい……」
もう、仕方ねえーな。
まあ俺も、あのエセ関西弁のニヤケ顔、知らん訳じゃないし。
あ~ぁ、よく考えたら、俺お手製<魔導具>買ってくれた、お得意さんか。
あの神童コンビ。
ちょっと気合い入れて探しますかねー。
両目を閉じて、自力魔法発動。
【序の四段目:風鈴眼】、広範囲モード発動!
── 説明しよう!
【風鈴眼】広範囲モードとは、両目つぶりで魔力センサーに集中するモードの事である!
通常モードでは、片目の目蓋裏に投影している魔力センサーを、両目でやると立体視で距離間までバッチリな感じだ!
この前、村から村への移動の最中に駆除した『白イタチ』みたいな、姿消す系魔物対策の特殊モードだ!
森の中や水中に隠れている魔物の姿なんかも、丸裸にできるぞ!
── 説明終わり!
両目をパチパチさせて、目蓋裏の魔力センサーと、実際の景色を重ね合わせる。
画像の間違い探しとかで便利な、『残像効果』ってヤツだ。
(あ、ほら、お札パラパラで偽札チェックするヤツね)
「11時方向、700m ── いや、800m先、かな?」
「すまぬ、少し揺れるぞ!」
ジジイが軍用<空飛ぶ駒>の縁を持って、側面に張り付き、タイミングを見計らって飛び出していく。
もちろん、ジジイのオリジナルな身体強化魔法【五行剣:火】を自力発動して、赤い魔法陣の残像を残したロケットみたいに。
急にそんな事するから、ジジイが乗ってた軍用<空飛ぶ駒>がグラッグラッ。
翼の生えた黒いイルカかシャチみたいな軍用機が、暴れ馬みたいになる。
「── お~っ、とっとぉ~っ! な、なんだ、今のは……っ」
「『剣帝』殿が落下!? いや、飛び降りたっ!?」
「正気かよ、あの老いぼれ……っ」
軍用<空飛ぶ駒>3機の運転手さんは、そろって目を丸くしている。
うんうん、そうだよな。
ジジイもさあ、『溺れている人を見かけたから河に飛び込んだ』くらのノリで、魔物いっぱいの森に突っ込むなよ。
しかも、ボーボーに木が茂ってて、地形が解らん場所に飛び降りるとか、ケガの元だろうに。
あのジジイ、腰痛持ちの自覚あんのかな?
あんま無茶すんなよ。
「……だ、大丈夫、なのか……?」
「いや、大丈夫な訳ないだろう……」
「どう考えても助からんぞ、これ……」
運転手さん3人が、顔を引きつらせて、そんなコソコソ話してる。
── もしかして: 神童ルカの事?
(あー、そう言われてみれば、確かにそうだね。
ジジイが間に合うかギリギリで、ちょっと微妙か?)
あのニヤケ顔、ピンチちゃあ、ピンチか。
魔力の気配的に、割とデカい魔物が近くにいる、っぽい。
「まあ、何とかなるだろう……」
ジジイの助太刀がなくても、自力で切り抜けるんじゃね?
あのルカとかいう細目男、『帝国西方の若き英雄』とか、有名らしいし。
実際に、結構な腕前だったからな。
俺とか、『身体強化魔法なし』のハンデマッチで、ギリギリ負けかけた訳で。
たしかに剣術Lvは、40くらいだけど……。
(あ、俺、剣術Lv60ね。得意顔)
でも、身体能力の補正が半端ないからな、神童ルカ。
隣のムキムキ筋肉男を見習って鍛えているのか。
あるいは、名門魔剣士の血筋のおかげで、生まれつき身体能力が超人並みなのか。
ともかく身体能力が半端ないので、総合的に考えると『剣術Lv50~55』くらいには匹敵しそう。
つまり『身体強化魔法なし』の模擬戦なら、リアちゃん(剣術Lv50)とか金髪貴公子(剣術Lv45)あたりと、勝ったり負けたりの一進一退な良い勝負しそう、って感じの腕前かな?
(リアちゃんもここ2~3日は、俺のマネなのか『身体強化魔法なしの縛り交戦』で魔物に挑んでるからな……
脅威力2くらいのザコなら『未強化』でもたいして苦戦もしてないし。
── まあ、そういう事を考えると、あの神童も別に、大したピンチでもないのか……?)
まあ『噂の神童』サマなんだから、ジジイが間に合わなくても、自力でなんとか逃げ切るだろ。
むしろ、鼻歌まじりにあしらっちゃうかもよ。
確かアレ、<濃霧潜顎>だったけ?
見た感じ、あのデカ陸鮫より、ちょっと強いくらいの魔物っぽいし。
そんなに大した強敵でもない感じ。
A級冒険者よりずっと強い『神童コンビ』様なら、きっと余裕ヨユー!
(── ん?
あぁ~、でも、周りになんか、何人か居るな。
動きが鈍い、素人くさい連中が)
もしかして自警団とかが、ピンチで人手不足って事で、引っ張り出された感じ?
ジジイってもしかして、そっちを心配したのか?
(しかし、ホントまあ、当流派の剣帝サマは、人助けが好きだなぁー。
我が元・師匠ながら、その滅私奉公っぶりは感心するぜ……)
そんな事を考えているウチに、ジジイの現場到着を確認。
(両目【風鈴眼】な広範囲モードのまま、目をパチパチしながら観察中)
「── おぉっ
ギリギリのところで魔物の『息吹攻撃』を【三日月】で斬った。
ハハッ、ジジイ、なんだかヒーローみたいな登場の仕方してんなっ」
とか、ひとりでブツブツ言ってると、なんか視線を感じる。
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
運転手さん3人が、こっち見て、『マジかコイツ?』みたいな目で見ていた。
(── え? 3人そろって、なんッスか?)
優しそうな女騎士さん(リアちゃん機の運転手さん)まで、何デスカ?
え、俺、また何か空気読めない発言とかしちゃった感じ?
またオレ何かやっちゃいました?(苦笑)
▲ ▽ ▲ ▽
「── お師匠さまだけ、ズルいですのっ」
急に立ち上がる、妹弟子。
「せっかく魔物がいっぱいですのっ
思いっ切りブンブンのチャンスですの!
リアもいっぱい暴れてまいりますよぉっ
── トリャー!!」
暴れん坊の銀髪美少女さんが、腕輪をスイッチオンして、【五行剣:火】を機巧発動させたら、すぐにシュパァーン!とロケットみたいに飛んでいく。
「………………」
おいコラ妹弟子、トリャー!じゃないがな……。
このクソ気まずい空気の中、兄ちゃん1人だけ置いていくのヤメロよ。
お前ホント、そういう所だぞ?
「── エイィィッ、ですのぉ~!
それからの、ウリャアァァッ、ですわぁ!」
ちらほら飛んでいる飛翔型の魔物に、刺突の体勢で突撃し、矢の様に突き刺ささる。
そのまま前方宙返りする勢いで、突き刺した剣で魔物の腹をぶった斬ると、その魔物の死骸が落下する前に足場として利用し、さらに別の魔物へ向かって飛んでいく。
なんか、見覚えのある空中連続殺法だ。
(あ~……。
なんか、この前、剣帝が『白イタチ』相手にやってた動きに似てるのか……)
あの技(ジジイ特有の『無名神業』!)を実戦でやってみたかったたのね、当流派の暴れん坊。
── やっぱり天才すぎない、当流派のお姫様ぁ!(得意顔)
「── はぁっ! また1人飛び降りたっ!?」
「おい、アレ見ろよっ 空飛ぶ魔物の上を、飛び跳ねてるぞ!」
「おいおいおい……剣帝一門って、どいつもこいつもイカれてんのかよぉっ」
ほらな、妹弟子……。
お前の、お転婆っぷりに、軍人さんたちも呆れてんぞ?
ヤレヤレ、まったく困ったジャジャ馬だZE?
(必殺、高速手の平返しの術!)
── だいたいな。
お前の乗ってた機体の女騎士と違って、兄ちゃんの方の運転手の人とか『男性版のヒステリーかな?』って感じな、面倒くさい系男子なんだぞ?
そんなのと一緒に残される、兄弟子の気持ちになってみろよ。
……しかし、なんでこんな精神不安定そうな人が、軍人とかヤバイ職業やってんだろうな?
一度コイツ、休職してカウンセリングでも受けさせた方がいいんじゃね?
(── 大丈夫ダイジョーブ、ウツとか精神病は、誰もが起こりうるモノなんです。
精神科に通うのは、何も恥ずかしい事じゃないよ?(前世ニッポンのメンタルヘルス研修の成果))
そんな生温い目で前の席を見ていると、当の本人がこっちを振り返り、恐る恐ると言ってきた。
「お、お前は、あんな風に飛び降りたりするなよ……?
魔剣士じゃないヤツだと、絶対ケガだけじゃ、すまないからな……?」
「……あ、はい……」
とりあえず、聞こえるかどうかくらいの、微妙な小声で返事しておく。
今、操縦士のご機嫌損ねて、振り落とされたらたまんないから。
仕方ないね!
なので、心の中だけで、大声で反骨しておく。
(── お前に言われなくても、あの2人のマネとかしねーよ!
だいたい、この俺を何だと思ってやがる!
素質も魔力も足りなくて、魔剣士になれなかった『落ちこぼれ』だぞ!?)
── あ、そうだ。
そろそろ<翡翠領>領都に着くから、ちょっと仕込みでも始めないと。
ポケットから出した、謎の赤茶けた砂を、サラサラサラァ~……っと、空中散布。
すると、すぐに前の席のヤツが、キョロキョロし始める。
「── うわっ
なんだ、この匂いは……?
発酵臭? いや腐敗臭か?」
(チィ……ッ!
こんな時だけ勘の良いヤツだな!
ぎゃんぎゃんヒステリー(笑)な、メンヘラ男子予備軍(呆)のクセにぃ……っ)
── お、予備軍?
軍人だけに……! ププッ!!
「……おい、何で声を殺して笑ってるんだ、お前?
あと、<空飛ぶ駒>軍の備品なんだから、ベシベシ叩くなよ……」
前の席のヤツが、ちょっと困り顔で文句言ってきた。
▲ ▽ ▲ ▽
「お、おい……っ
何か、魔物が近寄ってきてないか……?」
急にそんな事を言い出す、前の席のヤツ。
(いやぁ~、ボクはそんな事ないと思いますけどぉ~?
え~と、多分ん、何かの勘違いじゃないですかねぇ~?)
俺が、熟練俳優のナレーター風に、前の席のヤツの心に直接語りかけてみる。(もちろん無意味)
だが、他の2人の軍用<空飛ぶ駒>の操縦者も、周囲を見渡し始めた。
「た、確かにっ
いつの間にか、飛行型の魔物が集まってきているわね」
「我々の周りに、飛行型の魔物が増えて、いる ──
── いや、明らかにこっちを狙っているぞ!?」
慌てて<中導杖>を構えて、魔法攻撃での迎撃準備する騎士3人。
(な、何言ってんですか、皆さんたら~。
もう、やだなぁ~、気のせいですよ!
きっと全部、気・の・せ・い・☆)
俺が引き続き、声優アイドル風に、心に直接語りかける。(やっぱり無意味)
しかし、俺の前の席の男メンヘラさんが、クンクン・クンクン、犬みたいな行動。
(あぁ~、そういうの変人扱いされるのでぇ~、すぐに止めた方がいいと思いますよぉ~?
いわゆるひとつのぉ~、善意の第三者的な、忠告ぅ? みたいなぁ~?)
俺が善意からの意見を、レジェンド野球選手風に、心に直接語りかけてやってるのに、まるで止めやしない。
── このぉ、ウ●コ野郎さん、がぁ!
「さっきから何か、変な匂いがするんだっ
この匂いのせいじゃないか!?」
「チィ……ッ
一番鈍そうなヤツが、まっさきに気付きやがった、クソが……」
「……え?」
あ、いかん。
うっかり声にでちゃった♪(可愛く反省)
「── あぁ! 貴女、それっ
いったい何をバラ撒いているの!?」
あ、妹弟子(不在)の<空飛ぶ駒>の女騎士さんに見つかってしまった。
クソっ、もはやこれまでかぁ……!
「えいっ☆ ──」
俺は、<空飛ぶ駒>の後部座席に立ち上がると、匂い砂が入った革袋を、後方の遠くへと投げ飛ばす。
「── からのぉ、【秘剣・三日月】!」
100mという、飛び道具必殺技の射程ぎりぎりでヒットさせ、一気に拡散させる。
すると、空中に赤っぽい砂がまき散らされ、酸っぱめな匂いが、一気にブワワァ~ッと広がる。
さすがは、スペシャル芳香剤な粉末。
魔物の腐りかけた肉汁とか、エビみたいな水棲小型魔物の煮汁とか、魔物の生き血とかをブレンドして、砂に吸わせた効果はバッチリ。
100m後方の砂が飛び散った辺りが、魔物がスゲー集まって大変な事になる。
飢えて頭バカになっているみたいで、アホみたいに釣れる釣れる。
まさに、入れ食い状態だ。
── ギャアギャア、グロロロ、キーキー、ピーピー……等々。
何種類もの魔物の声が混じり合って、かなりの混沌。
「── おい、何やってんだ、お前ぇ!?」
「うっせぇよ、ボケぇ!
俺を、魔物の森に振り落とすだぁ!?
上等だ、こっちから先に飛び降りてやんよぉ!!」
溜まり溜まったストレスで、怒鳴り返しておく。
殴られたら殴り返す、それが俺の『正義』ぅ!
「いや、バカ、ちょっと待て!
お前まで、飛び降りるのかよっ」
「── FxxxxxKッ!」
引き留めようと手を伸ばす若い男性騎士に、ダブル中指をおっ立てて拒絶。
そして、そのまま虚空にダイブ!
「おい、付き人の少女、はやまるなぁ~っ」
「マーク! アナタが! 多感な時期の子供に、あんな事言うからっ!」
「お、俺のせいかよぉ~~!?」
……何だが、皆そろって、えらく焦ってるな?
魔法使える異世界なんだから、空中落下とか余裕だろ?
飛翔魔法使って、落下の勢い緩めれば無事に着地できるんだし。
それとも俺、魔力量が少なすぎて、飛翔も出来ないザコだと思われてるのかね?
「── まあ、取りあえず、アレ片付けるか。
【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】!」
すぐに、飛翔突進系の必殺技を自力発動。
100mくらい戻って、飛翔型魔物が殺到するど真ん中に突っ込み、即座に次の必殺技を起動。
左手人差し指を突き立て、指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
(── そして、ここで妹弟子方式の【序の一段目:断ち】2重起動を合わせれば……!)
魔導式が、俺の身体を空中でもかまわず、強制的に1回転させる。
「【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】、2重発動!」
まさに、狙い通り!
角度をずらして交差し、X字軌道で広がった2枚の魔力円刃!
横の広範囲だけでなく、縦も幅がある周辺斬撃だ!
地上の魔物と違い、空中の魔物と戦う時は、高度がまちまち。
上下に散らばる敵を【水面月】でまとめて倒す事が、課題のひとつだったのだ。
(飛行型魔物も、これで一掃だぁ!)
周囲の飛翔型魔物を、数十体まとめて斬り裂く ──
── そんな便利で強力な、必殺技の改良バーションが完成した。
!作者注釈!
~~以下、作中補完の説明エピソード~~
???「ロック、お前なあ!
ちょっと考えてみろよ!
例えば今から50m自由落下したとして、地面に着くまで何秒だ!?
それで、その秒数で果たして、飛翔魔法なんてややこしいモノを!
しかも自力発動とか精密なマネを!
命のかかった非常時に!
どれだけの人間が成功させられるって思ってるんだ!?」
ロック「つまり……。 魔剣士なら、子供でも楽勝って事?」
???「ロック、お前なぁっ」
ロック「……え?」
???「……もうやだ、この非常識が服着て歩いてるようなライバルっ」