85:出会いと別れ
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
今ちょっと、異世界生活2回目の空の旅の最中。
……あれ、よく考えたら、これ3度目? いや4度目か?
ともかく、最近ちょっと慣れてきた、魔法の便利道具<空飛ぶ駒>で高速移動中。
向かう先は、<翡翠領>領都。
この発端は、昨日の夕方前くらい ──
── つまりジジイ主催『付近の村々を魔物の大侵攻から助けようツアー』の9日目の最中だった。
▲ ▽ ▲ ▽
昨日の昼過ぎ、荷車で村から村への移動の途中。
俺が、『リアちゃんとの剣術訓練』という名の『臨死体験』して(今日のデイリーミッション完了!)、ルーナさんお手製の遅めの昼飯食った後の事。
なんか重装甲フル装備な連中が、ゾロゾロと100人単位でやって来た。
『もしや騎士か守衛隊崩れの盗賊か!?』とか、ピリピリして警戒してたら、どうやら本当に騎士で守衛隊の連中だったらしい。
なんか、領主の命令で、人里に来た魔物の退治しながら、周辺の村を巡回任務の最中。
そしたら伝令から『やべえ数の魔物に襲われて領都が大ピンチなんで、助けて』って連絡がきたらしい。
部隊を二つに分けて、騎士の大半が<翡翠領>の援軍に行った後、こうやって少数部隊で巡回の続きをやってるらしい。
── つまり、明らかな面倒事である。
つーか、こっちを巻き込もうとしている感を、言葉の端々にひしひしと感じる。
「フ~ン、それは大変デスネ?
あ、ボク達はちょっと野暮用がアリますんで、お先にお疲れシャ~ッス!
騎士の皆サマ、お勤めガンバってくだサ~イっ」
長旅づかれでウンザリしていた俺は、完全に聞き流す構え。
前世のサラリーマン時代で言うなら『就業チャイム直前に、誰かがクレーム電話を受けたのを横目で見ている』ような気分。
正直、早く家(山小屋)に帰って、ひさしぶりにドラムカン風呂に肩までゆっくり入りたい。
ババンバ~♪(ビバノンノ:合いの手)って鼻歌でも歌いたい。
そう我が家では、いい湯がハハハンで天井からぽたりと、俺を待っている訳で。
だがしかし、助けてと言われてノーとは言えないのが、当流派の『剣帝サマ』である。
「ロック、そう言うな。
故郷の一大事となれば、誰もが血相を変えよう。
── よし、微力なれど、ワシも助太刀いたそう!」
「いやいやいや……ジジイって。
防衛設備も常駐の兵隊もいないド田舎の村ならともかく、あんなアホみたいにデカい城壁ガッチリで、魔剣士が何千人か居そうなデカい街なんて、俺らが助けにいく意味ないじゃん?」
って、俺が言っても聞かない。
「── ってか、ジジイ、逆に考えろよ!
騎士が何百人か何千人か居るところに、俺らたった3人が加勢に行った所で、大した意味ねえって!
戦力1,000人プラス3人の、増えた3人とか、0.3%増だぞ!
そんな平成不景気の預金利率みたいな微妙すぎる数字に、何か意味とかあるのかよ!
逆に、部外者が入ったせいでチームワークが乱れて、他の皆の足引っ張るんじゃね!?」
弟子がそう力説しても、まるで聞かない。
「このような年寄りであるが、この非常時だ。
何か人の助けになる事も、あるであろう」
こうと決めたら、テコでも動かない頑固ジジイなのである。
仕方なく俺もアゼリアも、同行するハメになった。
「あのー。わたし達は……?」
「え、俺は? 俺は? 俺は?」
ツアーの途中参加者2名 ── つまり本村の女僧侶さんと、騎士集団にビビって挙動不審な陰謀論“““本物”””さん ── まで、当流派の事情に巻き込む訳にはいかない。
ってか、住民4~50万の都市がピンチ!ってくらい魔物が殺到しているらしいから、ヘタに連れて行ったら、巻き添えで死にかねない。
ここで途中離脱。
それぞれの村に帰ってもらう事が決定。
剣帝の手助けの代わりに、軍人さん達が送り届けの面倒みてくれるらしい。
そのついでに、俺の愛車(もちろん<駒>込み! 総額ニッポン円で300万!! 現金一括ニコニコ払い!!!)も、<ラピス山地>麓の村まで運んでもらう事になった。
御者の無精ヒゲ青年の村が、家(山小屋)から一番近いからね。
▲ ▽ ▲ ▽
── そんな話がまとまった時点で、すでに夕方手前くらい。
いくら空路とはいえ、魔物が狂乱状態な『魔物の大侵攻』の時に、夜間の長距離移動はヤバイ。
死ぬほどヤバイ。
なので、近くの村に立ち寄って、昨日は1泊。
そこで、食料(救援物資の残り)全放出の小さなパーティをやった。
途中参加2人への慰労会を兼ねた、お別れ晩餐会だ。
大人のみんな、今晩はワインや蒸留酒も飲み放題だよ!
まあ、調理用の酒で開封済みだから、あんまり美味しくないだろうけどね。
魔物だらけの旅という緊張から解放された“““本物”””は、ガブ呑みでベロベロ酔い。
クズっぽいを泣き言を言っては、リアちゃんルーナさんの女性2人にド正論突っ込みを受けて、みんなに笑われていた。
「ダメな大人ですわ」「うん、ダメ人間ね」
「本当に、甲斐性なしねー」「甲斐性なし男ですわ」
そういや、リアちゃん、最後になってルーナさんに慣れてきた?
あと、“““本物”””。
途中でコイツ、妻子あり(!?)のクセに無職(!?)という事がバレて、聖職者モードのルーナさんがガチ説教。
そんな女僧侶さんも、酔ってくると意外と絡み酒で、大変だった。
リアちゃんと俺は、ずっと抱きつかれて『2人とも、かわいい、かわいい』言われてた。
少年的にイラッ☆ときたが、まあ、多少エッチなハプニング(柔らかかった!)があったから許すけど。
まあまあ、楽しい一夜だった。
前世サラリーマン時代は『呑み会なんて大っ嫌い』だった俺でも、たまにはこういうのも良いな、と思うくらいには。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな訳で、今朝のちょっと遅い時間に出発。
女僧侶さんと“““本物”””に見送られて、剣帝一門は、軍用<空飛ぶ駒>3機に乗せられ、<翡翠領>領都へと移動開始。
日が高い時間になってから出発なのは、朝霧が晴れて見通しが良くなった頃じゃないと、軍用<空飛ぶ駒>でも危険だから。
(まあ、この異世界、霧の中どころか雲の中に隠れている魔物すら居るから。
仕方ないね……)
のん気に空飛んでたら、大型猛禽類にパックリやられちゃう。
ほらアレだあれ、前にも説明した『頭数10くらいないと、魔物に襲われやすい』の法則。
アレって、魔物の森の中だけじゃなく、空中でも海上でも通用する法則なんで。
見通し悪い空を<空飛ぶ駒>3機とか、ごく少数で長距離飛行とか、完全に自殺行為。
まだ魔物だらけの森の中を移動する方が、だいぶんマシなくらいの危険度。
大木とか、岩陰とか、そういう障害物を利用して逃げ隠れ出来るからね。
(こうやって考えると、マジで、前世ニッポンは平和だったんだなぁ……
そして何故、俺はこんな危険が危ない異世界に、輪廻転生?
いったい何の罰なの、このチート皆無で激弱弱な男子な境遇?
── 南無三、答えてプリーズ?)
もちろん、天からの返答はない。
── 閉話休題。
最初は、軍用の最新鋭の上、さらに特別機とか聞いて、最初はちょっと盛り上がってた俺。
ほら男の子ってさ、『軍用』とか『新型家電』とか『特別機』とか、そういうの大好物じゃん?
だけど、さすがに3~4時間も乗りっぱなしだと、色々飽きてきた。
硬いイスでケツが痛くなってきたし、超スピード飛行も景色があんまり代わり映えしないし。
ちょっと飽きて眠いけど、ウトウトしてたら振り落とされかねないので、前席のパイロットの人にしっかり捕まっているしかない。
(これなら前世の格安航空の方が、だいぶマシだな……)
なんだっけ、●ーチ航空とか、ス★ーフライヤーとか、そんなやつ。
あっちは、格安だけあって機内食は出てこないけど、足伸ばしてリクライニング出来るシートだし、ひまつぶしに映画も流してくれるし、到着まで爆睡でもOK。
そう考えると軍用機とか、マジ居心地が最悪だな。
「あ~、ケツ痛てぇ……
ジジイの腰、大丈夫かな?」
俺がぼやくと、前の席から『チッ……』とか『フ~……』とか、あからさまに面倒そうな雰囲気がビシバシ感じる。
ってか、もう3~4時間、この運転手の騎士さんと同じ<空飛ぶ駒>に乗っているんだけど、一言も口をきいた事がない。
今の俺のグチだって『ちょっと雑談しない?』みたいな前振りなつもりだったんだが……。
そんな顔をしていると、リアちゃんを後ろに乗せてる、併走中(併飛行中?)の<空飛ぶ駒>から、運転手の女騎士さんが声をかけてきた。
ゴウゴウと風音がすごいので、かなりの大声を張り上げている。
「もう少しで<翡翠領>に到着しますので!
あと少しだけガマンしてくださいっ」
なお、軍用<空飛ぶ駒>3機は、渡り鳥みたいな三角編隊で飛んでいる。
あ、先頭機体・ジジイ。
後方2台は、俺(左側)とアゼリア(右側)という位置関係な。
それぞれの機体の後部座席に座り、バイクの2人乗り状態で運転手につかまっている感じだ。
こっちに笑顔で告げてきた女騎士さんは、途端に目を吊り上げて俺の前席へと怒声を飛ばす。
「── マーク!! 相手は子どもといえ、客人だぞ!」
「チッ……うるせえなっ」
すると、俺のつかまっている若い男性騎士は、先輩らしい女性騎士をにらみ返す。
「おいマーク!」
「うっせんだよクソ女、いちいち先輩面するな!
こんな老いぼれとガキを、いまさら必死に連れて行って、どうなるっていうんだ!」
「マーク、貴様っ
領主様のご命令に反する気か!」
「領主じゃねえ、代行だろうが!
それもっ、次期領主の! 代行ぉ!!
あんな帝都から来た貴族気取りのクソ女が、どれほどの者だっていうんだよ!」
……なんか、急に怒鳴り合いが始まる。
俺らみたいな少年少女の目の前で、大人気ないなぁ。
呆れため息。
「……あのぉ、なんか疲れて大変な時に、グチばっかり言ってすみません」
どうも、怒鳴り合いの原因を作ったのは俺っぽいので、少し反省して仲裁しようとする。
しかし、返ってきたのは、今にも人でも殺しそうな男の目つき。
「── い・い・か・らっ、黙ってろ!
この、クソガキがぁぁぁっ!!
お前を振り落とすなんて、簡単なんだぞ!」
マークとか呼ばれてた、俺の前の席のヤツが、ツバを飛ばすほど叫んできた。
(え、何?
急に、めっちゃ怒鳴ってくるじゃん?)
俺、なんかそんなに悪い事、言ったっけ?
確かに前世ニッポンの頃から、空気読めないとか、コミュ障とか、散々言われたけどさ。
「お荷物な小姓の分際で、オレら騎士に偉そうな口きいてんじゃねえ!!
魔物の森に落とされて死にたくなけりゃ、荷物みたいに固まってろ、カスっ
俺たちはなぁ、『剣帝』連れてこいって言われてるだけなんだ!
お前なんぞが途中で居なくなっても、誰も困りはしないんだぞ!
解ったら、動くなっ、しゃべるなっ、息もするなっ」
「……はい……」
あまりの剣幕に、肯くしかない、俺。
(なんだ、この状況……。
俺ら、頼まれて、<翡翠領>のピンチを助けに行ってんじゃねえの……?)
もうね、超うんざり。
!作者注釈!
クックックッ、悪いな。
シリアス展開は、もう終わりだ。
これからは、主人公の出番という暗黒時代が到来!
読者をギャグ空間に引きずり込めぇ!
(デデデ・デデデン♪(おどろおどろしいBGM))
銀色の刑事「くそぉっ、なんて卑劣なヤツだ!
このままでは読者が話のテンションの温度差で、風邪を引いてしまう!
みんな助かるために協力して、お気に入りボタンとか星マークとか、青鳥マークとか、片っ端から連打するんだ!!」




