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81:竜骸武装

翡翠領(グリンストン)>領主官邸の会議室で、幻像魔法の記録映像が流れ続ける。




── 3番目の映像は、夕暮れの頃。


魔物の大侵攻(モンスター・パレード)首魁(ボス)』は午後の5時間、休まず進み続けたのだろう。

さらに彼我(ひが)距離を縮めて、残り4kmほどの位置。


もはや望遠鏡のような道具や、遠見の魔法を使わなくても、首魁(ボス)の巨体が見えてくる。

遠くに豆粒ほどの姿が蠢いている。


巨大な殻を背負った、超巨大な虫型魔物。

体高40mという高層ビル並の巨体で、牛歩(ぎゅうほ)より遅く(あゆ)『蝸牛』(カタツムリ)

それこそが、『魔物の大侵攻(モンスター・パレード)首魁(ボス)』の正体だ。


さらに、脅威力5~6と見られる、大型魔物が数十匹。

超巨大魔物に追い立てられているのか、あるいは先触れか露払いを気取っているのか、一群となって先行している。


そして、空には、飛行種の魔物が黒雲のように群れている。

おこぼれを預かろうと、血の匂いに惹かれてきたのだろう、時折、街道に埋まった魔物の死骸を掘り起こして、死肉をついばんでいた。


人間にとって、文字通り『死と破滅の大行進(パレード)』だ。



そこへ、再度、3枚の刃が振るわれた。



── 『【主力法撃・三叉矛(トリアイナ)】っ、術式始動!』



魔導飛行艦の旗艦・冥府の翼(オルセイラ)

それは、<翡翠領>の切り札であり、帝都魔導三院が造り上げた、最新最強の魔導兵器。


やや前傾した直立体勢で、十本近い固定牽引(アンカー)と、6枚の帆布(セイル)のような翼で、姿勢を固定している。


『ゴォーン』と大鐘のような発動音で、魔法攻撃が放たれた。


まず、旗艦(それ)の口から、風の渦巻きが吐き出された。

そして、それは渦巻く水の激流に取って代わられる。

さらに、土砂、岩石が混じり、濁流の渦巻きが吐き出された。



土砂色の激流は、ウミヘビのように身を揺らし、4km先へとかぶりつく。

最新最強の魔導兵器の標的は、もちろん40m大の巨大蝸牛(カタツムリ)



── 無論、これで『首魁(ボス)を倒せる』なんて脳天気な考えの者は、騎士団の上層部には誰もいない。



第3の作戦の狙いは、首魁(ボス)以外の魔物を減らす事。

つまり、大型魔物や飛行種の魔物、小型陸鮫を、超威力の魔法で削り、首魁(ボス)との直接戦闘を少しでも有利にする前準備。



しかし、飛行種の魔物は、すぐに近くの森へ逃げ込み、雲散霧消(うんさんむしょう)



先行する大型魔物は、土の中に潜って退避したり、防御態勢を取ったりしてやり過ごす。



さらに、首魁(ボス)自体は、蝸牛(カタツムリ)らしく、背負う巨大な殻に身を隠す。



そして、直臣気取りで着いて回る小型陸鮫(サメ)の大群は、首魁(ボス)の殻の中や(かげ)に逃げ込んで、嵐のような魔法攻撃から逃れてしまう。



── つまり、切り札の魔導兵器は、魔物達にほとんど損害を与える事ができずに終わった。





▲ ▽ ▲ ▽



こうして幻像魔法の映像は、全て終了する。

会議室を薄暗くしていたカーテンが開けられ、日の出の光が室内を照らした。


女性司令官は、まぶしそうに目を細めながら、口を開く。



「さて、何か意見のある者はいないか?

 この非常時だ。

 今からは階級も肩書きも一切不問として、どんな意見でも質問でも、聞き入れよう」


「── なら、ひとつええか?」



会議室に響いた声は、意外な人物のもの。

そのため、出席者はどよめき、発言者は注目を浴びる。



「おお、『西方の神童コンビ』殿ではないかっ

 ご友人のお加減はいいのかね?」



女性司令官ロザリアも、思わず立ち上がる。

対して、会議室にいつの間にか潜り込んでいた青年魔剣士2人は、(ひざまづ)いて深々と頭をさげた。



「その前に、まずは礼を。

 ありがとうございました。

 ホンマ、おかげで助かりました。

 あの時は、薬品も医者も不足してたさかい、代行殿が戻ってきてくれてなかったら、今頃ベルタが命を落としていても、おかしくなかった状況やったんや」



<魄剣流>の天邪鬼(あまのじゃく)な天才魔剣士・神童ルカが、珍しく殊勝な態度で礼を述べた。



「うむ、おかげさまで、我が姉の容体は快調へ向かっている。

 代行殿には、なんとお礼を申し上げるべきか。 

 ── つまりは、感謝至極(しごく)!」



<轟剣流>の剛毅な巨漢の天才魔剣士・神童カルタは、感情に声を震わせながらも、実直に端的に礼を言った。


さらには、コンビを代表して、神童ルカはこう告げる。



「ワイは、また己の未熟で、親しい仲間を ── いや大事な女性(おなご)を、(うしな)うところやった。

 <(うら)御三家(ごさんけ)>の流儀(りゅうぎ)は、命の借りは命で返す。

 だからワイら2人の命、<翡翠領(グリンストン)>次期領主代行、ロザリア=ジェイドロード様にお預けする。

 好きに使ってや」


「それはありがたい。

 『西方の若き英雄』お二人が、我が指揮下に入っていただけるとは、頼もしい限りだっ」



ロザリアは、笑顔で肯くと、すぐに話題を変えた。



「ところで、神童ルカ殿。

 何か、先ほど意見があるようだったが?」


「ああ、簡単な質問や。

 ロザリア=ジェイドロード様は ──」


「── ルカ殿。

 今は非常時だ、ムダにかしこまるな。

 皆と同じように、『代行』でいい」



ルカの言葉半ばで、女性司令官は口を挟んだ。

次に口を開いたのは、巨漢の神童の方。



「では、代行殿にお尋ねする。

 貴女(きじょ)は『旧姓スカイソード』とお聞きしたが、相違(そうい)ないだろうか。

 ── つまりは、確認事項」


「ああ、間違いない。

 わたしロザリアの生家(せいか)は、魔剣士<(おもて)御三家(ごさんけ)>が筆頭、<天剣流>スカイソード家だ。

 それが何か?」



ロザリアが答えると、今度はルカが疑問をぶつける。



「なら、<天剣流>の奥義、あらゆる魔物を滅ぼす最強の魔法剣【天星四煌(スターライト)】は使わんのか?

 あれなら、あの巨体(デカブツ)も無傷とはいかんやろ。

 それとも、もう試したんかい?」



ロザリアは微苦笑して、小さく首を振る。



「……神童お二人とも、勘違いをされている。

 最強の魔法剣【天星四煌(スターライト)】は、あくまで<天剣流>の総本山スカイソード家が家宝。

 わたし個人の所有物ではないし、勝手に持ち歩けるような代物でもない。

 他家(たけ)に嫁入りした時点で、魔法剣【天星四煌(スターライト)】を秘めた宝剣『赤煌(しゃっこう)』は、ご当主にお返ししている」


「……なるほど、それなら仕方ない(しゃーない)な」



ルカは苦虫をかみつぶす表情。

ロザリアは、ついでとばかりに話を続ける。



「── これは完全に余談だが。

 1カ月ほど前なら、ここ<翡翠領(グリンストン)>に魔法剣【天星四煌(スターライト)】のひとつ、宝剣『紫煌(しこう)』が()ったんだ。

 わたしの(おい)が剣術修行がてら冒険者をしていて、身を寄せていたので。

 しかし、運命のいたずらか、士官学校に復学させるために、少し早めに実家に帰してしまった」


「入れ違いという言い方もアレやけど、そりゃまた運のないこっちゃ」



ルカは額に手を当てて、天を仰ぐ。

すると、今度は相棒のカルタが口を開いた。



「そうなれば、今度は<翡翠領(グリンストン)>領主家の秘宝の出番か。

 <終末の竜騎兵(ドラグーン)>の死骸(むくろ)より造り出された<竜骸武装(りゅうがいぶそう)>こそが、頼みの(つな)

 ── つまりは、代替(だいたい)手段!」


「ほほう……。

 神童カルタ殿は、思いがけず博識なのだな。

 それは<翡翠領(グリンストン)>領主家でも一部の者しか知らない、秘伝なのだが?」



途端に、ロザリアの瞳が鋭く細められた。





▲ ▽ ▲ ▽



神童ルカは、細目を大きく見開いた驚きの表情で、自分の相方に問い詰める。



「おい相棒っ、<竜骸武装(りゅうがいぶそう)>やと!

 しかも、<終末の竜騎兵(ドラグーン)>を素材とした!?

 おいおい、そんな超絶武具(ケッタイなモン)が<翡翠領(ここ)>にあるんかいっ!!」


「うむ。以前に<聖都>(センダード)<聖女>(サンクト・シーコ)様に現物(それ)を拝見させていただいた時に、伝え聞いた話だ。

 今より百と数十年前に、かの現世の地獄『巨人の(ジャイアント)箱庭』(・ガーデン)から1体の<終末の竜騎兵(ドラグーン)>が迷い出て、<翡翠領(グリンストン)>領内を荒らし回った。

 多大な犠牲を払って魔物(それ)を討ち取った後、鱗と爪を剥ぎ取り、3対の大盾と長槍が造られたのだと。

 1対は帝室へ献上、1対は<聖都>(センダード)へ寄贈、そして最後の1対は今も<翡翠領(グリンストン)>領主家が保管している、と」



巨漢の神童・カルタは、重々しく言葉を発する。

すると、周囲の<翡翠領(グリンストン)>重臣達も初耳だったのか、静まりかえっていた会議室が、一気にざわめきに満ちて騒がしくなる。



「なるほどな……。

 貴殿らお二人は『西方の若き英雄』として、聖教上層部の信任も厚いとは聞いていたが。

 まさか<聖女>(サンクト・シーコ)殿下に、この秘事を明かされる程とは、な」



女性司令官は、参ったと、両手を広げて天を仰ぐ。


神童ルカは、少し傷ついた表情で、相棒に詰め寄る。



「どういう事や……ワイは、しらんかったで?」


「ルカよ、その方が<聖女>(サンクト・シーコ)様の呼び出しを、面倒だとか言って仮病で欠席した()りの話だ。

 ちなみに言えば、聖教の幹部連中もウソだと見抜いておったし、<聖女>(サンクト・シーコ)様も『聖教においても口外厳禁の秘事なので、コンビの片方でも知っていれば十分』との事をおっしゃっていた。

 ── つまりは、自業自得」



そんなコンビのやり取りに、ロザリアの側近の老齢の女軍人が、ため息まじりに口を開く。



「……なんというか。

 老婆心ながら忠告しますが、神童ルカ殿は、少し行いを改めた方が良いかもしれませんね?」


「うぅ……っ

 ── ま、まあ、なんや、そんな超絶武具(ケッタイなモン)があるなら、まずは安心やな?」



すると、ロザリアが首を振って否定する。



「── いや、神童ルカ殿、ないぞ。

 少なくとも、現在わたしの手元には、その<竜骸武装(りゅうがいぶそう)>はない」


「なんやて?」


「こういう事を言うのは恥だが、貴族の悪いクセなんだ。

 貴殿らも、貴族連中が、金に物を言わせて<聖霊銀(ミスリル)>や<錬星金(オリハルコン)>といった希少金属を買いあさり、そのくせ造った高級装備をロクに使いもせず、さらには死蔵して『()(ぐさ)れ』にしている事は知ってるな?」



ロザリアは神童2人が肯くのを見て、話を続ける。



「我が翡翠領主家(ジェイドロード家)も、恥ずかしながら、似たような状況なんだ。

 せっかくの切り札と成り得る<竜骸武装(りゅうがいぶそう)>だが、バカげた事に、正規手段で持ち出そうとしたら1カ月以上も時間がかかる。

 諸々の手続き無視して、強引に取り出そうにも、1週間から10日ほどはかかる。

 盗難防止としても、明らかにやり過ぎ(・・・・)な防犯措置が(ほどこ)されているせいでね」


「なんやそれ……

 もしかして、地中深くにでも埋めて、その上に屋敷でも建てとんのかい?」


「我が家の秘事だ、返答から推測されても困る。

 だから、その例え話には、否定も肯定もしない」



ロザリアは、ルカの茶化すような言葉にも、頑なな口調で答えた。


神童ルカは、当てが外れたと、失意のため息。



「ハァ~……っ、まあ、ええわ。

 しかし、そうなると、打つ手が限られるなぁ」


「全くだ。

 この剣帝流の秘伝の『斬鉄の魔法剣』で、どこまで通用するものか」



相棒のカルタが、厳つい指にはめた指輪型<魔導具>(マジック・アイテム)を示す。

ルカも、自分の指にはまったツタを巻き付けたような、風変わりな指輪に目を落とす。



「まあ、こいつのお陰で<魔導鋼(マグサロイ)>が<聖霊銀(ミスリル)>級の切れ味になるからな。

 それなら理論上、<聖霊銀(ミスリル)>の武器を用意して(こさえて)もらえば、<錬星金(オリハルコン)>か<朱宝(しゅほう)>級になるはずや」


「まあ、<竜骸武装(りゅうがいぶそう)>の代替としては、少し心許(こころもと)ないが、ないよりマシ……。

 いや、こうなっては最後の頼りか。

 むしろ、今こうして我らの手元にあるのが、僥倖(ぎょうこう)とも言えよう。

 ── つまりは、大海(たいかい)木片(もくへん)



神童コンビのそんな身内話に、女性司令官は顔を引きつらせる。



「── おい……ちょっと待て!

 待ってくれ、神童のお二人。

 今、何か、おかしな事を言わなかったか?」




▲ ▽ ▲ ▽



「『剣帝流の秘伝』?

 『斬鉄の魔法剣』?

 『<魔導鋼(マグサロイ)>が<聖霊銀(ミスリル)>級の切れ味になる』?

 なんだそれは、何か、西方特有の冗談か何かかね?」



翡翠領(グリンストン)>次期領主代行ロザリアは、おかしな事を言うな、という乾いた笑い。


それを見て、神童コンビは苦笑いを浮かべる。

説明するのが面倒だ、と表情に書いてある程だ。



「あ~……代行殿は、まだ知らんかったんか?」


「我々、剣帝流とは縁があり、特殊な<魔導具>(マジック・アイテム)を譲り受けている。

 ── つまりは、切り札!」


「よし解った!

 それを買い取ろう!

 金貨1000枚、いや、お2人分で金貨3000枚出そう!

 急いで魔導師たちに解析させて、可能な限り複製の量産を、そうだ領都内の魔法技工士(マジッククラフター)にも動員を ──」



ロザリアは、神童コンビの表情に ── 特に朴訥な人格のカルタの方に ── (うそ)(いつわ)りの様子がないと見極めると、すぐに交渉を開始する。


そんな即決即断っぷりというか、見切り発車というか、すさまじい行動力にルカすら呆れ気味。



「── いやいや、待ちいや、代行殿。

 それにはおよばんて」


「なんだ?

 ああ、そうか、武装の質が下がるのが懸念か!

 よし、ついでに、<錬星金(オリハルコン)>製の剣を貸与しよう!

 どうせ、現領主の義父(ちち)の腰の飾りにしかならない、無用の宝剣だ!

 存分に使い潰してくれて構わんぞ!」


「いやいや、待たれよ、代行殿。

 貴女(きじょ)も、少々、早とちりが過ぎる。

 ── つまりは、心配無用!」



神童カルタも、暴走じみた直情径行を、慌てて止めに入る。

ルカの方は、面倒そうな顔で、徐々に態度を崩し始める。



「せやで。

 アンタの部下も何人も(ぎょうさん)持っとる。

 わざわざ、ワイらから買い取る必要もないで?」


「── は……?

 わたしの部下が、剣帝流の<魔導具>(マジック・アイテム)を所持している、だと……?」



意表を突かれたロザリアの声は、どこかかすれたような声色。



「ああ、<轟剣流>分派道場の連中がおるやろ?

 そいつらが同じ(モン)を持っとるさかい」



ルカは、会議室の中を見渡し、見知った顔の小隊長格の何人かを指差しながら告げる。

しかし、ロザリアは疑念の声。



「<轟剣流>分派道場……ユニチェリーか?

 しかし、<轟剣ユニチェリー流>なら昨日も道場主と顔合わせしたが、その時は何もそのような事を言ってなかったぞ?」


「そりゃ、まあ、なぁ……

 あの道場主も、説明せい言われても、困るやろ。

 ワイも聞かれたら、説明を投げ出したくなる程、意味不明な状況やし」



── 魔剣士になれんかった剣帝さんの落ちこぼれ弟子の方が、かつて道場破りで全滅させたユニチェリー道場の助っ人として決闘に参加して、ワイこと<魄剣流>の若き天才・神童ルカをボコボコにした後で、そこに居合わせた全員に秘伝魔法の指輪をくれたんや。



神童ルカは、一瞬そう言いかけて、やっぱり止める。

誰が聞いても絶対に信じない事実が、あまりに山盛り過ぎた。


ロザリア、苦い薬を無理矢理飲み込んだような渋面で、言われた言葉を反復する。



「ともかく『わたしの部下のユニチェリー道場の者が、剣帝流の<魔導具>(マジック・アイテム)を所持している』、と……?」


「そやで?」


「つまり……その部下達も、その『剣帝流の秘伝』を譲り受けたという事か?

 神童お二人と、同じように……?」


「うむ、その通り!」


「しかもそれは、『<魔導鋼(マグサロイ)>が<聖霊銀(ミスリル)>級の切れ味になる』という異常な性能の魔法剣!?」


「せやなぁ。

 なんなんやろな、あのアホみたいな性能の魔法剣」


「待て待て、なんだそれは!

 何も納得が出来んぞ!

 これはアレか!?

 わたしが徹夜明けで、頭が働いていないせいか!?」



ロザリアは、ついに頭を抱えた。

目の下に浮かぶ濃い(くま)と、眉間に刻まれた深い(しわ)は、心痛の表れだろう。



「うむ、我々も、そのお気持ちは理解できる。

 ── つまりは、困惑必至っ」



カルタは、同情の目を向けて、鼻から大きく息を吐く。



「いやいや、一から十まで話がおかしいっ

 だいたい、そんな魔法剣、前代未聞だろ!?

 剣帝は、『五行剣』を編み出しただけでも、歴史に名を残すのに、さらにこんな物まで造り上げたのか!

 あの老人ひとりで、魔剣士の歴史をいくつ塗り替えるつもりだ!?」


「いや、こっちは弟子の方が創ったんやと」



ルカが一応の訂正を入れると、ロザリアが勢いよく顔を上げた。



「はぁっ!?

 剣帝の後継者アゼリア=ミラーが!?

 いくら<御三家>が<封剣流>の秘蔵っ子だからって、そんな魔導の才覚があるなんて、聞いてないぞっ

 いや、そもそも、父親が不明かっ

 もしや、あの少女は、<四彩の姓>直系の隠し子だったりするのか!?」



ロザリアの発言に、ルカも自分の過去の言葉を思い出したのか、苦笑い。

そして、自棄(ヤケ)を起こしたような軽薄な笑い声で、真実を告げる。



「ハッハッハッ、それは違うで?

 アレを創ったのは、<封剣流>のお姫様やない。

 なんと、聞いて驚けっ!

 剣帝さんの落ちこぼれ弟子、兄弟子の方や!!」


「── うそつくなぁ~~!」



脳の処理を超える混沌(カオス)に、ロザリアは円卓をバンバンと叩いた。


そこに、生真面目な方の神童、カルタが神妙な顔で言葉を添える。



「しかし、これは全て(うそ)(いつわ)りない事。

 (うたが)われるなら、聖教の神に誓っても構わない。

 ── つまりは、真実(しんじつ)宣言(せんげん)


「いや、いい……

 この状況下で、神童のお二人が嘘やまやかしを言う理由もないと理解できる……」



思わず立ち上がっていたロザリアが、ずっしりと座り込み、背もたれに倒れかかった。

そして、また頭を抱え、手元の書類に何か落書きをしながら、疲れた顔でブツブツと独り言を漏らす。



「── いや、しかし、一体、何がどうなれば、そんな事に……いや、そもそも、なんなんだ、その魔法剣は……どんな術式ならそんな性能が……しかもそんな物を、外部の者に譲り渡す……いかん、まるで理解ができん……神童コンビならともかく、何故わたしの部下まで……意味がわからん……ああ、頭がおかしくなりそうだ……」



わずかな時間で、随分と精神が参ってしまった様子。

いや、この都市の命運を分けるという、切羽詰まっていた状況で積み重なったストレスが、ついに限界に達したのだろうか。


そう気遣いをした神童カルタは、隣の相棒に、そっと囁きかけた。



「ルカよ……代行殿は、大変困惑のご様子。

 これ以上、混乱の元になる発言は控えるべきと思う。

 ── つまりは、買い取り金額」


「ああ、『金貨1枚とかタダ同然(・・・・)で叩き売り』とか聞いたら、ひっくり返りそうやな。

 ── しかし、あの愚鈍(しょうたれ)、やっぱおかしいわ……」




▲ ▽ ▲ ▽



そんな混沌(カオス)な状況を立て直すように、会議室の扉がノックされた。

すぐに代行の側近の1人が、用件を聞きに廊下に出ていった。


そして、血相を変えて戻ってくる。



「ロザリア様、帝都から来た商人がお目に掛かりたいと」


「なんだ、それは。

 後にしろ、今は火急の事態だ、1分の時間すらおしい……」



精神的に疲れきった主人は、ぞんざいに片手を振って、拒絶の意。

しかし、側近は食い下がる。



「いや、それが……

 その商人は、是非に武器を献上したいとっ

 しかも、それは<竜骸武装(りゅうがいぶそう)>であると!」


「はぁ! <竜骸武装(りゅうがいぶそう)>だと!?」



思いがけない言葉に、ふたたび会議室はざわめいた。


!作者注釈!

次回まで、グダグダ会議パートが続きそうです。

すまんの。



~~ 以下、本編に入りきらないこぼれ話 ~~



匿名希望さん「ルカ様にぃ~♪ 大事って言われた♪ 大事な女性(おなご)って♪」


ナースさん「コラァ~! そこのケガ人、病室でスキップなんぞすんな! 傷口ひらいてぶっ倒れるぞ、お前!!」


匿名希望さん「大事な女性(おなご)って♪ 大事な女性(おなご)って! きゃぁぁぁ~~~!!」


ナースさん「わたしがキャー言いたいわい、このボケ患者、頭わいてんのか!?」


匿名希望さん「はっ! そうだわ! <聖都>(センダード)の友達に、連絡しないと!

 『いぇ~い、ルカ様ファンクラブ会員のみんな見てる~? わたしベルタはぁ、ついにぃ、ルカ様とぉ! ベッドインしちゃいま~すぅ! 負け犬の皆さん残念でした~!!』と……」


ナースさん「オメーが今からベッドインすんのは、隔離病棟だよ、色ボケ女!! 他の患者の迷惑になるから暴れんなや!!」


患者の身内「…………あ、姉上……」


ナースさん「おい、そこのデカブツ! お前の身内だろ、コレ! どうにかしやがれっ」

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