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74:お兄ちゃんは心配性

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




ウチのジジイ発案の『魔物の大侵攻(モンスター・パレード)から近くの村を助けようツアー』も7日目。

ほぼほぼ、終盤。

当初の予定なら、最終日。


とはいえ、魔物の群れとは、相変わらずあちこちで遭遇戦(エンカウント)する。


広大な<ラピス山地>に棲む魔物が、人里へ殺到(さっとう)しているだけでも相当な頭数なのに。

さらに、先日の『白イタチ』みたいに、さらに奥地である<アルビオン山脈>に棲んでいる魔物までもが、人里近くまで来ているとすれば、とんでもない大群(たいぐん)だ。


魔物の総数は、千や万どころか、百万匹くらい居てもおかしくはない。

いくら、倒しても倒しても、なかなか頭数が減らなくても、仕方ないワケだ。



「今回は水辺の魔物か。

 ── リアちゃん、ゴー!」


「わかりましたの、お兄様っ

 いっぱいズバババーンッしますのよぉ!」



妹弟子(アゼリア)が、その身に秘めた莫大な魔力量に物を言わせて、雷撃魔法と氷弾魔法を広範囲化(×MP5倍)して乱れ打ち。


成猫(ネコ)サイズの、エビだかザリガニだかという形をした、水棲の虫型魔物の群れが弾け飛ぶ。

雷撃くらった虫型魔物から煙があがると、ちょっと香ばしい匂いがプ~ンと漂った。



(あぁ、エビセンが食いたくなる、いい(にお)い……

 コンビニで売ってる『()められない()まらない』のヤツでいいからっ)



そして、ソイツら目当てに河川から横歩きで出てくる、軽自動車くらいの巨大カニの群れ。



「いくぜ、オラー!」


「ちょっと、ロック君!?

 いくら強くても、単身(ひとり)は危ないってばっ」



そんな過激格好(イケナイ)()女僧侶(ルーナ)センセの忠告は聞き流し、巨大カニの群れに強襲突撃。



「ぬおおおお、一瞬千撃(いっしゅんせんげき)!」



魄剣(はくけん)流>秘伝の歩法で、地面を滑るように移動し ──

剣撃加速(スピードアップ)のオリジナル魔法【仮称・嵐】で、回転の勢いを加速し ──

斬撃の線を一筆書(ひとふでが)きの要領でつなげていき ──

一撃(ひとたち)ごとに右・左・右・左と諸刃を返しながら ──


── 群れをすり抜けながら、ひと呼吸で斬り捨てた。



模造剣(ラセツ丸)を納剣して、仁王立ち。

はい、決め台詞!



(てん)!」



ドシャドシャドシャ……ッ、と巨大ガニ計七匹が、一斉に崩れ落ちる。



なお、今回は【()ち】の強化版であるチェーンソー風の魔法付与(エンチャント)【序の一段目:()き】を使用した、いわば『真・しゅんご ── ミス、『真・ゼロ三日月・天』の試し撃ちだったりする。


この前、<轟剣流>分派連中からの発注で、【序の一段目:()ち】の<魔導具>(マジックアイテム)指輪を大量作成した時に、片手間で【()き】の自動生成オリジナル魔法とか作ってたのを思い出した。

それを、連続発動版に改造して、魔法付与(エンチャント)を自動化したワケだ。



おかげで太刀筋だけに集中できる。

俺の『必殺技』最大のメリットが、それ(・・)だったりする。


脳の処理能力を、空ける事ができる。

つまり、細かい事は魔法に(まか)せた半自動化で『他の事に集中できる』という利点(メリット)





▲ ▽ ▲ ▽



人間ってのは意外に、毎日通う通学路・通勤路を歩いている時でも、結構脳ミソを使っているものなのだ。

肉体の制御ってのは自覚している以上に、脳の処理能力を占領している。


徹夜続きでヘロヘロになると、ハミガキくらいの毎日の習慣すらマトモにできなくなるので、それがよく解る。



また、『練習では何回も出来てた事が、本番だと緊張して失敗する』という事は、誰しも経験があると思う。

心理負荷(ストレス)は、さらに脳の処理能力を圧迫して、ミスを誘発する。



そういうのは結局、『脳の処理能力』不足が原因だ。



(前世ニッポンのPC(パソコン)に例えると ──

 ── 『ウイルス対策ソフトが反応したらPC(パソコン)が異常に遅くなる』みたいな感じかな?)



魔法を自力発動できる魔剣士が少ないのは、この『脳の処理能力』不足が理由だったりする。

身体強化された肉体の制御で精一杯、とても他の事まで『脳が回らない』ワケだ。


さらに、身体強化魔法なんてクソややこしい術式を自力発動する魔剣士なんて、ウチのジジイ以外はほぼ皆無らしい。

なので、腕輪の<魔導具>(マジックアイテム)が魔剣士の象徴(シンボル)になるのも当然なワケだ。



魔法使いの本職でも、戦闘で<魔導具>(マジックアイテム)を使うのも、同じ理由だろう。

魔法発動を機巧(ギミック)(まか)せにする事で、魔法の発動失敗が激減するし、戦闘状況をじっくり観察できて、後方支援に集中できるワケだ。



── つまり、<魔導具>(マジックアイテム)とは『魔法なんてややこしい物は、機巧(ギミック)(まか)せて自動化させてしまおう』という、この異世界による技術的進歩であり、技能的堕落の結果。



── 俺の『必殺技』は、<魔導具(それ)>とは真逆。

つまり『脳の処理能力は魔法の自力発動に全振りして、肉体は魔法で半自動的に動かして貰えばいいじゃん?』という事。



(まあ、正確に言うと、順番が逆だけど……)



この異世界で格闘ゲームの『必殺技』を再現すると『決まった動きを繰り返す魔法』になってしまった。

仕方なく、その『動作の再現魔法』を()かすように戦術を組み立てたら、こう(・・)なってしまった ──



(── どっちかというと、そういう感じだけどね?)





▲ ▽ ▲ ▽



そんな事をポツポツ考えながら、『(仮称)真・ゼロ三日月・天』の試し撃ちを繰り返す。

もう40~50匹は、軽く斬ったか。


先鋭化(ブラッシュアップ)のため、ちょっとずつ改良しながらの実践調整中なワケだ。



『真・ゼロ三日月・天』

(※ 格闘ゲームなら [P]・[P]・←+[P]・[K] ── と言いたい所だが……)



(……しかしこれ、正直まだ『竜●乱舞』のレベルなんだよなぁ……)



多分、『瞬▲殺』の画面暗転は『目にも止まらない一瞬で行われている』という事を隠喩(いんゆ)した演出だと思う。

つまり、ゲームの演出上『数秒かかっているように見える』だけで、本当は『(まばた)きの一瞬で完了している』というシーン表現なワケだ。



その本来(・・)の姿は、アゼリアの『秘剣・木枯(アルティ):四ノ太刀(メット)・四電(奥義)』みたいに、本当の一瞬(0.05秒とか)で完結。

しかも、数十発叩き込み、同時に体内に『殺意の■動』を浸透させた内部破壊で、1発1発を数十倍の威力に高める。


数十発 × 数十倍 = 約千発分の威力(一瞬(0.05秒)で完了)


それが、おそらく『一瞬千撃』の本来の姿。



「チィ……ッ、全然ダメだなっ

 こんなの全く『一瞬千撃』じゃねえよ。

 ゲージ3本なんて使わない、ただ普通の乱舞コマンドが精々だろっ」



ちょっと浮かれていた自分を、厳しく戒める。


この程度なんか、全然だ。

最強の技なんて、とても言えない。

多分、剣帝(ジジイ)ならまだ何とか対応してくるレベル。

それなら『誰が相手でも妹弟子(アゼリア)を守れる(キリッ)』なんて断言できない。



(だったら、『俺が前世で憧れた究極奥義(一瞬千撃)だ』なんて、口が裂けても言えねーなっ)



というワケで、『真』とか『天』とか『神人』とか、いったん全部お預け ──


『ゼロ三日月・乱舞』

(※ 格闘ゲームなら ↓↘→↘↓↙←+ [P][K]

 突進からの乱舞技、敵多数巻き込み可)


── という形になりました。



(理想までは、まだまだ遠いなぁ……)





▲ ▽ ▲ ▽



「ううぅ……なんで男の子なのに、女の私より可愛いの……?

 ううぅ……なんで魔剣士じゃないのに、魔剣士のわたしより強いの……?

 わたし『四環許(よんかんゆる)し』なんだけど、『女僧侶(シスター)()めて、<玉剣流(ウチの)>道場で師範代しない?』とか誘われたくらい優秀なんだけど……っ

 『本村(うち)』の伝統武術派の人にも一目置かれてる、エリート魔剣士さんなんだけど……っ

 しかもあの子、全然とか、まだまだとか、修行不足みたいな厳しい事を言ってるし……っ

 り、理不尽……理不尽……理不尽すぎるぅっ」



なんかエッチな格好の女僧侶な魔剣士さんが、長柄斧(ポールアックス)みたいなのをブンブン振り回しながら、何か言ってるみたいだが……



(遠くて、あんまりよく聞こえんな。

 何を言っているか、唇を読んだ方が早いかな?)



そんな事を考えて、ルーナさんの方に目を向ける。

と、さらにその向こうに、素早く動く老白髪が目に入った。



「── お、ジジイが空飛んでる?」



珍しい。

腰痛のせいで最近やらなくなった技、を使ってる。



具体的に言うと、俺の必殺技【秘剣・速翼(はやぶさ)参ノ太刀(さんのたち)水深(みさご)】の原型になった技。



どうも、<外骨河馬(ロックイーター)>の空中流水スライダー攻撃をかわして、反撃に入ったらしい。

ジジイ独自作成(オリジナル)の身体強化魔法【五行剣:(みず)】を発動させて、<外骨河馬(ロックイーター)>の流水スライダーを逆に利用してるんだろう。

ななめの水面(・・・・・・)を駆け上がって、その勢いで大ジャンプ。


さらに、何もない空を(・・・・・・)蹴って(・・・)、急反転。

空中スライダーしている小型観光バスくらいのカバを目がけ、(きり)もみ落下の刺突攻撃。



── ズドォン! と勢い余って魔物が地面に叩き付けられる。



「ふん、【氷柱弾(アイシクル)】!」



ジジイが、突き刺した剣の先から、魔法を発射。

つまり、魔物の体内で氷結系魔法を発動させたワケだ。


デカくて丈夫な魔物は、心臓を貫いて殺した後も、しばらく暴れる事があるらしい。

なので、(とど)めの後の『追い打ち』をしているんだろう。


氷結魔法で体内を凍らせると、暴れても動きが鈍いらしいし。



なお、さっきのジジイの技、技名は『なし』だ。

つまり、剣の達人(ジジイ)にとって、技と呼ぶもおこがましい、普通の攻撃。

ただの『通常攻撃』。



(俺とか、【秘剣・速翼(はやぶさ)参ノ太刀(さんのたち)水深(みさご)】とか、長たらしい名前つけてんだけど?)



あんなムチャクチャな動き、当流派(ウチ)超天才児(リアちゃん)だって、まだムリなのに。


つーか、あの<外骨河馬(マモノ)>、リアちゃんと金髪貴公子(ヒョロいイケメン)という、<御三家>の天才児2人がかりで結構時間かけて倒したんだが。


ジジイにかかると、一撃で即殺かよ。

しかも、『無名の通常攻撃』で。



「うん、やっぱウチのジジイ、バケモンだな……

 俺も、もっと頑張らないとっ」



こんな最弱な兄弟子(にいちゃん)なのに、最強美少女リアちゃんが守れるか、とっても心配!



「いや、いやいやいや……

 君も十分おかしいから……

 もう、それ以上がんばらなくても、十分だから……

 お願いだから、これ以上、お姉さんの自信喪失させないで?」



いつの間にか近くに来ていたルーナさんに、急に変な事を言われた。



(……これは、いかんな……っ)



正直、水着風鎧(エロゲ)な格好のスラッと美人なお姉さんが半泣きとか、ちょっとエロくてドキドキします。


俺だって、身体は思春期だもん!



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