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70/218

70:一瞬千撃

!作者注釈!


この作品にはオマージュ要素が含まれています


わたしルーナ=サンダースは、ちょっと油断していたのかもしれない。



「へ! ひゃっ」


「なんだっ!?」



何の前触れもなく、荷車がひっくり返された。

御者さんと2人放り出され、砂利道を転がり、立ち上がる。



(突風にあおられた?

 ── いや、ケモノ臭い(・・・・・)(にお)いがっ

 まさか、魔法で透明になる魔物だっていうの!?)



わたしたち人間をひと呑みに出来るような魔物が、透明になって襲ってくる!?

そんな、わたし自身の脳裏に浮かんだ仮説に、ゾッとする。



「これが、おじいさん達が言っていた、(ひそ)んでいた魔物なの……!?」



四環(上級)>の身体強化魔法が発動しているのに、何の対応もできなかった。

平服を脱いで戦闘衣になる暇も無いくらい。



── ケケケッ!

── ケケケッ!

── ケケケッ!



周囲から、まるでこちらを小馬鹿にするような、鳴き声が聞こえる。

それなのに、姿はまるで見えない。



(こんなの、対処のしようがないじゃない……っ)



わたしは、思わず下唇を噛みしめる。

とにかく、<玉剣(ぎょくけん)流>の双斧(そうふ)を拾い上げて、すぐに構えた。



(さっきの虫型魔物みたいな、脅威力1とか2とかの、低級の魔物じゃないんだ……っ

 だったら、この魔物は脅威力3っ!?)



近づけば解るのかとも思っていたが、魔物の透明化の幻像魔術は、相当な高性能。

本当にどこに居るのか、見当さえ付かない。

気迫を込めて、周囲を威嚇(いかく)するのが精一杯だ。



(一応わたしも<四環許し(上級の魔剣士)>だけど……

 とても、単身(ひとり)で戦えるような魔物じゃないっ

 熟練の冒険者パーティが何チームも共同で、数十人の頭数を集めて討伐するような、危険な魔物なんだ……!)



脅威力3どころか脅威力4 ──

── いや、群れの連携を見れば、脅威力5に近いのかもしれない。


遠目には、簡単に倒しているようだったので、気を抜いてしまっていた。


あの魔剣士のおじいさん、さすがは噂に聞く『剣帝』様。

『魔剣士にとっての皇帝(ちょうてん)』なんて、『本来なら(・・・・)有り得ない(・・・・・)称号』で呼ばれるだけある。



「── うわぁ、なんだ!? たすけてっ」



御者のお兄さんが、空中につまみ(・・・)上げ(・・)られる(・・・)

見えない巨人でもいるみたいな、不思議な光景だ。


しかし、助けようにも、魔物の姿が見えない事には攻撃のしようもない。


下手に近づけば、逆にこちらがやられてしまう。



「おい、早く助けてくれっ」


「ま、まって、暴れないでっ」



とは言っても、どうしたら良いか解らない。


わたしが、オロオロしていると、何かが飛んできた。

鋼鉄製の剛弓(ごうきゅう)から、凄い勢いで矢が放たれた ── そう思うほどのスピードで。



「【秘剣・速翼(はやぶさ)】!」



シュパン!と鋭い風斬り音。

途端に、首のない魔物が、血をまき散らしながら姿を現す。



「うわぁっ な、なんだ! なんなんだ!」


「やっぱり魔物なのね!?

 でも、姿が見えないから、どうしたらっ」



わたしは、魔物から解放され尻餅をついた男の人を守るように、双斧を構える。

そして、改めてピンチの救い手の方に目を向ける。


短い剣を振って獣血を払っているのは、白い魔導師の服の子。

黒い髪を、たなびく尻尾のような一本結びにしている、落ち着いた感じの女の子(・・・)



(えぇっ、銀髪の妹さんじゃなくて、黒髪のお姉さんの方!?

 どう見ても『魔剣士じゃない子』が、こんなに簡単に、魔物を倒しちゃうの!?)



あんな、使いづらそうな短い剣なのに、簡単に魔物の首を切り落としてしまったらしい。


そんな驚くほどの、鮮烈な一撃。

すごい腕前だ、剣術も、飛翔魔法も。



(……もしかして。

 この黒髪の子って、わたしより強かったり?)



そんな、ちょっとお間抜けな疑念が頭に浮かんだ。

もちろん、わたしが聖教の女僧侶(シスター)修行のついでに護身術で習っただけの、『半端者の魔剣士』だとしても、一般人(魔剣士以外)に負ける訳ないんだけど。



(もっとしっかり、魔剣士の修行をしておけばよかった……っ)



<聖都>(センダード)で指導してくれた<玉剣(ぎょくけん)流>師範なら、気配だけで魔物を(とら)えるんだろな、と考えてしまう。


生憎、わたしはそんな達人じゃない。

それが今は、悔やまれる。



(わたしも、<ラピス山地>の(ふもと)に生まれ育ったんだから、魔物の恐ろしさは解っていたはずだったのにぃ……っ)



── ケケケッ!

── ケケケッ!

── ケケケッ!



姿を透明にした魔物達は、荷車と私達の周囲を跳ね回り、逃がさない様に威嚇(いかく)している。

少なくとも、跳ね回る事で舞い上がる砂埃(すなぼこり)で、その辺りにいる事だけは解った。



(── どうしよう!?

 魔剣士のおじいさん達が戻ってくるまで、どのくらいかかるかな?

 それまで、黒髪の子と一緒に頑張れるかなっ?)



そんな事を考えていると、フラフラと黒髪の子が前に出た。



「── あぁ……そうか……」



黒髪の子は、ひどくボンヤリとした、心ここにあらずな声。

<小剣>(ショート)を、パチン……ッと鞘に(おさ)めて、夢遊病のように歩き始める。



(── マズい!

 多分この子、さっき飛翔魔法で魔力が尽きた!?

 ムリしてまで、わたしたちを助けてくれたんだっ)



意識朦朧(もうろう)として、判断力が落ちているんだろう。

酔っ払いのように、足下も定まらない様子だ。



「おい、ちょっと……っ」



御者のお兄さんの声にも、振り返らず。



「あ、あぶないわよっ」



わたしが思わず伸ばした手からも、黒髪の子はすり抜けて行く。



── ケケケッ!

── ケケケッ!

── ケケケッ!



(最悪だ!

 この子、魔物に目を付けられた!)



黒髪の女の子(・・・)へ向けて、魔物達が一斉に襲ってきた。

透明化の魔法を解除して、代わりに氷魔法で鎧や爪や角を造りだす。


白い魔物は、荷車よりやや小さいくらいの体高(たいこう)で、群れていると迫力も一層だ。



わたしは、助けるつもりだった ──

── 少なくとも、そう思って飛び出したはずだった。



「── ひぃ……っ」



だが、一瞬だけ、白い魔物に気圧されてしまった……っ

簡単に、足が止まってしまった。



── その、残忍な笑い顔からのぞく、鋭い牙に。

── その、膨大な魔力で創り出した、頑強な氷装甲の威容に。



一瞬の、出遅れ。

致命的な、遅れ。



6匹の、氷武装の白い魔物。

身軽に跳ね回り、包囲して、殺到する。


まるで、小規模な雪崩(なだれ)だ。

それら(・・・)が、黒髪の子を覆い隠すように、次々と飛びかかる。


どういう訳か、黒髪の子は吸い込まれるように、そっちに向かって走って行った。



「あぁ……っ」



わたしは、もうダメだ、と諦めた。


だって、子供が白雪の崩落に巻き込まれるような、そんな光景なんだから。

もう、打つ手はない。





そんなわたしの勝手な判断を、全く否定するように ──

── シュバババババン! と風を微塵(みじん)に斬り裂くような、すさまじい撃剣の音。





白い魔物の群れが、一斉に崩れ落ちた(・・・・・)



「え……?」



一瞬で鮮血が舞い、バラバラバラっと小雨のように砂利道に降る。



(は? え? 今、いったい何が……?)



── 凶悪な氷武装の巨体(マモノ)が。

── あの、脅威力5かもしれない、化け物の群れが。

── 全て死体の山に、変わって、い、……る?



(── は、はいぃ~っ!?

 え、ちょっと! いったい何これぇっ!

 まさか、この子が、倒したって事ぉぉおっ?)



一瞬、そう思うが、わたしはすぐに否定する。



(いやいや、有り得ないって!

 この子、『魔剣士じゃない(・・・・)子』なんだから!

 いくら剣術と魔法が(すご)くても、そんなの(・・・・)、有り得ないってぇ!)



(そりゃあ、『本村』(ウチのムラ)の伝統武術とかも、基本的に魔力とか関係ない感じなんで、どうして『強い』か解らない人もいるけど!

 例えば、最近、村に居着(いつ)いた『楽士(がくし)のリュートさん』とか、何をやっているのか本当に意味不明なくらいだけどぉ!)



(その『リュートさん』でも、こんなムチャクチャな事、絶対出来ないからぁっ)



(そもそも、魔物の胴体を真っ二つ(・・・・)とか、どう考えてもおかしいよっ

 『あんな(・・・)短い剣(・・・)』で斬れる厚さ(・・)じゃないってぇ!)



正直わたし、混乱しすぎて、頭が痛い。

強いお酒を呑んだみたいに、目も回ってきた。


魔物の毒にやられて、幻覚を見ていると言われても、信じてしまいそうなくらい。



だから、多分、御者のお兄さんもそんな感じなんだと思う。



「…………あ…………え?

 ……なん、だ……今の……?」



そんな、御者のお兄さんの疑問に、答えるかのように。



「これぞ、我が『一瞬千撃(いっしゅんせんげき)』!

 しゅんご ── いや、【ゼロ三日月(みかづき)】! 『(てん)』!!」



黒髪の子が、背を向けて(・・・・・)仁王立ち(・・・・)しながら(・・・・)、何か不思議な事を言っていた。





▲ ▽ ▲ ▽



俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




♪テンテレンテレン トゥルリラトゥルリラ

♪テンテレンテレン トゥルリラトゥルリラ



ちょっと、上機嫌で鼻歌中。



── お昼食べて、お腹が膨れたし。

── 『白イタチ(ひとさらい)』のクソ魔物どもは、一匹たりとも逃さず全滅させたし。

── ここ最近の懸念事項(けねんじこう)だった、『防御不可な超必殺技』開発も完成形が見えてきたし。



いやぁ~安心安心!

これでしばらく兄弟子(にいちゃん)威厳(いげん)盤石(ばんじゃく)!!


まあ、あのクソ魔物どもに、買ったばかりの荷車(あいしゃ)ひっくり返されるとか、イラッとする事もあったが。


全体収支的には、充分プラス。

今日はラッキーデイ!



(なによりなぁ……!

 俺、ついに、しゅんご ── ミス、ゲージ3本使いそうな【ゼロ三日月(みかづき)(てん)】がほぼ完成しちゃったワケで?

 すまん、超必殺技もってない雑魚おる? ププッ)



内心、威勢(イキ)り散らかしながら、スキップスキップ~。


あぁ、今日は良い夢見れそうっ



── あ、そうだ。

荷車で寝る前に、小用(おション)しとこ~、と。



♪ティラリラティラリン! チャッ・イナァ~

♪ポロロンロンロンポロロンロン

♪テーテ~~~テレンテレーテレテレテン テレレーテレレン



鼻歌うたいながら ── ふはぁ~っ



大自然で立ちションベン。

これは男の特権よなぁ ──

── って、女性もだったか……。



(長丈スカートの野外での使い道……

 なぜ俺は、そんな『幻想殺し』(男のユメをブチ殺す)みたいな余計な知識を手に入れてしまったのか……

 冒険者パーティの『女子の内緒話(キャッキャウフフ)』なんて、聞き耳たてなきゃよかった……)



ちょっと凹んでいると、隣のオッサンが変なうめき声。

やたら、小用中のこっちを凝視(ぎょうし)するし。



「………ぅ……ぁ……っ!?」



も~、なんだよ、無精ヒゲ青年(ガチ勢の人)ぉ?

男同士で並んで小用足してるからって、あんまりジロジロ見んなよ?


前世ニッポンに比べても倫理観ユルユルな異世界(こっち)でも、マナー違反だろ、それ。



♪ユウ・ウィンッ! キャハハ ヤッタァ~

♪チャラッチャー チャラララン!



ふぃ~、ブルブルぅと……ッ、よし終了!

さて、()んべ、()んべ。



── さあ行くぜ、ネクストステージ、デデン!(画面転換効果音(S.E.)

七欲大魔王(オレより)の睡魔サマ(強いヤツ)』に会いにいく!

『夢の中』ドリぃムぅ・ラぁンドぉ ── FIGHT(ッファイ)



今日はしばらくソロプレイ・オンリー台だからな、間違っても乱入してくんなよ!

邪魔しやがったら、俺の超必殺技(開発最終段階)が火を吹くぜ!

どんな魔物でも、『(シュン)で、(ゴク)に、(サツ)る』からな!




『おい! ジイさん! おい、ジイさんって!』


『なんじゃ、騒々しいのう』


『なんですの、無職のオジさま。

 毒蛇にでも咬まれましたの?』


『アイツ! 男!? オトコ! おとこぉぉ!?』


『…………リアや。

 いったい、何を言うておるんじゃろうな、この若者は?』


『……お兄様が、「心の病」とか言っておられましたの。

 ですので、何かの発作では?』


『オニイサマ!?

 前から言ってた「お兄様」って、本当にそういう事ぉ!?

 女の子だから「男装してる」訳じゃなくて!』


『なんですか?

 何をそんなに、大騒ぎしているんですか?』


『本村の女僧侶(シスター)、アンタも聞いてくれっ!

 ── アイツ、男! 男なの! 男だったの!』


『ハ、ハァ……?

 え、何を言っているんですか?

 旅の女の子が男装しているなんて、そんなの普通 ── 』


『── チガウ! 男装じゃない!

 男だった! (シタ)、付いてた! チン●ン! 付いてたぁ!』


『ハ…………ァ…………ァ゛あ゛っ?』


『……あの、アゼリアのお兄様は、元々男性ですけど?

 でないと、リアのお婿(むこ)さんに迎えられなくて、困ってしまいますわ。

 この方、何を訳の解らない事をおっしゃっているんでしょう……』


『さぁ、のう……あえて言えば ──

 ── そうさな、ロックの目元は、少し女性的かのう?

 優しげで涼やかで、どちらかと言えば母親似であろうなぁ』


『しかし、お師匠様。

 お兄様の、その眼光は鋭く(いさ)ましく、まるで猛禽(もうきん)のごとく。

 まさに、猛々(たけだけ)しい益荒男(ますらお)っぷりですわよ?』


『そうよな。まさに、まさに。

 ロックが小柄だからといって、女性用の式服(しきふく)を着ているからと、女子(おなご)と見間違えるとは……

 ── まったく、変わった青年よなぁ? ハハハッ』


『いや、「ハハハッ」じゃねえよ、ジイさん!』


『ウソ……男……?

 あんなに可愛いのに……男……?

 わたしより可愛い、オトコぉぉお~~!?』




── チラっと見たら、みんな昼食のたき火の辺りで、ワイワイガヤガヤしている。



(……遠くてよく聞こえんが、なんか盛り上がってるなぁ)



ちょっとだけ、そこに混じりたい気も起きたが。

しかし、今は眠気が優先。



(なれない技を使ったせいで、脳ミソが異常に疲れぇ、たぁ……ふぁぁ、んん……っ)



そんな訳で、シーツを頭から被ると、すぐに意識が遠くなった。


!作者注釈!


今「おチン●ンがついてる方がお得じゃん!」と言った子、素直に手を挙げなさい。

センセイ、怒んないから。

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[良い点] こんばんは。 瞬○殺かぁ…。ストzer○3だと「数多の瞬間に地獄を垣間見る。拳にならず、己の罪や業の重さで自らを殺める技」って豪○が解説(?)してましたね……食らったベ○は罪業が重かった…
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