68:白イタチ
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
『魔物の大侵攻』対策の旅、3日目。
さて皆サマ、さっそくながら悲しいお知らせがあります。
── 【悲報】オレンジ髪のねーちゃんも中二病だった【助けて】
この辺りのまとめ役の村『本村』を出発して、小一時間。
ウチの人見知り、いまだにルーナさんに懐かず。
「こんな人、役に立つわけありませんわっ
お師匠様、お兄様、置いていきましょうっ
── って、急にナデナデしないでくださいましっ」
「まあまあ、そんなに怒ると可愛い顔が台無しだよ?」
隙をみて頭をナデてくるオレンジ髪お姉さんに、フシャー!とかやってる。
人に馴れない野良ネコか、アゼリアお前は。
そんな事をやっていると、また虫型魔物の群れ。
「リアが全部、魔法でやっつけますのっ」
すぐさま、ウチの妹弟子が飛び出していく。
知らない人に触られて、かなりストレスたまっていたらしい。
チュドーン、バリバリー、と広範囲魔法の音。
すると何故か、ルーナさんもヤル気スイッチが入った。
「よし、わたしもっ
皆さん、見ててくださいね!
わたしだって魔剣士なんです、ちゃんとお役に立つんですよ?」
突然立ち上がり、黒いワンピースをバサーっと脱ぎさる。
まるで煙幕のように視界を遮り、ダッシュで突撃するオレンジ髪のスラッと美人。
(── げ、対■忍!?)
その格好がアレだった。
競泳水着みたいな、きわどいデザインの革鎧。
有り得ないくらいに薄着。
非現実的で、非実在青少年な装備。
空想的な女戦士な格好だった。
『うひょ~、エッチですね!』とテンションが上がるより、残念な気分になる方が、比率が大きい。
(……この異世界の山で生足むき出しとか。
<治癒薬>の効きづらい魔法的な毒持ってる虫にさされて、七転八倒すんぞ?)
あと毒キノコで、鼻から胞子爆発。
スラッと美人さんの、そんな無残な姿は見たくない。
(いくら『本村』の伝統衣装だからって、戦う時にそんな格好しなくても……)
手足もげても<回復薬>でサクッと治る異世界の女冒険者だって、そんな無謀な格好してない。
後方支援の魔法使い職とか、スカートはいてる女性も割といる。
(野外でトイレするのに便利らしい。そんな情緒の欠片もない真実なんて、知りたくもなかった……)
しかし、ストッキングだかハイソックスだかで肌を守るのが最低限の装備。
そんな事を考えている内に、戦闘終了!
「皆さん、どうでした!? わたしの活躍っ」
「う、うん……」
ルーナさんの衣装ばかりに気を取られて、戦い方よく見てない。
ジジイを見ると、ちょっと感心の表情。
「なかなか堂に入った、斧さばき。
<玉剣流>なら、引く手あまただったのではないか?」
「本家の指導者の方に『<五環許し>になったらお婿を紹介してあげる』って言われましたけど」
「やはりか。
<玉剣流>は外部の血を入れる事に積極的だからのう。
そなたのような『才媛』は放っておくまい」
「やだ、おじいさん、そんな事無いですよっ」
ルーナさんは照れながら、脱ぎ捨ててた黒いワンピースを、そそくさと着込む。
もちろんハレンチな格好が恥ずかしいワケではなく、ジジイのおべっかに対する謙遜だ。
繰り返すが、決して『対■忍』みたいな戦闘衣装が恥ずかしいワケではなさそう。
(うわぁ~……こうやって見ると、なんというか……
お堅い会社の式典の最中に、水着の人が入ってきたみたいな場違い感があるよな……)
こっちが共感性羞恥で死にそうっ
中二病ガチ勢って怖いわー、誰か助けれぇ!
(……ああ、<玉剣流>の双斧術とかいうの、ちょっと興味あったのに)
格好が強烈インパクトなせいで、戦闘の内容とか欠片も記憶に残らなかった。
(ふ~、ヤレヤレ……。
超薄着なルーナさんがケガしないか心配で、分析どころじゃなかったZE?)
── 決して、健康的な太股に見惚れていたワケではない!
違うったら、違うんだっ
ほら、俺って『おっぱい星人』だし!
── だから、何度も何度も言うけど。
露出大な格好に見とれてたワケじゃないよ!
兄ちゃん、ただ単にビックリしてただけだから!
「じ~~……」
(── だから、そんな冷たい目で兄弟子を見ないでっ
年頃お嬢さん!)
▲ ▽ ▲ ▽
相変わらず、昼間とはいえ、荷車で移動中はほとんど仮眠タイムだ。
どうせ次の村で、また寝ずの番になるだろうし。
「── ……っ!?」
すると、珍しくアラームが鳴って、思わず飛び起きた。
魔法的な仕掛けの、目覚まし時計的な<魔導具>じゃない。
俺のオリジナル魔術【序の四段目:風鈴眼】の、『警戒鳴子』機能だ。
「……ん? ロック?」
「んぁ……お兄しゃま?」
俺の動きに反応して、ジジイとアゼリアも目を覚ます。
俺は周囲を【序の四段目:風鈴眼】の魔力看破機能で見渡し、再確認して告げる。
「やべーぞ、ジジイ。
近くに『イタチ』がいる……っ」
「本当か、ロック?」
「── ~~っ!?」
2人とも、即座に戦闘態勢に入る。
「お兄様、それは『白』ですの? 『黒』ですの?」
「多分、『白』……」
妹弟子の問いに答えると、ジジイが渋い顔をする。
「あの性悪どもめ……。
この騒動を聞きつけて、<アルビオン山脈>の奥から下りてきたか?」
「あれ、どうしたんだ、アンタら?」
あくびをしている御者席の無精ヒゲ青年が、こっちを見て目を丸くする。
3人揃って、殺気だった顔しているんで、ビックリしたんだろう。
「静かに。
近くに、大きな魔物が潜んでおる」
「え、マジ!?
ど、どこに ──」
「── シィッ!
『静かに』って言われたでしょ?」
無精ヒゲ青年が大声を上げかけると、横から伸びた手で口をふさがれた。
その手の主、ルーナさんがジジイへ向き直る。
「おじいさん、わたしも手伝います」
「ならぬ。
『白イタチ』は、馴れぬ者には少々、荷が勝ちすぎる」
「そうですわ。
貴女程度では、足を引っ張るだけですわ」
「これ、止めぬかリア。
── お嬢さんは、この男と荷車を守ってもらいたい」
「でも、そっちの『魔剣士じゃない子』も行くんでしょ?
それなのに、『魔剣士のわたし』が見てるだけなんて……」
「ハハ……っ」
信頼ねーな俺、と自嘲。
「お兄様の強さが解らないなんて……。
本当にダメダメ女僧侶ですわね、あの方」
リアちゃんが、横に来て慰めてくれる。
でもまあ、『魔剣士失格』の俺としてはいつもの事なんで、別に気にして無いんだが。
「さて、囮役をガンバりますかね……」
俺は、ひとり近くの森へと、ポツポツと歩いて行った。
▲ ▽ ▲ ▽
『白イタチ』は、人を食わない ──
── 『魔法を使う人食いの怪物』という定義から外れるので、本来なら『魔物』には当たらない。
しかし、人を食料にしない分、より性質が悪い。
特に、辺境の田舎の村に住んでる人間からすれば、最悪の相手だ。
そんな、例外的に『魔物扱い』されている凶悪な怪物。
以前に妹弟子が、<天剣流>の金髪貴公子と協力して倒した、『河の主<外骨河馬>』と同じように人間に被害甚大な害獣なのだ。
連中を端的に言えば『人さらい』 ── つまり『神隠しのケモノ』。
── ケケケッ!
── ケケケッ!
まるで、嘲笑うような声。
街道そばの薄暗い森の中を歩いていると、急に周囲に冷気。
ヒュン!ヒュン!と耳元を過ぎ去る風切り音。
ギリギリで『無色の強襲2連撃』を躱すと、身の凍るような凍気が通り抜けた。
「チィ……ッ
相変わらず面倒くせえ……っ」
さらに、右にひらりと避けて、次に、頭を強打しようとする一撃を、紙一重で躱す。
これ全部、【序の四段目:風鈴眼】の魔力感知機能のお陰だ。
── なにせ、この『白イタチ』、魔法で姿を消しやがる。
(作ってて良かった、【風鈴眼】!
魔力センサー様々だ!)
ジジイには『本当に要るのかそれ?』『二度手間じゃないか?』みたいに言われたけど!
(そりゃ、剣帝と妹弟子は、周辺察知機能付きの身体強化魔法【五行剣:風】が使えるから、不要だろうが!
【五行剣:風】使ったら魔力枯渇する、魔力量が極小な俺には要るんだよ!)
ちょっと眠いのもあって、思い出し怒りしてしまう。
すると、ようやく『ィィィィイイイ……ィン!』と魔力の過剰装填の異音。
補助用の<法輪>2個が消え去り、人差し指の<法輪>が真っ青になった。
「── 【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】っ」
しゃがんだまま<小剣>を一閃。
久しぶりに出番の『広範囲攻撃』の、強化化だ。
(※ 格闘ゲームなら ボタン4個押しでゲージ爆発させて、↓↙←+[P])
── ケケケッ!
── ケケケッ!
── ケケケッ!
── ケケケッ!
だが、性悪な魔物の群れは、こちらの異常な魔法の集中に感づいて、即座に回避したらしい。
木々を跳ね回る音と、嘲笑うような鳴き声が、暗い森に響き渡る。
「『バカの考え休むに似たる』 ……
……いや、『策士、策に溺れる』の方かな?」
調子の乗った魔物は、こっちを嘲笑っていたぶる心算らしいが。
そもそも、この『広範囲攻撃』は、魔物を倒すためのものじゃない。
ズダダダダァ~~~ンッ! と森の樹木が一斉に倒れていく。
そう、昼間でも暗いくらい密集した森の大木を、一斉に斬り倒すための一撃。
そうやって、大立ち回りに邪魔な遮蔽物さえ無くなれば ──
「── ブンブンですの!
逃しませんのよ、とりゃー!」
── ケケケッ、ゲェガ……ッ!
── グガァ、ゲべェ……!
銀髪美少女魔剣士さんが、【五行剣:火】の赤い魔法陣を背負い、ロケットみたいに突っ込んできて、次々と魔物をぶった切る。
さすが、当流派の超天才児は半端ない。
魔法で姿を消している相手にも、まるで迷いなく、スパスパ真っ二つ。
「フン! ハァ!」
ジジイなんぞ、もっと凄い。
姿を消して飛び跳ねている魔物の胴体を、高速ダッシュからの跳び込み刺突で、正確に、矢のように貫ぬく。
勢いそのまま大木に縫い付けて、剣を引き抜く動きに円運動を加えて、一動作で魔物を真っ二つ。
さらに、三角飛びの要領で空中へ飛び上がり、次の魔物へと飛びかかる。
重力とか、完全に無視した動きだ。
さすがは、この道半世紀以上の、魔剣士の達人。
ジジイ、今の重心どうなってんの?みたいな動きが一杯!
── あ、俺?
さっきから【風鈴眼】使って、魔物の討ち漏らしを確認中。
この『白イタチ』、魔法で姿消すし、動き素早いから。
逃げ始めると、探すの大変なんだよ。