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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 4:城壁ステージ

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67:強者の村

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




自警団が猛者ぞろいの『本村(ほんむら)』では、ゆっくり寝る事ができた。

やわらか寝具(ベッド)のありがたさが身に染みる。


枕が変わって寝付けない甘えん坊(リアちゃん)が潜り込んでいた事に、朝になってようやく気づいた。

そのくらいの、ぐっすり快眠だ。



「ぅん、ゃ~……おにしゃま。

 まだ眠いでしゅ、フワぁ……っ」



まだショボショボ目であくびしてる妹弟子(アゼリア)を引っ張り起こして、次の村への出発準備を始める。

ほらリアちゃん、早く朝ご飯食べちゃいなさいって。


ジジイが、もう村長さんに、出発の挨拶してるから。



「救援に来てくれて、本当にありがとう。

 正直、かなりあやうい所だった」



深々と頭を下げる、『本村(ほんむら)』の村長。



「いやいや、礼には及ばんよ。

 それに、例えワシらが来なくとも、お主ら自身の手で村は守れておっただろうし」


「いえいえ、魔剣士のご老人、そんな事はない。

 村の若い連中も、みんなギリギリの所だった」



ジジイの謙遜に、村長は感謝の言葉を返す。


そんなやり取りを何度かして、ジジイが話題を変える。



「しかし、この村には魔剣士は数人しか居らぬようじゃが。

 それで、よくもまあ魔物の大群に抵抗できた事じゃ。

 村人全員が、武術をたしなんでおるのか?」


「武術と言うか……

 この村は、旧連合国時代に<ラピス山地>周辺で最初に開拓を始めた『始まりの村』。

 我々は、古い時代の冒険者の末裔ばかりなんだ」


「ほほう、なるほど。

 『身体強化魔法がなかった時代』の冒険者か……

 途絶えたとされる『いにしえの技』 ── それを今に伝える村があるとは。

 道理で皆、動きが素人ではない」



感心する、ジジイ。


すると包帯とか付けた村の自警団たちが、見送りのために駆け寄ってくる。



「魔剣士のジイ様たち、ありがとよ。

 死んだ親父の遺言『炎の邪神剣の封印を解くな』ってのを、破らずにすんだぜっ」



赤毛が逆立った、上半身ジャケットだけの青年とか。



「ああ、まったくだ。

 お前らのお陰で、今回は『この拳に銀河を宿す! ギャラクティックΩ(オメガ)!』を使わずに済んだっ

 フッ、今度の“代償”(チケット)は、片目じゃ済まなかったろうな……」



眼帯した海賊みたいな、ヒゲもじゃオッサンとか。



「わたしも、あと少しで “変身”(トランス)“魔女化”(オーバードライブ) する所でした。

 もう、七つ目の “哀鍵”(トリガー) を発動させて “悪しき影”(シャドウ・ソウル) なんて目覚めさせないって誓ったのにっ

 ねえ、パインちゃん?」

「ワウッ ワウッ」



ハート型棍棒持ってる、ピンク髪ツンテのミニスカお嬢さんとか。



「もうっ、わたくしの “前衛”(ラピット) のくせに情けないわね。

 38代目の “撲滅美少女”(クルーエル) がこんな醜態、 “花園”(パレス) のご老人たちが見たらなんて言うか。

 ねえ、アップル?」

「ニャーンッ」



紫髪に紫ルージュで、額に謎の図形ペントしているお姉さんとか。



「ヌゥ……っ

 この老いた身では、『関節を殺して呼吸も殺す、地獄の再殺ホールド・ツインサイクロン固め』の負荷に、果たして持ったかわからん所じゃった。

 くわばらくわばら」



ピエロみたいな仮面を被った、三つ編みマッチョ老人とか。



「クスクスッ……まったく、もう少しで “闘鬼(オニ)” が起きてしまう所でしたよ。

 散々血を吸わせて、せっかく寝かしつけたばかりなんですよ?

 まったく、危ない危ない……クスクスッ」



身長の1.5倍くらいの細身の長剣持ってる、生意気そうな銀髪ショタとか。



(…………なんか、異様に『濃い』ヤツしかおらんな、この村)



格好や見た目で判断するのも、アレだが。

よく、こんな自警団メンバーで、村が守れたもんだ。

みんな、別に、魔力量は大した事ないので、本当に一般人っぽいし。



(まあ、『魔力量(それ)』を口にすると、俺自身に返ってくるからな……

 まさにブーメラン……実戦空手道……『(Fu)雲拳』! うおおおおおおおお!

 ……あれ、『念■飛棍(超必殺)』の技コマンドが思い出せない……)



虫型魔物の大群を相手に防衛戦は、結構大変だったんじゃないかと思う。



(アイツら、『集団玉砕戦法』みたいなマネしてくるもんな……)



つまり、多少被害はお構いなしに、一斉突撃で群がってくる。

魔物のくせに知能が低いのか、そういう命知らずな生態なのか、解んないけど。


対応方法は、威力重視の武器とかで一撃必殺(ワンパン)を繰り返すか。

あるいは、群れてる時に範囲拡大(MP消費5倍)の攻撃魔法をぶちこみ、まとめて弱らせておくか。



(どっちも、魔剣士じゃない『俺ら一般人(パンピー)』には厳しいよなぁ)



俺も、必殺技(特に【水面月】(はんいこうげき)とか)使わないと泥仕合になるし。

その苦労がよく分かる。



(しかし、『身体強化魔法がなかった時代』の冒険者の技ねぇ……)



かなり大変だったとは、聞いた事がある。

今で言う『脅威力2』とか『脅威力3』でも、かなりの強敵あつかい。

『脅威力4』の魔物退治とか、討伐隊が半分くらい死ぬ前提だったらしいし。



(しかし、なんでこんな『濃い』連中ばっかり……?)



そんな内心の疑問に答えるようなタイミングで、村長たちがなんか話し始める。



「ハッハッハッ

 やはり魔剣士の方にもビックリされてしまうか、この村の伝統衣装は」


「ヌゥ……

 ワシは、それほど奇異(きい)とは思わんのだが。くわばらくわばら」


「クスクス……

 ボクは好きですよ。外の人のマヌケな ── おっと失敬、意表をつかれた顔を見るのは……クスクス」



── ハァ!? 伝統衣装!

もしや、この中二病(イタい)言動まで『伝統を守ってる』ワケか!?



(── うえぇっ マジかよっ

 大昔の冒険者、こんな『濃い』ヤツばっかり!?

 その時代の冒険者ギルドとか、ぶっちゃけ地獄だろ!!

 俺が言うのもなんだが 『中二病(イタい子)の見本市』 かよ!?)



やめて、本当にやめて!

見てるだけの俺まで、被弾(赤面)しまくってんだが!

共感性羞恥きょうかんせいしゅうち半端(ッパ)ないの!



ホントに、俺が言うのもナンだが。



こんな異世界に輪廻転生(りんねてんせい)してきて(ブッダ先輩(パイセン)、ちーっす!)、

『かくとうげーむ の ひっさつわざ だぞ!

 シュピーン! ババーン! ズドーン!』

とか、いまだにヤってる(ヤツ)が言うのも、本当にナンだが。



(── つーか、お前ら全員、世界観がケンカしすぎだろっ

 禁断の武器に、海賊の拳士に、魔法少女コンビに、超人レスラーに、狂気の二重人格だと!?

 前世ニッポンの 『C▲PC●M(格闘ゲーム会社) VS(TOP2が) S■K(夢の共演!)』 でもこんなに『濃く』ないぞ!?)



せめて、もうちょっと。

統一感的な物を、お願いしたい。





▲ ▽ ▲ ▽




本村(ほんむら)』から出発直前で、他の村への救援手伝いの立候補者が1人。

オレンジ髪の20前後のお姉さん。



「ルーナ=サンダースといいます。

 聖教の女僧侶(シスター)で、魔法や治療には心得があります」



── なんと、見ての通り、マトモな人!?


しばらく観察してたけど、いきなり『邪眼がっ』とか『く、静まれっ』とか『世界の選択か』とか『ええ、そうね天使様?』とか、妙な事を言い出す事はなかった。



俺個人的には、ホッとひと安心。

あんな(・・・)中二病ファイター “““本物(ガチ勢)””” さんが()いて来てたら、共感性羞恥きょうかんせいしゅうちが原因の全身ジンマシンで悶死(もんし)するところだった。


無精ヒゲ青年(うんてんしゅ)の『陰謀論(呆)』だけでも、勘弁して欲しいのに。



「あ、大丈夫ですよ。

 女僧侶(シスター)の修行時代に、<聖都>(センダード)で魔剣士の手ほどきも受けてますから。

 ほら、<四環許(よんかんゆる)し>っ

 なので、みなさんのご迷惑にならないと思いますっ」



ちょっと武器が変わっていて、長い柄の斧2刀流だけど。

普通フツー。



「<(うら)御三家(ごさんけ)>の<玉剣(ぎょくけん)流>は、ちょっと変わっていて、戦闘そのものを修行と(とら)えているんです。

 (あつか)いの難しい武器を自在に操る事が、武術の上達の近道だって」



話によると、もっとマニアックで複雑な武器もあるらしい。

この武器『双斧(そうふ)』は、他に比べるとシンプルで扱いやすいらしい。


まあ確かに、魔物の骨とか外殻とかカチ割るなら、重量級の武器の方が効率的だろう。

その威力の分だけスタミナ使うから、疲労も半端ないが。



「じゃあ、その武器についている、護符みたいなのは?」


「あ、これですか。

 聖教の『聖紋(シンボル)』ですよ、見た事ありません?」


「そう言えば……」



聖教の『聖紋(シンボル)』とやらは『菱形が4つ溶けてくっついて、十字架になった』みたいなマークだ。

この前会った、美人さんが似たようなマークつけてたな。

神童ルカ(性悪イケメン)に付き添ってた、高身長の女騎士さん、確か名前は ──



「── ベルタ?

 とか言う女の人が、胴当てにつけてたマークに似てる……」


「あ、ベルタ先輩のお知り合いでしたか?」


「え、先輩?」


「ええ、<聖都>(センダード)の修業時代にお世話になった方です。

 あんなにキレイで凜々しくて優しくて、しかも『神童カルタ様のお姉様』だなんて。

 聖騎士に選ばれるだけあって、ステキな人ですよね?」


「う、うん……」



いかん。

俺、めっちゃ怒鳴られたり、(ののし)られた覚えしかねえな。


そりゃあ、女騎士(ベルタ)さんの目の前で『彼氏』(神童ルカ)をボコボコにしたんだから、仕方ねーけど。



(確実にトラブルの元になるな、あの『1カ月前の件(決闘もどき)』。

 ルーナさんには、適当に誤魔化しておこう……っ)



そんな事を考えてると、ルーナさんが荷車に乗り込み、ベンチシートの隣りに座ってくる、

うむ、なんか良い匂いだ。


ああ、年上の明るいスラッと美人さんか……。



(── フゥ……ッ

 これで、お胸がステキだったら、完璧なのに……)



そんな残念な気分でいると、ウチの妹弟子(アゼリア)がプンプンしだした。

剣振り回すブンブン(・・・・)ではなく、ほっぺた膨らせるプンプン(・・・・)だ、



「なんですの、貴女。

 お兄様は、アゼリアのお兄様なのですのよ?

 勝手に隣りに座らないでくださいましっ」


「やーん、何この子ぉ!

 この子も魔剣士なんですか、お人形さんみたいで、かわい~いっ」


「ちょっ、なんですの! どうして抱きつきますの!

 やめて、勝手に頭ナデないでくださいましっ!

 ── 貴女、ブチ転がしますわよぉ!?」



なんかウチの人見知り(リアちゃん)が、ムダに(あら)ぶっとる。

しかし、ルーナさんの方が何枚も上手で、うまくあしらわれている。



「もしかして、お姉ちゃん(・・・・・)取られてスネてるのかな~っ

 うわ~図星なんだ、ほっぺた膨らませてる、カワイイ!

 わたしもこんな妹がほしかったぁ~っ

 ウチのバカ妹とか、ナマイキで可愛げないしぃ~」


「きぃ~っ 離して!

 離してくださいましっ

 本当に何ですの、色々失礼ですわよ、貴女っ

 ブチ転がしますわよ、ブチコロですのよぉぉ!!」


「まあまあ、そんなに怒ないで。

 そんな顔してたら、シワがいっぱい出来ちゃうぞ?

 カワイイ顔が、すぐにシワシワのお婆ちゃんになっちゃうぞ?」


「う、うるさいですわっ

 わたくし、お婆ちゃんではありませんのっ」



家族や兄弟が多い人なのかな、年下の子の扱いが上手い。



うん、よし。

妹弟子のコミュ障解消に丁度良さそうなので、しばらく放ってこう。





▲ ▽ ▲ ▽



── その頃、帝都の官庁の一角。


騎士団第四方面隊の詰め所が、にわかに騒がしくなった。



「スペンサー顧問っ!

 スペンサー顧問はいらっしゃいますか!?」


慌ただしい声と、足音が鳴り響く。



棟の地下階にある「監査部」、その中で最奥にある「特別調査室」から、(よわい)60を超えた老婆が顔を出した。


しかし、年齢は老人ではあっても、弱々しい雰囲気はどこにもない。

長い間鍛え上げてきた長身は頑強そうで、背筋だって真っ直ぐのびているし、足音ひとつ取っても高い身体能力が見て取れた。


その老いた女騎士が、執務室のドアを開けてのぞくと、赤い式服の痩身男が立っていた。

メガネをかけて、いかにも神経質そうな、まさに『魔導師』 ── 魔法技術の研究員らしい、見てくれだ。



「そう、叫ばなくて、聞こえているよ。

 歳は歳だが、まだ耳が遠くなる程じゃないんでね?」


「スペンサー顧問っ

 例の<魔道具>(マジックアイテム)について、お聞きしたい事が!」



他人の言う嫌味なんてまるで気にせず、自分の用件だけ押しつけてくる。

まさに、典型的な『偏屈な魔導師』そのものの男だった。



「入りな。中で聞こう。

 まあ、お茶のひとつでも ──」


「── そんな事より聞いてください!」


「なんだい、やたら込み入っているみたいだね?」


「ええ、緊急事態です!

 単刀直入にお聞きします!

 これを回収したのは、今から1ヶ月前に<翡翠領(グリンストン)>の国境近く、で間違いありませんか!?」



執務室の応接テーブルに置かれたのは、例の『神王国の潜入工作員』がらみの<魔道具>(マジックアイテム)


── 教え子だった『裏切り者(ケイ)

── 実孫(エル)に初めてやらせた『仲間殺し』

── 無理を通して道理を引っ込ませる『剣帝の一番弟子』


顧問の脳裏に、1ヶ月少々前の苦い思い出が、いくつも浮かび上がる。

そのため、少し返事が遅れた。



「……ああ、そうだよ。間違いないね」


「うあぁぁ……おしまいだぁ……っ」



何故か、神経質そうな研究員は、大失敗でもやらかしたのか、頭を抱えてしまう。



「一体どうしたんだい?

 そんなに血相を変えて……」



大事な研究資料である<魔道具>(マジックアイテム)を壊しでもしたのだろうか。

落ち着かせるために、やっぱりお茶でも煎れてやろうか。


顧問が、そうやってティーカップ用意して注ぐと、男は一気に飲み干す。

熱さも味わいも、何もないような、鯨飲っぷりだ。


そして、男は血走った目に涙を浮かべて、語り始めた。



「魔物を操る<魔道具>(マジックアイテム)と聞いて、我々は闘技場(コロシアム)で試してみる事にしました」


「ああ、武闘大会の見世物のヤツかい。

 魔剣士と戦わせるための、地下で飼われている魔物ども」


「ええ、そうです。

 しかし、闘技場(コロシアム)は帝都のど真ん中。魔物とはいっても、小型で対処が簡単な物か、大型で大人しい物がほとんどで、種類が限られます。

 我々も成果は、それほど期待していませんでした。

 だから本来はこの後、冒険者にでも依頼して、辺境で実践しようかと ──」


「── まだるっこしいね、結論をいいな。」


「あ、はい。

 結論をいいますと、<魔道具>(マジックアイテム)を起動していないのに、魔物が反応したんですっ」


「何……?

 魔法が発動して(・・・・)ないのに(・・・・)反応(・・)したって事かい?」


「ええ、おかしいと思い、すぐに調べると、<短導杖(ワンド)>の(つか)の中に、もう一つ<魔道具>(マジックアイテム)の機巧が隠してありました。

 この<魔道具>(マジックアイテム)は、今まで密かに、ずっと発動し続けていたんです!

 魔法が発動するのが一瞬だけ、しかも1時間に数回だけという、極めて短い発動のため今まで誰も気付いていなかったんです!」


「待て、それは、もしや……隠してあったのも、同じ魔法かい?」


「ええ、魔物を操る、あの魔法がもう1種類!

 闘技場(コロシアム)の地下で試すと、虫型の魔物が特に激しく反応しました!

 毎日たっぷりエサをもらっているはずの魔物が、突然、飢えた獣のよう暴れだし、共食いまで始めたんです!

 さらに、共食いをした虫型の魔物は、まるでこの<魔道具>(マジックアイテム)が極上の(みつ)のように感じるのか、金属の檻を破壊しようと突進しつづけてきました」


「おい、それは、まさか……っ」


「ええ、そうです!

 この<魔道具>(マジックアイテム)は、言うなれば『誘蛾灯(ゆうがとう)』!

 虫型魔物の食欲の神経を刺激して、この位置まで引き寄せるための、破滅の<魔道具>(マジックアイテム)!」


「おい、その<魔道具>(マジックアイテム)

 もしや、まだ『機能して(いきて)』いるのかい!?」


「とっくに機能停止させてますよ、こんな危険な物ぉ!!」



慌てて詰め寄る、老婆(スペンサー)

赤い式服の魔導師は、怒鳴り返すような勢いで答えた。


さらに、嘆きと怒りの混じった表情で、責めるように叫んだ。



「── こんな事を言うのは筋違いだとわかっているけどぉ!

 アンタ、なんて物(・・・・)を、この帝都まで(・・・・・・)持ってきてくれたんだ!!」



しかし、緊急事態に頭を抱えるスペンサー顧問は、それどころではない。



「いっ、かげつ……1ヶ月だと……?

 1ヶ月もの間、ありもしない『飢え』に狂わされた、魔物は……どうなる?」


「もうとっくに、正気を失っているでしょうね!

 満腹で腹がはち切れそうでも、お構いなし!

 手当たり次第に、周りの村を襲っているんじゃないですかっ!?」



── もし、『帝都の箱入り娘』のように気絶できれば、どんなに楽だっただろう。



スペンサー顧問は、そんな事を自嘲気味に考えて、壁にかけてあった帝国の周辺地図に目を向けた。



帝国東北部、国境手前にある最後の都市<翡翠領(グリンストン)>。

それは、剣帝一門の居場所 ──

── つまり、仮初めとはいえ実孫(エル)が文通する『友人(アゼリア)』の住処(すみか)


そして、事の発端となった場所。



── 『貴様らもこれで終わりだ! 先に地獄で待っているぞっ』



実孫(エル)からの報告では、神王国の工作員(スパイ)は、そう言い残したと聞いた。

この<魔導具>(マジックアイテム)と同型の物を起動させて破壊し(・・・)嘲笑(あざわら)いながら自刃(はてた)


おそらく、『裏切り者(ケイ)』が持っていた残り1本の<魔導具>(マジックアイテム)を、帝国側(こちら)安易に(・・・)破壊(・・)させない(・・・・)ように(・・・)するため(・・・・)



「……やられたっ」



スペンサー顧問の脳裏に、末期(まつご)哄笑(こうしょう)の幻聴が、耳鳴りのように響いた。






!作者注釈!


2022/05/23 ちょっと最後の方を修正。

2022/11/29 聖王国 → 新王国に変更。(聖都と紛らわしいため)


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