67:強者の村
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
自警団が猛者ぞろいの『本村』では、ゆっくり寝る事ができた。
やわらか寝具のありがたさが身に染みる。
枕が変わって寝付けない甘えん坊が潜り込んでいた事に、朝になってようやく気づいた。
そのくらいの、ぐっすり快眠だ。
「ぅん、ゃ~……おにしゃま。
まだ眠いでしゅ、フワぁ……っ」
まだショボショボ目であくびしてる妹弟子を引っ張り起こして、次の村への出発準備を始める。
ほらリアちゃん、早く朝ご飯食べちゃいなさいって。
ジジイが、もう村長さんに、出発の挨拶してるから。
「救援に来てくれて、本当にありがとう。
正直、かなりあやうい所だった」
深々と頭を下げる、『本村』の村長。
「いやいや、礼には及ばんよ。
それに、例えワシらが来なくとも、お主ら自身の手で村は守れておっただろうし」
「いえいえ、魔剣士のご老人、そんな事はない。
村の若い連中も、みんなギリギリの所だった」
ジジイの謙遜に、村長は感謝の言葉を返す。
そんなやり取りを何度かして、ジジイが話題を変える。
「しかし、この村には魔剣士は数人しか居らぬようじゃが。
それで、よくもまあ魔物の大群に抵抗できた事じゃ。
村人全員が、武術をたしなんでおるのか?」
「武術と言うか……
この村は、旧連合国時代に<ラピス山地>周辺で最初に開拓を始めた『始まりの村』。
我々は、古い時代の冒険者の末裔ばかりなんだ」
「ほほう、なるほど。
『身体強化魔法がなかった時代』の冒険者か……
途絶えたとされる『いにしえの技』 ── それを今に伝える村があるとは。
道理で皆、動きが素人ではない」
感心する、ジジイ。
すると包帯とか付けた村の自警団たちが、見送りのために駆け寄ってくる。
「魔剣士のジイ様たち、ありがとよ。
死んだ親父の遺言『炎の邪神剣の封印を解くな』ってのを、破らずにすんだぜっ」
赤毛が逆立った、上半身ジャケットだけの青年とか。
「ああ、まったくだ。
お前らのお陰で、今回は『この拳に銀河を宿す! ギャラクティックΩ!』を使わずに済んだっ
フッ、今度の“代償”は、片目じゃ済まなかったろうな……」
眼帯した海賊みたいな、ヒゲもじゃオッサンとか。
「わたしも、あと少しで “変身” が “魔女化” する所でした。
もう、七つ目の “哀鍵” を発動させて “悪しき影” なんて目覚めさせないって誓ったのにっ
ねえ、パインちゃん?」
「ワウッ ワウッ」
ハート型棍棒持ってる、ピンク髪ツンテのミニスカお嬢さんとか。
「もうっ、わたくしの “前衛” のくせに情けないわね。
38代目の “撲滅美少女” がこんな醜態、 “花園” のご老人たちが見たらなんて言うか。
ねえ、アップル?」
「ニャーンッ」
紫髪に紫ルージュで、額に謎の図形ペントしているお姉さんとか。
「ヌゥ……っ
この老いた身では、『関節を殺して呼吸も殺す、地獄の再殺ホールド・ツインサイクロン固め』の負荷に、果たして持ったかわからん所じゃった。
くわばらくわばら」
ピエロみたいな仮面を被った、三つ編みマッチョ老人とか。
「クスクスッ……まったく、もう少しで “闘鬼” が起きてしまう所でしたよ。
散々血を吸わせて、せっかく寝かしつけたばかりなんですよ?
まったく、危ない危ない……クスクスッ」
身長の1.5倍くらいの細身の長剣持ってる、生意気そうな銀髪ショタとか。
(…………なんか、異様に『濃い』ヤツしかおらんな、この村)
格好や見た目で判断するのも、アレだが。
よく、こんな自警団メンバーで、村が守れたもんだ。
みんな、別に、魔力量は大した事ないので、本当に一般人っぽいし。
(まあ、『魔力量』を口にすると、俺自身に返ってくるからな……
まさにブーメラン……実戦空手道……『■雲拳』! うおおおおおおおお!
……あれ、『念■飛棍』の技コマンドが思い出せない……)
虫型魔物の大群を相手に防衛戦は、結構大変だったんじゃないかと思う。
(アイツら、『集団玉砕戦法』みたいなマネしてくるもんな……)
つまり、多少被害はお構いなしに、一斉突撃で群がってくる。
魔物のくせに知能が低いのか、そういう命知らずな生態なのか、解んないけど。
対応方法は、威力重視の武器とかで一撃必殺を繰り返すか。
あるいは、群れてる時に範囲拡大の攻撃魔法をぶちこみ、まとめて弱らせておくか。
(どっちも、魔剣士じゃない『俺ら一般人』には厳しいよなぁ)
俺も、必殺技(特に【水面月】とか)使わないと泥仕合になるし。
その苦労がよく分かる。
(しかし、『身体強化魔法がなかった時代』の冒険者の技ねぇ……)
かなり大変だったとは、聞いた事がある。
今で言う『脅威力2』とか『脅威力3』でも、かなりの強敵あつかい。
『脅威力4』の魔物退治とか、討伐隊が半分くらい死ぬ前提だったらしいし。
(しかし、なんでこんな『濃い』連中ばっかり……?)
そんな内心の疑問に答えるようなタイミングで、村長たちがなんか話し始める。
「ハッハッハッ
やはり魔剣士の方にもビックリされてしまうか、この村の伝統衣装は」
「ヌゥ……
ワシは、それほど奇異とは思わんのだが。くわばらくわばら」
「クスクス……
ボクは好きですよ。外の人のマヌケな ── おっと失敬、意表をつかれた顔を見るのは……クスクス」
── ハァ!? 伝統衣装!
もしや、この中二病言動まで『伝統を守ってる』ワケか!?
(── うえぇっ マジかよっ
大昔の冒険者、こんな『濃い』ヤツばっかり!?
その時代の冒険者ギルドとか、ぶっちゃけ地獄だろ!!
俺が言うのもなんだが 『中二病の見本市』 かよ!?)
やめて、本当にやめて!
見てるだけの俺まで、被弾しまくってんだが!
共感性羞恥が半端ないの!
ホントに、俺が言うのもナンだが。
こんな異世界に輪廻転生してきて(ブッダ先輩、ちーっす!)、
『かくとうげーむ の ひっさつわざ だぞ!
シュピーン! ババーン! ズドーン!』
とか、いまだにヤってる俺が言うのも、本当にナンだが。
(── つーか、お前ら全員、世界観がケンカしすぎだろっ
禁断の武器に、海賊の拳士に、魔法少女コンビに、超人レスラーに、狂気の二重人格だと!?
前世ニッポンの 『C▲PC●M VS S■K』 でもこんなに『濃く』ないぞ!?)
せめて、もうちょっと。
統一感的な物を、お願いしたい。
▲ ▽ ▲ ▽
『本村』から出発直前で、他の村への救援手伝いの立候補者が1人。
オレンジ髪の20前後のお姉さん。
「ルーナ=サンダースといいます。
聖教の女僧侶で、魔法や治療には心得があります」
── なんと、見ての通り、マトモな人!?
しばらく観察してたけど、いきなり『邪眼がっ』とか『く、静まれっ』とか『世界の選択か』とか『ええ、そうね天使様?』とか、妙な事を言い出す事はなかった。
俺個人的には、ホッとひと安心。
あんな中二病ファイター “““本物””” さんが着いて来てたら、共感性羞恥が原因の全身ジンマシンで悶死するところだった。
無精ヒゲ青年の『陰謀論(呆)』だけでも、勘弁して欲しいのに。
「あ、大丈夫ですよ。
女僧侶の修行時代に、<聖都>で魔剣士の手ほどきも受けてますから。
ほら、<四環許し>っ
なので、みなさんのご迷惑にならないと思いますっ」
ちょっと武器が変わっていて、長い柄の斧2刀流だけど。
普通フツー。
「<裏・御三家>の<玉剣流>は、ちょっと変わっていて、戦闘そのものを修行と捉えているんです。
扱いの難しい武器を自在に操る事が、武術の上達の近道だって」
話によると、もっとマニアックで複雑な武器もあるらしい。
この武器『双斧』は、他に比べるとシンプルで扱いやすいらしい。
まあ確かに、魔物の骨とか外殻とかカチ割るなら、重量級の武器の方が効率的だろう。
その威力の分だけスタミナ使うから、疲労も半端ないが。
「じゃあ、その武器についている、護符みたいなのは?」
「あ、これですか。
聖教の『聖紋』ですよ、見た事ありません?」
「そう言えば……」
聖教の『聖紋』とやらは『菱形が4つ溶けてくっついて、十字架になった』みたいなマークだ。
この前会った、美人さんが似たようなマークつけてたな。
神童ルカに付き添ってた、高身長の女騎士さん、確か名前は ──
「── ベルタ?
とか言う女の人が、胴当てにつけてたマークに似てる……」
「あ、ベルタ先輩のお知り合いでしたか?」
「え、先輩?」
「ええ、<聖都>の修業時代にお世話になった方です。
あんなにキレイで凜々しくて優しくて、しかも『神童カルタ様のお姉様』だなんて。
聖騎士に選ばれるだけあって、ステキな人ですよね?」
「う、うん……」
いかん。
俺、めっちゃ怒鳴られたり、罵られた覚えしかねえな。
そりゃあ、女騎士さんの目の前で『彼氏』をボコボコにしたんだから、仕方ねーけど。
(確実にトラブルの元になるな、あの『1カ月前の件』。
ルーナさんには、適当に誤魔化しておこう……っ)
そんな事を考えてると、ルーナさんが荷車に乗り込み、ベンチシートの隣りに座ってくる、
うむ、なんか良い匂いだ。
ああ、年上の明るいスラッと美人さんか……。
(── フゥ……ッ
これで、お胸がステキだったら、完璧なのに……)
そんな残念な気分でいると、ウチの妹弟子がプンプンしだした。
剣振り回すブンブンではなく、ほっぺた膨らせるプンプンだ、
「なんですの、貴女。
お兄様は、アゼリアのお兄様なのですのよ?
勝手に隣りに座らないでくださいましっ」
「やーん、何この子ぉ!
この子も魔剣士なんですか、お人形さんみたいで、かわい~いっ」
「ちょっ、なんですの! どうして抱きつきますの!
やめて、勝手に頭ナデないでくださいましっ!
── 貴女、ブチ転がしますわよぉ!?」
なんかウチの人見知りが、ムダに荒ぶっとる。
しかし、ルーナさんの方が何枚も上手で、うまくあしらわれている。
「もしかして、お姉ちゃん取られてスネてるのかな~っ
うわ~図星なんだ、ほっぺた膨らませてる、カワイイ!
わたしもこんな妹がほしかったぁ~っ
ウチのバカ妹とか、ナマイキで可愛げないしぃ~」
「きぃ~っ 離して!
離してくださいましっ
本当に何ですの、色々失礼ですわよ、貴女っ
ブチ転がしますわよ、ブチコロですのよぉぉ!!」
「まあまあ、そんなに怒ないで。
そんな顔してたら、シワがいっぱい出来ちゃうぞ?
カワイイ顔が、すぐにシワシワのお婆ちゃんになっちゃうぞ?」
「う、うるさいですわっ
わたくし、お婆ちゃんではありませんのっ」
家族や兄弟が多い人なのかな、年下の子の扱いが上手い。
うん、よし。
妹弟子のコミュ障解消に丁度良さそうなので、しばらく放ってこう。
▲ ▽ ▲ ▽
── その頃、帝都の官庁の一角。
騎士団第四方面隊の詰め所が、にわかに騒がしくなった。
「スペンサー顧問っ!
スペンサー顧問はいらっしゃいますか!?」
慌ただしい声と、足音が鳴り響く。
棟の地下階にある「監査部」、その中で最奥にある「特別調査室」から、齢60を超えた老婆が顔を出した。
しかし、年齢は老人ではあっても、弱々しい雰囲気はどこにもない。
長い間鍛え上げてきた長身は頑強そうで、背筋だって真っ直ぐのびているし、足音ひとつ取っても高い身体能力が見て取れた。
その老いた女騎士が、執務室のドアを開けてのぞくと、赤い式服の痩身男が立っていた。
メガネをかけて、いかにも神経質そうな、まさに『魔導師』 ── 魔法技術の研究員らしい、見てくれだ。
「そう、叫ばなくて、聞こえているよ。
歳は歳だが、まだ耳が遠くなる程じゃないんでね?」
「スペンサー顧問っ
例の<魔道具>について、お聞きしたい事が!」
他人の言う嫌味なんてまるで気にせず、自分の用件だけ押しつけてくる。
まさに、典型的な『偏屈な魔導師』そのものの男だった。
「入りな。中で聞こう。
まあ、お茶のひとつでも ──」
「── そんな事より聞いてください!」
「なんだい、やたら込み入っているみたいだね?」
「ええ、緊急事態です!
単刀直入にお聞きします!
これを回収したのは、今から1ヶ月前に<翡翠領>の国境近く、で間違いありませんか!?」
執務室の応接テーブルに置かれたのは、例の『神王国の潜入工作員』がらみの<魔道具>。
── 教え子だった『裏切り者』
── 実孫に初めてやらせた『仲間殺し』
── 無理を通して道理を引っ込ませる『剣帝の一番弟子』
顧問の脳裏に、1ヶ月少々前の苦い思い出が、いくつも浮かび上がる。
そのため、少し返事が遅れた。
「……ああ、そうだよ。間違いないね」
「うあぁぁ……おしまいだぁ……っ」
何故か、神経質そうな研究員は、大失敗でもやらかしたのか、頭を抱えてしまう。
「一体どうしたんだい?
そんなに血相を変えて……」
大事な研究資料である<魔道具>を壊しでもしたのだろうか。
落ち着かせるために、やっぱりお茶でも煎れてやろうか。
顧問が、そうやってティーカップ用意して注ぐと、男は一気に飲み干す。
熱さも味わいも、何もないような、鯨飲っぷりだ。
そして、男は血走った目に涙を浮かべて、語り始めた。
「魔物を操る<魔道具>と聞いて、我々は闘技場で試してみる事にしました」
「ああ、武闘大会の見世物のヤツかい。
魔剣士と戦わせるための、地下で飼われている魔物ども」
「ええ、そうです。
しかし、闘技場は帝都のど真ん中。魔物とはいっても、小型で対処が簡単な物か、大型で大人しい物がほとんどで、種類が限られます。
我々も成果は、それほど期待していませんでした。
だから本来はこの後、冒険者にでも依頼して、辺境で実践しようかと ──」
「── まだるっこしいね、結論をいいな。」
「あ、はい。
結論をいいますと、<魔道具>を起動していないのに、魔物が反応したんですっ」
「何……?
魔法が発動してないのに、反応したって事かい?」
「ええ、おかしいと思い、すぐに調べると、<短導杖>の柄の中に、もう一つ<魔道具>の機巧が隠してありました。
この<魔道具>は、今まで密かに、ずっと発動し続けていたんです!
魔法が発動するのが一瞬だけ、しかも1時間に数回だけという、極めて短い発動のため今まで誰も気付いていなかったんです!」
「待て、それは、もしや……隠してあったのも、同じ魔法かい?」
「ええ、魔物を操る、あの魔法がもう1種類!
闘技場の地下で試すと、虫型の魔物が特に激しく反応しました!
毎日たっぷりエサをもらっているはずの魔物が、突然、飢えた獣のよう暴れだし、共食いまで始めたんです!
さらに、共食いをした虫型の魔物は、まるでこの<魔道具>が極上の蜜のように感じるのか、金属の檻を破壊しようと突進しつづけてきました」
「おい、それは、まさか……っ」
「ええ、そうです!
この<魔道具>は、言うなれば『誘蛾灯』!
虫型魔物の食欲の神経を刺激して、この位置まで引き寄せるための、破滅の<魔道具>!」
「おい、その<魔道具>っ
もしや、まだ『機能して』いるのかい!?」
「とっくに機能停止させてますよ、こんな危険な物ぉ!!」
慌てて詰め寄る、老婆。
赤い式服の魔導師は、怒鳴り返すような勢いで答えた。
さらに、嘆きと怒りの混じった表情で、責めるように叫んだ。
「── こんな事を言うのは筋違いだとわかっているけどぉ!
アンタ、なんて物を、この帝都まで持ってきてくれたんだ!!」
しかし、緊急事態に頭を抱えるスペンサー顧問は、それどころではない。
「いっ、かげつ……1ヶ月だと……?
1ヶ月もの間、ありもしない『飢え』に狂わされた、魔物は……どうなる?」
「もうとっくに、正気を失っているでしょうね!
満腹で腹がはち切れそうでも、お構いなし!
手当たり次第に、周りの村を襲っているんじゃないですかっ!?」
── もし、『帝都の箱入り娘』のように気絶できれば、どんなに楽だっただろう。
スペンサー顧問は、そんな事を自嘲気味に考えて、壁にかけてあった帝国の周辺地図に目を向けた。
帝国東北部、国境手前にある最後の都市<翡翠領>。
それは、剣帝一門の居場所 ──
── つまり、仮初めとはいえ実孫が文通する『友人』の住処。
そして、事の発端となった場所。
── 『貴様らもこれで終わりだ! 先に地獄で待っているぞっ』
実孫からの報告では、神王国の工作員は、そう言い残したと聞いた。
この<魔導具>と同型の物を起動させて破壊し、嘲笑いながら自刃。
おそらく、『裏切り者』が持っていた残り1本の<魔導具>を、帝国側が安易に破壊させないようにするため。
「……やられたっ」
スペンサー顧問の脳裏に、末期の哄笑の幻聴が、耳鳴りのように響いた。
!作者注釈!
2022/05/23 ちょっと最後の方を修正。
2022/11/29 聖王国 → 新王国に変更。(聖都と紛らわしいため)




