64:さらば愛しきアンゴルモア
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
ウチの妹弟子、村人にめっちゃ感謝されとる。
「ううっ、ありがとうごじゃい゛ま゛し゛た゛あ゛!」
「あ、はい、いえ、お気になさらず」
「魔剣士のお嬢さん、うちの子を助けてくれて、ありがとうね! もうホント感謝!」
「あ、はい、いえ、魔剣士として当然の事ですのよ」
「お陰さまで、誰ひとりとして犠牲にならずにすみました!」
「あ、はい、いえ、ご無事で何よりですわ」
「今までの態度、本当に申し訳ない! これからは、いつでも村に立ち寄ってくださいっ」
「あ、はい、いえ、お気になさらず」
………………
…………
……
オロオロしつつも威厳を出そうとしている、我らが村の救世主である。
(うむ、相変わらずの小動物的っぷりだな……)
俺とか、さっきようやく魔物を全滅させ終わったばかり。
村の周りぐるりと囲む掘りを飛び越え、高さ4mくらいの丸太の縦塀をよじ登って、今ようやく村の居住区に入ってきた。
すると、すでにこんな感じだった。
何か色々、初動対応にトラブルがあったっぽい。
村の入り口の跳橋を上げるのが遅れて、その間に魔物が何匹か入り込んだっぽい。
(道理でなー。
あちこち、魔物が死んでるし)
どうやら、妹弟子が『お友達の身内が心配で、一も二もなく村に突っ込んでいった』のが、ファインプレーになったらしい。
── 端で聞いてると、どうやらそういう感じ。
かぁー、つれーわー
かぁー、ウチの妹弟子が未来の女勇者さん過ぎて、つれーわー
かぁー、これそのうち非公認ファンクラブとか勝手に出来ちゃう流れだわー
かぁー、巷で人気者すぎて『いかがわしいファン活動』取り締まるの大変そうで、つれーわー
そんな、後方兄貴面をしつつ、話しかける機会を伺っていると、ジジイもやってきた。
「おぉ……!?
アゼリアが珍しく、ロック以外の者と話しておる。
あの子も、少しは成長したのじゃなぁ……っ」
何をそんなに感慨深く言ってんだ、ジジイ?
俺が山岳ガイドに連れ回したせいか、ちょこちょこ依頼人の人とも話すようになってるし。
(そもそも『ロック以外の者』って、師匠とも話するじゃん?)
そんな事を考えていると、村人の1人が息を切らせて駆け寄ってくる。
「俺はだまされねえぞ! 全てはコイツのせいだ!!」
無精ヒゲの青年が、ジジイを指差して何か言い出した。
▲ ▽ ▲ ▽
「みんな、だまされてるんだ!
コイツが<ラピス山地>を荒らし回ってるのが、全ての原因なんだ!
── つまり、コイツのせいで、この村は全滅する!!」
(── な、なんだってぇえーーー!!?
それは本当か、キ■ヤシ!?)
はい。
取りあえず、ネタ的に乗ってみました。
しかし、M■Rとかマジ懐かしいな。
(俺、ネッCーとか、宇■人とか、UF●とか、古代の超文明とか、そういう学術的ロマン好きだったし……)
前世は、PC得意なインテリ事務員ですので!(キリッ)
── まあ結局。
1999年7の月に執り行われるはずだった、アンゴルモア陛下(職業:火星の大王)の初の地球への表敬訪問事業は、諸般の事情から取り止めになったらしいが。
大変、残念至極。
(臣は……っ、臣は……っ!
せめて前世ニッポンでの寿命が尽きる前に、ひと目だけでもお会いしとうございました、大王陛下……っ)
時下、異世界の候。
偉大なる火星の統治者(予定)のますますのご清栄を、遠く転生先からお祈り申し上げます。
敬 具 。
── さて。
だいぶん、話が脱線したな。
さっきのM■Rか▲ーな人、ジジイを指差して、まだ何か言ってる。
「コイツが俺たちの忠告を聞かず、勝手に<ラピス山地>に住み着いた事が、全ての発端に違いないんだ!」
「アンタ、そういう事を言うのやめなさいよ」
「そうよ、みんな助けてもらったのに、失礼じゃないかっ」
「そうだそうだ!」
他の村人に迷惑がられている。
「お前達は! この村の人間は! 何も解ってない!!
俺が、何度も何度も、こうやって危機を訴えているのにぃ~~!!」
やべえ目つきで、ヤベえ剣幕だ。
何か普通に説得しても、聞きそうにないっぽい興奮っぷりだし。
(もしかしたら、魔物に食われかけたとかで、まだパニクってんのかね……)
割とよく見るパターン。
俺もたまに、山小屋の近くで魔物に食われかけた迷子な大人とか助けるけど。
大体、みんな、こんな感じ。
パニクり過ぎてギャーギャー喚いて暴れるばかりで、手が付けられない。
ついでに麓の村まで送ってやっても、『ありがとう』の一言もない。
逆に『別に、助けてくれとか頼んでない』『助けに来るのが遅くて、ケガした』とか、イラッとくる事を言われる方が多い。
(前世ニッポンで『衣食足りて礼を知る』みたいな言葉があったけど。
他人様にお礼一つ言うにしても、心の余裕がないと出来ないもんとはねー。
この世界に転生して、初めて知った事だよなー)
魔物被害者にいちいち怒っても仕方ない、という事も学習してる。
剣帝をチラ見すると、時々、適当な相づち打つだけで、基本聞き流している。
やっぱり、魔物被害者にイチャモン言われるのも、慣れているらしい。
「コイツや神王国の連中が、何かアヤシげな事をやってるのを、俺は知ってるんだ!
いざとなっても、帝都の貴族や偉い人間たちは、何もしてくれはしない!
これから、こんな事が何度も起こって、俺たちは見殺しにされるんだぞ!!」
「……でたよ、アイツの何でも『神王国の陰謀』」
「ねえ、ところで神王国ってどこにあるの?」
「大陸の反対側、<アートルム大砂丘>を超えた向こう」
「え、えぇ……っ?」
「そんな遠くの国、絶対関係ないじゃん」
アレ、なんか村人の反応が変じゃね?
おい、何だかヒソヒソ話されとるぞ、この無精ヒゲ青年……。
(……もしやコイツ、いつもこんな事言ってる人なの?
今回たまたま魔物に食われかけて、パニクってるワケじゃないの?)
「ウソじゃない!
俺は、この世界の真実を知っているんだ!
魔物の軍勢が! 神王国の連中が! 魔物を操って攻めてくる!!」
「この世界の真実(笑)って」
「魔物を操る(笑)とか」
「そんな事が出来たら、村の魔物の被害とか、全部なくなるだろう」
「なんで、そんなに神王国にこだわるの?」
周囲は、完全に冷たい目である。
(それにしても『神王国』か……
なんか、ピンポイントで当ててくるな。
もしや、この無精ヒゲ青年、ただの妄想の人じゃない……?)
この村にいた『帝国なんちゃら部隊の工作員の皆さんの話を盗み聞きしてた』とか、そういうパターン?
魔物改造したり、それを操って戦争の兵器にしてた、あの件。
あんなヤベえ裏話を聞いてたとすれば、疑心暗鬼になっても仕方ないけど。
(どうしようか、コイツ……
本当に知ってるなら、『例の魔物改造実験はもうぶっ潰したから大丈夫よん』って教えた方がいいのかね……
でもコイツ、口が軽そうだから、余計なトラブルの元になりそう……)
そんな事を悩んでいるウチに、無精ヒゲ青年の言動がさらにエキサイト。
空を見上げて涙まで流し始めた。
「── ああ! あああ! そうだ、思い出した!
俺は未来を、この世界の結末を知ってるんだ!
あと数年! もう、10年も保たない! 神王国が魔王に乗っ取られる!
魔王は恐ろしいヤツなんだ! 人類を滅亡させようとする!」
「何、アレ、発作……っ?」
「今度は『魔王』とか言い出したぞ」
「『魔王』ってアレ? 聖教の僧侶が言う、死後の世界にいるヤツ?」
「おい、マトモに聞くなよアイツの話。こっちまでおかしくなる」
「<天剣流>も、<裏・御三家>の『<聖都>の剣』も、誰も助けてくれなかった……っ
人類最強の魔剣士・剣神だって、誰ひとりとして、俺たちを守ってはくれないんだぁ……」
「え、何? 人類最強の魔剣士・剣神って誰?」
「知らない、聞いた事もない」
「あのおじいさん、確か『剣帝』っていうんでしょ」
「間違えて覚えてるのか……アホだな」
無精ヒゲ青年の話が、すごい勢いで飛躍し始めた。
もはや陰謀論とかチャチな次元じゃなくなってる。
周囲の村人も遠巻きで、完全に白い目である。
(アレ、もしかしてコイツ “““本物””” じゃね……?)
なんか、こういうヤツ。
前世ニッポンの世界だけじゃなく、こっちの世界にもいるのか。
(う~わ~、マジでガチで本気の人かよ……
ただの『中二病』かと思って、親近感覚えてたんだけど、俺……)
軽い気持ちで『濃密な都市伝説トークで盛り上がろうZE☆』とか余計な事しなくて良かった。
ちょっと冷や汗もんだぜ。
「ああ、帝都の連中は、俺たち辺境の人間を助けてくれない~
2等領地の人間は、旧・連合国の領土はすべて、見殺しにされちまうんだぁ~」
ついに座りこんで、グズグズ泣いている。
エキサイトしすぎて、叫ぶ気力も無くなってきたみたいだ。
すると、いつの間にか、銀色のキューティクル美少女が隣りに来ていた。
「お兄様、エルさんのご親戚の方は、もう遠くに引っ越されたそうですの。
── ところで、さっきから何ですの、この方は……?」
「放っておきなさい、あんまり関わっちゃダメよ?」
「よく解りませんが、解りましたのっ」
カワイイ妹弟子でも見て、ココロ癒やされよう。
うわぁ、“““本物””” って怖いわー。
▲ ▽ ▲ ▽
「はぁ……荷車を1台、譲って欲しい、ですか?」
「ああ、もちろんただじゃ無いよ。
正規の値段で ── いや、今は非常事態だから、ちょっと加算するよ?」
「それは、その……──」
俺の売買交渉に、酒蔵のオッサンは渋い顔。
すると、横で聞いていた村長が口を挟んできた。
「なぁ、酒蔵よ。
そりゃワシもな、酒や材料を運ぶ荷車が、大事な商売道具だってのは解るんだよ。
しかしアレだ、こちらの方たちは、村の恩人なんだ。
その方の、きっての頼みってんだ、どうにかならんか?」
「いや、村長、ウチも別に、荷車を<駒>ごと売るのがイヤってワケじゃ……
ただその、魔剣士の方々が言う『御者をつけてくれ』って事の方が問題で。
酒蔵から1週間も職人を連れて行かれると、今季の酒の仕込みが間に合わない」
「ああ、それは確かになぁ……。
酒の仕込みを遅らせるワケにいかんのか?」
「もう仕込み作業を始めちゃったからな。
途中でやめて1週間も放っておくと、酒の材料が腐る」
「そりゃあ、ちょっとマズいな……」
「それこそ1週間も前なら、材料運んで行商隊が来てたばかり。
その時なら、御者1人か2人、雇うくらい簡単にすんだんですがね」
酒蔵のオッサンは、申し訳なさそうな顔で、こちらを見る。
俺も、どうしたもんかと思い、空を仰ぐ。
両手の中で、荷車と<駒>1体の買取代金『金貨20枚』を、チャリンチャリンさせる。
すると、ジジイが余計な口を挟んできた。
「おい、ロック。
村の方々に恩を着せて、あまり無理を言うものではないぞ」
「じゃあ、どうすんだよジジイ?」
「ワシが次の村まで、御者をすれば良いだけの話であろう」
「アホか、ジジイ!
ちょっと次の村まで買い出しってなら、俺もわざわざ運転手なんか頼まんわい!
行く途中で魔物と会ったら戦闘! 着いたらまた戦闘! 夜は村を守るために寝ずの番!
それを村5個分も6個分も繰り返すとか、ジジイ、テメーはいつ寝るつもりだ!?」
「ワシが御者をしている間、お主とアゼリアは寝ておればよかろう」
「ジジイの休憩時間の話をしとるんだよ、俺は!!
そうやってカッコ付けて無理ばっかりしてたら、また腰が悪化すんぞ!」
まったく、困ったジジイだ。
いつまで若いつもりだ、この腰痛持ちが。
何のために、俺のヘソクリ(指輪の<魔導具>製造のアレ)叩いてまで、荷車を確保していると思ってんだか。
「困りましたなぁ……」
「困りましたなぁ……」
村長と酒蔵のオッサンが、異口同音にぼやく。
顔立ちとか体型とか、よく似てるなこの2人、もしかして親戚か?
軽い雑談として、そんな事を聞いてみる。
と、村長と酒蔵のオッサンは、ニヤリと笑い合った。
酒蔵の作業スペースに入っていって、何かゴソゴソし始める。
「どっちが村長か」「解りますか!?」
同じような服を着て、鏡映しみたいなポーズで出てきた。
(なんか前世ニッポンでも、こんな双子の芸人いたな……)
ちょっと呆れながら、右の方を指差す。
「……こっち」
「なにっ 即答!」「なぜ解った……っ」
そりゃあ、筋肉だろ。
村長より酒蔵のオッサンの方が、身体が引き締まってるから。
「やはり、3人揃ってないとダメか」「2分の1だと、マグレ当たりがあるからね」「もう1人、弟がいないと……」「でも兄さん、アイツめったに帰ってこないよ」「行商人なんてヤクザな仕事にハマリ込みよって……」「『猿の剥製』もやってみる?」「いやアレは、若い人にはウケが悪い」
上から羽織っていた仕事着を脱ぎながら、2人でブツブツ言ってる。
どうやら、双子ではなく3つ子兄弟らしい。
(そういや、この前の行商人のオッサンも、似たような顔だったな……)
ああ言われてみれば、というくらいの感じだ。
俺ら剣術家だと、相手の顔の造形よりも、雰囲気とか魔力とか体つきとか、利き目利き手利き足とか、そういう事の方が気になって覚えてるからな。
さて、元の服装に戻って『刺繍帽子』をかぶった村長(ほかの村人が混乱するから目印として常に被っているらしい)が、ペコペコ頭を下げ始める。
「この周りの村といえば、親戚がいる者も多い。
それを助けて頂けるなら、我らも村をあげて協力します ── と言いたいところですが。
自警団の連中を連れて行かれると、この村の安全が心配になりますし。
自警団に入ってない男手とか、大抵は病人か老人かで、旅のお供は難しいでしょうし……」
「──あ……兄さ ── いや、村長っ! アレ、アレっ!」
酒蔵のオッサンが、渋い顔をした村長の袖を引っ張った。
「……いつもいつも、こうだ……あの時もあの時もあの時も……
俺がいくら注意しても、みんな笑って信じてくれない……
もうすぐ魔物の軍勢が、『魔王』が攻めてくるのに……っ」
指さし示すのは、まだ地面に座り込んで、グズグズ泣いているヤツ。
「おおぉ……、アレか……っ」
「アレなら、どこに連れて行かれても、誰も困りませんしっ」
「そうだな、どうせ何の役にも立たない青年だ。
例え魔物に襲われ、村に戻ってこなくても、誰も悲しまないなっ」
── えっ!? 何ソレっ
ちょっと、マジ、そんなヤツなの、アイツ!
「── おい、そこのロクでなし!
村長命令だ、魔剣士の方々に着いて行ってこいっ」
村長が、高圧的に言う。
「村の恩人に、あんな無礼なマネをしたんだ。
しっかり働いて、身体で返してこい。
できなかったら、村八分だぞ、お前の家?」
酒蔵のオッサンも、脅すように言う。
「いや、せっかくの人選ですまぬが。
足手まといになる者は、こちらとしても困るのだがのう……」
ジジイがそうぼやくと、村長と酒蔵のオッサンの兄弟ふたりは息の合った調子で答えた。
「いえいえ、魔剣士のご老人!
役に立たなければ、道中で捨てていただいても、全然かまいませんので!」
「そうですよ、そうですよ!
なんなら魔物の囮に使っていただいても、誰も文句はいいませんので!」
「いやそんな非道は、さすがに、のう……」
村の有力者2人の、異様な笑顔の圧力に、ジジイも圧倒されてしまう。
「── よし酒蔵! そうと決まれば出発の準備だ」
「── ああ村長、まかせろ!
魔剣士の方々、荷車に食料10日分ほど積んでおきますので!
ああ、もちろんサービスですよ、お代はいただきませんのでっ」
「お、おう……」
村長と酒蔵の双子兄弟の勢いに押され、取りあえず肯く俺。
いつの間にか、全て決められてしまった。
!作者注釈!
2022/11/29 聖王国 → 新王国に変更。(聖都と紛らわしいため)




