63:奥義と極意
!作者注釈!
うっかり更新ミスって、前62話とこの63話の下書きが入れ替わってたみたいです。
修正してますので、一応、前の話も見ておいてください。
あと、以前の話で技コマンドが抜けてるヤツ見付けたので、いくつか修正してます。30話31話くらい。(誰にとってもどうでもいい情報)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
── ギャィインッ!と、オオカミもどきの魔物が鳴く。
「うぅ~ん、今ひとつだな……」
思わず、独り言が出た。
基本の練り直しって事で、『必殺技・秘剣シリーズ』不使用で戦闘中。
あと、特殊技もほぼ封印。
剣術と【序の一段目:断ち】オンリーの、縛りプレイで魔物退治だ。
しかし、自分で思ってた以上に、動きのキレが悪い。
この程度の魔物を1匹倒すのに、3回~5回くらい、剣を振らされてる。
つい『何やってんだ、俺……っ』と自己嫌悪。
(たかだか、『木に登るだけの爪の長い狼もどき』に、何を苦戦しているんだか……)
腕の鈍りっぷりに、ちょっとヘコんでしまう。
(これじゃあ、魔法禁止の練習モードで『噂の神童サマ』にボコボコにされかけるわ、俺……)
最近は『必殺技・秘剣シリーズ』に頼り切りだった。
そのせいなのか、剣術の基本が疎かになっている。
「まったく、リアちゃんが見てなくてよかったぜ。
兄貴の面子とか木っ端微塵だろ……こんな光景……」
別の意味で、冷や汗が出る。
ガアガアうるさいオオカミもどき(ザコ!)の、樹上から振り下ろす『長い爪』を紙一重で避けつつ、カウンターで片腕(片前足?)を落とし。
必死こいて振ってくる、もう片方も同じように落とし。
それからようやく首を狙って、止めに入るワケだ。
── つまり、最低でも3手順。
ウチの超天才児なら、ズパズパと一刀両断の一撃必殺な魔物なのに。
(その何倍 ── いや何十倍くらい、手間をかけてんだ、俺?)
大好き陸鮫ちゃん(皮と歯はギルドに売れる! ヒレは乾燥して御馳走になる!)なら、素材を傷つけないように、職人が丹念に時間と手間をかけて処理するが。
「なんで、こんな大したカネにもならん魔物に……」
思わずグチがでる。
ズバン!と、今ようやく5匹目の止めを差した俺。
ウチの超天才児だったら、すでに群れ全滅で片付いている時間。
(こんな無様っぷりが妹弟子にバレたら。
── 『無能は、近づかないでくださる? ああ、アゼリアの尊敬したお兄様は、もういらっしゃらないのね……』とか!
愛想つかされたら、どうしよう!?)
俺的、大ピンチである!
(どうやら、かなり気合い入れて鍛え直さないといけないらしいな!
ガンバれ俺、兄弟子の威厳のタメに!!)
── あ、ちなみに、当のリアちゃんは村の中に入っていって、村人救出中な。
「お友達の親戚のおばあさんが、心配ですのっ」
とか、居ても立ってもいられない感じで、村の中に突っ込んでいった。
(この村って、1ヶ月ちょい前に酒蔵の地下で工作員ぶっ飛ばした所か……
こっちは『活人剣』の剣帝一門ってのに。
知らないうちに『殺人の片棒を担がされた』とか、笑い話にもならねえ……)
俺的に、殺してもギリギリセーフなのは『妹弟子の敵』だけである。
『外国の工作員』とか『祖国の裏切り者』とか、知った事じゃねえ。
なので、悪い子の騎士団第四方面隊の工作員(監査部調査室)のみなさんには、重々反省して頂きました。
物理的に。
(次、こんなふざけたマネしやがったら、騎士団の拠点の井戸に、片っ端から毒キノコ放り込むぞ、と脅したから、もう大丈夫だろうが……)
全身ジンマシンとか、鼻から胞子爆発とか、3日間大爆笑とか、アイキャンフラーイ!とか、色んな危険キノコがいつでも満載!
おいでよヤベー動植物の森<ラピス山地>!!
▲ ▽ ▲ ▽
── それは、さておき。
さっき言った通り、今リアちゃんが村の中。
なので、俺とジジイは村の外。
みんなで手分けして魔物退治しないと、ね。
3人しかいないからね、剣帝一門ったら。
ジジイは開けた農地の辺りで、魔物の群れを蹂躙中。
魔剣士じゃない俺は、囲まれて一斉攻撃されるとヤバイので、障害物の多い森の中を担当。
適材適所の分担作業だ。
「ああ、こんなザコ魔物、秒で殺してやりたいけど……
さすがに愛剣のリーチの短さが、致命的だなぁ……」
俺の模造剣とか<小剣>で、刃渡り40cmしかないし。
柄を入れても、長さ60cmだし。
大型犬より一回り大きいくらいの魔物とやり合うには、どうしてもリーチが心許ない。
今までは【秘剣・三日月】の遠距離攻撃とか、【秘剣・速翼】の突進攻撃とかで補った欠点が、今回の件で丸わかりである。
「これはもう、ジジイのアレしかねえのかな……」
── たしか『逆天の回撃』とかいう名前だったか?
ジジイの奥義のひとつ。
魔物の攻撃をギリギリでかわして攻撃する、一言でいえば『カウンター技』。
しかし、だからといって回避や防御のための技では、決して無い。
武器の損耗を最小限にするために、一撃必殺を追求していった結果、というゴリゴリの攻撃特化で、殺意高めの技。
(お、丁度よく、斜め後ろからかぶりついてくるバカが一匹……)
このオオカミもどきは、樹上から降ってきて不意をうち、片方の爪で獲物を抑え付け、首をガブリとやりたいんだろう。
大樹から飛び降りながらの、長い爪を振り下ろす一撃 ──
── それに合わせて斜め後ろへと下がった。
まるで地面を滑るように、相手の懐に飛び込んで爪撃をかわす。
(うむ、流石は<魄剣流>の門外不出の歩法!
使い慣れてくると、スゲー便利!!)
すり足みたいに、常に地面に両足裏が接している、この歩法。
最大の特徴は、敵の動きに合わせた、その変幻自在さ。
解りやすく言うと『いつでも地面を蹴って、急激な方向転換ができる』という歩法なのだ。
(ほら、まさに、こう!
前世ニッポンのオリンピック体操選手みたいに、縦回転&スピン付きの後方ジャンプとか、急にできちゃうわけで!!)
パクッと口を開けて火炎放射しそうになった魔物に対し、その頭上を飛んで回避。
そうやって敵の上空を飛び抜け、後方に抜ける瞬間に、バッシュッと首を撫で斬り!
首が半分斬れた魔物は、ドパドパ血を噴き出しながら数歩歩いて、ズシャンと倒れ込む。
「おお、珍しく上手くいった……っ」
我ながら、パチパチパチと、ちょっと拍手してしまう。
ジジイの奥義の中でも、1・2を争う高難易度奥義なんだが。
この『逆天の回撃』って奥義。
【秘剣・木枯:参ノ太刀・星風】に組み込んでる『望星の撃剣』より1段上の難易度なんだが。
(※ あ、星風は、技コマンドが 『 →↘↓↙←+ [P] 』 のヤツね。
乱舞系コマンド投げで、技終了後にバックジャンプする、アレ)
「でもまあ、調子に乗るとケガするからな……」
どう考えても、今のは完全にマグレなので、堅実にいこう。
── そもそもジジイの『奥義』は、『俺が開発中の奥義』や『リアちゃんのアルティメット奥義』とは、意味が違う。
難敵を倒すための『超威力の必殺技』ではない。
剣術の基本を追求した結果、至った『極意』の意味である。
つまり、剣術の達人が使う『通常技』の一部。
それが、凡人には『神業』に見えるだけ。
ジジイにとっては、『奥義』が100発100中は、当たり前。
そうでないなら、まだ実戦で使うな未熟者、という事だ。
── そんなワケで。
俺は『落ちこぼれ弟子』らしく、手間のかかる安全策で魔物を全滅させた。
▲ ▽ ▲ ▽
── 同じ頃。
<翡翠領>の、屋台街。
「あぁ、眠い……
昼飯食って腹が膨れたら、いよいよ眠気が強なったわ」
西方なまりの青い服の青年が、ただでさえ細い目を、いよいよ線のようにしてぼやく。
「ワイ、新しい<魔導具>手に入れて、ついつい調子のってしもた。
魔物の群れに叔父貴と2人だけは、さすがに精神がすり減る。
おかげで『冒険者は3人組が鉄則』ちゅーのが、よく分かったわ。
── ほらアレ、<天剣流>の例のお坊ちゃん。
アイツ『2人で魔物退治』しとるらしいけど、頭おかしいやろ?」
細目の青年は生あくびしながら、ずるずると長椅子に沈み込む。
すると、正面に座る黒白の縞柄の服の青年が、食事の手を止めて顔を上げた。
「それほど疲弊したなら、昼寝でもすればよかろう。
何、枕が必要と言うなら、ちょっと姉上呼んでこよう。
── つまりは、膝枕」
「やめい、相棒っ
そりゃ、世間で言うところの『ありがた迷惑』ちゅーやつや」
「ルカのためと聞けば、姉上は飛んでくると思うが。
── つまりは、万事円満」
「相棒、お前……
ワイと姉貴をくっつけたいんか?」
眠そうにしていた細目の青年が、不機嫌そうに顔を上げる。
すると、相棒と呼ばれていた巨漢は、食事を続けながら微苦笑。
「別に、そういう訳でもない。
ただ、我々もそろそろ20になる。
聖教認定の英雄・神童という立場ゆえ、自分で相手を決めてなければ、周りが勝手な縁組みを用意してくる。
── つまりは、政略結婚」
「まあ、それは確かに面白ないな。
そんな策略に、この『天下無双の天邪鬼』神童ルカ様が大人しく従う、訳がない。
いい加減、学習してもらいたいもんやなっ」
「それは周囲も重々承知の事。
おそらく縁組みの相手は、その方が断りにくい立場の人間。
例えば、歴代<聖女>様の縁者の娘。
── つまりは、聖女側近」
「う~わ~っ、そんなん絶対イヤや!
ワイが命かける女子くらい、自分で探すわ。
── ところで相棒、お前はどうすんねん? 特に相手おるとも聞かんけど」
「俺は、天使さんを振り向かせるため、努力をおしまない。
── つまりは、現在片思い中」
「天使さん……?
── ああ、あの<封剣流>直系のお姫さんかい。剣帝さんの後継者。
やめとけやめとけ、<裏・御三家>の若手筆頭が、<表・御三家>の秘蔵っ子相手とか、障害が多すぎるやろ。
聖教の偉いさん達も苦い顔するし、孤立無援やぞ?」
「俺は、障害のひとつふたつで止まりはしない。
── つまりは、粉骨砕身」
「そもそも、あのお姫さん、『剣帝流の一番弟子』にベッタリやないかい。
まあ、魔剣士になれんかった才能無しが、女ひとりを守るためだけに死ぬ気で腕を磨いて、そこらの魔剣士より強くなっとる訳や。
そないな姿を見せられたら、お高くとまった女でも絆されるやろけど」
「うむ、我が恋敵として不足はなし!
── つまりは、正々堂々男の勝負!」
「……まぁ、お前は、そういうヤツやったのう」
お互いに、自信家で、負けず嫌いで、向こう見ず。
そんな似た者同士だからこそ、散々ケンカもした。
そして死線を越えた時、唯一無二の相棒となった。
「しかし今回の件……<黒炉領>の時を思い出す」
「むっ、それは……『魔物の大侵攻』か……
ルカよ、あまり滅多な事を口にすべきではないぞ? 皆が不安がる。
── つまりは、不謹慎」
そんな話をした直後。
噂をすれば影、とばかりに。
── ドォンン!と、爆音じみた音が聞こえてきた。
▲ ▽ ▲ ▽
「なんや、今の」
「杭を大金槌で打ったような……いや、石を叩いた音か?
── つまりは、攻城兵器!?」
「相棒、勘弁してくれっ
魔物に取り囲まれた上に、他国の侵攻とか、冗談やないで!」
そんな話をしながら、ルカとカルタの『神童コンビ』は城壁の上へと駆け上がっていく。
見下ろせば、相変わらずの魔物の群れ。
草食性の大型羊の魔物<身代鞭羊>が数百か千かという数を群れなし、城壁の外に羊毛色の海が広がる。
その海が割れている所があった。
何か、巨大な ── 馬なみの体躯の魔物<身代鞭羊>が小柄に見えるくらい、巨大な茶色い個体が暴れ狂っていた。
「なんや、アレ……」
「さっきの音は、あの魔物が原因でしょうか?」
いつの間にか、隣りに小柄な従弟ガイオの姿。
周りをみれば、仲間達も駆けつけていた。
巨体の魔物に向かって、遠巻きで囲む<身代鞭羊>の、羊毛の鞭が伸びる。
それも数十本。
巨大な茶色い魔物は、振りほどこうとするが、すぐに絡め取られて、引き寄せられた。
それを<身代鞭羊>が4~5匹集まり、巨体の魔物をひっくり返して担ぎ上げるような体勢で、搬送し始める。
── 城門の方へと。
「アイツら、まさか!」
城門前で解き放たれた巨体の魔物は、興奮と怒りの極みのような状態。
グルグルと周囲を威嚇し、猛牛のように蹄で地面を掻き始める。
それをけしかけるように、<身代鞭羊>の羊毛の鞭が周囲を叩き、激しい音と砂埃を上げる。
すると巨大な茶色い魔物は、『ゴォーン!』という鐘のような魔法起動音を響かせる。
土魔法だろうか、魔物の身体に岩の装甲が形成されていく。
特に強固なのは頭頂部で、一角獣のような角を有する無骨な兜のようだ。
そして、突進!
城門脇の、石柱へと!
── ドォオオン!! と爆音と、激しい揺れが城門を揺らす!
さらに、他の場所でも同じような事が起こっているのか、遠くからもドォオオン!!と、爆音とがいくつも響いてくる。
「お、思い出しました! あの魔物!
たしか<洞窟驢馬>!
岩崖を砕いて洞窟を削り出す魔物!
山奥の谷間にしか生息しない希少な魔物が、なぜこんな所に」
「と、父さん、あ、アレ……」
最年長者のトニは、娘ラシェルが指差す方に目を向ける。
街道の向こうから、砂埃をまき上げて向かってくる集団。
先ほどと同じように、巨体の魔物を逆さ縛りにして担ぎ、運搬してくる羊型魔物の群れ!
「アイツラが連れてきとんのかい!?
ホンマ、性格の悪い魔物やな!
── 守衛隊の連中は何やっとんねん!」
「ルカ様、あちらで戦ってるみたいですっ
城壁の上から、魔法攻撃で応戦してる!」
相棒カルタの姉ベルタが、ルカに寄り添いつつ、別の城門を指差した。
「アホか! ぬるい仕事しよってっ
あんな重装甲に、遠くからチマチマ魔法撃ってもしゃーないやろ!
── 相棒、準備は!?」
「万端!」
「トニ、あの魔物の脅威力は!?」
「ほとんど人里に出てこないので、交戦記録がありません。
ただ、あの土魔法の装甲は、おそらく『外骨獣』並かそれ以上!
だとすれば、最低でも脅威力3!
いや、あの巨体からすれば、もはや脅威力4に近いでしょうっ!」
「未討伐のレア魔物で、<羊頭狗>単体どころか、空の王<雷雲巨鷹>クラスか!?
またワイら『神童コンビの無敵伝説』が1ページ増える、っちゅうこっちゃな!」
「ルカ従兄、どうするつもりなのっ」
「どうもこうもないやろ!
魔物はたたっ切る、他に方法あらへんでっ
行くで、相棒!」
神童ルカは、腕輪を操作して身体強化魔法を発動させるや否や、都市城壁の上から飛び出した。
城門周りの石柱や、飛び出た石像などの飾りを足場に、巧みに降下していく。
「おう!」
その相棒・神童カルタも、それ続く。
▲ ▽ ▲ ▽
地面に着地した『神童コンビ』へ、すぐさま城壁上から、装備が投げ渡された。
すぐに神童ルカが、飛ぶような速さで魔物へ駆け寄り、抜剣と同時に一撃。
「── ロバさん、こんにちわっ
こんな所で油売っとらんと、早うお山に帰り!」
岩壁を砕く本能が刺激されたのか、一心不乱に石柱に突進する<洞窟驢馬>。
その突進が終わった隙だらけの尻へと、<魄剣流>の【雷電の魔法剣:指振い】が炸裂する。
しかし、魔物は岩のように佇むだけで、微動だにしなかった。
「ちい、土魔法の装甲に阻まれて、電撃がきかん!」
「ルカ! 【土泥の魔法剣:足捕り】で拘束は!?
── つまりは、代替手段っ」
超巨大な獲物を担ぐ神童カルタは、その重量ゆえの鈍足。
まだ遠い場所からの問いかけに、ルカは、怒鳴るような大声で答えた。
「土魔法やからダメや!
魔物の得意属性は利きにくいねん!」
位置を変えながら何度か胴体を斬りつける。
だが、電撃も剣撃も装甲に弾かれ、岩を砕く魔物は突進を続けて、怯みもしない。
「── って、なんやこれ!」
攻撃を続けるルカの手足に、羊毛の鞭がまとわり付いてきた。
「邪魔すんなや、オラぁっ
ホンマ、性根の腐った魔物やな!」
電撃を帯びた剣【雷電の魔法剣:指振い】で斬れば、通電の痛みで、魔物は羊毛の鞭を引っ込める。
ただ、数が多い、多すぎた。
遠巻き囲む、数十か百近い羊型魔物<身代鞭羊>が代わる代わる、という状況だ。
払っても払っても、斬っても斬っても、次から次へと羊毛の鞭がまとわり付く。
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
「クソうざい、うざ過ぎる!
何が『無害な魔物』や!
コイツら性根腐りすぎやろ!」
不意に、ガッガッ……!と、地面を蹄でかく音。
足を止めた神童ルカへと、頭角を向けて茶色い巨体を震わせる、驢馬型魔物。
幌付き荷車ほどの体格が、突進してくる。
「── げぇっ!?」
「ルカ!」
岩壁をも砕く<洞窟驢馬>の突進!
── ギャリィンッ!と、錬金術の施された鋼鉄が、砕けんばかりに軋んだ。
「── ぬぅうう……っ」
「相棒……っ」
間一髪、神童カルタのフォローが間に合った。
神童ルカの目の前に滑り込んだ、黒白の縞模様の『聖紋衣』。
【特級・身体強化:剛力型】の魔法陣を背負う、巨漢の姿。
剣身2m、幅40cmの巨大な刃が盾となり、持ち主の巨体ごと防壁となって、敵の突進を受け止めていた。
「ルカ、今の内に活路を!!」
「任せい、相棒!」
巨漢の肩を踏み台に、神童ルカが宙を高く舞う。
「頼むで、『剣帝の一番弟子』!」
その右手にはまった、ツタを巻いたような指輪が、魔力光を放つ。
『カン!』と魔法起動音と、逆手<中剣>の落下攻撃はほぼ同時。
── ザクン……ッ!と心地よい手応え!
全体重をかけた<中剣>の刺突が、魔物の土魔法の重装甲を貫いた。
「── は、入ったぁっ!?」
ヴォン!と魔物がいななき、暴れ馬のように二本足立ちになる。
思わぬ痛撃に驚き、暴れ始めた。
「ルカ!」
神童カルタは、いったん魔物から離れ、追撃を狙う。
暴れ狂う魔物の背の上で、なんとかバランスを取る神童ルカは、余裕と笑う。
「おうよ、こんな機会逃すかい!
【白霜の魔法剣:身竦み】!」
<中剣>に『切れ味向上効果』を付与していた魔法陣が消え去る。
上書き発動した魔法剣が、剣身に『白い霜』を浮かび上がらせた。
「凍てつけ、この脳筋驢馬めっ
【魔法剣:解放】や!」
── ヴ! ヴォッ! ヴォゥッ!
体内で冷気を炸裂された茶色い魔物は、巨体をよじり動きを止める。
極寒の冷気に急激に体温を奪われ、魔法剣の名前の通り『身を竦ませ』て動きを止めた。
「いったれ、相棒!!」
「おうよ、勝機到来!
── つまりは、一撃決着!」
神童ルカが、魔物の背から飛び降りる。
神童カルタが、巨大剛剣を振り上げる。
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
遠巻きの<身代鞭羊>が、羊毛の鞭を殺到させ、巨漢を縛り上げた。
「── ふぅぅんん!! かぁああ!!」
しかし、<轟剣流>が秘技『磊響戻破』を極めた若き達人には、生半可な攻撃など通用しない。
特級魔法で、その身体能力を数倍にした巨漢は、まさに剛力無双。
絡まった羊毛の鞭を引きずり、逆に魔物を引き倒しながら、巨大剣を一閃。
拘束の鞭が、全て断ち切られた。
まさに、『快刀乱麻を断つ』が如き解決策は、【特級・身体強化:剛力型】を極めた<轟剣流>神童の特権だ。
「うおおおおおおお!」
── ズドオン!と地面を断ち切る、一撃!
振り回され加速する巨大剣が、魔物の胴をめがけて振り下ろされた。
幌付き荷車大の重装甲魔物<洞窟驢馬>が、前と後ろに分断された。
── 『う、おおおおおおお!!』
激闘を見守っていた市民たちが、城門の上で怒号のような歓声を上げた。
巨漢の神童、<轟剣流>のカルタは、振り下ろした長柄の巨大剣を持ち上げ、剣身に浮かぶ魔法陣に目を細める。
「……この一連の攻防で、ほとんど刃こぼれもないか。
うむ、素晴らしき、魔法による刃の保護。
── つまりは、賞賛」
すると、隣りで聞いていた細目の神童、<魄剣流>のルカが、両手をわななかせて叫びを上げる。
「あの愚鈍ぇがぁ!
こんなエゲツない<魔導具>を、ポンポンポンポン簡単に他流派に渡しよってぇ!
これ絶対、流派の口伝とか奥の手とか、そういう『奥義』の類いの魔法やろ!!」
相棒ルカの、憎まれ口か賞賛か解らない言葉。
神童カルタは相棒の『複雑な心境』を推察し、苦笑いしながら相づちをうった。
「うむ、そうよな。
なるほどなるほど、さすがは魔剣士の頂点たる『剣帝流』が業!
── つまりは、魔導の『極意』!」




