表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 4:城壁ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/236

63:奥義と極意

!作者注釈!


うっかり更新ミスって、前62話とこの63話の下書きが入れ替わってたみたいです。

修正してますので、一応、前の話も見ておいてください。


あと、以前の話で技コマンドが抜けてるヤツ見付けたので、いくつか修正してます。30話31話くらい。(誰にとってもどうでもいい情報)

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




── ギャィインッ!と、オオカミもどきの魔物が鳴く。



「うぅ~ん、今ひとつだな……」



思わず、独り言が出た。


基本の練り直しって事で、『必殺技・秘剣シリーズ』不使用で戦闘中。

あと、特殊技もほぼ封印。

剣術と【序の一段目:()ち】オンリーの、縛りプレイで魔物退治だ。


しかし、自分で思ってた以上に、動きのキレが悪い。


この程度の魔物を1匹倒すのに、3回~5回くらい、剣を振らされてる。

つい『何やってんだ、俺……っ』と自己嫌悪。



(たかだか、『木に登る(・・・・)だけの(・・・)爪の長い(・・・・)狼もどき(・・・・)』に、何を苦戦しているんだか……)



腕の(なま)りっぷりに、ちょっとヘコんでしまう。



(これじゃあ、魔法禁止の練習モード(プラクティス)で『噂の神童サマ』にボコボコにされかけるわ、俺……)



最近は『必殺技・秘剣シリーズ』に頼り切りだった。

そのせいなのか、剣術の基本が疎かになっている。



「まったく、リアちゃんが見てなくてよかったぜ。

 兄貴の面子(めんつ)とか()()微塵(みじん)だろ……こんな光景……」



別の意味で、冷や汗が出る。


ガアガアうるさいオオカミもどき(ザコ!)の、樹上から振り下ろす『長い爪(・・・)』を紙一重で避けつつ、カウンターで片腕(片前足?)を落とし。

必死こいて振ってくる、もう片方も同じように落とし。

それからようやく首を狙って、(とど)めに入るワケだ。


── つまり、最低でも3手順。


ウチの超天才児(リアちゃん)なら、ズパズパと一刀両断の一撃必殺な魔物(ザコ)なのに。



(その何倍 ── いや何十倍くらい、手間をかけてんだ、俺?)



大好き陸鮫(サメ)ちゃん(皮と歯はギルドに売れる! ヒレは乾燥して御馳走(ごちそう)になる!)なら、素材を傷つけないように、職人(オレ)が丹念に時間と手間をかけて処理するが。



「なんで、こんな大したカネにもならん魔物(ヤツ)に……」



思わずグチがでる。

ズバン!と、今ようやく5匹目の(とど)めを差した俺。


ウチの超天才児(リアちゃん)だったら、すでに群れ全滅で片付いている時間。



(こんな無様っぷりが妹弟子(リアちゃん)にバレたら。

 ── 『無能(ゴミ)は、近づかないでくださる? ああ、アゼリアの尊敬したお兄様は、もういらっしゃらないのね……』とか!

 愛想つかされたら、どうしよう!?)



俺的、大ピンチである!



(どうやら、かなり気合い入れて鍛え直さないといけないらしいな!

 ガンバれ(ロック)兄弟子(にいちゃん)の威厳のタメに!!)



── あ、ちなみに、当のリアちゃんは村の中に入っていって、村人救出中な。



お友達(エルさん)の親戚のおばあさんが、心配ですのっ」



とか、居ても立ってもいられない感じで、村の中に突っ込んでいった。



(この村って、1ヶ月ちょい前に酒蔵の地下で工作員(スパイ)ぶっ飛ばした所か……

 こっちは『活人剣(殺人NG)』の剣帝一門ってのに。

 知らないうちに『殺人の片棒を(かつ)がされた』とか、笑い話にもならねえ……)



俺的に、殺してもギリギリセーフなのは『妹弟子の敵』だけである。

『外国の工作員(スパイ)』とか『祖国の裏切り者』とか、知った事じゃねえ。


なので、悪い子の騎士団第四方面隊の工作員(スパイ)(監査部調査室)のみなさんには、重々反省して頂きました。

物理的に。



(次、こんなふざけたマネしやがったら、騎士団の拠点の井戸に、片っ端から毒キノコ放り込むぞ、と(おど)したから、もう大丈夫だろうが……)



全身ジンマシンとか、鼻から胞子爆発とか、3日間大爆笑とか、アイキャンフラーイ!とか、色んな危険キノコがいつでも満載!

おいでよヤベー動植物の森<ラピス山地>!!





▲ ▽ ▲ ▽



── それは、さておき。



さっき言った通り、今リアちゃんが村の中。

なので、俺とジジイは村の外。


みんなで手分けして魔物退治しないと、ね。

3人しかいないからね、剣帝一門ったら。


ジジイは開けた農地の辺りで、魔物の群れを蹂躙中。

魔剣士じゃない俺は、囲まれて一斉攻撃されるとヤバイので、障害物の多い森の中を担当。


適材適所の分担作業だ。



「ああ、こんなザコ魔物、秒で殺してやりたいけど……

 さすがに愛剣(ラセツ丸)のリーチの短さが、致命的だなぁ……」



俺の模造剣とか<小剣>(ショート)で、刃渡り40cmしかないし。

柄を入れても、長さ60cmだし。


大型犬より一回り大きいくらいの魔物とやり合うには、どうしてもリーチが心許ない。



今までは【秘剣・三日月(みかづき)】の遠距離攻撃とか、【秘剣・速翼(はやぶさ)】の突進攻撃とかで補った欠点が、今回の件で丸わかりである。



「これはもう、ジジイのアレしかねえのかな……」



── たしか『逆天の回撃(リバース・スピン)』とかいう名前だったか?


ジジイの奥義のひとつ。


魔物の攻撃をギリギリでかわして攻撃する、一言でいえば『カウンター技』。

しかし、だからといって回避や防御のための技では、決して無い(・・・・・)


武器の損耗(そんもう)を最小限にするために、一撃必殺を(・・・・・)追求して(・・・・)いった結果(・・・・・)、というゴリゴリの攻撃特化で、殺意高めの技。



(お、丁度よく、斜め後ろからかぶりついてくるバカが一匹……)



このオオカミもどきは、樹上から降ってきて不意をうち、片方の爪で獲物(オレ)を抑え付け、首をガブリとやりたいんだろう。


大樹から飛び降りながらの、長い爪を振り下ろす一撃 ──

── それに合わせて斜め後ろへと下がった。


まるで地面を滑る(・・・・・)ように、相手の懐に飛び込んで爪撃(ツメ)をかわす。



(うむ、流石は<魄剣(はくけん)流>の門外不出の歩法!

 使い慣れてくると、スゲー便利!!)



すり足みたいに、常に地面に両足裏が接している、この歩法。

最大の特徴は、敵の動きに合わせた、その変幻自在さ。


解りやすく言うと『いつでも地面を蹴って、急激な方向転換ができる』という歩法なのだ。



(ほら、まさに、こう!

 前世ニッポンのオリンピック体操選手みたいに、縦回転&スピン付きの後方(バック)ジャンプとか、急にできちゃうわけで!!)



パクッと口を開けて火炎放射しそうになった魔物に対し、その頭上を飛んで回避。

そうやって敵の上空を飛び抜け、後方に抜ける瞬間に、バッシュッと首を()()り!


首が半分斬れた魔物は、ドパドパ血を噴き出しながら数歩歩いて、ズシャンと倒れ込む。



「おお、珍しく上手くいった……っ」



我ながら、パチパチパチと、ちょっと拍手してしまう。


ジジイの奥義の中でも、1・2を争う高難易度奥義なんだが。

この『逆天の回撃(リバース・スピン)』って奥義。


【秘剣・木枯(こがらし)参ノ太刀(さんのたち)星風(ほしかぜ)】に組み込んでる『望星の撃剣(スター・ゲイザー)』より1段上の難易度なんだが。

(※ あ、星風は、技コマンドが 『 →↘↓↙←+ [P] 』 のヤツね。

 乱舞系コマンド投げで、技終了後にバックジャンプする、アレ)



「でもまあ、調子に乗るとケガするからな……」



どう考えても、今のは完全にマグレなので、堅実にいこう。



── そもそもジジイの『奥義』は、『俺が開発中の奥義』や『リアちゃんのアルティメット奥義』とは、意味が違う(・・・・・)


難敵を倒すための『超威力の必殺技』ではない。

剣術の基本を追求した結果、至った『極意』の意味である。


つまり、剣術の達人が使う『通常技』の一部。

それが、凡人には(・・・・)神業(かみわざ)に見える(・・・・)だけ。


ジジイにとっては、『奥義(わざ)』が100発100中は、当たり前。

そうでないなら、まだ実戦で使うな未熟者、という事だ。



── そんなワケで。

俺は『落ちこぼれ弟子(ナマクラ剣士)』らしく、手間のかかる安全策で魔物を全滅させた。





▲ ▽ ▲ ▽




── 同じ頃。


翡翠領(グリンストン)>の、屋台街。



「あぁ、眠い……

 昼飯食って腹が膨れたら、いよいよ眠気が強なったわ」



西方なまりの青い服の青年が、ただでさえ細い目を、いよいよ線のようにしてぼやく。



「ワイ、新しい<魔導具(おもちゃ)>手に入れて、ついつい調子のってしもた。

 魔物の群れに叔父貴(トニ)2人だけ(・・・・)は、さすがに精神がすり減る。

 おかげで『冒険者は3人組が鉄則』ちゅーのが、よく分かったわ。

 ── ほらアレ、<天剣流>の例のお坊ちゃん。

 アイツ『2人で魔物退治(似たような事)』しとるらしいけど、頭おかしいやろ?」



細目の青年は生あくびしながら、ずるずると長椅子に沈み込む。


すると、正面に座る黒白の縞柄の服の青年が、食事の手を止めて顔を上げた。



「それほど疲弊したなら、昼寝でもすればよかろう。

 何、枕が必要と言うなら、ちょっと姉上呼んでこよう。

 ── つまりは、膝枕(ひざまくら)


「やめい、相棒っ

 そりゃ、世間で言うところの『ありがた迷惑』ちゅーやつや」


「ルカのためと聞けば、姉上は飛んでくると思うが。

 ── つまりは、万事円満」


「相棒、お前……

 ワイと姉貴(ベルタ)をくっつけたいんか?」



眠そうにしていた細目の青年が、不機嫌そうに顔を上げる。

すると、相棒と呼ばれていた巨漢は、食事を続けながら微苦笑。



「別に、そういう訳でもない。

 ただ、我々もそろそろ20になる。

 聖教認定の英雄・神童(しんどう)という立場ゆえ、自分で相手を決めてなければ、周りが勝手な縁組みを用意してくる。

 ── つまりは、政略結婚」


「まあ、それは確かに面白(オモロ)ないな。

 そんな策略(もん)に、この『天下無双の天邪鬼(あまのじゃく)神童(しんどう)ルカ様が大人しく従う、訳がない。

 いい加減、学習してもらいたいもんやなっ」


「それは周囲も重々承知の事。

 おそらく縁組みの相手は、その(ほう)が断りにくい立場の人間。

 例えば、歴代<聖女>(サンクト・シーコ)様の縁者の娘。

 ── つまりは、聖女側近」


「う~わ~っ、そんなん絶対イヤや!

 ワイが命かける女子(オナゴ)くらい、自分で探すわ。

 ── ところで相棒、お前はどうすんねん? 特に相手おるとも聞かんけど」


「俺は、天使さんを振り向かせるため、努力をおしまない。

 ── つまりは、現在片思い中」


「天使さん……?

 ── ああ、あの<封剣流>直系のお姫さんかい。剣帝さん(アゼリア)の後継者(=ミラー)

 やめとけやめとけ、<(うら)御三家(ごさんけ)>の若手筆頭が、<表・(おもて)御三家(ごさんけ)>の秘蔵(ひぞう)()相手とか、障害が多すぎるやろ。

 聖教の(えら)いさん達も苦い顔するし、孤立無援(こりつむえん)やぞ?」


「俺は、障害のひとつふたつで止まりはしない。

 ── つまりは、粉骨砕身」


「そもそも、あのお姫さん、『剣帝流の(男前の)一番弟子(嬢ちゃん)』にベッタリやないかい。

 まあ、魔剣士になれんかった才能無しが、女ひとりを守るためだけに死ぬ気で腕を磨いて、そこらの魔剣士より強くなっとる訳や。

 そないな姿を見せられたら、お高くとまった女でも(ほだ)されるやろけど」


「うむ、我が恋敵(こいがたき)として不足はなし!

 ── つまりは、正々堂々男の勝負!」


「……まぁ、お前は、そういうヤツやったのう」



お互いに、自信家で、負けず嫌いで、向こう見ず。

そんな似た者同士だからこそ、散々ケンカもした。

そして死線を越えた時、唯一無二の相棒となった。



「しかし今回の件……<黒炉領>(ブラックフォージ)の時を思い出す」


「むっ、それは……『魔物の大侵攻(モンスター・パレード)』か……

 ルカよ、あまり滅多な事を口にすべきではないぞ? 皆が不安がる。

 ── つまりは、不謹慎(ふきんしん)



そんな話をした直後。

噂をすれば影、とばかりに。


── ドォンン!と、爆音じみた音が聞こえてきた。





▲ ▽ ▲ ▽



「なんや、今の」


「杭を大金槌で打ったような……いや、石を叩いた音か?

 ── つまりは、攻城兵器!?」


「相棒、勘弁してくれっ

 魔物に取り囲まれた上に、他国の侵攻とか、冗談やないで!」



そんな話をしながら、ルカとカルタの『神童コンビ』は城壁の上へと駆け上がっていく。


見下ろせば、相変わらずの魔物の群れ。

草食性の大型羊の魔物<身代鞭羊(サクリファサー)>が数百か千かという数を群れなし、城壁の外に羊毛色の海が広がる。


その海が割れている所があった。


何か、巨大な ── 馬なみの体躯の魔物<身代鞭羊(サクリファサー)>が小柄に見えるくらい、巨大な茶色い個体が暴れ狂っていた。



「なんや、アレ……」


「さっきの音は、あの魔物が原因でしょうか?」



いつの間にか、隣りに小柄な従弟ガイオの姿。

周りをみれば、仲間達も駆けつけていた。


巨体の魔物に向かって、遠巻きで囲む<身代鞭羊(サクリファサー)>の、羊毛の鞭が伸びる。

それも数十本。


巨大な茶色い魔物は、振りほどこうとするが、すぐに絡め取られて、引き寄せられた。

それを<身代鞭羊(サクリファサー)>が4~5匹集まり、巨体の魔物をひっくり返して(かつ)ぎ上げるような体勢で、搬送(はんそう)し始める。



── 城門の方へと。



「アイツら、まさか!」


城門前で解き放たれた巨体の魔物は、興奮と怒りの極みのような状態。

グルグルと周囲を威嚇し、猛牛のように蹄で地面を掻き始める。


それをけしかける(・・・・・)ように、<身代鞭羊(サクリファサー)>の羊毛の鞭が周囲を叩き、激しい音と砂埃(すなぼこり)を上げる。


すると巨大な茶色い魔物は、『ゴォーン!』という鐘のような魔法起動音を響かせる。

土魔法だろうか、魔物の身体に岩の装甲が形成されていく。

特に強固なのは頭頂部で、一角獣のような角を有する無骨な兜のようだ。


そして、突進!


城門脇の、石柱へと!



── ドォオオン!! と爆音と、激しい揺れが城門を揺らす!


さらに、他の場所でも同じような事が起こっているのか、遠くからもドォオオン!!と、爆音とがいくつも響いてくる。



「お、思い出しました! あの魔物!

 たしか<洞窟驢馬(ケイブピッカー)>!

 岩崖を砕いて洞窟を削り出す魔物!

 山奥の谷間にしか生息しない希少な魔物が、なぜこんな所に」


「と、父さん、あ、アレ……」



最年長者のトニは、娘ラシェルが指差す方に目を向ける。

街道の向こうから、砂埃(すなぼこり)をまき上げて向かってくる集団。


先ほどと同じように、巨体の魔物を逆さ縛りにして担ぎ、運搬してくる(・・・・・・)羊型魔物の群れ!



「アイツラが連れてきとんのかい!?

 ホンマ、性格の悪い魔物やな!

 ── 守衛隊の連中は何やっとんねん!」


「ルカ様、あちらで戦ってるみたいですっ

 城壁の上から、魔法攻撃で応戦してる!」



相棒カルタの姉ベルタが、ルカに寄り添いつつ、別の城門を指差した。



「アホか! ぬるい仕事しよってっ

 あんな重装甲に、遠くからチマチマ魔法撃ってもしゃーないやろ!

 ── 相棒、準備は!?」


万端(ばんたん)!」


「トニ、あの魔物の脅威力は!?」


「ほとんど人里に出てこないので、交戦記録がありません。

 ただ、あの土魔法の装甲は、おそらく『外骨獣』並かそれ以上!

 だとすれば、最低でも脅威力3!

 いや、あの巨体からすれば、もはや脅威力4に近いでしょうっ!」


「未討伐のレア魔物で、<羊頭狗(ガク)>単体どころか、空の王<雷雲巨鷹(サンダーバード)>クラスか!?

 またワイら『神童コンビの無敵伝説』が1ページ増える、っちゅうこっちゃな!」


「ルカ従兄(にい)、どうするつもりなのっ」


「どうもこうもないやろ!

 魔物はたたっ切る、他に方法あらへんでっ

 行くで、相棒!」



神童ルカは、腕輪を操作して身体強化魔法を発動させるや否や、都市城壁の上から飛び出した。

城門周りの石柱や、飛び出た石像などの飾りを足場に、巧みに降下していく。



「おう!」


その相棒・神童カルタも、それ続く。





▲ ▽ ▲ ▽



地面に着地した『神童コンビ』へ、すぐさま城壁上から、装備が投げ渡された。

すぐに神童ルカが、飛ぶような速さで魔物へ駆け寄り、抜剣と同時に一撃。



「── ロバさん、こんにちわっ

 こんな所で油売っとらんと、早うお山に帰り!」



岩壁を砕く本能が刺激されたのか、一心不乱に石柱に突進する<洞窟驢馬(ケイブピッカー)>。

その突進が終わった(すき)だらけの尻へと、<魄剣流>の【雷電の魔法剣:指振(しぶる)い】が炸裂する。


しかし、魔物は岩のように(たたず)むだけで、微動だにしなかった。



「ちい、土魔法の装甲に(はば)まれて、電撃がきかん!」


「ルカ! 【土泥(どでい)の魔法剣:足捕(あしと)り】で拘束(こうそく)は!?

 ── つまりは、代替(だいたい)手段(しゅだん)っ」



超巨大な獲物を(かつぐ)ぐ神童カルタは、その重量ゆえの鈍足。

まだ遠い場所からの問いかけに、ルカは、怒鳴るような大声で答えた。



「土魔法やからダメや!

 魔物の得意属性は()きにくいねん!」



位置を変えながら何度か胴体を斬りつける。

だが、電撃も剣撃も装甲に(はじ)かれ、岩を砕く魔物は突進を続けて、(ひる)みもしない。



「── って、なんやこれ!」



攻撃を続けるルカの手足に、羊毛の鞭がまとわり付いてきた。



「邪魔すんなや、オラぁっ

 ホンマ、性根(しょうね)(くさ)った魔物やな!」



電撃を帯びた剣【雷電の魔法剣:指振(しぶる)い】で斬れば、通電の痛みで、魔物は羊毛の鞭を引っ込める。


ただ、数が多い、多すぎた。

遠巻き囲む、数十か百近い羊型魔物<身代鞭羊(サクリファサー)>が代わる代わる、という状況だ。

払っても払っても、斬っても斬っても、次から次へと羊毛の鞭がまとわり付く。



── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~



「クソうざい、うざ過ぎる!

 何が『無害な魔物』や!

 コイツら性根(しょうね)(くさ)りすぎやろ!」



不意に、ガッガッ……!と、地面を(ひづめ)でかく音。

足を止めた神童ルカへと、頭角を向けて茶色い巨体を震わせる、驢馬(ロバ)型魔物。


(ほろ)付き荷車ほどの体格が、突進してくる。



「── げぇっ!?」

「ルカ!」



岩壁をも砕く<洞窟驢馬(ケイブピッカー)>の突進!


── ギャリィンッ!と、錬金術の(ほどこ)された鋼鉄が、砕けんばかりに(きし)んだ。



「── ぬぅうう……っ」

「相棒……っ」



間一髪、神童カルタのフォローが間に合った。


神童ルカの目の前に滑り込んだ、黒白の縞模様の『聖紋衣』。

【特級・身体強化:剛力型(パワー)】の魔法陣を背負う、巨漢の姿。


剣身2m、幅40cmの巨大な刃が盾となり、持ち主の巨体ごと防壁となって、敵の突進を受け止めていた。



「ルカ、今の内に活路を!!」

(まか)せい、相棒!」



巨漢の肩を踏み台に、神童ルカが宙を高く舞う。



「頼むで、『剣帝の(男前の)一番弟子(嬢ちゃん)』!」



その右手にはまった、ツタを巻いたような指輪が、魔力光を放つ。

『カン!』と魔法起動音と、逆手<中剣(ミドル)>の落下攻撃はほぼ同時。


── ザクン……ッ!と心地よい手応え!

全体重をかけた<中剣(ミドル)>の刺突が、魔物の土魔法の重装甲を貫いた。



「── は、入ったぁっ!?」



ヴォン!と魔物がいななき、暴れ馬のように二本足立ちになる。

思わぬ痛撃に驚き、暴れ始めた。



「ルカ!」



神童カルタは、いったん魔物から離れ、追撃を狙う。

暴れ狂う魔物の背の上で、なんとかバランスを取る神童ルカは、余裕と笑う。



「おうよ、こんな機会(チャンス)逃すかい!

 【白霜(しらじも)の魔法剣:身竦(みすく)み】!」



中剣(ミドル)>に『切れ味向上効果』を付与していた魔法陣が消え去る。

上書き発動した魔法剣が、剣身に『白い霜』を浮かび上がらせた。



()てつけ、この脳筋(のうきん)驢馬(ロバ)めっ

 【魔法剣:解放(リリース)】や!」



── ヴ! ヴォッ! ヴォゥッ!



体内で冷気を炸裂された茶色い魔物は、巨体をよじり動きを止める。

極寒の冷気に急激に体温を奪われ、魔法剣の名前の通り『()(すく)ませ』て動きを止めた。



「いったれ、相棒!!」

「おうよ、勝機(しょうき)到来(とうらい)

 ── つまりは、一撃決着!」



神童ルカが、魔物の背から飛び降りる。

神童カルタが、巨大剛剣を振り上げる。



── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~



遠巻きの<身代鞭羊(サクリファサー)>が、羊毛の鞭を殺到(さっとう)させ、巨漢を縛り上げた。



「── ふぅぅんん!! かぁああ!!」



しかし、<轟剣(ごうけん)流>が秘技『磊響戻破(らいきょうらいは)』を極めた若き達人には、生半可(なまはんか)な攻撃など通用しない。


特級魔法で、その身体能力を数倍にした巨漢は、まさに剛力(ごうりき)無双(むそう)

絡まった羊毛の鞭を引きずり、逆に魔物を引き倒しながら、巨大剣を一閃。


拘束の鞭が、全て断ち切られた。


まさに、『快刀(かいとう)乱麻(らんま)()つ』が如き解決策は、【特級・身体強化:剛力型(パワー)】を極めた<轟剣流>神童(カルタ)の特権だ。



「うおおおおおおお!」



── ズドオン!と地面を断ち切る、一撃!


振り回され加速する巨大剣が、魔物の胴をめがけて振り下ろされた。

(ほろ)付き荷車大の重装甲魔物<洞窟驢馬(ケイブピッカー)>が、前と後ろに分断された。



── 『う、おおおおおおお!!』

激闘を見守っていた市民たちが、城門の上で怒号のような歓声を上げた。



巨漢の神童、<轟剣流>のカルタは、振り下ろした長柄(ながえ)の巨大剣を持ち上げ、剣身に浮かぶ魔法陣に目を細める。



「……この一連の攻防で、ほとんど刃こぼれもないか。

 うむ、素晴らしき、魔法による刃の保護。

 ── つまりは、賞賛(しょうさん)



すると、隣りで聞いていた細目の神童、<魄剣流>のルカが、両手をわななかせて叫びを上げる。



「あの愚鈍(しょうたれ)ぇがぁ!

 こんなエゲツない<魔導具(ゆびわ)>を、ポンポンポンポン簡単に他流派に渡しよってぇ!

 これ絶対、流派の口伝(くでん)とか奥の手とか、そういう『奥義』の(たぐ)いの魔法やろ!!」



相棒ルカの、憎まれ口か賞賛か解らない言葉。

神童カルタは相棒の『複雑な心境(コンプレックス)』を推察し、苦笑いしながら相づちをうった。



「うむ、そうよな。

 なるほどなるほど、さすがは魔剣士の頂点たる『剣帝流』が(わざ)

 ── つまりは、魔導の『極意』!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ