62:基本は大事
!作者注釈!
この4章は、かなり主人公以外視点(三人称など)が増えます。
主人公不在のピンチ場面が多いので。
2022/05/06 23:15
62話が次の63話の内容と入れ替わっていたため、再投稿してます。
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「── 98っ、99っ、100っ!
と、フヒィ~……っ」
今ちょうど、物干し台の支柱を使った懸垂が終了。
先月から、色々思う所があって、筋トレを頑張っている。
つい先月の、神童コンビとの決闘がきっかけだったりする。
── ププッ、帝国西方の神童(笑)って剣術Lv40(呆)なのぉっ?
── オッス、オラ剣帝の落ちこぼれ弟子! 剣術Lv60なんだ、よろしくな!?
剣術Lvが差20の格下とか、大抵の体格差すら問題にならない。
どんな相手でも、鼻をほじりながらのアホ面で勝てるくらいだ。
いつか河川敷で赤毛少年と闘った時みたいに、100勝先取りの勝負(ゲーマー用語で言うなら『100先』)とかスタミナ限界試しでもしない限り、勝率はカタい。
── やっべぇな、もしかして俺って
── 超天才児と手合わせする内に、うっかり剣術の達人になっちゃった?(てへっ)
とか、調子のった上に、全力で油断してしまった。
さすがに『片手で相手してやるよ(キリッ)』は、神童ナメ過ぎだったね……
── ちょっと神童サマに、剣術ってもんを教えてあげましょうかねー
── ランラン、ルぅ~~♪(スキップ中)
とか、内心威勢ってた俺。
しかし、逆にボコボコにされかけるという、情けない事態に。
魔法未使用の『未強化』縛りの模擬試合だったのに、『やべぇっ!?』と思ってうっかり魔法使いそうになった事が、3回くらいあった。
妹ちゃんは楽勝だったのに、兄貴は卑怯なマネして反則負けとか、目も当てられない。
危うく、兄ちゃんの尊厳破壊されてしまう所だった。
反省、至極。
それでしばらく、頭をひねって『なんでかなぁ』と考えた所 ──
── 『やっぱ、神童ルカの身体Lvが半端なかった事が原因じゃね?』という結論になった。
(つまり、『大抵の体格差』じゃなくて『半端ない身体Lvの差』だったワケか……
そうなると『剣術Lvが20差』でも、結構キツいのか……
やっぱ、『他流派との決闘』は勉強になるな……)
言う間でもなく、現世の俺はチビである。
必死に鍛えたところで、身体能力に限界がある。
血の繋がっているジジイ(俺の祖父の弟!)なんて、身長200cmくらいあるのにぃ……グギギッ、と羨ましさが半端ない。
(── 俺もせっかく異世界転生なら、そんな格ゲーの主人公みたいな『高身長のスラッと細マッチョな熱血イケメン』がよかったわぁ!(1ヶ月ぶり2回目))
なので仕方なく、訓練メニューも『技術力』に全振りだったワケだ。
下手に鍛えすぎてゴリゴリのマッチョになっても、重鈍になるだけ。
俺の唯一の長所である『身軽さ』がダメになるし。
そんな感じが、俺の今までの『訓練方針』だったのだが、ここに来て疑問が出てきた。
── 俺って、もしかして……
── ちょっと今まで身体Lvの影響を、軽く見過ぎなのか……?
── 筋力アップして戦力底上げしたら、今で限界と思ってた剣速があがる、……かも?
少なくともここ1~2年、筋トレを限界ギリギリまで追い込んでないのは、間違いない。
物は試しと、3週間ほどガンバってみた。
結論、大正解!!
ロックは ざんげきが パワーアップした!(ピロリン♪)
けんのするどさが 1アップした!
先週の、ジジイお気に入りの『月1雪中訓練』の時とかも、かなりイイ感じだった。
いつもは、斬撃が通らずボコボコにされるだけだった、例のアノ『六本脚トカゲ』にも、結構良い所までいった。
近年、ウチの超天才児と差が広がるばかりと、密かにヘコんでいたが。
ここに来て、なんかちょっと追いつけそうな、希望の光が見えてきた!
(ここ半年、伸び悩んでたけど、やっぱ基本って大事だわ……っ
『俺も早く奥義完成させなきゃ!』『リアちゃんに置いて行かれちゃうっ』とか焦ってないで、一度ちゃんと基本から見直した方がいいな……)
そんな感じで『奥義開発』はいったんお休みにして、ここ1ヶ月ほど基礎トレーニングばっかりやっている俺である。
「ふい~……背筋とか、腰がピリピリするな。
柔軟しっかりやっておかないと……」
筋肉がこり固まって、ガチガチになっちゃうからね。
しっかりほぐしておかないと。
(さて、そろそろお昼の準備をしないと……
今日は何にするかなぁ……)
そんな事を考えていると、遠くから呼ばれる。
「── ロック、アゼリアっ
急ぎ、出かける準備をっ」
あ、なんかジジイが、何か言ってる。
「お師匠様、呼びました?
── お兄様、どうしましたの?」
山小屋の掃除をしていたらしいリアちゃんが、エプロン姿で出てくる。
うむ、最高にキュートなメイドさん(超絶美少女)な格好である。
ゲームでいうところの、クリア後のごほうび要素な衣装チェンジだ。
『リアがお掃除してさしあげます!』みたいに、戦闘開始のセリフ変わるヤツ!
まったくもって、前世ニッポンでいう所のカメラ的な<魔導具>が手元にない事が悔やまれる。
── それはさておき。
「わからん、とりあえずジジイの所にいくか?」
そんなワケで、兄妹弟子で連れたってジジイの所へと向かう。
声がするのは、山小屋の敷地の一番端の方。
いつもジジイが<ラピス山地>一帯を眺めている、切り立った崖の辺りだ。
「森の様子がおかしいっ
魔物たちの数が、あまりに少なすぎるっ」
近づいてみれば、珍しくジジイが血相を変えている。
「── 『魔物の大侵攻』じゃっ!
二人とも装備を整え、準備せよ! 食料もじゃ!
急ぎ、周囲の村を救出に行くぞっ」
……はぁ?
『魔物の大侵攻』……!?
▲ ▽ ▲ ▽
時間は少し遡る。
早朝の、<翡翠領>。
ぐるりと囲む都市城壁の上に、登ったばかりの朝日が差し込み、小鳥の声が響く。
「パパー、朝ご飯もってきたよー」
あくびを噛み殺していた夜勤の兵士に、幼い子供が小走りで駆け寄ってきた。
その後ろから、バスケットをもった主婦が続く。
「おー、ママと一緒にきたのか?」
夜勤明けの兵士は、幼い我が子を抱き上げる。
すると、周囲の仲間が、冷やかしの声をかけてくる。
「お、奥さんの差し入れか?」「見せつけるぜ」「子供がかわいいのは、今の内だけだぞ?」「ウチなんてなー、パパと一緒はいや!なんてナマイキ言いやがる」
その騒ぎを聞きつけ、壮年の上司が声をかけてきた。
「丁度いい。
若いの、お前、休憩に入っていいぞ」
「あ、はい、隊長。
ありがとうございますっ」
図らずも、都市城壁の上での家族団らんが、実現した。
「はぁ、スープがうまいな……」
「昨夜は寒かったものね」
若い兵士が軽食を取る中、折を見て妻が尋ねた。
「ねえ、あなた。
みんなが『魔物の大群が押し寄せてきた』、って言ってたけど。
わたしたちも避難しなくて大丈夫なの?」
「心配ないさ。
人を襲う凶暴なヤツじゃない、万が一の待機だよ」
幼い子供は、あちこち探検を始めた。
そして、城壁の外を覗き込む。
「ママー、メーメーいってるよ!
これ、ヤギさん?」
「ダメよ、身を乗り出しちゃ」
「メーメー、ゴハンほしいのかな?」
「そっちは危ないよ、パパ達の方へもどりなさい」
子供は両親の忠告を聞かず、城壁の周りにたむろする草食の魔物を、物珍しそうに覗き込む。
その好奇心旺盛さに呆れた両親が、子供を連れ戻そうとした ──
── その瞬間、ヒュンッと城壁の下からロープのような物が伸びた。
「ああっ!?」
「いやぁああっ」
両親の悲鳴が木霊する。
喧噪を聞きつけ、兵士達が集まってくる。
「悲鳴っ!」「あっちか!?」「どうした!?」「何があった!」
パニックになり城壁から飛び降りそうな妻を、夫の若い兵士が抑えていた。
「あの子がぁ! うちの子が魔物にぃっ」
「くそっ さらわれたっ」
城壁の周りに居た魔物は、早馬ほどの体高の羊の群れ。
「あの魔物、<身代鞭羊>かっ!?」
「ちくしょう、厄介なヤツらがっ」
「おい、誰かハシゴ持ってこいっ」
「バカやめろ! ヤツら頭がいいんだ、こっちまで登ってくるぞ!」
予想外の事態に、兵士達はどうすればいいか解らず、手をこまねく。
眼下に広がる魔物の乳白毛は海のようで、その上を羊毛の鞭で捕らえられた子供が、まるで見せつけるように高く掲げられている。
「パパあぁ! ママあぁぁっ!!」
「── 隊長ぉっ
俺、行ってきますっ!」
我が子の悲鳴に、若い兵士は覚悟を決めて、魔物の群れに飛び込もうとする。
「よせ、行くな!
あれは魔物の罠だっ」
「しかしっ」
兵士の目を盗んで、母親が飛び出していく。
「お願いやめてっ うちの子を返してっ
── キャアァ……ッ」
無謀にも、城壁の外枠の上に飛び出し、必死に子供へと手を伸ばす母親。
だが、子供と同じように、羊毛の鞭で絡め取られて攫われてしまった。
「ああっ、言わんこっちゃない……!」
壮年の隊長が、白髪まじりの短髪をかきむしる。
「ヤツら、人を食わないが、人間を身代わりにしやがるっ
子供を攫ったのは、親を引っ張り出して捕まえるためだっ
下手に近寄ったら、ヤツらの思うつぼだっ」
「ここで指をくわえていろって言うんですかっ!?」
「無闇に動くな、と言ってるんだ!
すぐに小隊を集めて、隊列を組み次第、城門から救出に向かうっ」
詰め寄る若い兵士に、隊長は怒鳴り返すように指示した
「急いで準備しろっ
でないと、子供も奥方も『生贄』にされちまうぞっ」
「隊長、それはいったい……?」
「あの魔物が人間に近づいてくる時は、『生贄』が欲しい時なんだっ
つまり、肉食の凶悪な魔物に追われている時に、自分たちの群れを無事に逃がすため、弱い人間を身代わりにするんだっ
つまり、すぐ近くに『肉食の凶悪な魔物』が潜んでいるっ」
「そんな……っ」
若い兵士の夫は、妻と子供の運命に、青ざめる。
「いやぁ、あなた助けてぇっ」
妻の声が、森の方から響く。
まさに今、羊毛の鞭に捕らえられて運ばれ、肉食の魔物の前に放り出されていた。
「クソっ もう間に合わないかっ」
隊列を整え、出陣の準備を整える兵士達の顔に、絶望が過る。
── その瞬間。
羊毛の海の上を、青い服の一団が、疾風のように駆け抜けた。
▲ ▽ ▲ ▽
── ガァァ!!
魔物の異様に長い爪が、子供を守るように抱く、母親の背へと振り下ろされた!
「── 『がぁぁ』や、あらへんで!!」
カァン!と、母子を狙う凶爪を撥ね除けるように、剣閃がひらめいた。
間一髪で、若い母親は窮地を脱した。
攫われた母子の救いの主は、青い服の青年。
<中剣>を、相手の目を狙うように片手で突き出し、樹木に張り付いた魔物を牽制する。
── グルルルゥ……ッ
飢えた魔物が牙を剥き、旺盛な食欲から、よだれを滴らせる。
さらに、2匹、3匹、4匹と、大樹の梢を飛び跳ねて、森の奥から狼型魔物の仲間が集まってきた。
「『ぐるる』や、ないっ
この、クソ犬っコロが!
人間サマはなぁ、貴様らのエサやないんやでっ」
青い服の青年は、凶悪な威嚇にも魔物の包囲にも、余裕を崩さない。
「お二人とも、私達につかまってっ」
「従兄殿、我らが連れてもどります!」
すると、追いついてきた仲間の2人が、それぞれ母と子を抱き上げ、すぐに離脱する。
── グゥッ!?
獲物を奪われた魔物の群れが、それを追おうとした瞬間、『チリン!』と魔法の起動音。
青年の指の爪が伸びた ── そう錯覚するような、攻撃魔法。
魔物は、不意をうたれたものの、すぐに樹上へと飛び跳ねて、見事に躱す。
── グルルルゥ……ッ
── ガァッ
── ウオン……ッ グルルゥ……ッ
青い服の青年は、魔物の群れから一層の敵意を浴びせられた。
「せや! いくらでも邪魔したるっ
俺を倒さん限り、先には行かせんでぇ!」
西方方言の青年は、ゆっくりと動きながらも、周囲を警戒し続ける。
ジリジリと迫る脅威と、また背後に向けられる欲望の眼光に、細心の注意を払いながら、余裕の表情を崩さない。
「俺はな!
貴様らみたいな、弱い者にしか手を出せんド腐れの相手は、慣れとるんや!
どっからでも、かかってこんかい、ボケぇっ!」
例え、背中に冷たい汗が伝っていたとしても、知能の高い魔物には、弱みをみせない。
「── ルカ様、遅れて申し訳ないっ」
青い服の青年 ── 神童ルカの背中にかかった声は、待ちわびた増援の物だ。
白髪まじりの渋い中年男性が、<正剣>と<短導杖>を構えて、並び立つ。
「ハハッ、汗まみれやないかい。
叔父貴も、もう若くはないんやなぁ?」
「それはもう、いい歳の子が2人も居ますのでっ」
そんな軽口の直後に、<短導杖>にオレンジの魔力光が灯り『カン!』と発動音。
氷柱を散弾のように、広範囲にばらまいた。
魔物の群れは、慌てて森の大樹の幹や枝に身を隠し、氷の魔法攻撃をやり過ごす。
しかし、運の悪いものが1匹。
── ギャンッ
眼球に突き刺さり、悲鳴を上げる。
「── ヒュゥ!」
神童ルカは、鋭い呼気と共に飛び出し、回避し損ねた1匹に切迫。
剣閃は魔力で輝く軌線を残し、片目のつぶれた狼型魔物の首を、一撃で切断。
とっさに撃剣を防ごうとした、曲剣のような長い爪すら両断して、そのまま斬首するほどの強烈な一撃だった。
「おみごと!」
白髪まじり叔父は、喝采の声と共に、再び<短導杖>の攻撃魔法を起動。
キンッキンッキンッ……と、氷弾が嵐のような弾幕を作り出した。
群れの真ん中に飛び込んだ青年への支援で、離脱の時間を稼ぐ。
滑るような歩法で素早く退いた神童ルカは、たまらないとばかりに笑いを零す。
「ハハッ、今の見たか叔父貴!
やっぱ、えらい魔法やで、この指輪!
あの<樹上爪狼>の爪が、まるで小枝でも斬ったみたいにズッパリいくんやで!?
錬金装備の<魔導鋼>が、<聖霊銀>並やぞ!」
剣身の半ばに、剣で貫いたように魔法陣が浮かぶ<中剣>を、頼もしそうに叩く。
「それ程ですか……。
わたしもあの時、売ってもらっておけば良かったですかね?」
「今度会った時にでも、『男前の嬢ちゃん』に頼みいや?
これは、魔物退治に手放せん一品やで!」
神童ルカは破顔したままの顔で、残りの魔物たちへと切っ先を向ける。
「犬っコロども、いくらでも来いや!
この神童ルカ様が、1匹残らず真っ二つにしたるっ」
▲ ▽ ▲ ▽
魔物の生贄にされかかった母子を抱えた、双子兄妹は苦戦していた。
── メェ~ メェ~
── メェ~ メェ~
「ラシェル、遅れてますよ、急ぎなさいっ」
「でも兄上っ
さっきから羊の魔物が……っ」
大柄な羊型の魔物が、羊毛の鞭を伸ばしてくる。
特に、小さな子供を抱える少女の方に、攻撃が集中している。
魔物は、魔法を使うだけあって、知能が高い。
相手を見極めて、弱い者から集中して狙ってくるのだ。
「チィッ、相変わらず手がかかりますね、お前はっ
── ご婦人、申し訳ない、少し暴れますのでしっかり捕まって下さいっ」
「は、はいっ」
双子の兄ガイオは、背負う母親に一言断ってから、<中剣>の剣身に指を沿わせる。
「【雷電の魔法剣:指震い】っ」
小柄な少年が、『チリン!』と魔法を自力発動させた。
そして、少し減速して、双子の妹に併走する。
「はぁっ せやっ」
まずは右手で払い、手品のような器用さですぐさま左手に剣を持ち替えて、斬り上げる。
左右から伸びた羊毛の鞭を、電光を宿した魔法剣で斬り裂いた。
同時に、バチンッ、バチンッと感電の音が響き、鞭を伸ばしてきた魔物が、鞭を伝ってきた電撃に身を震わせた。
── メ、メェ~ッ
── ブルルッ メェ~ッ
口惜しそうに、離れていく大柄な羊型の魔物<身代鞭羊>。
魔物が離れて、少し気が緩んだのか、少女の背中で子供が声を上げた。
「うえぇん、ママぁー」
「大丈夫よ、もう少しだから……」
少女は、背中に回した手で、背負った子供を撫でつつ、優しく慰める。
だが、前を見てすぐに、声が強ばった。
「── またコイツら、回り込んできてる……っ!?」
「わざわざ城門の方を、通せんぼですか……っ
本当に、悪知恵がきいて、性根の悪い魔物ですねっ」
魔物の群れに、都市への進路を塞がれ、思わず双子の足が止まってしまう。
双子の妹ラシェルは、青ざめた顔で、オロオロと周囲を見渡す。
「兄上ぇっ いったい、どうしたらっ」
「── 安心なさい。
いらっしゃいましたっ」
双子の兄ガイオが、城壁の門の上を見上げて、そう告げた。
その声に応えるように、巨岩と見まがうような、筋骨隆々とした男が降ってくる。
「── うおおおおおぉ!!!」
ズドォン!と、爆音じみた地面の響きは、恐ろしい事に『斬撃』の結果であった。
馬なみの体躯をする魔物を、2匹か3匹まとめて両断する、すさまじい斬撃だった。
その巨漢が振るう武器は、『剣』と呼ぶには長すぎて、『槍』と呼ぶには太すぎる。
3mの長柄の先に、2mの巨大で分厚い諸刃の刃。
調理用の『へら』を、巨大化したような見た目の、超重量級の専用武器!
しかも、魔法剣が発動しているのか、刃の中ほどに魔法陣が突き刺さっている。
「そこな双子! 今すぐ、こちらに道を空ける!
── つまりは、強行突破!」
ブンブンブン……!と超重量級の武器を頭上で振り回せば、砂塵が巻き上がり、風の渦すら生まれる。
それが、周囲に3度振るわれれば、魔物が5匹6匹と断ち斬られ、肉塊と弾け飛んだ。
それを見た残りの魔物の群れは、巨大旋風のような巨漢の魔剣士を警戒したのか、徐々に距離を開け始める。
── つまり、城壁の門の前に、魔物の空白地帯が生まれ始める。
「相変わらず、とんでもない方ですね……っ」
「流石は神童カルタ殿!! 行きますよ、ラシェル!」
妹ラシェルは、呆れの声。
兄ガイオは、憧憬の紅潮。
双子の兄妹は、母子を背中に担ぎ直して、城門をめがけて再び駆けだした。




