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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 4:城壁ステージ

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62/236

62:基本は大事

!作者注釈!


この4章は、かなり主人公以外視点(三人称など)が増えます。

主人公不在のピンチ場面が多いので。



2022/05/06 23:15

62話が次の63話の内容と入れ替わっていたため、再投稿してます。

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




「── 98っ、99っ、100っ!

 と、フヒィ~……っ」



今ちょうど、物干し台の支柱を使った懸垂(けんすい)が終了。

先月から、色々思う所があって、筋トレを頑張っている。


つい先月の、神童コンビとの決闘がきっかけだったりする。



── ププッ、帝国西方の神童(笑)って剣術Lv40(呆)なのぉっ?

── オッス、オラ剣帝の落ちこぼれ弟子! 剣術Lv60なんだ、よろしくな!?



剣術Lvが差20の格下とか、大抵の(・・・)体格差(・・・)すら問題にならない。

どんな相手でも、鼻をほじりながらのアホ面で勝てるくらいだ。


いつか河川敷で赤毛少年(ニアン)()った時みたいに、100勝先取りの勝負(ゲーマー用語で言うなら『100先(ひゃくさき)』)とかスタミナ限界試しでもしない限り、勝率はカタい。



── やっべぇな、もしかして俺って

── 超天才児(リアちゃん)と手合わせする内に、うっかり剣術の達人になっちゃった?(てへっ)



とか、調子のった上に、全力で油断してしまった。

さすがに『片手で相手してやるよ(キリッ)』は、神童(あいて)ナメ過ぎだったね……



── ちょっと神童(ザコ)サマに、剣術ってもんを教えてあげましょうかねー

── ランラン、ルぅ~~♪(スキップ中)



とか、内心威勢(イキ)ってた俺。

しかし、逆にボコボコにされかけるという、情けない事態に。



魔法未使用の『未強化(なまみ)』縛りの模擬試合だったのに、『やべぇっ!?』と思ってうっかり魔法使いそうになった事が、3回くらいあった。


妹ちゃんは楽勝だったのに、兄貴は卑怯なマネして反則負けとか、目も当てられない。

危うく、兄ちゃんの尊厳(そんげん)破壊(はかい)されてしまう所だった。



反省、至極。



それでしばらく、頭をひねって『なんでかなぁ』と考えた所 ──

── 『やっぱ、神童ルカ(あのヤロウ)身体Lv(フィジカル)が半端なかった事が原因じゃね?』という結論になった。



(つまり、『大抵(・・)の体格差』じゃなくて『半端(ッパ)ない身体Lv(フィジカル)の差』だったワケか……

 そうなると『剣術Lvが20差』でも、結構キツいのか……

 やっぱ、『他流派との決闘(てあわせ)』は勉強になるな……)



言う間でもなく、現世の俺(ロック)はチビである。

必死に鍛えたところで、身体能力(フィジカル)に限界がある。


血の繋がっているジジイ(俺の祖父の弟!)なんて、身長200cm(2メートル)くらいあるのにぃ……グギギッ、と(うらや)ましさが半端ない(ッパない)



(── 俺もせっかく異世界転生(うまれかわる)なら、そんな格ゲーの主人公みたいな『高身長のスラッと細マッチョな熱血イケメン』がよかったわぁ!(1ヶ月ぶり2回目))



なので仕方なく、訓練メニューも『技術力(テクニック)』に全振りだったワケだ。

下手に鍛えすぎてゴリゴリのマッチョになっても、重鈍になるだけ。

俺の唯一の長所である『身軽さ』がダメになるし。


そんな感じが、俺の今までの『訓練方針』だったのだが、ここに来て疑問が出てきた。



── 俺って、もしかして……

── ちょっと今まで身体Lv(フィジカル)の影響を、軽く見過ぎなのか……?

── 筋力アップして戦力底上げしたら、今で限界と思ってた剣速(スピード)があがる、……かも?



少なくともここ1~2年、筋トレを限界ギリギリまで追い込んでないのは、間違いない。

物は試しと、3週間ほどガンバってみた。



結論、大正解!!



ロックは ざんげきが パワーアップした!(ピロリン♪)

けんのするどさが 1アップした!




先週の、ジジイお気に入りの『月1(つきいち)雪中訓練』の時とかも、かなりイイ感じだった。

いつもは、斬撃が通らずボコボコにされるだけだった、例のアノ『六本脚トカゲ』にも、結構良い所までいった。


近年、ウチの超天才児(リアちゃん)と差が広がるばかりと、(ひそ)かにヘコんでいたが。

ここに来て、なんかちょっと追いつけそうな、希望の光が見えてきた!



(ここ半年、伸び悩んでたけど、やっぱ基本って大事だわ……っ

 『俺も早く奥義完成させなきゃ!』『リアちゃんに置いて行かれちゃうっ』とか焦ってないで、一度ちゃんと基本から見直した方がいいな……)



そんな感じで『奥義開発』はいったんお休みにして、ここ1ヶ月ほど基礎トレーニングばっかりやっている俺である。



「ふい~……背筋とか、腰がピリピリするな。

 柔軟しっかりやっておかないと……」



筋肉がこり固まって、ガチガチになっちゃうからね。

しっかりほぐしておかないと。



(さて、そろそろお昼の準備をしないと……

 今日は何にするかなぁ……)



そんな事を考えていると、遠くから呼ばれる。



「── ロック、アゼリアっ

 急ぎ、出かける準備をっ」



あ、なんかジジイが、何か言ってる。



「お師匠様、呼びました?

 ── お兄様、どうしましたの?」



山小屋の掃除をしていたらしいリアちゃんが、エプロン姿で出てくる。

うむ、最高にキュートなメイドさん(超絶美少女)な格好である。

ゲームでいうところの、クリア後のごほうび要素な衣装チェンジだ。


『リアがお掃除してさしあげます!』みたいに、戦闘開始のセリフ変わるヤツ!


まったくもって、前世ニッポンでいう所のカメラ的な<魔導具>(マジックアイテム)が手元にない事が悔やまれる。



── それはさておき。



「わからん、とりあえずジジイの所にいくか?」



そんなワケで、兄妹(きょうだい)弟子(でし)で連れたってジジイの所へと向かう。


声がするのは、山小屋の敷地の一番端の方。

いつもジジイが<ラピス山地>一帯を眺めている、切り立った(がけ)の辺りだ。



「森の様子がおかしいっ

 魔物たちの数が、あまりに少なすぎるっ」



近づいてみれば、珍しくジジイが血相を変えている。



「── 『魔物の大侵攻(モンスター・パレード)』じゃっ!

 二人とも装備を整え、準備せよ! 食料もじゃ!

 急ぎ、周囲の村を救出に行くぞっ」



……はぁ?

魔物の大侵攻(モンスター・パレード)』……!?





▲ ▽ ▲ ▽




時間は少し遡る。


早朝の、<翡翠領(グリンストン)>。

ぐるりと囲む都市城壁の上に、登ったばかりの朝日が差し込み、小鳥の声が響く。



「パパー、朝ご飯もってきたよー」



あくびを噛み殺していた夜勤の兵士に、幼い子供が小走りで駆け寄ってきた。

その後ろから、バスケットをもった主婦が続く。



「おー、ママと一緒にきたのか?」



夜勤明けの兵士は、幼い我が子を抱き上げる。

すると、周囲の仲間が、冷やかしの声をかけてくる。



「お、奥さんの差し入れか?」「見せつけるぜ」「子供がかわいいのは、今の内だけだぞ?」「ウチなんてなー、パパと一緒はいや!なんてナマイキ言いやがる」



その騒ぎを聞きつけ、壮年の上司が声をかけてきた。



「丁度いい。

 若いの、お前、休憩に入っていいぞ」


「あ、はい、隊長。

 ありがとうございますっ」



図らずも、都市城壁の上での家族団らんが、実現した。



「はぁ、スープがうまいな……」


「昨夜は寒かったものね」



若い兵士が軽食を取る中、折を見て妻が尋ねた。



「ねえ、あなた。

 みんなが『魔物の大群が押し寄せてきた』、って言ってたけど。

 わたしたちも避難しなくて大丈夫なの?」


「心配ないさ。

 人を襲う凶暴なヤツじゃない、万が一の待機だよ」



幼い子供は、あちこち探検を始めた。

そして、城壁の外を覗き込む。



「ママー、メーメーいってるよ!

 これ、ヤギさん?」


「ダメよ、身を乗り出しちゃ」


「メーメー、ゴハンほしいのかな?」


「そっちは危ないよ、パパ達の方へもどりなさい」



子供は両親の忠告を聞かず、城壁の周りにたむろする草食の魔物を、物珍しそうに覗き込む。


その好奇心旺盛さに呆れた両親が、子供を連れ戻そうとした ──

── その瞬間、ヒュンッと城壁の下からロープのような物が伸びた。



「ああっ!?」

「いやぁああっ」



両親の悲鳴が木霊する。

喧噪を聞きつけ、兵士達が集まってくる。



「悲鳴っ!」「あっちか!?」「どうした!?」「何があった!」



パニックになり城壁から飛び降りそうな妻を、夫の若い兵士が抑えていた。



「あの子がぁ! うちの子が魔物にぃっ」

「くそっ さらわれたっ」



城壁の周りに居た魔物は、早馬ほどの体高(おおきさ)の羊の群れ。



「あの魔物、<身代鞭羊(サクリフィサー)>かっ!?」

「ちくしょう、厄介なヤツらがっ」

「おい、誰かハシゴ持ってこいっ」

「バカやめろ! ヤツら頭がいいんだ、こっちまで登ってくるぞ!」



予想外の事態に、兵士達はどうすればいいか解らず、手をこまねく。

眼下に広がる魔物の乳白毛は海のようで、その上を羊毛の鞭で捕らえられた子供が、まるで見せつけるように高く(かか)げられている。



「パパあぁ! ママあぁぁっ!!」


「── 隊長ぉっ

 俺、行ってきますっ!」



我が子の悲鳴に、若い兵士は覚悟を決めて、魔物の群れに飛び込もうとする。



「よせ、行くな!

 あれは魔物の(わな)だっ」


「しかしっ」



兵士の目を盗んで、母親が飛び出していく。



「お願いやめてっ うちの子を返してっ

 ── キャアァ……ッ」



無謀にも、城壁の外枠の上に飛び出し、必死に子供へと手を伸ばす母親。

だが、子供と同じように、羊毛の鞭で絡め取られて(さら)われてしまった。



「ああっ、言わんこっちゃない……!」



壮年の隊長が、白髪まじりの短髪をかきむしる。



「ヤツら、人を食わないが、人間を身代わり(・・・・)にしやがるっ

 子供を(さら)ったのは、親を引っ張り出して捕まえるためだっ

 下手に近寄ったら、ヤツらの思うつぼだっ」


「ここで指をくわえていろって言うんですかっ!?」


「無闇に動くな、と言ってるんだ!

 すぐに小隊を集めて、隊列を組み次第、城門から救出に向かうっ」



詰め寄る若い兵士に、隊長は怒鳴り返すように指示した



「急いで準備しろっ

 でないと、子供も奥方も『生贄(いけにえ)』にされちまうぞっ」


「隊長、それはいったい……?」


「あの魔物が人間に近づいてくる時は、『生贄(いけにえ)』が欲しい時なんだっ

 つまり、肉食の凶悪な魔物(ヤツ)に追われている時に、自分たちの群れを(・・・)無事に(・・・)逃がすため(・・・・・)、弱い人間を身代わりにするんだっ

 つまり、すぐ近くに『肉食の凶悪な魔物』が潜んでいるっ」


「そんな……っ」



若い兵士の夫は、妻と子供の運命に、青ざめる。



「いやぁ、あなた助けてぇっ」



妻の声が、森の方から響く。

まさに今、羊毛の鞭に捕らえられて運ばれ、肉食の魔物の前に放り出されていた。



「クソっ もう間に合わないかっ」



隊列を整え、出陣の準備を整える兵士達の顔に、絶望が過る。



── その瞬間。


羊毛の海の上を、青い服の一団が、疾風のように駆け抜けた。





▲ ▽ ▲ ▽




── ガァァ!!



魔物の異様に長い爪が、子供を守るように抱く、母親の背へと振り下ろされた!



「── 『がぁぁ』や、あらへんで!!」



カァン!と、母子を狙う凶爪を()()けるように、剣閃がひらめいた。

間一髪で、若い母親は窮地(きゅうち)(だっ)した。



(さら)われた母子の救いの主は、青い服の青年。

中剣(ミドル)>を、相手の目を狙うように片手で突き出し、樹木に張り付いた魔物を牽制(けんせい)する。



── グルルルゥ……ッ



飢えた魔物が牙を()き、旺盛(おうせい)な食欲から、よだれを(したた)らせる。

さらに、2匹、3匹、4匹と、大樹の(こずえ)を飛び跳ねて、森の奥から狼型魔物の仲間が集まってきた。



「『ぐるる』や、ないっ

 この、クソ犬っコロが!

 人間サマはなぁ、貴様らのエサやないんやでっ」



青い服の青年は、凶悪な威嚇にも魔物の包囲にも、余裕を崩さない。



「お二人とも、私達につかまってっ」

従兄(いとこ)殿、我らが連れてもどります!」



すると、追いついてきた仲間の2人が、それぞれ母と子を抱き上げ、すぐに離脱する。



── グゥッ!?



獲物を奪われた魔物の群れが、それを追おうとした瞬間、『チリン!』と魔法の起動音。

青年の指の爪が伸びた ── そう錯覚するような、攻撃魔法。


魔物は、不意をうたれたものの、すぐに樹上へと飛び跳ねて、見事に(かわ)す。



── グルルルゥ……ッ

── ガァッ

── ウオン……ッ グルルゥ……ッ



青い服の青年は、魔物の群れから一層の敵意を浴びせられた。



「せや! いくらでも邪魔したるっ

 (ワイ)を倒さん限り、先には行かせんでぇ!」



西方方言の青年は、ゆっくりと動きながらも、周囲を警戒し続ける。

ジリジリと迫る脅威と、また背後に向けられる欲望の眼光に、細心の注意を払いながら、余裕の表情を崩さない。



(ワイ)はな!

 貴様らみたいな、弱い者にしか手を出せんド(ぐさ)れの相手は、慣れとるんや!

 どっからでも、かかってこんかい、ボケぇっ!」



例え、背中に冷たい汗が伝っていたとしても、知能の高い魔物には、弱みをみせない。



「── ルカ様、遅れて申し訳ないっ」



青い服の青年 ── 神童ルカの背中にかかった声は、待ちわびた増援の物だ。

白髪まじりの渋い中年男性が、<正剣>(フォーマル)と<短導杖(ワンド)>を構えて、並び立つ。



「ハハッ、汗まみれやないかい。

 叔父貴(おじき)も、もう若くはないんやなぁ?」


「それはもう、いい歳の子が2人も居ますのでっ」



そんな軽口の直後に、<短導杖(ワンド)>にオレンジの魔力光が灯り『カン!』と発動音。

氷柱(つらら)を散弾のように、広範囲にばらまいた。



魔物の群れは、慌てて森の大樹の幹や枝に身を隠し、氷の魔法攻撃をやり過ごす。

しかし、運の悪いものが1匹。



── ギャンッ



眼球に突き刺さり、悲鳴を上げる。



「── ヒュゥ!」



神童ルカは、鋭い呼気と共に飛び出し、回避し損ねた1匹に切迫。


剣閃は魔力で輝く軌線を残し、片目のつぶれた狼型魔物の首を、一撃で切断。

とっさに撃剣を防ごうとした、曲剣(シミター)のような長い爪すら両断して、そのまま斬首するほどの強烈な一撃だった。



「おみごと!」



白髪まじり叔父は、喝采(かっさい)の声と共に、再び<短導杖(ワンド)>の攻撃魔法を起動(『カン!』)


キンッキンッキンッ……と、氷弾が嵐のような弾幕を作り出した。

群れの真ん中に飛び込んだ青年への支援で、離脱の時間を稼ぐ。


滑るような歩法で素早く退いた神童ルカは、たまらないとばかりに笑いを(こぼ)す。



「ハハッ、今の見たか叔父貴(トニ)

 やっぱ、えらい魔法やで、この指輪!

 あの<樹上爪狼(ロングクロー)>の(つめ)が、まるで小枝(こえだ)でも斬ったみたいにズッパリいくんやで!?

 錬金装備の<魔導鋼(マグサロイ)>が、<聖霊銀(ミスリル)>並やぞ!」



剣身の半ばに、剣で貫いたように魔法陣が浮かぶ<中剣(ミドル)>を、頼もしそうに叩く。



「それ程ですか……。

 わたしもあの時、売ってもらっておけば良かったですかね?」


「今度会った時にでも、『男前の嬢ちゃん』に頼みいや?

 これは(こらあ)、魔物退治に手放せん一品やで!」



神童ルカは破顔したままの顔で、残りの魔物たちへと切っ先を向ける。



「犬っコロども、いくらでも来いや!

 この神童ルカ様が、1匹残らず真っ二つにしたるっ」





▲ ▽ ▲ ▽



魔物の生贄(いけにえ)にされかかった母子を抱えた、双子兄妹(きょうだい)は苦戦していた。



── メェ~ メェ~

── メェ~ メェ~



「ラシェル、遅れてますよ、急ぎなさいっ」


「でも兄上っ

 さっきから羊の魔物が……っ」



大柄な羊型の魔物が、羊毛の鞭を伸ばしてくる。

特に、小さな子供を抱える少女の方に、攻撃が集中している。


魔物は、魔法を使うだけあって、知能が高い。

相手を見極めて、弱い者から集中して狙ってくるのだ。



「チィッ、相変わらず手がかかりますね、お前はっ

 ── ご婦人、申し訳ない、少し暴れますのでしっかり捕まって下さいっ」


「は、はいっ」



双子の兄ガイオは、背負う母親に一言断ってから、<中剣(ミドル)>の剣身に指を沿()わせる。



「【雷電の魔法剣:指震(しぶる)い】っ」



小柄な少年が、『チリン!』と魔法を自力発動させた。

そして、少し減速して、双子の妹に併走する。



「はぁっ せやっ」



まずは右手で払い、手品のような器用さですぐさま左手に剣を持ち替えて、斬り上げる。

左右から伸びた羊毛の鞭を、電光を宿した魔法剣で斬り裂いた。


同時に、バチンッ、バチンッと感電の音が響き、鞭を伸ばしてきた魔物が、鞭を伝ってきた電撃に身を震わせた。



── メ、メェ~ッ

── ブルルッ メェ~ッ



口惜しそうに、離れていく大柄な羊型の魔物<身代鞭羊(サクリフィサー)>。


魔物が離れて、少し気が緩んだのか、少女の背中で子供が声を上げた。



「うえぇん、ママぁー」


「大丈夫よ、もう少しだから……」



少女は、背中に回した手で、背負った子供を撫でつつ、優しく慰める。

だが、前を見てすぐに、声が強ばった。



「── またコイツら、回り込んできてる……っ!?」


「わざわざ城門の方を、通せんぼですか……っ

 本当に、悪知恵がきいて、性根の悪い魔物ですねっ」



魔物の群れに、都市への進路を塞がれ、思わず双子の足が止まってしまう。


双子の妹ラシェルは、青ざめた顔で、オロオロと周囲を見渡す。



「兄上ぇっ いったい、どうしたらっ」


「── 安心なさい。

 いらっしゃい(・・・・・・)ました(・・・)っ」



双子の兄ガイオが、城壁の門の上を見上げて、そう告げた。

その声に応えるように、巨岩と見まがうような、筋骨隆々とした男が降ってくる。



「── うおおおおおぉ!!!」



ズドォン!と、爆音じみた地面の響きは、恐ろしい事に『斬撃』の結果であった。

馬なみの体躯をする魔物を、2匹か3匹まとめて両断する、すさまじい斬撃だった。


その巨漢が振るう武器は、『剣』と呼ぶには長すぎて、『槍』と呼ぶには太すぎる。

3mの長柄の先に、2mの巨大で分厚い諸刃の刃。


調理用の『へら』を、巨大化したような見た目の、超重量級の専用武器!

しかも、魔法剣が発動しているのか、刃の中ほどに魔法陣が突き刺さっている。



「そこな双子! 今すぐ、こちらに道を空ける!

 ── つまりは、強行突破(きょうこうとっぱ)!」



ブンブンブン……!と超重量級の武器を頭上で振り回せば、砂塵(さじん)が巻き上がり、風の(うず)すら生まれる。


それが、周囲に3度振るわれれば、魔物が5匹6匹と()()られ、肉塊と(はじ)け飛んだ。


それを見た残りの魔物の群れは、巨大旋風のような巨漢の魔剣士を警戒したのか、徐々に距離を開け始める。


── つまり、城壁の門の前に、魔物の空白地帯が生まれ始める。



「相変わらず、とんでもない方ですね……っ」


「流石は神童カルタ殿!! 行きますよ、ラシェル!」



妹ラシェルは、呆れの声。

兄ガイオは、憧憬(どうけい)紅潮(こうちょう)


双子の兄妹(きょうだい)は、母子を背中に(かつ)ぎ直して、城門をめがけて再び駆けだした。


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