06:掘っても掘っても闇エピ
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「お兄様」
「妹ちゃん」
そういう呼び方だけで、不可思議なくらい仲が深まった、俺ら兄妹弟子2人。
── で、仲が深まり、色々話すようになると、出てくるわ出てくるわ。
なんだ、この闇エピソードの山。
そんな不幸のズンドコっぷりを、あどけない顔でハキハキ喋るの、ヤメてもらっていいですか?
お兄ちゃんの精神、保たねーよ。
── おい、異世界、どうなってんだ!?
育児放棄とか、児童虐待とか、そういうレベルじゃねえぞ!
8割がた殺人罪で、たまたま運良く殺人未遂になってるだけの、殺意マシマシ案件だろ!
こんな可憐な子が 『物心ついた頃には野良犬みたいにゴミ箱あさってた』 とかマイナス方向の衝撃の事実なんぞ、知りたくなかったわぁー!
食べれる生ゴミの見分け方とか、裏路地でのやわらかい虫の集め方とか、『お兄様だけこっそり教えてさしあげます』ってニコニコ話すなぁーっ!
── めっちゃガリガリ正気度が削られてるよ、俺!!
(だいたい、なんでクソ母親は、まだ牢獄にブチ込まれてねえんだ!
官憲がちゃんと仕事しねえなら、俺が代わりにブチのめすぞ!
あと、ヤリ捨てクソ野郎の父親も、見つけ次第、『処』す!
同じ野郎としてアレなんで具体的な方法は伏せるが、不幸な母子がこれ以上発生しないように、物理的に『処』す!)
その頃は幼すぎて、アゼリアが婦女暴行とかされてないのが、唯一の救いだ。
もしも、そんな事なってたら……。
兄ちゃん今頃、闇落ちして、この異世界を滅ぼす魔王になってしまってたかもしれん……。
── よかったな異世界住民ども!
── 俺の身体に『オ■チの血』が流れてない事を、泣いて感謝しとけよ!!
「ウゥ……、うちの妹弟子の闇エピソードがひどすぎる……
俺を無能呼ばわりしてきたアゼリア叔父が、一番マシな登場人物とか思わんかった……っ」
あのオッサン、ド腐れな連中の後に登場して問題解決していくから、その正常な常識人行動が、いっそ救世主か聖人サマにすら思えてくる。
実家から放り出された放蕩娘な姉が心配で、数年ぶりに様子を見に行くとか、アゼリアの叔父さん、ぐっじょぶ!
この前、俺を散々無能呼ばわりしたくらいの事(この前まで、今度会ったらブチのめす、とか思っていたが)、今はもう広い心と博愛の精神で、全て許してやってもいいくらいだ。
次点で、近所の中年未亡人さん。
この人いなかったら、すでにリアちゃん『お亡くなり』だったかも、しれないよなぁ……
「── リアですの?
お兄様、リアの事、呼びましたの?」
どこから聞きつけたか、妹弟子が、ぴょんぴょん跳んで纏わり付いてくる。
あと、スゴい笑顔だ。
散歩と聞いた子犬みたいな感じ。
「ああ、妹はいつ見てもカワイイなあ……っ
今日もジジイの修行が大変だけど、頑張るんだぞ?
兄ちゃんが、あったかい風呂沸かして、ご飯いっぱい食わせてやるからなぁ」
アゼリアの愛称がリアというのは、我ながら安直だと思う。
でも良いんだ、この子はそれでも喜んでいるし。
「はい、お兄様、ガンバリますのー!
── えいえいっ ブンブンですのっ!」
すごい勢いで素振りを始める。
兄ちゃんは君の純真な笑顔が見れるだけで、幸せ感じちゃう。
あと、ジジイがスゲー慌てるので『おそと走ってくるー』は控えなさいよ。
この山って、魔物多くて危ないからね?
そんな生暖かい目で妹弟子の自主訓練を見ていると、ジジイが寄ってきた。
俺をみて、何かポツリと愚痴っぽい事をこぼしていく。
「……刺激になる、とは考えたが。
思いがけない方向に着地してしまったのう……」
「うるせー、ジジイ。
はやくアゼリアのところ行って、修行みてやれっ」
俺は、監督業をサボってるジジイを、シッシッと犬みたいに追い払う。
もう、ジジイの事を師匠とは呼ばない。
俺なりのケジメをつけた形だ。
だからもう、あの子がジジイの正当後継者という事実に、何のわだかまりも感じない。
つらい人生を頑張って生きてきた子なんで、そんな栄誉の一つくらいもらえて当然。
むしろ、修行を応援して、陰からサポートだってしてやる。
「兄ちゃん、色々吹っ切れたぜ……」
それに、俺だって忙しい。
物理的に『処』しないといかん有害無益な輩が、2匹もいる訳だ。
もう、中二病的スタイリッシュを追い求めて、格闘ゲーム必殺技モノマネで満足している訳にはいかなくなってしまった。
(守る者のため、男は強くなる義務がある……っ)
見栄えばかりのスタイリッシュ剣術を、実用的な剣技へと、バージョンアップが必要だ。
文字通りの『必殺技』に進化させないといけない。
「この一撃必殺の奥義……
つまり『超必殺アルティメット奥義』の完成を急がねば……!」
俺は、意を決して、魔術の手引き本をイチから読み直す。
今まで、要らんと思って読み飛ばしていた部分含めて、隅から隅まで網羅して、オリジナル魔法の術式を最適化しないといけない。
── 兄ちゃんな、初対面の時『この子、顔が端正でツンとして人形みたいだな』とか思ってた訳ですよ。
そりゃ、そんな家庭環境で愛されてねえなら、人形みたいな無表情になるよなあ!
あとなんか、しゃべり方お嬢なくせにマナー悪いな、とか。
行動が意地汚いとか、食い意地張ってるとか、食事の行儀がなってないとか。
そう、色々思ってたんだよ、チクショー!
そりゃそんな育ちなら、マナー教育もクソもねえよな!
この子をそんな目で見て、
『魔剣士の才能があっても、マナーがなってないとか、人間性では俺の方が勝ってるから……!』
とか内心マウント取ってた、2週間前のバカ野郎な俺をぶん殴りたいくらいだぜ!
そんな身の上なら『リアにお兄様ができました!』とか言って小躍りするわ!
▲ ▽ ▲ ▽
そんな記憶を回想する度に、心に決意の火が燃える ──
── 兄ちゃん、何があっても妹ちゃんの味方だからな!!