56:奥義(開発中イメージのため完成版とは異なる場合がございます)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
なんか、明らかに手加減してきた俺をクソ舐めたヤツが、『手加減するな!』とか怒ってきた。
(あのな、お前な。
それ『鏡見ろ』としか言いようがないぞ?)
まったく、ヤレヤレである。
『お前もだろ?』と言ってドヤりたい。
だが、残念ながらこの異世界には『戻る飛び道具』はないらしい。
(コレじゃあ『風●拳』とか成立しないじゃん……?
急に『獅◆王』とかが異世界転生してきたら、いったいどうすんだよぉ……)
……え……最近の若い連中は『風●拳』知らない……?
いや、ほら、アノ『風●拳』だよ?
実戦空手道にブーメランを組み合わせた、まったく新しい格闘技『風●拳』だよ?
……おぅ……聞いた事もないって……マジかよ……
……さっき言ってた『邪王¥殺拳奥義■龍波』も反応薄いし……コッチも多分、マジで知られてない感じ……
キミたちさぁ、もっと古本店で歴史的作品を読んだり、ゲーセン通いして伝統美術に触れるとか、ちゃんと若い頃から感性を磨かないとさぁ、ロクな大人にならないよぉ?
(いいのぉ? キミたち今の若者はそんな事でぇ? うぅん? うぅんん?)
そんなんじゃ将来、ブッダに導かれて立派に異世界転生とかできないよぉ?
実際に『異世界転生したこの俺』が言うんだから、この話は確実!
(まったく、どうなってんだよ、今のニッポンの若者は……?)
「まったく、どうなっとんのや、この女装坊主は!?」
なんだか、『心の声』と『耳に入ってきた声』が、ムダなシンクロをした。
そういや、このエセ関西弁とチャンバラ遊びの最中だったな。
なんか『爪が伸びる』みたいな見た目の攻撃魔法?
ヒュンヒュン飛んでくる魔法を、半ば無意識で回避してたら、悪態つかれる。
(すまんすまん『噂の神童』さん、最近、俺、ちょっとアレなんだ。
格闘ゲーム依存症の禁断症状がヤバイんだ……
時々、業務用レバーを持つ手がブルブル震えちゃってさぁ……
思わず、2回転コマンドとかしちゃうワケで……)
そんな事を考えていると、『カン!』と強化魔法の起動音。
青い服の細目男が、かなりのスピードで間合いをつめて、斬りつけてくる。
多分、【特級・強化魔法】。
(この前、金髪貴公子が使ってたのに似てるなぁ……
剣術LVは、貴公子の方が『1段上』だけど)
相手は、攻めに焦っているのか、動作がちょっと雑。
はっきりいって、さっきの『未強化』の時の方が、動き滑らかでスキやムダがなかった感じ。
まあ、コイツだけではなく『身体強化魔法』全体の ── 言い換えれば、魔剣士全般の弱点とも言える。
前世ニッポンで例えるなら
『普通車の高速道路でも神経つかうのに、むちゃくちゃスピード出るF1カーとかスゲー操作が大変』
とか、そんな感じ。
例えば『神童』とか、所詮『自称・峠のプロ(笑)』みたいなモン。
当流派の『剣帝』みたいな『超一流レーサー』はもとより、後継者くらいの『国際A級免許』にも手が届いてない。
おかげで、ヌルリ……ッと縄くぐり風に回避できた。
「バケモンかいな、コイツ!?」
(いや、だから。
お前の、動きが、雑なんだ、って!)
そんな事を考えながら(動きが激しくてしゃべれない)、追撃の足払いからの5連蹴りも回避。
(×虎の□バートみたいな蹴りしやがって!
俺だって、もっと身長がスラッとあったら、そんな蹴り技つかってたわっ)
そんでまた、細目男が指さしの攻撃魔法。
しかも2連続。
(またこの、『爪が伸びる魔法』かよ……
そんな単調な狙いだと、2連続で撃っても時間と魔力のムダだぞ?)
ヒュンッヒュンッと伸びてくるのを、ホイッホイッと避けてやる。
(やーね、恵まれた環境で甘やかされた天才児は。
順調な人生過ぎて、努力や工夫が足りんのだよな)
格闘ゲームで例えるなら、所詮は『強キャラ使い』。
恵まれた『キャラ性能』でゴリ押し勝ちになれすぎて、肝心の『操作技術』が今ひとつ。
「なんやコイツ!?
この距離で『死神の長い爪』避けるとか、非常識すぎるやろ!?」
……いや、知らんがな。
お前みたいに、そんな見るからに『攻撃魔法用意してますよ?』な魔力集中してたら、誰だって避けるだろ……
(『噂の神童』も俺みたいに、『弱キャラ』縛りで『剣帝』相手の模擬試合でもやれば?
そうしたら、ちょっとは『操作技術』がマシになるかもよ?)
回避先を追撃してくる、もう片手の人差し指からの、ヒュンッヒュンッ攻撃魔法も回避。
調子のってミリ単位でかわすと、観客女子からキャ~キャ~言われちゃう☆
異世界、最高ぉ!
俺、この魔物ワラワラ世界に転生して良かった!!
── 『ウソでしょ!? 今の当たってないのっ』
── 『うわぁ……なんかスゴイ非常識な動きしてます……』
── 『海の軟体生物みたいで、ちょっと気持ち悪い……っ』
── 『ホントっ 気持ちわるっ』
── 『ルカさまに逆らうバカなんだから、早く死ねばいいのにっ』
ええぇ、キャ~キャ~って、『そっち』……?
しかも、なんという大・酷・評!?
チクショぉおお!
これもそれも全て、このキツネ顔男が悪いに、違いない!!
(このクソモテ男サマがぁっ!
キャーキャー黄色い声援もらってるだけで、アレなのに……っ
そんなに非モテの俺を貶めたいのかよ!?
貴様は絶対に許さないっ!!)
相手が魔法剣使うまで、ギリギリまで様子見する気だったが、もうヤメだ!!
念のため、右手一本で後方回転して、右肩の復活具合を確認。
うん、OK。全力でいけるな、これなら。
(── さあ、落ちこぼれ剣士相手にブザマさらして、赤っ恥かいちまえよ!
肉感的なステキ女子2人にモテモテっな、天才魔剣士のイケメン神童さまよぉ!)
おっぱい星人を怒らせた罪は重いのだ!!
▲ ▽ ▲ ▽
「せっかく、天下の神童さまが相手なんだ。
我流の奥義の、試し撃ち相手にでも、なってもらおうか?」
神童ルカとかいう、細目男に見せつけるように、右手の中指を立てる。
いや、別に『挑発ポーズ!』ってワケじゃない。
相手に見せつけたいのは、魔法の<法輪>の方。
「まぁ、ウチの妹弟子の『究極無敵の奥義』には、まだ及ばんがな……」
兄弟子も、はやく『超必殺技っぽい防御不可攻撃』とか完成させたいです。
「ト、『三重詠唱』……やとっ!?」
細目男に、何か変な事を注目されてしまう。
金髪貴公子の<天剣流>奥義とか、魔法技工士の名門お嬢さんの改造魔法とか。
最近、そういう帝都の最先端魔法を見て触発されて、色々改良した新様式のオリジナル魔法術式を見て欲しいんだが……。
奥義に『知恵の輪みたく繋いでる補助用の<法輪>2個』の方が、驚かれてるっぽい。
(いや、見て欲しいのは、そっちじゃないんだけど……)
俺のそんな不満はともかく、相手は本気になったらしい。
「くっ、させるかいな!
── 【魔法剣:指震い】」
細目男は木剣に指を添えると『チリン!』と自力魔法発動させて、すぐに斬りつけてくる。
剣に魔法をかける、文字通りの魔法剣ってワケか。なるほど。
「属性は、電撃系か?」
一瞬見えた<法輪>の構文から、そうつぶやく。
相手は、ポ-カーフェイスを保てず、図星と口元を引きつらせた。
「ちぃっ
やっぱ異常やわ、お前」
と、相手の、身体強化2連撃が、ビュンビュンッ。
上段の横薙ぎで、こっちをしゃがませて、斜め斬りで追撃。
さすがに『電撃系の魔法剣』とか、『鍔迫り合い』すら危険。
だから、シュパンと低身のまま地面を滑るように、2連撃を回避。
── 『今のって、まさかっ! ラシェル!?』
── 『え、ええっ、ベルタさん……』
── 『間違いなく、我が<魄剣流>の歩法ですっ!?』
── 『このわずかな「決闘」の間に、盗まれた……っ?!』
── 『うそでしょっ アイツ、どんな才能してんのよ!?』
才能じゃねえよ、高身長の美人さん。
チビの身体を120%活かすために、体幹の筋肉鍛えまくった成果だよっ
基本がしっかり出来ていれば、応用力があがるんだよ!(って、ウチのジジイが言ってた)
「ワイの技のモノマネやと!?
ふざけよって、逃さんわいっ」
戦意を燃やす細目男が、また『爪が伸びる魔法』が迫る。
なんだっけ、『アオいツメ』って名前だっけ?
俺は、慣れない歩法の実戦使用で余裕がなかったので、仕方なく迎撃に方針転換。
大口を開いて、舌先に<法輪>を宿して高速回転。
最近のお気に入り魔法【撃衝角】を発動!
相手の攻撃魔法と、俺の攻防一体の衝撃波がぶつかった。
バァンッと破裂音と共に、魔法の光が砕け散る。
「バ、バカげとる……『四重詠唱』やとっ!?
帝都魔導院の術師かよ、お前っ」
何か言われているが、よく解らんので、取りあえず無視!
── 『うわぁ……なんか今、魔物みたいな魔法の発動したわよ、アイツ……』
── 『俺って……あんなのにケンカ売ったのか……』
── 『……そりゃまあ、ボコボコにされるよなぁ……』
── 『それは貴男ちょっと、なんというか、よく死なずにすみましたね……』
── 『しかし、本当にニンゲンなんですか、アレ……』
何か、観客3人から、色々ヒドい事を言われている気がするが!
(よく聞こえないので、取りあえず今は無視しておこう! うん、そうしよう!)
そんなこっちのイラッ☆という精神の乱れを、見透かされたのだろう。
相手が一気に畳みかけにくる。
スーーゥ……ッと地面を滑る歩法(やっぱ付け焼き刃の俺より上手い!)。
そして袈裟斬りから背後に回り込みつつ、ビュンビュンビュンッと回転しながら剣を振り回す。
まるで暴れ独楽に追い回されているような、不規則機動!
しかも『電撃系の魔法剣』なので迂闊に防御も出来ない。
ただひたすら回避するしかない厄介さ!
「── 止めや!!」
こちらに背を向けたタイミングで、神童ルカが裂帛の発声。
「── く……っ」
その気迫に、思わず防御の構え。
相手に無防備な背中を見せるというのは、だいたい武術の奥の手的な『タメ強攻撃』。
なので、反射的に身体が動きかけた ──
── 瞬間、ゾワッ、と足下から悪寒が来た!
(やべぇ、これ詰みパターンだっ)
すかさず、両足踏ん張った防御を中止、オリジナル魔法で回避に変更!
移動攻撃【序の三段目:跳ね】を逆方向へ起動。
── ほぼ同時に、バリバリバリっ!!、と地面に電光が走る!
(ふぅ~……、間一髪ぅっ)
なんとか、後方への長距離ジャンプ回避が間に合った。
神童ルカは、こっちに背中を向けたまま木剣を地面に突き立て、魔法剣の電撃を解放したようだ。
うっかり、相手の渾身攻撃と思って防御を固めたり、あるいは回避に徹しようとして地面を踏みしめてたら、『地面を走る電撃』を食らって感電KO!だった。
しかも、仕掛けた本人は、自身の『電撃魔法の解放』の巻き添えを食らわないように、突き立てた木剣の上に跳び乗っている。
なかなかの『初見殺し』だ。
「さて、そろそろこっちの番だな……」
奥義の本体<法輪>に、『知恵の輪みたく繋いでる補助用の<法輪>2個』の方が、役目を終えて消え去る。
「……青い……魔力……
ハハッ……なんやそれ、お前……っ」
細目男は、微妙な声色。
初めて見てビックリしているのか、意味不明と呆れているのか。
その反応に、俺はちょっと得意げになる。
「どうだ、ビックリしたろ?」
── 奥義発動用の<法輪>は、もう真っ青。
ィィィィイイイ……ィン! とか、相変わらず異常な音が鳴り響いている。
そう、さっきの『補助用の<法輪>2個』は、この前の夜の森で死にかけて覚えた『青色魔力』の装填術式だったワケだ。
(まあ、自力の魔力操作に比べると、ちょっと超過負荷が控え目なんだが……)
自力の魔力操作の時が500%くらいだったが、補助用の<法輪>だと400%くらいしか魔力装填できていない。
(でも、また自力で過剰装填して、死にかけるのは嫌だし……
まあ、そもそも『あくまで奥義の試作版』だし、そのうち改良しよう)
「我流の奥義 ──
── その試作版、『仮称・嵐』だ」
▲ ▽ ▲ ▽
試作版の奥義『仮称・嵐』 ──
── その術式を簡単に言えば、『加速剣』だ。
「── では、行くぞっ」
『ギャリィン!!』と、金属かガラスが強く擦られたような、異常な魔法起動音。
使い慣れた<小剣>の丈に切り縮めた木剣から、青い炎のような魔力が噴き出す!
これは、撃剣が加速する『必殺技』じゃない。
これは、剣身自体が加速する『必殺技』だ。
妹弟子のアルティメット奥義・【秘剣・木枯:四ノ太刀・四電】を創作した時の、副産物の術式だ。
── ガン!と渾身の、跳び込み斬撃。
「はぁっ」
「くぅ……っ、なんつー突進力や!
だが、ワイならこの程度ぉ ──」
相手は、流石は『神童』というべきだろう。
妹弟子が愛用する【五行剣:火】くらいの突進力なら、簡単にいなしてしまう。
「── だが、まだまだっ」
「── なにぃっ」
相手のさっきの『暴れ独楽式の乱れ打ち』みたいに、回転しながらさらに2回、3回と斬りつける。
どんどん剣身を高速化させながら!
── 俺の必殺技を妹弟子が使うには、致命的な欠陥があった。
必殺技【秘剣シリーズ】は、部分的な『身体強化』に色々な魔法を組み合わせた、複合術式。
だから、妹弟子が剣帝作成の身体強化魔法【五行剣】と併用すると、『身体強化』の効果同士が打ち消しあってしまう。
(正確には、後から使用した方で上書きしてしまう。身体強化魔法自体の特性)
例外は、武器自体に魔法付与する【三日月】だけ。
つまり、肉体に作用する魔法は、せっかくの【五行剣】を上書きするのでNG。
なので、武器自体に作用する魔法に作り直し、【五行剣】と両立させる形に変更したワケだ。
『剣自体が高速で勝手に動く』
× 『身体強化した肉体で、加速を倍増っ』
= 『超・高速化!』
── それが、『音速に近い』という人間離れした超絶速度が出る、妹弟子のアルティメット奥義の『術理』だ。
その『術理』を、さらに極端化、先鋭化したのが、この『試作奥義』 ──
── つまり、剣身にロケット噴射でも付けたように、勝手に高速化し続ける『必殺技』。
もちろん、スピードだけじゃなくて、パワーも半端ない『必殺技』だ。
ガン! ガン! ガガン! とハデな剣戟音。
試作版の奥義『仮称・嵐』の実戦使用はなかなかの性能!
【特級・身体強化】使った上背の青年の巧みな防御を、加速された連撃で圧倒し始めている。
「おらおら、どうした神童!
まだまだ速くなるぞ!」
「こんクソガキがぁっ」
俺のやる事は、木剣を円運動させつつ、進行方向を相手に向けるだけ。
(まあ、『相手に向けるだけ』って言っても、『全身に身体強化魔法かけた上で、全力でひっぱり回して、なんとか』って感じだが……)
ほぼほぼ、暴れ馬の手綱を握らされている気分だ。
あるいは『暴れ牛騎乗』という感じか?
最初の方は、ヌンチャクみたいに上下や斜め軌道でも、回転させる。
だが、後半の超加速状態では、複雑な軌道は厳しくなって、横回転のみの単調攻撃に。
でもまあ、単調とは言っても、攻撃スピードが尋常じゃないが。
『ガンッ・ガンッ・ガンッ』という感じだった衝突音が、
『ガンガンガンッ!』と加速してきて
『ガガガガガガアアアァ!』と最終的には横回転の人間プロペラみたいな感じになる。
1秒間20回転を超える、まさに【秘剣・木枯】の斬撃版。
その人間プロペラな最終段階に辿り着く前に ──
── ベキン!と破壊音!
相手が防御する<中剣>丈の木剣をへし折った。
さらに、そのまま脇腹を撃ち抜く!
「── グハァ……アッ」
ゴキン……ッ、と鈍い手応えと共に、神童ルカが錐もみ状態で吹っ飛んだ。




