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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 3:遺跡ステージ

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54:努力VS才能

「ただいまぁ~。

 ── って、何なんでこんな所で立ってるの、ラシェル?」



私ラシェルは、背後からの思わぬ声に驚き、振り向きます。



「あ、ベルタさん。

 ちょっと、『決闘の立会人(たちあいにん)』を……」


「決闘? 立会人(たちあいにん)

 あ、あそこに居るのって、ルカ様にくってかかってた、あのバカな子?」



ウチのお父さんと一緒に、ここ<翡翠領>(グリンストン)の領主官邸に向かった女性騎士が、もう戻ってきていました。

時間としては、まだ10分も経っていないくらいです。


私ラシェルの隣りに並ぶ彼女に、その疑問をぶつけます。



「ところで、やけに早いお帰りですね。

 領主官邸までの早馬でも捕まえました?」


「いやいや。

 追っ手がきても面倒だから、【特級・身体強化】で全力疾走しちゃったっ」


「ええっと……それ、バレるとまずいヤツじゃないですか?

 街中で、無断で、『強化魔法』使用とか……」


「アッハッハッ

 緊急事態だから仕方なしよ、ルカ様にも頼まれたしっ」



この大雑把な性格の長身の年上の女性は、少し紅潮した顔で答えます。

神童カルタ殿の姉君・ベルタさんは、ルカ従兄(にい) ── いえ、神童ルカの大ファンで……

いや、正確には大ファンを通り超して命がけで、何かあったら死んじゃうくらいです。


まあ、つまりは、そういう(・・・・)感情を抱いているのです。


しかし、私ラシェルは彼女の『恋は盲目』っぷりを見ていると、いけません。

私自身の過去の失敗(・・・・・)が思い出されるため、とても微妙な気分になってしまいます。


幼い頃からルカ従兄(にい)は、腕白(わんぱく)悪戯(いたずら)っ子で、いつも大人たちが頭を抱えているような、ちょっと困った人でした。

だけど、恋愛に関しては誠実ですので、ベルタさんにいい加減な事はしないでしょうから、そこは安心していいはずなんですが……。



そんな私ラシェルのどんより顔を見て、話題を変えようと思ったのでしょう。

ベルタさんは、アゴで前方を差し示します。



「ところで、決闘なんでしょ、アレ。

 それなのにルカ様は、いったい何やってるの?」



確かに、『尋常の勝負』というよりも『組み手稽古(げいこ)』という感じの光景です。

強化魔法を使わずに木剣で打ち合っているのですから、どうしてもそういう感じになってしまいます。



── 『まだまだや、こんなもんやないでっ』

── 『このクソ男児(ジャリ)がぁ、徹底的に叩きのめしたるっ』



道場裏の広々した資材置き場に、猛特訓といった感じの(さけ)びが響きます。

帝国西方の若き英雄・神童ルカが、まだ年若い門弟に稽古(けいこ)つけて(・・・)やっている(・・・・・) ──

── そんな光景です。



小柄な人影が、やや持て余しそうな長さの<中剣(ミドル)>の木剣を実に器用に使い、果敢(かかん)に攻め始めました。

ですが、受け手であるルカ従兄(にい)には、まだまだ余裕が見て取れます。

体格差は、まさに大人と子どもなのですから、当たり前でしょう。



「ルカ従兄(にい)が、急にあの子を外に連れ出して……

 なんでも、『剣帝流の元・一番弟子』とか……」


「あぁ……例の、落ちこぼれの。

 <封剣流>のお姫様に、後継者の座を奪われた(・・・・)とかいう……」



ベルタさんは、目に見えて警戒を解きました。

腰に下げた<中剣(ミドル)>(こっちは木剣ではなく真剣)の鞘を握っていた左の手を、ようやく離して納得の表情。



「ルカ従兄(にい)、『剣帝』の事になると目の色が変わりますから……」


「そうねえ……

 ここ<翡翠領>(グリンストン)に来るって決まった時も、『バカ弟子を探し出して、始末(カタ)をつける』とか息巻いてたもんね?」


「ええ」



正直、ルカ従兄(にい)が剣帝の後継者問題に、これ程に(こだわ)るとは思いませんでした。


私たちの従兄(いとこ)が、剣帝に(あこが)れを(いだ)いているのは、知っています。

上の年代の方から、辺境の英雄『剣帝』の武勇譚(ぶゆうたん)を、目を輝かせて聞いていたのは、昨日の事のように覚えていますので。


しかし、所詮は他流派の問題です。

外様(とざま)が口を挟んでも、好転する事は何もないでしょうに。



「……あの子、結構、(ねば)るわね」


「ええ、本当によく(ねば)ります。

 もう10分近く打ち合っているのに、いまだに決着がつきません」


「はぁ、10分もやってんの、あの子ども!?

 ルカ様を相手に!?

 あれ、結構本気の剣筋じゃない!?」


「ええ、そうですね……」



私ラシェルからすれば、感心半分、呆れ半分です。


<魄剣流>の強化魔法は『杖剣型(テクニック)』。

そのため剣術の理合も、『一撃での必殺』よりも『多撃での確殺』になってきます。


剣一撃の威力は、さすがに<轟剣流>の『剛力型(パワー)』には及びませんし、剣の型も絶え間ない連続攻撃になってきます。



── だから(・・・)、と言って神童カルタの撃剣が、例え未強化(なまみ)とて軽い(・・)訳ではないのです。


日々の鍛錬でも、私ラシェルと双子の兄ガイオの2人がかりだけでなく、父トニまで入れた3人がかりでも圧倒される程。


俊敏ながらズシンと重い撃剣が幾度となく打ち込まれ、受け手は20(ごう)いなせず(・・・・)に手を(しび)れさせ、木剣を(はじ)かれてしまうのです。


だから、あんな(・・・)少年があの(・・)ルカ従兄(にい)を相手に、20(ごう)・30(ごう)どころか、100(ごう)近くも絶え間なく打ち合っているという事実に、いまだに納得がいきません。


あんな(・・・)顔立ちの少年が ── 恐ろしい事に、下手な看板娘より可憐な顔立ちをした男子(!?)が ── まるで、厳しい修行に耐え抜いた無骨な武術家のように、ですよ。


見た目と実力のギャップが、私ラシェルの双子の兄より、遙かに激しいのです。

いや、周りに優男といわれる双子の兄ガイオだって、彼と並べば随分と(いさ)ましく見えるのではないでしょうか。

あの、まるで貴族の令嬢然とした、少女のように華奢(きゃしゃ)な少年と比べれば。



「うわぁ、(つば)()()いからの足技まで使ってるぅ!

 ちょっとエグすぎ、ルカ様、本気すぎない!

 あの子ども、そんなに手強いわけ?

 相手はただの未強化(なまみ)の『魔剣士未満(おちこぼれ)』なんでしょ?」


「ええ……。

 でも何故か知りませんが、片手になってからの方が、剣が冴えてる感じです」


「え、片手って……何?」


「さきほどの決闘の序盤で、ルカ従兄(にい)に右肩を打たれて以降、左手1本で打ち合ってますよ。

 あの、『元・一番弟子』君……」


「はぁ、ルカ様相手に片手で粘ってるのぉ!?

 それ、どう考えておかしいでしょ ──

 ── ってか今なんか、ネコみたいに空中で回転したぁ!

 あれ本当に人間!?」


「本当に()しい才能ですよねぇ……

 きっと、魔力さえ人並みにあれば、『魔剣士未満(おちこぼれ)』にならずに済んだのでしょうけど……」



いえ、それどころか、魔力量さえ人並み以上であれば、今頃ルカ従兄(にい)やカルタさんに並ぶ使い手として知られていたのかもしれません。



「ははぁ……。

 なるほどねえ、伊達(だて)に『剣帝の元・一番弟子』じゃないわけだ……。

 とすると、ルカ様はあの子に引導を渡してやりたい訳かしら?」


「そう、かもしれませんね」



素質不足から魔剣士になれなかった人物が、いつまでも剣術なんか(・・・)にすがっている。

まるで『死んだ子の(とし)を数える』ような、(あわ)れでいたたまれない状況です。

── 確かに、誰かが引っぱたいてでも、止めてあげるべきでしょう。



確かに魔力量は、努力次第(しだい)で増やす事も出来ますが、それにも限界があります。

彼の、あの、人並みを大きく下回り、無力な一般市民さえも劣るかもしれない極小の(・・・)魔力量では(・・・・・)、魔剣士になるなんて到底(とうてい)無理です。


諦めて『自分に相応(ふさわ)しい将来』を目指す方が、よほど建設的でしょうね ──



「ハァ……」



── そこまで考えて、まるで私自身(・・・)の事(・・)のようで、少し憂鬱(ゆううつ)になります。


現実になりはしない幻影にすがり、救いを求める。

さらに、終わってしまった過去を、いつまでも引きずっている。


『あの男』の囁く甘い言葉に浮かれていた『あの頃の私ラシェル』は、周囲にこう(・・)映っていたのでしょうか?

そして、今をもって、こんなみっともない様子をしているのでしょうか?





▲ ▽ ▲ ▽



── 「武門なんて辞めても良いさ」

── 「君が怖いっていうなら、イヤっていうなら、ね」



幼い少女の私ラシェルの目には、その人は救い主のように映りました。



── 「魄剣(はくけん)流直系とか、魔剣士の名家なんて関係ないよ」

── 「君のような可憐な少女が、命をかけて魔物と戦うなんて間違っている!」



そう言って貰って、どれだけ心が救われたか。

生まれる前から決まっていた、武門の宿命。

双子の兄と共に、当たり前のように続けてきた、厳しい修練。


密かに悲鳴を上げてた幼い心に、その言葉は蜂蜜より甘く()み込みました。



── 「ご当主や親父さんだって、勝手に君の人生を決めて良い訳がない」

── 「誰も言わないんだったら、俺が代わりに文句を言ってやろう」

── 「例え世界が敵に回っても、俺だけはラシェル=シャーウッドの、君の味方だ!」



そんな耳障りのいい口説き文句。

頭の中が桃色の靄で一杯になり、恋愛の熱病にうなされた私ラシェルは、それを真実の言葉だと思い込んでしまいました。


『あの男』は、耳障りが良い言葉が、いくらでも並べられるはずです。

だってそれは、最初から責任を取るつもりのない、空手形(からてがた)だったんですから。



人々を魔物から守る魔剣士。

その精鋭たる<帝国八流派>が一つ、<魄剣(はくけん)流>の総本山シャーウッド家。

そんな武門の頂点を率いる当主に反抗するなど、門下の人間ですら(おそ)れ多いのに。



ただの(・・・)一般人(・・・)に、そんな胆力があるはずもないでしょうに……』

『例えば、あの男に、本当にそんな気概があるならば、ですよ』

『なんで仕事ひとつ決まらず、プラプラ遊び歩いているんですかね?』



そういう双子の兄の指摘が、まさに的を得ていたのです。



しかし、当時の私ラシェルには、そんな忠告すら受け入れる事もできませんでした。


幼い頃から訓練を強いる祖父も父も、みんな敵で ──

祖母や母など身近な女性たちすら、味方になってくれず ──

血を分けて生まれた双子の兄すら、私の苦しみを理解も、思いやってもくれない ──


── そんな三文芝居の悲劇のお姫様に成りきってしまい、周りが何も見えなくなってしまったのです。



『相手の男は、信用できないよ』

『ラシェルは人が良いから、(だま)されているんだって』



そんな幼なじみの忠告すらも耳にも入れず、

―― (あの人を心の底から信じ切れば、私は救われるのだ)

―― (身も心も、欲しいのなら財産だって、いくらでも……!)

そんな思い込みのまま、愚かな事をしてしまいました。


幼い心は、恋の情熱に浮かされ、まったく地に足がついていませんでした。




―― 結局、夢が覚めたのは、『あの男』の身重(みおも)の奥さんから、ビンタされた瞬間。



「アンタがホイホイ、毎日のように大金をやるからさぁっ

 このバカ男、せっかく親戚に頼み込んでネジ込んだ仕事先、辞めちゃったじゃんか!」



「どうしてくれんのさ、お金持ちのお嬢さん!

  アタイがこのバカ更生させるのに、あれだけ必死に努力したのに、全部おじゃん(・・・・)だよ!」



「ちょっと耳(ざわ)りの良い事(ささや)かれたからって、パカパカ(また)ひらくな、バカガキ!

 ()るなら()るで避妊くらいちゃんとしろ、その辺のイヌネコか!」



「好きなだけヤらせてやって、金まで(みつ)いでやるとかさぁ、娼婦以下だよ?

 男に都合のいいだけの、バカ女だよアンタ?

 武門だか名家だか知らないけど、本当に哀れだね……」



頬をジンジンとする熱さ以上に、鼓膜(こまく)(ふる)わせる声が痛い。

あんまりな言葉に立ち尽くす、私ラシェル。


その瞬間まで『かわいそうな私を救ってくれる運命の王子様』と信じて疑わなかった『あの男』は。


ヘラヘラ笑いながら、馴れ馴れしく、私ラシェルの肩を抱き。


この耳元に、いい加減な(・・・・・)謝罪の言葉(・・・・・)だけを残して。


身重(みおも)の奥さんの尻を、必死に追いかけて行きました。




── そう、『あの男』は、私ラシェルには一度も振り返る事も無く、去って行ったのです。





▲ ▽ ▲ ▽



── 『もう、ええわっ 貴様の相手も()()きじゃあ!』

── 『()(そこ)ない、これで(しず)めっ!!』



そんなルカ従兄(にい)の叫び声で、記憶の向こうから意識を引き上げます。


つい、また過去の思い出に心を()らわれていました。


立会人(たちあいにん)』なんて単純な仕事ひとつこなせなかったら、またあの神経質な双子の兄に、ネチネチと嫌味を言われてしまいます。



昔は、少々腕白(わんぱく)でも、優しく面倒見のよい兄だったのですが……

私達は、とても仲の良い双子(きょうだい)だったのに、どうしてこうなってしまったのでしょう……



── ああ、いけません、またです。

『決闘』に集中しなければ。



── 『ヒュゥ……ッ』



ルカ従兄(にい)が呼吸を深くしながら、姿勢も低く沈めます。

まるで相手の膝を狙い打つような、中腰から下段への片手突きの構え。



「ルカ従兄(にい)の切り札……」


「ルカ様……アレまで出すんだ……」



隣りに立つ、ベルタさんも思わず息を呑み、声量を小さくします。




ルカ従兄(にい)は、下段の片手突きの木剣に、もう片手を添えつつ、相手の側面を狙うようにジリジリと横に移動を始めま ──


── いや、もう撃った!



神童ルカが編み出した、対人戦の切り札!

<魄剣流>最新の秘技、神速の3連突き『鉤猫(かぎねこ)』!



木剣に添えた片手で、相手の視界から剣身を隠し。

下段構えで注意を足下に向けつつ、実は相手の上半身 ── 頭・首・胸の3点を狙い撃つ。

さらには、重心が乗っているように見える前に出した足は『(きょ)』で、重心の『(じつ)』は胴体の直下で曲げたもう片方の脚。

その片足一本が、まるで発条(バネ)のように弾け、突如として間合いを詰めてきて、神速の3連撃を放つ!


いわゆる『初見殺(しょけんごろ)し』の秘技。

いや、()っていても防ぐのが難しい程の、対人技術の妙技。


例えば、今のように『未強化(なまみ)』であっても、相手に必ず手傷を負わせる ──

── いわば『必殺(ひっさつ)』の技と言えるでしょう。



それが、まさか…… ──



「うそ……」


「う、受けたの?

 あの子どもが?

 今なんか、ガガンとか、いったけど……」



ベルタさんは、『ガガン』と言いましたが、正確には『3回』鳴っています。


つまり、『必殺』の刺突3連撃が ──

<魄剣流>最新の秘技・『鉤猫(かぎねこ)』が ──



「── ふ、防ぎきられたんですか……アレ(・・)が……?

 大叔父さまも……ご当主さまだって『無理だ』って言った……あの技が……!?」



衝撃の大きさで、私ラシェルは目眩(めまい)さえ覚えます。

正直、悪い夢でも見ているように、現実感すら薄れてきています。


頭の中の冷静な自分が、見間違えでは、と(ささや)いてさえいるのです。



しかし、そんな疑念もルカ従兄(にい)の一言で、確定してしまいます。



── 『見事や……「未強化(なまみ)」なんて言い訳はせん』

── 『我ながら「抜群や」と思ったし、「決まった」と思った……』

── 『それが全部防がれるとか、もう打つ手ないわ……引き分けやろ、こんなん?』



ひ、引き分け!?

ルカ従兄(にい) ── 神童ルカと!


若手魔剣士の最上位『神童コンビ』と、『魔剣士でもない、ただの剣士』が引き分けた!?



「う、うそでしょ……

 あんな小さな子が、ルカ様と互角って事ぉ!?」


「………………っ」


ベルタさんの声は引きつり、ほとんど悲鳴同然です。

だけど、ショックの具合は、私ラシェルも同じくらい。

こっちは、驚きすぎて声すら出てないのですが。



そんな『立会人(たちあいにん)』と『観客』の女性2人は置き去りに、ルカ従兄(にい)は話を続けます。



── 『なぁ……お前(ワレ)……?』

── 『本当に(ホンマ)、なんで降りたんや、剣帝さんの後継者を』



ルカ従兄(にい)は、構えを解いて中腰になると、木剣を杖のように立てて、腕組みアゴを乗せて休憩します。

いや、相手の目線の高さに、自分のそれを合わせているのでしょうか。


もはや、戦意は失せたという穏やかな表情です。



── 『練武、体術、技巧、気迫、とても10代のガキのそれ(・・)やないで?』

── 『だが天賦(てんぷ)やない、ぶっちゃけ不細工や、決してスマートやない』

── 『元々、たいした才能がないのは解る』



ハァ!?

たいした(・・・・)才能がない(・・・・・)、あの少年が!?


だって、『未強化(なまみ)』とは言えルカ従兄(にい) ── 神童ルカと一歩も引かず闘っているのに!?

そんな事ができる人、うちの<魄剣(はくけん)流>本家道場にすら、誰一人いないのに!?

まともに相手になるのなんて、それこそ相棒の神童カルタさんくらいしか居ないのに!?



── 『手探りで、我流で、必死こいて、一歩一歩、1日も休まず、気の遠くなるくらいに積み上げた結果や』

── 『天才とか、才能とか、特別とか、安い(やっすい)言葉ですましたらいかん……』

── 『お前(ワレ)が、積み重ねた努力への侮辱(ぶじょく)やろ、それは』



いい歳して悪戯っ子の気が残るルカ従兄(にい)には珍しい程の、殊勝(しゅしょう)な声色。

あるいは、相棒である神童カルタさんに向ける信頼のような、真っ直ぐな瞳。



── 『今からでも、ウチの道場連れていきたいくらいや』

── 『才能や素質に胡座(あぐら)かいとる天才気取り(バカども)に、こんな奴おんねんぞ、と見せつけてやりたいくらいや』



木剣同士の、しかも『未強化(なまみ)』の手合わせ。

しかし、真剣にぶつかり合った者同士でこそ通じ合う、そんな何かがあったのでしょう。


まるで数年ぶりにあった故郷の友人に向けるような、暖かで柔らかな声なのです。



── 『その歳で、そんだけのモンを、そんだけ磨き上げるような奴が』

── 『なんでやねん……いったい、なにがあったんや……?』

── 『なんで剣帝さんの仇敵(てき)、<封剣流>なんぞ(・・・)(ゆず)ったんや……?』



そして、そんな旧友に裏切られたのが今をもっても信じられない、そんな声なのです。

私ラシェルの心の古傷に()みるような、とても切ない声。



── 『おい……っ』



その返答(いらえ)は、とても重い声。



── 『何を勝手に、黄昏(たそが)れてやがる……っ』



向けられた相手でもないのに、私ラシェルまで、ゾワリと肌が粟立つほどの熱量の情念。



── 『他流派の魔法剣が見れると思って、楽しみにきたら……っ』

── 『ワケのわからん因縁(いんねん)つけられ決闘ゴッコ……っ』


── 『それならせめて「お稽古(けいこ)」と思って相手してやれば、今度は手を抜きやがる』

── 『本気出せと、何度言っても、聞きゃしねえ……っ』

── 『それどころか、上から目線でお説教だ……っ』


── 『よっぽど偉いんだな、お前ら神童っていうザコは?』



当主様や大叔父様くらいの、剣術の達人が時折みせるような、すさまじい威圧感。



「ザ、ザコって、アンタ……っ

 ちょっとルカ様に認めてもらったからって、調子にのるな『落ちこぼれ』のくせにぃっ」



私ラシェルの隣で、ベルタさんが怒声を上げますが、相手は一瞥(いちべつ)もしません。



「ちょっと、アンタぁ ──」


「だ、ダメです、ベルタさんっ

 まだ決闘が終わってないです、手出ししたら問題になりますっ」



今にも乱入しそうな勢いのベルタさんに、私ラシェルは『立会人(たちあいにん)』として、慌てて抱きつき、抑えつけます。



「お、おぉぉ~い!」



そんな時、声を上げて、慌てて走り寄ってくる人影。

なんでしょう、道場の方からです。


ボウズ頭の、若い男性?



「おおい、剣帝流!

 お前の妹弟子、あのお嬢ちゃん ──」



ハアハアと息を切らせて、顔を上気させ、目を見開いて、興奮気味な声で。



「── やりやがったぁあ!!

 <轟剣流>本家に!

 神童カルタに勝っちまったぞ!!」



有り得ない(・・・・・)事を、吹聴(ふいちょう)します。



「……何を言っているんですか、この人」


「ハァ……?

 ちょっと、すぐに解るようなウソつくのやめなさいよ。

 <轟剣流>(ウチ)のカルタが、あんな小さな子に負ける訳ないでしょ?」


「ええ、そうですよ。

 魔剣士の『3すくみ(・・・)』で圧倒的に有利なのは、<轟剣(ごうけん)流>なんですから」


「何?

 もしかして、ルカ様を動揺させて決闘を有利にしたいの?

 残念でしたぁ、もう終わってまーすっ

 無い頭で『いっしょう(・・・・・)けんめい(・・・・)』考えた作戦だったりしたの?

 あらあら、無駄な努力だったわね?」


「ち、違うっ そんなんじゃねえ!

 ウソじゃねえって、ホントに、本当に、お嬢ちゃんが勝っちまったんだ!!

 ── お、お前なら信じてくれるだろ、剣帝流!?」



そう言って、離れて立つ2人の片方に呼びかけます。


そして、その答えは ──



── 『当たり前だろ……』

── 『ウチのリアちゃんが、この程度の相手に負けるワケねーし……』



そんな風に、虚勢にしても傲慢(ごうまん)が過ぎる事を、堂々と言い放ちます。


もしや、ここ<翡翠領>(グリンストン)では、帝国西方の『神童コンビ』の事が、上手く伝わっていないのでしょうか?

それとも、『魔剣士の頂点・剣帝流』としての、なけなしの意地なのでしょうか?


『剣帝の落ちこぼれ(・・・・・)弟子だからこそ、流派の勇名(ゆうめい)にしがみつく』というのは、いかにも有りそうな話ではありますが。



そんな推測に頭を(めぐ)らせていると、剣帝の落ちこぼれ弟子は、自分の木剣を半分に切り分けました。



── 素手の(・・・)手刀で(・・・)



「は……?」


「え、今の、何……?」


「何だ今の……俺の目の錯覚……?」



私ラシェルも、隣のベルタさんも、駆け寄ってきたボウズ頭の男性も、一様に困惑の声を上げます。



── 『よし、向こうが終わったなら、こっちもケリつけるか』

── 『お前、たしか……神童ルカって言うんだっけ?』

── 『意地になって「未強化(なまみ)」を通したいなら、別にそれでも構わんが』



小柄な人物は、先程まで(・・・・)中剣(ミドル)>の長さだった木剣を<小剣>(ショート)の長さにして、具合を確かめるように軽く素振りをしています。


そして、



── 『死んでも、知らんぞ?』



呆然とするルカ従兄(にい)の方へと、<小剣>(ショート)の木剣を突きつけ、酷薄(こくはく)に笑ったのでした。


!作者注釈!


この双子、マジで書き難い!!

お前らもう、二度とでてくんな!


というワケで、次回から主人公一人称に戻ります。

の予定。

(未定)


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