表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/218

52:剣帝流VS轟剣流

!作者注釈!

諸般の事情により、『君の●●が食べたい』から変更し『剣帝流VS轟剣流』をお送りしております。

(意訳:文章量が予定より増えちゃった、てへぺろ)

昼下がりの、<翡翠領(グリンストン)>の轟剣ユニチェリー流道場。

いざ決闘と、準備を始める少女と、それを待つ巨漢。


そして、高見の見物をしている道場生たち。



「せっかく面白そうな勝負だ。どうだ、1杯()けないか?」

「いやいや、先輩。どう見ても、結果は決まっているでしょう……」



彼らの囁きを聞いて、自分ガイオ=シャーウッドも、思わず苦笑をもらしました。


そう、結果なんて見え透いています。


両者とも条件は同じ。

どちらも『特級の身体強化魔法』を(もち)いるなら、勝敗を決する要素は『元来の身体能力(フィジカル)』。


令嬢然(れいじょうぜん)とした『剣帝流』アゼリア=ミラーと、(たくま)しい巨漢(きょかん)の<轟剣流>神童カルタ。

当然、神童カルタ殿の勝利は揺るぎない。



── しかし、分派の道場生たちは、そんな当たり前(・・・・)すら理解できない愚鈍(ぐどん)(ぞろ)いのようです。



「先輩、賭けになんてなりませんよ。

 『剣帝流(・・・)が勝つ(・・・)に決まってますから」



── ハァア……っ!?

自分の口から、思わず汚い声が漏れそうになります。


端で聞いていて、正気を疑うような事を言い出しました。



「バカ、噂の神童様が、どのくらい『保つか』って賭けだよ」

「まあ、10発くらいじゃないですか? 同じ<轟剣流>、身内のひいき目で」

「俺は、5発だな」



さらに分派の連中が集まり、騒ぎ始めました。



「間をとって8」「じゃあ、俺は7」「わしも一口のるぞ。3だ3」「大穴で20」「俺も5」「ここはやっぱり1でしょう」「ええっと、1に、3に、5がふたりに……」



誰も彼も、『剣帝流』の勇名に目が(くら)み、まともな戦力分析もできない。


まさに衆愚(しゅうぐ)

道理も解らない愚劣揃(ぐれつぞろ)いの分派道場。

なるほど、『魔剣士でもないような相手』に無様(ぶざま)(さら)すわけです。



「バカですか、貴男方は……」



思わず、呆れの声が(こぼ)れてしまいました。



「── 鋼の肉体をして不退転(ふたいてん)

 ── 突進する魔物を真っ向から受け止める!

 あの神童カルタ殿を、いかに『剣帝流』とは言え、か細い少女が打ち倒せる訳がないでしょう?」



しかし、返ってきたのは『感心の声』でも『愚鈍の更問(さらとい)』でも『怒りの(うめ)き』でさえもありませんでし。


── ドッ!、と湧き上がる、野太い男達の大爆笑(・・・)



「ハッハッハッ、そうだよなぁ」

「まあ、普通は、そうか、普通のヤツはそう思うか!」

「いやぁー、傑作ケッサク!」

「こりゃあ、一本とられたぜ!」

「『魔物を受け止める』『鋼の肉体』か!」

「いやぁ、<轟剣流>本家は、恐ろしいなぁっ」

「『剣帝流』のお嬢ちゃんが、負けちゃったらどうしようっ」

「ゲハハッ、負けちゃたらどうしようっ、じゃねえよぉ!」

「流石は西方、センスが抜群」

「さすがは本家筋! エリートさまさまだ、お笑いまで天才級!」

「ひぃ~、ひっ、ひっ、やめろ、笑わすな。 わし、肋骨(ろっこつ)打たれて、いま脇腹が痛いんだぞっ」



物を知らない連中が、まるでこちらが世間知らずのように、小馬鹿にしてきます。



「……なんなんですか、貴男方は?」


「ハハッ、いやぁ、すまん、すまん。

 <魄剣(はくけん)流>本家のおチビ様。

 見えてる物が見えてない(・・・・・)ってのは、こんなにみっとも(・・・・)ない(・・)とは思ってもなかったんでな」



そう言って、()()れしく肩を叩いてくるのは、長髪の青年です。

生傷だらけの分派の道場生の中で、ひときわ汚れと傷が多く、ちょっとふらついています。



── いや、誰が『おチビ様』ですか。


<裏・御三家>で最も対人戦に()けた<魄剣(はくけん)流>は、<聖女>(サンクト・シーコ)様をお守りするために、隠密(おんみつ)まがいの役割を負う事も多い訳です。

小柄な者が重宝されるのは、流派として必然なのです。


── それを、ちょっと自分の方が上背だからといって、何を偉そうに……っ


こちらは(いきどお)っているのですが、()()れしい男は語りを止めません。



あの日の俺(・・・・・)も、こんな感じだと思えば、笑うしかなくってな。

 俺も行きつけの居酒屋で、冒険者の連中から散々ウワサだけは聞いていたんだがなぁ……」



長髪の青年は、思い出したように自身の右(ひじ)()でます。

まるで古傷をかばうような仕草です。



「何の話ですか?」


「いやまあ、つまり。

 魔剣士に勝つ、魔剣士じゃない剣士なんて、いるわけないよな?」


「……当たり前です。

 魔剣士が世に現れて500年、ただの一人たりともそんな者(・・・・)は実在しません。

 例えるなら、小さな子どもが好きな『トカゲがドラゴンに勝つ』童話のような荒唐無稽(こうとうむけい)です。

 現実には有り得ない話です」



長髪の青年は、自分の語り口に、いちいち(うなづ)きはします。

しかし、それはどこか『子供の話を聞いてやる大人』の態度なのです。



「……まあな。

 普通、そう思うわなぁ……」


「まるで『例外がある』かのように言うのですね?」



自分ガイオは、無駄口もそこそこに、決闘の立会人(たちあいにん)としての役割に戻ります。

ビリビリと肌を刺すような緊迫感が高まってきたからです。


『剣帝流』アゼリア=ミラーが、こちらに視線を投げかけてきたので、(うなづ)きを返します。

彼女は、対戦相手である神童カルタ殿へ、視線を戻します。



「準備はよくって?」


(おう)っ、気息は充分!

 ── つまりは、万全!」



周囲の雑音はさておき、戦意が高ぶらせ、精神を研ぎ澄ます、お二方。

決闘に挑む少女と青年は、同時に強化魔法の腕輪を起動操作していました。



そして ──

── 『カン!』という身体強化魔法の腕輪の発動音が、二つ重なり、道場に響き渡りました。





▲ ▽ ▲ ▽



決闘の火蓋(ひぶた)を切ったのは、『剣帝流』。

背負うのは、炎のような赤い魔法陣。


銀髪の少女は、一気に10m(・・・)の間合いをつめて、烈火の如く攻めます。



「最初から全力でいきますわよ、トリャー!」



バァァン!と鳴った剣撃は、ほとんど破裂音。

振り抜かれた黒い木剣が、ビリビリと震えています。


アゼリア=ミラーの、凄まじい剣才!

銀髪をなびかせる勇姿は、まさに『<封剣流>の()み子にして、秘蔵(ひぞう)っ子』!


その腕前は、噂以上です。


しかし ──



「フン!!」



あぁ、流石は、我らが英雄(しんどう)

その岩壁(いわお)のような厚い胸板は、烈火の剛剣をしかと受け止め、耐えきったのです!


神童カルタ殿は、抜胴(ぬきどう)ぎみの袈裟(けさ)()りで走り去った、剣帝少女に向き直ります。



「なるほど、なるほどっ

 流石は『剣帝の後継者』!

 ── つまりは、感嘆!」



決闘相手への賛辞を述つつも、構えを変えます。


防御に特化した、剣を前に突き出す構えから。

攻撃に特化した、剣を背後に引いた構えへ。



「次は我が、剛の剣を見よ!

 ── つまりは、反撃!」



巨岩が崖から転げ落ちる ── そんな迫力の、飛び込み斬り。



「隙だらけですわ!」



パァン!と顔面に打ち込まれる、『剣帝流』の刺突(つき)



「フン! 軽いっ」



しかし神童カルタ殿は、その高速突きを額で受けとめ、そのまま片手で剛剣を振り下ろしました。

ドガン!と特大の金槌を叩き付けたような轟音が、道場の石畳(いしだたみ)を震わせます。


木剣の一撃ながら、常人なら挽肉(ひきにく)になってもおかしくないような、剛の剣の(きわ)み!


しかし、相手も()る者!

風に踊る木の葉のように()ねて身を(ひるがえ)し、紙一重で剛剣を(かわ)す。

それだけでも驚嘆(きょうたん)すべき腕前なのに、さらに空中で稲妻(いなづま)のような上段の一撃(カウンター)



「エイッ!」



なるほど、魔剣士が<表・(おもて)御三家(ごさんけ)>の令嬢!

流石は、『身体強化魔法:疾駆型(スピード)』の<封剣(ふうけん)流>が秘蔵(ひぞう)っ子!


しかし、我らの若き英雄・神童カルタ殿はその上をいく!!



「カァ!!」



裂帛の気合いと共に、脇で拳を握りしめ、肩を怒らせて、筋肉を膨らませる!

その隆起(りゅうき)した肩の肉で、稲妻(いなづま)(ごと)き剣撃を受け止めた!!


神童カルタ殿が片手で剣を振るのは、このためです。

そして、彼が『儀式』(ルーティーン)としている『無手(むて)術の演武(えんぶ)』のような動作は、この筋肉を(ふく)らませた防御のための鍛錬(たんれん)なのです。



「隙あり!

 ── (ハア)ァッ!!」



そして、痛撃に耐え、即座の反撃。

<轟剣流>の秘技『磊響(らいきょう)戻破(らいは)』!



「……くっ

 なんて頑強(がんきょう)!?」



本来なら、この一撃粉砕で決着の所。

剣帝流女子は、とっさに空中のまま神童カルタ殿の腹筋を蹴って、反動で後ろへ飛びます。


さらに、迫る『磊響(らいきょう)戻破(らいは)』の片手(かたて)剛剣(ごうけん)を、諸手(もろて)速剣(そくけん)で迎え撃ちます。


なんという反応速度!

(むかし)()った杵柄(きねづか)』とばかりの、速剣(そっけん)(たっと)ぶ<封剣流>の妙技(みょうぎ)披露(ひろう)されます。



── ガァンン!と一際(ひときわ)に大きな音が、道場内に響きました。

若き達人同士の渾身(こんしん)の剣撃がぶつかり合った結果、両者の木剣の先端が砕け散ったのです。


カンカンと木片が石畳を()(ころ)がりました。



「……<轟剣(ごうけん)流>の『身体強化魔法』は、腕力と防御に(たけ)けた『剛力型(パワー)』。

 ── とは言っても、ムチャクチャですわね、この(かた)……っ」



剣帝流女子も、呆れ混じりの賞賛の声。



「その(ほう)も、素晴らしき剣技の冴え!

 なるほど、まさに()剣帝(けんてい)様の後継者に相応(ふさわ)しき(おんな)剣豪(けんごう)

 ── つまりは、賞賛(しょうさん)!」



神童カルタ殿も、年下の相手の尋常ならざる研鑽(けんさん)に、感嘆(かんたん)を隠せない様子。


さらに、砕けた木剣の先を眺めながら、何かブツブツと(つぶや)き始めます。



「可憐で強いとは、なんという、才媛(さいえん)…っ

 地上の女性とは思えない、やはり神の(つか)わした天使さん、チューしたい……っ

 ── つまりは、なんとしても我が花嫁に!」



黙れ、色ボケ青年!

無駄(むだ)(ぐち)(たた)いてないで、さっさと木剣取り替えて、決闘再開しろっ


!作者注釈!

次回こそ、『君の●●が食べたい』の予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ