52:剣帝流VS轟剣流
!作者注釈!
諸般の事情により、『君の●●が食べたい』から変更し『剣帝流VS轟剣流』をお送りしております。
(意訳:文章量が予定より増えちゃった、てへぺろ)
昼下がりの、<翡翠領>の轟剣ユニチェリー流道場。
いざ決闘と、準備を始める少女と、それを待つ巨漢。
そして、高見の見物をしている道場生たち。
「せっかく面白そうな勝負だ。どうだ、1杯賭けないか?」
「いやいや、先輩。どう見ても、結果は決まっているでしょう……」
彼らの囁きを聞いて、自分ガイオ=シャーウッドも、思わず苦笑をもらしました。
そう、結果なんて見え透いています。
両者とも条件は同じ。
どちらも『特級の身体強化魔法』を用いるなら、勝敗を決する要素は『元来の身体能力』。
令嬢然とした『剣帝流』アゼリア=ミラーと、逞しい巨漢の<轟剣流>神童カルタ。
当然、神童カルタ殿の勝利は揺るぎない。
── しかし、分派の道場生たちは、そんな当たり前すら理解できない愚鈍揃いのようです。
「先輩、賭けになんてなりませんよ。
『剣帝流』が勝つに決まってますから」
── ハァア……っ!?
自分の口から、思わず汚い声が漏れそうになります。
端で聞いていて、正気を疑うような事を言い出しました。
「バカ、噂の神童様が、どのくらい『保つか』って賭けだよ」
「まあ、10発くらいじゃないですか? 同じ<轟剣流>、身内のひいき目で」
「俺は、5発だな」
さらに分派の連中が集まり、騒ぎ始めました。
「間をとって8」「じゃあ、俺は7」「わしも一口のるぞ。3だ3」「大穴で20」「俺も5」「ここはやっぱり1でしょう」「ええっと、1に、3に、5がふたりに……」
誰も彼も、『剣帝流』の勇名に目が眩み、まともな戦力分析もできない。
まさに衆愚。
道理も解らない愚劣揃いの分派道場。
なるほど、『魔剣士でもないような相手』に無様を晒すわけです。
「バカですか、貴男方は……」
思わず、呆れの声が零れてしまいました。
「── 鋼の肉体をして不退転!
── 突進する魔物を真っ向から受け止める!
あの神童カルタ殿を、いかに『剣帝流』とは言え、か細い少女が打ち倒せる訳がないでしょう?」
しかし、返ってきたのは『感心の声』でも『愚鈍の更問』でも『怒りの呻き』でさえもありませんでし。
── ドッ!、と湧き上がる、野太い男達の大爆笑。
「ハッハッハッ、そうだよなぁ」
「まあ、普通は、そうか、普通のヤツはそう思うか!」
「いやぁー、傑作ケッサク!」
「こりゃあ、一本とられたぜ!」
「『魔物を受け止める』『鋼の肉体』か!」
「いやぁ、<轟剣流>本家は、恐ろしいなぁっ」
「『剣帝流』のお嬢ちゃんが、負けちゃったらどうしようっ」
「ゲハハッ、負けちゃたらどうしようっ、じゃねえよぉ!」
「流石は西方、センスが抜群」
「さすがは本家筋! エリートさまさまだ、お笑いまで天才級!」
「ひぃ~、ひっ、ひっ、やめろ、笑わすな。 わし、肋骨打たれて、いま脇腹が痛いんだぞっ」
物を知らない連中が、まるでこちらが世間知らずのように、小馬鹿にしてきます。
「……なんなんですか、貴男方は?」
「ハハッ、いやぁ、すまん、すまん。
<魄剣流>本家のおチビ様。
見えてる物が見えてないってのは、こんなにみっともないとは思ってもなかったんでな」
そう言って、馴れ馴れしく肩を叩いてくるのは、長髪の青年です。
生傷だらけの分派の道場生の中で、ひときわ汚れと傷が多く、ちょっとふらついています。
── いや、誰が『おチビ様』ですか。
<裏・御三家>で最も対人戦に長けた<魄剣流>は、<聖女>様をお守りするために、隠密まがいの役割を負う事も多い訳です。
小柄な者が重宝されるのは、流派として必然なのです。
── それを、ちょっと自分の方が上背だからといって、何を偉そうに……っ
こちらは憤っているのですが、馴れ馴れしい男は語りを止めません。
「あの日の俺も、こんな感じだと思えば、笑うしかなくってな。
俺も行きつけの居酒屋で、冒険者の連中から散々ウワサだけは聞いていたんだがなぁ……」
長髪の青年は、思い出したように自身の右肘を撫でます。
まるで古傷をかばうような仕草です。
「何の話ですか?」
「いやまあ、つまり。
魔剣士に勝つ、魔剣士じゃない剣士なんて、いるわけないよな?」
「……当たり前です。
魔剣士が世に現れて500年、ただの一人たりともそんな者は実在しません。
例えるなら、小さな子どもが好きな『トカゲがドラゴンに勝つ』童話のような荒唐無稽です。
現実には有り得ない話です」
長髪の青年は、自分の語り口に、いちいち肯きはします。
しかし、それはどこか『子供の話を聞いてやる大人』の態度なのです。
「……まあな。
普通、そう思うわなぁ……」
「まるで『例外がある』かのように言うのですね?」
自分ガイオは、無駄口もそこそこに、決闘の立会人としての役割に戻ります。
ビリビリと肌を刺すような緊迫感が高まってきたからです。
『剣帝流』アゼリア=ミラーが、こちらに視線を投げかけてきたので、肯きを返します。
彼女は、対戦相手である神童カルタ殿へ、視線を戻します。
「準備はよくって?」
「応っ、気息は充分!
── つまりは、万全!」
周囲の雑音はさておき、戦意が高ぶらせ、精神を研ぎ澄ます、お二方。
決闘に挑む少女と青年は、同時に強化魔法の腕輪を起動操作していました。
そして ──
── 『カン!』という身体強化魔法の腕輪の発動音が、二つ重なり、道場に響き渡りました。
▲ ▽ ▲ ▽
決闘の火蓋を切ったのは、『剣帝流』。
背負うのは、炎のような赤い魔法陣。
銀髪の少女は、一気に10mの間合いをつめて、烈火の如く攻めます。
「最初から全力でいきますわよ、トリャー!」
バァァン!と鳴った剣撃は、ほとんど破裂音。
振り抜かれた黒い木剣が、ビリビリと震えています。
アゼリア=ミラーの、凄まじい剣才!
銀髪をなびかせる勇姿は、まさに『<封剣流>の忌み子にして、秘蔵っ子』!
その腕前は、噂以上です。
しかし ──
「フン!!」
あぁ、流石は、我らが英雄!
その岩壁のような厚い胸板は、烈火の剛剣をしかと受け止め、耐えきったのです!
神童カルタ殿は、抜胴ぎみの袈裟斬りで走り去った、剣帝少女に向き直ります。
「なるほど、なるほどっ
流石は『剣帝の後継者』!
── つまりは、感嘆!」
決闘相手への賛辞を述つつも、構えを変えます。
防御に特化した、剣を前に突き出す構えから。
攻撃に特化した、剣を背後に引いた構えへ。
「次は我が、剛の剣を見よ!
── つまりは、反撃!」
巨岩が崖から転げ落ちる ── そんな迫力の、飛び込み斬り。
「隙だらけですわ!」
パァン!と顔面に打ち込まれる、『剣帝流』の刺突!
「フン! 軽いっ」
しかし神童カルタ殿は、その高速突きを額で受けとめ、そのまま片手で剛剣を振り下ろしました。
ドガン!と特大の金槌を叩き付けたような轟音が、道場の石畳を震わせます。
木剣の一撃ながら、常人なら挽肉になってもおかしくないような、剛の剣の極み!
しかし、相手も然る者!
風に踊る木の葉のように跳ねて身を翻し、紙一重で剛剣を躱す。
それだけでも驚嘆すべき腕前なのに、さらに空中で稲妻のような上段の一撃。
「エイッ!」
なるほど、魔剣士が<表・御三家>の令嬢!
流石は、『身体強化魔法:疾駆型』の<封剣流>が秘蔵っ子!
しかし、我らの若き英雄・神童カルタ殿はその上をいく!!
「カァ!!」
裂帛の気合いと共に、脇で拳を握りしめ、肩を怒らせて、筋肉を膨らませる!
その隆起した肩の肉で、稲妻の如き剣撃を受け止めた!!
神童カルタ殿が片手で剣を振るのは、このためです。
そして、彼が『儀式』としている『無手術の演武』のような動作は、この筋肉を膨らませた防御のための鍛錬なのです。
「隙あり!
── 破ァッ!!」
そして、痛撃に耐え、即座の反撃。
<轟剣流>の秘技『磊響戻破』!
「……くっ
なんて頑強!?」
本来なら、この一撃粉砕で決着の所。
剣帝流女子は、とっさに空中のまま神童カルタ殿の腹筋を蹴って、反動で後ろへ飛びます。
さらに、迫る『磊響戻破』の片手剛剣を、諸手の速剣で迎え撃ちます。
なんという反応速度!
『昔取った杵柄』とばかりの、速剣を尊ぶ<封剣流>の妙技が披露されます。
── ガァンン!と一際に大きな音が、道場内に響きました。
若き達人同士の渾身の剣撃がぶつかり合った結果、両者の木剣の先端が砕け散ったのです。
カンカンと木片が石畳を跳ね転がりました。
「……<轟剣流>の『身体強化魔法』は、腕力と防御に長けた『剛力型』。
── とは言っても、ムチャクチャですわね、この方……っ」
剣帝流女子も、呆れ混じりの賞賛の声。
「その方も、素晴らしき剣技の冴え!
なるほど、まさに彼の剣帝様の後継者に相応しき女剣豪!
── つまりは、賞賛!」
神童カルタ殿も、年下の相手の尋常ならざる研鑽に、感嘆を隠せない様子。
さらに、砕けた木剣の先を眺めながら、何かブツブツと呟き始めます。
「可憐で強いとは、なんという、才媛…っ
地上の女性とは思えない、やはり神の遣わした天使さん、チューしたい……っ
── つまりは、なんとしても我が花嫁に!」
黙れ、色ボケ青年!
無駄口叩いてないで、さっさと木剣取り替えて、決闘再開しろっ
!作者注釈!
次回こそ、『君の●●が食べたい』の予定