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50:語らい(物理)

!作者注釈!


2022/12/04 エピソード順番入れ替え

49話→50話に移動

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)



いきなり『知り合いの道場がヤバイ!?』とか聞かされて、慌ててやってきた。

そしたら、方言強めの腹黒そうな細目男に名指しで、道場の外に連れ出された。



「剣帝さん、ゆーたら、アレや。

 辺境の少年の『(あこが)れ』や」



そして、今、訳のわからん話を聞かされてる。


なお、コイツの言葉はあくまで帝国(・・)西方方言(・・・・)

俺が勝手に関西弁風(・・・・)に翻訳しているだけで、実在する前世ニッポンの地方および方言とは一切関係ありませんので、あしからず。



「『辺境の村をひとりで救った』

 『魔物の大群から村を守った』

 『剣一本で、家よりデカい魔物を倒した』

 『街を滅ぼした魔物にも、最期まで引かんかった』

 ── そういう剣帝さんの伝説に憧れて、男児(ジャリ)どもは剣術ごっこ(チャンバラ)を始めるんや」



ジジイ、毎回そんな事やってたのか。

そりゃあ、『死にかけた事も、10や20じゃきかん』とか言うなぁ。



「帝国の西部や東北部、特に寒村の生まれで魔剣士を目指しとんのは、半分くらいそんな男児(ジャリ)やった連中や。

 親にダダこねて、隣り村のイナカ道場へ通えるくらいはまだ裕福な方。

 いよいよカネのないガキは、住み込みの雑用係から始める。

 しかし、3年5年と経っても、なかなか()はでん。

 結局、両手に腕輪がそろわん内に、スゴスゴ村に戻るヤツも少なくない」



細面男のグダグダ話を聞いて、ちょっと思い出す。



(そういえば魔剣士は、<双環(そうかん)(ゆる)し>で一人前だったな。

 身体強化の腕輪ひとつだけの<単環(たんかん)(ゆる)し>は、半人前って事なのかね?)



まあ俺なんか、魔力量がザコすぎて、<単環(たんかん)(ゆる)し>にもなれてないが。



その間にも、細面男のグダグダ話が続く。



「たまたま村に来た高名な剣士から見いだされて。

 名門道場に熱心にスカウトされて。

 すぐに街の道場で頭角を現して。

 10代半ばで免許皆伝受けて。

 やがては帝都の武闘大会に。

 ── みんな、そんな妄想するけど、辺境の子の現実はそんなもんや」



まあ、そうだろう。

だからどうした、という感じの話だが。



「つまり剣帝さんは、旧・連合国の ── (ウチ)ら帝国2等領民の ── 『(ほこ)り』なんや。

 たび重なる死闘の果てに、子供の作れん身体になってしもた。

 それでも、ずっと中央に見捨てられた辺境の民のために、戦い続けはった。

 並の事やない、魔剣士の(かがみ)や、男の中の男や」



そんな話も、ジジイから何かの時に聞いた気がする。



(しかし意味不明。

 何がしたいの、お前?)



さっきからずっと、ジジイの話ばっかり。


俺に、ひと言ふた言では足りんくらい、言う事あるとかいうアレなんだったの?

話の前置き(まくら)はもういいからさ、そろそろ本題に入ろうぜ?


俺の呆れた視線に気付いたのか、西方なまり(・・・)の細目細面の青年が、語調を変えた。



「剣帝さんの血を残す事ができへんなら、せめて生涯かけた剣技だけは後世に伝え、()やす訳にいかん。

 そないな事、誰だって言わんでも解るような、当たり前(・・・・)の話(・・)やな……っ」



フゥ~~……ッと、やけに強いため息ひとつ(はさ)んで、続ける。



「── で、7~8年前やったか?

 剣帝さんに後継者が出来た、いう噂が流れてきたんは。

 それも辺境の子供が ── 東北部の子供が ── 『剣帝流の後継者』や、いうやないか。

 みんな『めでたい、めでたい』言うて、喜んどった。

 どいつもこいつも朝から祝杯あげて、あっちもこっちもお祭り(ドンチャン)騒ぎや」



細面男の『めでたい』、という言葉に反して、気配が鋭くなる。


── お、くるか?



「貴様ぁ、なに勝手に、後継者の座をおりとんねん!?」



── ガアァ……ンッ! と一瞬で間合いをつめて、上段からの剣撃。

木剣なのに、柔らかな薪木(まきぎ)くらいなら一刀両断しかねない、剛の剣。


さっき轟剣ユニチェリー道場から拝借してきた練習用木剣が、ビリビリと震える。



「挙げ句、新しい後継者は<封剣流>の直系やとぉ!?

 中央の『貴族気取(きど)り』なんぞに、後継者の座を奪われおって!」



すり足じみた歩法で素早く間合いを潰しながら、横薙ぎ、斬り上げが連続で襲ってくる。



「チッ……」



軽妙な足運びと鋭い剣閃に、思わず舌打ち。


なるほど、『神童コンビ』とかあだ名されるだけある。

二十歳手前の青年なのに、もはや達人の風格すらある。


俺の素の身体能力なら、回避に徹しても対応するのが精一杯だ。





▲ ▽ ▲ ▽



(しかし、コイツ気に入らねえ……

 なんで手を抜い(・・・・)てやがる(・・・・)……っ)



「テメー、魔剣士だろ!?

 身体強化(・・・・)の腕輪や魔法剣(・・・)を、どうして使わない!?

 俺をナメてんのか!?」



全く、ボウズ頭の話に出てきた『白霜(しらじも)の魔法剣』とかいうのを見に来たのに。

使ってくれなきゃ、せっかく来た意味が半分くらいないぞ。


そんな失望混じりの俺の問いかけに、怒号のような返事。



「なめとんのは、貴様じゃぁ!

 女子(おなご)に負けて魔剣士辞めたような、不出来(しょうたれ)根性無し(あかんたれ)が、何えらそうに言うとんじゃボケェ!?」



何言ってんだ、コイツ?

俺が男子とか、リアちゃんが女子とか、全然関係ないだろうに。


旧後継者(ロック)新後継者(アゼリア)の間にあるのは、純然たる才能と資質の格差。



「俺と妹弟子(アゼリア)、どっちが才能あるかなんて、誰が見ても一目瞭然(いちもくりょうぜん)だろうっ!?」



そう、この異世界(・・・)の人間(・・・)なら ── 魔法の(・・・)世界の(・・・)住民(・・)なら ── 誰が見ても解るほどの格差がある。


体内(うち)に秘めた魔力の量が、『月とすっぽん』だ。

あるいは『クジラとカエル』、『ゾウとネズミ』、『人間(ヒト)とアリんこ』、『勇者様と魔王の犠牲者A』。


考えれば考えるほど、悲しくなってくる。



「こんな無能なガキが、分不相応な肩書きにしがみついたところで、誰が得するんだよ?」


「それでもや!

 おんどりゃ、辺境の男やったら根性みせんかいっ」



細面の男が、地面すれすれを飛んできた ──

── そう思うほどの巧みな歩法で、一瞬で間合いを詰められ、(つば)競合(せりあ)いに持ち込まれる。



(あ、やべえ……っ)



いくら相手が身体強化の魔法を使っていないとしても、チビな俺と上背な相手。

体格差で押し負ける。



「よりにもよって、<表・(おもて)御三家(ごさんけ)>のぉ!

 しかも、<封剣流>の娘なんぞ(・・・)に、負けくさりよってぇっ!!」



なんとか筋力勝負の『(つば)競合(せりあ)い』から離脱をしようとしても、相手の卓抜(たくばつ)の剣術の腕が、離脱(それ)を許さない。


このままではマズい。

身長差を活かして体重で封殺され、耐えきれず地面に押しつぶされそうになるのも、時間の問題。



「……くぅっ」


「剣帝さんが、あの(よく)ったれ共に、今までどれだけ()()()まされてきたかぁ!

 『知らん』とは言わせへんで!?」



(── いや、マジで知らんわい、そんな事!)



そんな心火(いかり)を利用して、腕力アップ!

いわゆる、『火事場のばか力』的なヤツ!



「── はっ!」



強引に剣を押し返し、後方へ飛び退く ──

── すると、その瞬間に足払いをくらい、地面を転がされた。


さらに、転がって逃げる俺を、ドガドガと突きで追い打ちしてくる。



「立て! 不出来(しょうたれ)根性無し(あかんたれ)が!

 二度とそないな女装とか、フザケたマネできへんよう、ワシ(・・)根性(ヤキ)入れたるっ!」


「くそ……っ」



ようやく、ちょっとだけ息をつく余裕ができた。

転がりまくって、相手から離れて、ようやくだ。


相手はペラペラしゃべりながら、余裕綽々(しゃくしゃく)と木剣振り回しているのに。

俺は歯を食いしばっての防御が精一杯で、反論するために口を開くヒマもない。


── これが、相手と俺の、純粋な身体能力の差だ。



しかし、さっき、何か初耳な事を言われたな。



(ジジイのヤツ、元は<封剣流>本家の門下生とか言ってたが……

 なんか昔、通ってた道場と揉め(トラブって)たのか……?)



ちょっと思い返せば、確かに納得できる部分もある。


5年前に、リアちゃんの叔父さんが初めてやって来た時とか、妙に態度が(かたく)なだったし。

ジジイが帝都に呼ばれても、何かと理由つけて断っているのも、それが原因か?


そんな風に、わずかに考え込んでしまう。



俺のそんな小さな(すき)も、細面(ほそおもて)は見逃さない。

地面をすべるような歩法で間合いをつめ、再び渾身(こんしん)の上段斬り。


生竹くらいへし折りそうな、それを俺は ──

── ゴォンッ!、と頭だけ(かたむ)けて、右肩で受けた。


回避しそこなった訳ではない。

防御すら解いた棒立ちで、あえて(・・・)木剣で打たれた。



「── な、なんや……お前……っ!?」



俺の予想外の対応に、相手の細面に緊迫と動揺が走る。

理論づくめの道理やら定石やらを追い求めてきた『天才児(エリート)』は、こういう突然の無意味な行動に弱い。


頭が切れるヤツほど、

『無意味に不利な事をするはずがない! 何かの作戦!? いや謀略か!』

とか勝手にムダな深読みしてしまう。



── 100%(ヒャクパー)、無意味な行動なんですけどね!


あえて言うなら、相手を動揺させて決闘の流れを変えてやろうか、くらいの意味しか無い。



「……いってぇ……っ」



しかしコイツ、流石は『神童』とか呼ばれるだけはある。


気合い入れて受けたつもりが、身体の芯まで響いて、(ひざ)から崩れそうになった。

骨は折れてないだろうが、ヒビくらいは入ったかもしれない。

そもそも打撲の痛みで、しばらく右腕が動かせそうにない。


油断したら悲鳴が漏れそうなのを、奥歯を食いしばって、ぐっとガマンする。


代わりに、相手の少し動揺する細目を見据えて、ゆっくりと告げた。



「……まあ、お前が本気を出したくないのは、解った。

 俺が気に入らんから、いたぶり(・・・・)たい(・・)って事もな。

 ── じゃあ俺も、勝手にやらせてもらおうか」


「……なんやと?」



細面の男は、困惑しながら数歩下がって構え直す。


俺は、無事な左手で、腰のポーチをあさる。

手の感触で一番高価(いい)回復薬(ポーション)>を引っ張りだして、一気に飲み干し、投げ捨てる。


苦い胃薬と、濃厚なエナジードリンクをカクテルしたような、最低な味が口いっぱいに広がった。



「……この<回復薬(ポーション)>が効いて、右手が動くようになるまで、10分くらいか?

 それまで、左手一本で遊んでやるよ?」



ニィ……ッ、と笑って告げる。

上段者が、初心者にハンデをやると言わんばかりに。


『噂の神童様』を相手に、『剣帝流の後継者失格のザコ』が ──

── もちろん挑発だ。



「フザケんな、貴様ぁ!」



相手は、激昂(げっこう)して木剣を振り上げた。

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