49:ご存じなのですか?
!作者注釈!
2022/12/04 エピソード順番入れ替え
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俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「── た、たのもー!」
と、若干どもりながらも、轟剣ユニチェリー流道場に登場した俺。
(1ヶ月ぶり、2回目)
「ロック……、お前、どうして……」
そんな声に振り向くと、道場の端で倒れたまま顔だけ上げている赤毛少年。
こいつも<轟剣流>本家の、お仕置きだか粛正だかの、しごきをくらったらしい。
俺は、倒れた剣友へと、親指立てた拳を向けて『任しとけ』のジェスチャー。
「── はぁ、ロックやとぉ?
そいつが噂の、『道場破り』かいな?」
今回は『道場破り』じゃないよ、『道場破り・破り』だよ?
いや『決闘・破り』になるのか?
「……なんや、男やと聞いとったのに、お嬢ちゃんかい?」
「お嬢ちゃんじゃねえ、俺は男だ!」
「……ホンマか?
うわぁ……確かに、腰回りというか、骨盤が男のそれになっっとる……
なんやねんコイツ、マジ気持ち悪いッ」
青い服の細面から、ドン引きされる。
(うるせー、俺だって、こんな女顔のチビに生まれたくなかったわっ
どうせ人生やり直すなら、格ゲーの主人公みたいな『高身長のスラッと細マッチョな熱血イケメン』に生まれ変わりたかったよ、ド畜生ぉ!!)
一瞬で怒りが煮えたぎる。
もう一人の、上半身のムキムキを見せびらかせているパワフルマッチョと、この細面の2人組を足して割ったら、丁度俺の理想体型くらいなので、苛立ちがひとしおだ。
チビが筋肉付けすぎると、体重増えて重鈍になるだけ。
しかも、筋力は高身長のヤツにダブルスコアで負けるという、クソみたいな下位互換になる。
なので、こういう『ちょっと骨太かな?』という体型が、バランス的に精一杯。
(兄ちゃん、いつになったら第二次成長期が来るんだろうな……?)
とか思いながら、スクスク手足が伸びるお隣の超天才児を見る毎日です。
なお、リアちゃんは将来、モデルさんみたいなスマート美人になりそうです。
そんな事を考えていると、筋肉ムキムキの方が汗を拭きながら前に進み出た。
上半身裸のツーブロック茶髪が、何か変な言い回しをしてくる。
「『剣帝流』が何の用だ、これは<轟剣流>の内部問題。
つまりは、部外者!」
「おいおい、それを言い出せば、そっちの細目男も部外者だろ。
たしか<魄剣流>の人間で、<轟剣流>には関係ないんだろ?」
「なんや、『剣帝流』に知られてるとは、ワイも有名になったもんやなぁ……」
細目で不敵に笑いながら、細面の男も歩み寄ってくる。
「ワイは部外者やないで、相棒に頼まれて『立会人』に来とるんや。
この『道場間決闘』はな、国家機関に伺い立てて、定めに従い粛々とやっとるんや。
法律も道理も解らんガキが、外からクチバシ突っ込むモンやないで?」
細目細面の男が、シッシッと野良犬でも追い払うような、手つき。
「おいおい、笑わすなよ。
分派の連中が道場破りされたと聞いて、制裁しにきたんだろ?
俺みたいな、魔剣士でもねえ、ただのチビなガキに負けたのが許せなかったんだろ?」
「それが『道場間決闘』の理由だったら、なんや?
さっきも言うた通り、これは<轟剣流>の内部問題や。
お前が原因やとしても、部外者にどうこう言われる筋合いはないで?」
細目の男はそう言った後、少し陰険に笑い、付け加える。
「それとも、なんや?
── 『ボクが悪かったんです、許してくださいっ』 とか言うて、頭を地面にすりつけて謝るんか?」
俺は、あまり見当違いさに、鼻で笑う。
「アホか、謝るのはお前らの方だよっ」
「なんやと、このガキ……っ!」
「そりゃ、当然だろ。
悪い事したら、謝るのが筋だろ?」
「何を寝ぼけた事言うとるや、こんガキはっ
部外者やから見逃したろうと思っとったが……
あんま、おかしな事ばっか言うなら、ドツキ倒すぞ?」
細目の男が、怒気と共に、少し構える。
意識してというよりも、思わず、という身構え。
ようやくそれで、この男の剣術LVが、少しだけ見えてきた。
(……軽く40は、越えてるな。
なかなかの剣術LV、なるほど神童とか呼ばれるだけはありそうだ)
俺がそんな見立てをしていると、耳元にコソコソとささやかれる。
「……お兄様、彼らが敵ですの……っ?
……どっちも、中々手強そうですわね……っ!
……アゼリアが、2人ともやっつけていいんですの……っ!?」
リアちゃんは、生まれて初めての『道場破り』(正確にはちょっと違うんだが)で舞い上がって、ウキウキ、ワクワク、ソワソワだ。
俺は、妹弟子の肩をポンポンと叩き、ちょっと落ち着かせた。
▲ ▽ ▲ ▽
さて、青い服の細目男に向き直り、話を続ける。
「お前ら、<聖都>から来たって言ってたな。
ここ<翡翠領>から、配達業者の早馬でも4~5日かかる。
さらに帝都まで行けば、プラス2~3日……まあ、<翡翠領>からは7日は最低いる。
乗り合いの荷車なんかで行けば、片道10日かかってもおかしくねえ」
「だから、なんや?」
「計算があわねえって、言ってんだよ!
この、ほら吹きどもが!」
「なんやと……?」
俺の怒声に、細目男はさらに少し目を細めただけ。
図星と動揺したかが読みにくい。
「俺が、この道場にケンカ売ったのは、小一ヶ月前。
帝都の轟剣流の本家に話が伝わるまで、最低7日っ
すぐさま制裁 ── いや『道場間決闘』だったか? ── その話が持ち上がったとしても、<翡翠領>まで連絡がくるのに、また7日!
道場主のユニチェリーのオッサンが、即座に書類書いて送り返したとしても、さらに7日!
ここまでで、合計21日かかるよな?」
「…………」
もう一人のムキムキ男を見ると、こっちに背を向けて立ち尽くすだけ。
顔に出やすそうなヤツだから、他所を向いてろ、とあらかじめ言われていたのかもしれない。
「おいおい、どういう事だよ、おかしいだろ?
制裁にきた<轟剣流>本家さんに、立会人の<魄剣流>本家さんよぉ?
本当に残り10日くらいで、『道場間決闘』なんていかにも時間のかかりそうな手続き終わらせて、<翡翠領>まで辿り着くのか?
帝都から<翡翠領>まで、片道の旅程が10日かかるってのに?」
「── ちぃ……っ」
細目男は、諦めの表情で、口元を歪める。
しかし、見開いた細目が、少し面白そうにこちらを観察している。
「その旅程だって、途中で魔物とカチ会ったり、天候悪くて日程が延びたりするよな?
帝都の役所に書類提出して、証文か何かもらって、<聖都>に寄って『神童コンビ』を連れて、<翡翠領>へ到着 ──
── これ全部を10日間で、済ませるって?
こいつはどう考えても、間に合わねえ!
倍の日数がかかってもおかしくねえなぁ、ハッハッハッ!」
俺は、大げさに笑って手を叩く、軽い挑発。
相手がどう反応するのか試しているワケだ。
「……ふん……」
「……なるほど」
案の定だ。
連中2人とも、ため息すらない。
むしろ、呼吸が整い、静かになっていく。
まさに『嵐の前の静かさ』だ。
気息の充実、戦いの前の備えが整っていく。
俺も、不意打ちに備え、ちょっとだけ立ち姿を変える。
「何が『国家機関の定めで、粛々と』だよ。
── お前ら、何か不正行為しやがったな?」
そんな話をしていると、まさにグッドタイミング。
噂をすれば、なんとやら。
道場の奥の方 ── 道場主の母屋との連絡通路から、数人の足音が聞こえてくる。
その先頭は、高身長の女性騎士で、眉のキリッとした美人さん。
彼女は、片手にヒラヒラと書類を振って、インクを乾かしながら持ってくる。
「ルカ様ぁ、ようやく印章を見付けましたよ。
もう、ユニチェリーの道場主が、変な所に隠してるから……っ
あとは領主官邸に提出する時に、開始時間を誤魔化しておけば ──」
こちらに気付いてないようで、内輪話を盛大に暴露してくれるので、思わず苦笑い。
そして、ニヤリとした顔を細目男へ向ける。
「おいおい、予想通りといえイカサマ臭い事やってんなぁ。
道場の印章とやらは、部外者が勝手に使って良い物なのかい?」
「ホンマ、なんちゅーか……っ
間が悪いというか、タイミングのいいというか、困ったヤツっちゃなぁ……」
細目男は、悪戯がバレた悪ガキみたいな、ニヤリ笑い。
すると、道場の奥から現れた、男女数人はようやく異常に気付いたらしい。
驚いた顔で、俺ら3人を見つめてくる。
「── る、ルカ様? その3人は?」
「姉上、それを持って、急ぎ領主官邸へ!
つまりは、至急!」
上半身裸のムキムキ男が、女騎士へ叫ぶ。
「はぁ、カルタ?
急げって、一体何があったの!?」
困惑する女騎士。
すると、細目男が、他の者へ指示を飛ばす。
「トニも行け! ベルタと書類を守れ! ええなっ」
「はっ、承知! ベルタ殿、参りますぞ!」
彼女の後ろに居た、白髪交じりのシブい中年男が応じた。
「え、ちょっと、何……?
あの女の子2人、何者なのっ」
「ベルタ殿、今はとにかく走ってっ」
細目男の配下の中年は、女性騎士の手を引いて走り出した。
▲ ▽ ▲ ▽
細目男のお付きみたいな女性と中年が、何か書類を持ってユニチェリー道場から走り去る。
その間、俺は腕を組み、道場の中を見渡すだけ。
うん、別に変な魔法とか、罠とかは仕掛けられてないっぽいな。
「……あの二人を追わんのか、『男みたいなお嬢ちゃん』?
それとも、既に追っ手を待機させてたんか?」
『男みたいなお嬢ちゃん』じゃねえよ、『お嬢ちゃんみたいな男』だ、俺は。
しかし、細目男のそれが安い挑発だと解っているので、心の中で突っ込むだけにする。
「別に、追っ手も何もないよ。
今日の俺は、そこのボウズ頭の護衛みたいなもんだからな。
お前らの悪巧みがどうなろうと、どうでもいい」
すると、俺の後ろで ── というか道場の入口の外から ── 様子を伺っていた、ボウズ頭の元・門下生が口を挟んできた。
「……いやいやいや、どうでもよくねえよ!
アレを領主様のところに持って行かれたら、ヤバイんじゃないのか?」
「かもなー」
「いや、『かもなー』じゃねえだろ!?」
うるさいヤツだな。
「まあ、あれがどんな書類でも、あんまり意味はねえ。
この2人をブチのめせば、それでカタはつくだろ?」
「いや、お前……簡単に言うけど、大丈夫なのか?
俺は、なんとか『道場間決闘』だけ止められれば、それで良いと思ってたんだけど……」
「何言ってるんだか……
俺たちがどう思ってようと、今さら関係ねーよ。
コイツら ── 不正の現場を目撃された連中が ── 俺たちを無傷で帰してくれるわけねーだろ?」
「ほう、物わかりのいい『お嬢ちゃん』やなっ
感心したで、お前なかなか男前やないかっ」
「………………」
ふた言しか喋ってないのに、矛盾する発言とか止めろよ。
面倒すぎて、突っ込む気すらおきんぞ。
ってか、アレか?
この異世界でも、西方って、お笑いツッコミ文化なのか?
すると、さっきからずっとピョンコッピョンコッと小さくジャンプ繰り返してた暴れん坊が、片手を上げて自己主張。
「お兄様お兄様っ
もう、ブンブンしていいんですの?」
「ああリアちゃん、全力出していいぜ。
相手は2人とも、なかなかの実力者。
それに、たまには2対2の団体戦も ──」
「── いや、我らは道場外行こか?
男前な方の『お嬢ちゃん』?」
意外な事に、細目男に誘われる。
「元々は<轟剣流>と『剣帝流』のモメ事やろ?
<轟剣流>本家の神童カルタと、『剣帝』の正統後継者・アゼリア=ミラーの間で、決着付けてもらったら良いやろ?」
「……ん?」
なんか、不思議な感じがした。
赤毛少年に名前呼ばれた俺はともかく、妹弟子とか名乗ったりしたっけ?
まあ、超時空シンデレラ並に才色兼備な、リアちゃんだ(キラッ☆)。
帝都でファンクラブとかあって、顔が知られていてもおかしくないけど。
「しかし、ここを道場破りしたのは、『剣帝流』って言っても俺の方だし ──」
「── この愚鈍!
ええから、こっち来んかいい!
『剣帝流』の成り損ないが!
貴様には、ひと言ふた言では済まんくらい、言うてやりたい事があるんや!!」
神童ルカの細い目が、初めて大きく見開いた。
その青い目の奥で、仄暗い情念が、炎のように燃えていた。




