47:裏御三家の誉れ
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「<魄剣流>の本家に、<轟剣流>の本家ねえ……」
俺は、ボウズ頭から聞いた話を思い出しながら、大通りを南下する。
轟剣ユニチェリー流道場があるのは、<翡翠領>南区の外れの方。
「お兄様お兄様!
リアも、リアも、今回は道場やぶりしますの!
仲間はずれはイヤですのよ!」
「はいはい、わかってるわかってる」
鼻息荒くフンスッフンスッしている妹弟子の頭をなでて、落ち着かせる。
「……いや、本当にわかってんのか、お前ら?
今から、他流派にカチ込みするようなもんだぞ?」
何故かついてきているボウズ頭は、渋い顔。
別に、そんなに心配しないでも。
「相手は魔物じゃなくて、人間なんだ。
例え負けても、殺される事もないだろ?」
「そりゃぁ……そうかも知れねーけどよ……」
死ぬ以外はかすり傷 ──
── そこまで極端な事は言わないが、ボコボコにされて気絶するぐらい、武門の訓練からすれば『普通』の範囲。
魔物との殺し合いと違って、ちょっとした油断やミスで、即ボリボリ食われて身体が欠損する事もない。
運悪く骨折したところで、高価<回復薬>飲んでおけば、数日寝てれば治るワケで。
治癒の魔法薬がマジで便利だ。
異世界サマサマだ。
(── そういえばこの道場って、ジジイが通ってる診療薬局の近くだったな……)
ケガの多い道場が、診療薬局の近くに建てたのか。
それとも診療薬局が、お得意さんである道場の近くに建ったのか。
そんなどうでもいい事を気になりつつも、轟剣ユニチェリー道場に向かった。
▲ ▽ ▲ ▽
道場に近づいていくと、ドスン!とか、ガン!ガン!とか、荒事っぽい音が聞こえてくる。
さらに近づくと、西方なまりの説教の声。
「ええか、他の<帝国八流派>どもは、帝都でええ生活して、何かにつけて威張りくさって、のさばっとる。
武門のくせに、まるで『貴族気取り』や。
我ら<裏・御三家>は、あんな腑抜けた連中とはちがう!」
道場の中を窓からのぞき見ると、細面で細目の男が腕組み、エラそうな事を言っていた。
「この地獄に一番近い東北の辺境で、人食いの怪物どもから人を守り ──
イカれた異教徒から<聖典>と<聖都>を守り ──
欲ったらしい権力者から歴代の<聖女>様を守り ──
── それが<裏・御三家>の『使命』であり『誉れ』や!!」
その話の途中で、セイヤー!という掛け声と、バチイン!と肉を打つ音が響いていた。
上半身裸の青年が、鎧のインナーの白服を着た年配の門弟と対決していた
<轟剣流>本家道場の青年は、相手の渾身の木剣を、防御すらせず脇に受け、微動だにしない。
「ふん……っ
── はぁっ!」
── ドオン!と、気合いの一発で石畳が揺れる。
上半身裸の青年が、強烈なカウンターの一撃で、年配の門弟を下していた。
そんな事が、二、三度繰り返されられる。
正直、見た感じ、勝負にすらならなっていない。
師範とか高弟が、入門したての新人に稽古をつけているような、圧倒的な実力差がある。
さらに道場を覗き込めば、あちらこちらに倒れている門下生の姿。
そんな轟剣ユニチェリー流の門下生を、青い服の青年が西方なまりで怒鳴りつける。
「その誉れ有る『聖都の剣』の末席のくせに、なんやお前ら!
我ら<裏・御三家>は!
お前ら<轟剣流>は!
帝国ができるずっと前から ── この<翡翠領>が、旧・連合国の<岩乃宮国>と呼ばれてた頃から ── 人間の命と尊厳を守ってきたんやぞ!?
いくら『剣帝』の後継か弟子かが相手やからって、ポッと出のガキにいいようにやられよって……っ!
ホンマ鈍くさい連中やな、たるんどるっ!」
西方なまりの説教は続いているが、ちゃんと話を聞いている者がいるのか。
分派ユニチェリーの門下生は、気を失っているか、倒れて悶絶しているか、だ。
「間に合わなかったか……」
「ひでえな……」
俺とボウズ頭が、道場の入口を覗き、悲惨な状況に顔をしかめる。
「なんですの、これ……?
道場がピンチなのでは、なくって……?」
リアちゃんも覗き込み、なぜか不満そうな声を上げた。
「── 全然、大した事ないですわ!
お兄様が道場破りした時の方が、ずっとハデでしたのよ!」
「……え?」
ボウズ頭が、驚いて振り向いてくる。
なんか、初耳みたいな表情だ。
あ、そう言えばコイツ、あの時ずっと気絶したままだったか…… ──
── ってか、俺そんなにハデにやらかしてないよな?
「いやいや、リアちゃん何言ってんの?
兄ちゃんそんなヒドい事なんて、全然……なあ?」
「お兄様の時は、凄かったのですわ!
負けた門下生が、山積みになってましたの!
こーんなでしたわ、こ~~んな、こ~~~んな、山盛りでしたわ!
人間の山盛りなんて、リア初めてみましたのよ、ビックリでしたわ!」
「おい、剣帝流……それは、流石に、ちょっと……」
ボウズ頭が 『うわぁー……マジかコイツ』 みたいな目で見てくる。
ロクでなしの素行不良な元・門下生に、 『不良でも、そこまでやらんぞ』 という顔をされる。
「── ちょっ、まっ、ちがうっ!」
清く正しく貧しい、常に弱い者の味方な『剣帝一門』としては、大変遺憾。
── いや、違うんだって!
誤解があるよ、誤解が、ね!
確かにあの時は、激情のまま暴れたけどぉ!
俺、そんなにヒドい事なんてしてないからぁ!?
ほら、ザコの皆さんを盛り付けたのも、あくまで挑発の演出的な。
つまり、相手をビビらせるための虚勢みたいなもんで。
「── ……リアちゃん、リアちゃん、あんまり大げさに言うのやめようね。
お兄ちゃんの道場破りは、大変紳士的でしたよね?
『正義』と『愛』と『思いやり』にあふれ、『仁・義・智・勇』と『礼節』に基づいた、キレイな道場破りだったよね?」
と、俺が誤解をとこうと、必死に弁解しているのに ──
「そうですのよ!
お兄様の時は、もっともっと凄かったのですわ!
全員をキッチリ昏倒させて、しかも骨を1本2本は折っていましたの!
お師匠様が、思わず『皆殺しにした!?』と勘違いした程でしたのよ!
アレが本当の『道場破り』、『敵を全滅』という物ですわ!
それに比べたら、こんなのチャンチャラおかしい、お遊びですわ!
<轟剣流>の本家道場の方々ぁ、ぜんぜん手ぬるくてよぉ?
オーホッホッホッホッ!」
── 隣の妹弟子が、ことごとく台無しにしていく。
止めろヤメろ、ポンコツ妹!
ムダに高笑いして、反感を煽るなァッ!
「……おい、お前……
……俺達が気絶してる間、どれだけ暴れたんだ……?」
ボウズ頭から、白い目を向けられる。
俺、そんな、違うのに。
すると、妹弟子がさらに余計な事を口走る。
「あの日のお兄様は、まるで悪竜……っ
街を焼き払う竜火災が如き、暴虐っぷりっ
魔物も一目散に逃げ出す、怒りの化身になられましたのよっ
このアゼリアのためと思えば、胸がキュンッとなりましたわっ」
「……悪竜……街を焼き払う……暴虐……魔物も一目散……
俺、本当に……道場のため、お嬢さんのためとはいえ、こんな奴に頼ってよかったのか……?」
なんかボウズ頭が、苦悩を始める。
── いかん!
話の流れが、大変悪い!?
よし、ここは強制的に話題変更!
ダイレクトエントリーだ、ロック行きます!!
「── た、たのもぉぉ~~っ!!!」
実力行使の一点突破で、誤魔化すぜ!
いくぜ、極悪非道の道場破り共め!
ギッダンギッダンのケチョンケチョンにしてやる!
覚悟しやがれ!!
格ゲーの必殺技 VS 聖地の守護剣術
仙台未問※の決闘開幕か!? 激闘必至の後半を待て!
(※ 作者が仙台に行った事ないの意味)
作者注:この作品にはオマージュ要素が含まれています




